4 交番
交番のデスクを挟んで、椅子に腰掛けると、お巡りさんは奥の部屋に入っていき、何やら小さなお菓子を持ってきて、梨香子に勧めた。
「この前研修で、箱根に行ってきた時に買ってきたお菓子です。コーヒーにも合いますので良かったらどうぞ。」
すぐに書類が出てくると思っていた梨香子は拍子抜けして、お菓子をありがたくいただくことにした。
梨香子が冷えたコーヒーを飲んでいることに気づくと、イケメンお巡りさんは心までもイケメンらしく、レンジであっためてきますよとマグカップに移して温めてくれた。
(なんだかうちのリビングよりホッとするわ)と思い始めた梨香子に、お巡りさんはゆっくりと名乗った。
「災難でしたね。お怪我がなくて何よりです。僕、この交番の、いわゆるお巡りさんで守谷吾郎といいます。このお菓子、美味しいでしょ?」
「はい。美味しいです。」
さわやかな笑顔で嬉しそうに笑うと、守谷は書類を取り出して書き込み始めた。
「ここに住所とお名前のご記入をお願い出来ますか?」
「あ、はい。分かりました。」
梨香子が記入している間にかかってきた電話に対応した守谷が、若いのにとても要領よくスムーズに対応をしていて、電話対応の多い、いやむしろ電話対応のプロと言ってもおかしくない梨香子は、なんだか思わぬところで感心したのだった。
「さて、被害をまとめていきましょう。
まず、バックですね。どんな色のどんな形のものでしたか?」
「ベージュの、肩にかけるタイプの、a4の書類を半分に折るとちょうど入るくらいの大きさです。」
「なるほど。では、中に何が入っていたか教えて頂けますか?」
梨香子は思わず左側の空間を見上げながら
「えーっと、、、」といい淀んだ。
守谷は「まず一番大切なお財布から参りましょうか」と言いながら、梨香子の動く手を目で追いかけた。
「お財布はここに。」
「あ、それは良かったですね!」
「では、次は携帯かスマホか、、、」
「それもここに。」
「ほかに何か貴重品は?」
「家の鍵もたまたまポケットに入れていて、、、他にカバンに何が入ってたか、思い出してみたんですが、雑誌と、使い古した化粧ポーチと、飲みかけのペットボトルと、会社でもらったお土産のおせんべいだけだと思います。」
思わず二人はしばらく見つめ合って、笑い出した。
そうして笑いながら、梨香子は、買い物の後に、財布や携帯をカバンではなく買い物袋に入れたズボラさが、守谷にバレやしないかとドキドキしていたのである。
「良かった!良かった!今頃犯人はがっかりしてますね、きっと。あ、でも、ストーカーなどの可能性もありますので、しばらくご自宅周辺のパトロールを強化します。心配なことがあればすぐにご連絡下さい」
書類が完成した頃にはすっかり外は暗くなっていて、パトロールのついでだからと守谷に守られながら、梨香子は自宅に帰ったのだった。