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シープ王国最後の日

シープ王国侯爵家クラウス視点です。

公爵家夫人エリアル様は嫌な仕事を私に押し付けてくれた…。

「デビュタントの日、私は娘を連れてベア帝国に挨拶に行かねばなりません。後の事はお願いしますね。ああ、ご安心下さい。根回しは既に済んでおります」


これから先の事を考えると断る事はできないし、この国の後始末は私が適任でしょう。

それに、根回しまで済んでいるとなると…。

「お任せ下さい。国王と王子の刑罰は私が決めてしまってもよろしいのでしょうか?」


エリアル様は私の言葉を聞いて、とても妖艶な笑みを浮かべられた。

「王都の民に任せましょう。【真実の愛】を知る事がきっとあの2人もできるでしょう」


正直に言ってしまえばエリアル様の笑顔は怖いが逆に頼もしい。


これから先、王都民も我が領民も安心して暮らしていけるであろう。

そう思わせてくれるだけの力強さを感じた。


そして、その日がやってきた。

アレン王子が学園卒業後に行うデビュタントが全ての幕引きを行う舞台だ。


やはり今回の参加者は私しかいないのであろう。

エリアル様の根回しの凄さに頭が下がる…。


1人会場入りするとアレン王子が憮然として立っていた。

私が1人で会場入りした事も気にならないのか…。


王子の考えている事もよく分からない。

「ごきげんよう、アレン王子。今日はエリザベート様との婚約発表の日にもなるのですね」


かなり白々しいとは思いながらアレン王子に聞いてみた。

アレン王子はかなりご立腹のようだ。


「今日でエリーとは婚約破棄決定だよ!エリーが会場入りしたら多くの貴族の前でそれを宣言する必要がある。私は今日までエリーを好きになる事ができなかった。とても結婚する相手にはできない」


なるほど…。

アレン王子も【真実の愛】をお探し中でしたか。


「そうでございますか。それでは、結婚相手をどうされるおつもりですか?」


私の言葉を聞いてアレン王子の顔が赤くなっていった。

「私は父上から聞いていたのだ。学園に入れば好きな女の子を選ぶ事ができると」


ここまで聞いた時点で親子だという事を思わせるし遠慮はいらないと決めた。

そして、私は嫌な過去を思い出す事にもなり少々苛立ちを覚えたが何とか隠し通した。


「学園では好きな女の子が見付からなかったのですか?」


アレン王子の顔がますます赤くなる。

「私が可愛い子だと思って近付こうとすると決まってエリーが邪魔をする。あの女は私の婚約者である立場を使い私の恋愛の邪魔をし続けたのだ」


流石ですね!

エリザベート様独自の考えのもと実行したのか、エリアル様から伝えられたのか分からないですが、アレン王子の卒業まで被害に遭う女性がいなかったのは、エリザベート様が防波堤になってくれたのでしょう。


親子2代に渡って同じ悲劇を生まない…。

キャサリン様と仲の良かったエリアル様の覚悟が垣間見えました。


長々と王子と話しても仕方がないでしょう。

早速行動に移るとしましょう。

「アレン王子、国王はどちらにおりますかな?」


王子は少し気分を落ち着かせてから話した。

「父上は最後に入場する手筈となっているから、まだ王の間にいると思うぞ」


私はアレン王子の言葉を聞いて右手を挙げた。

すると、突然現れた騎士たちによりアレン王子は拘束された。


「クラウス殿、何のつもりだ!王子である私にこのような事をして唯で済むと思っていまい?」


やはり親子か…。

現状を理解しようとせず、ただただ喧しいな。


「誰か口を塞いで下さい。王の間まで連行していきますよ」


城内を進んでいっても誰からも妨害されない…。

私と王子の姿を見た衛兵や侍女たちは頭を下げるのみで、声を出す事もしない。


ここまで準備するのにどれ程の時間を要したであろう?


エリアル様の根回しの凄さに寒気を覚える…。

そして、王族はそれほど嫌悪されているのであろう。


国王は突然現れた私と連行されてきたアレン王子を見て顔を真っ赤に燃やして声を荒げた。

「クラウス、貴様何をやっている!唯で済むとは思っておらぬだろうな?衛兵よ、直ちにこの男を捕まえろ!」


国王の声を聞いても動く者は誰もいない。

王の間に残っていた衛兵は私の後ろに控えた。


「国王よ、まだ分かりませんか?この国はもう終わりですよ。当然、王族であるあなた達の罪は軽くない」


罪という言葉を聞いた国王は鼻で笑った。

「私の国で私に何の罪がある!私は国王であり一番偉いのだぞ?私を裁ける人間などこの国におらぬわ」


私は溜め息交じりで答えた。

「あなたは唯の人間です。拘束されていれば誰にだってあなたを殺す事ができる。国王というのは多くの民の信頼の上に成り立っています。あなたは民に愛されていますか?」


私の言葉が可笑しかったのか国王は大笑いした。

「私が愛したのはキャサリンだけだ。国民は私が守ってやっているのだぞ?私が民を愛する必要などどこにある!私の国に住まわせてやっているのだ。民が私を愛するのであれば勝手にすれば良い」


一層清々しい程に愚か者だな。

「では国王、あなたの言葉を信じましょう。まずは拘束させていただきます。衛兵の皆様お願いします。煩いので口も塞いで下さい」


ああ、喚く喚く…。

これほど愚かな国王を支え続けた宰相や文官は大変だったであろう。


彼らの努力は決して無駄ではなく国王なくして国が回るようにできている。

王族を処分した後に国が荒れるのは本意ではないので安心だ。


王都には平民の犯罪者を収容する牢獄がある。

そこに、この2人も収監しましょう。


「あなたが民に愛されているのであれば、すぐに牢屋から出ることができるでしょう。もちろん憎まれていれば食事すら与えられないかもしれない。【真実の愛】を試せる良い機会でしょう?」


牢屋に入れられた国王と王子は衛兵から解放されて喚きだした。

「私たち親子をすぐに出せ!お前たち国民をどれほど守ってきたと思っている!感謝を形で示す時だぞ!」


その時、看守長が口を開いた。

「クラウス様、煩い罪人をお連れになりましたね。困りますよ…。これほど騒がれては他の受刑者が睡眠不足になってしまう。えー、元国王様、元王子様で呼び方はあっていますか?騒ぐのを止めるのか、死ぬのがいいか選んで下さい」


看守長の言葉でやっと自分たちの立場が少し理解できたのか2人の顔が青褪めてきた。

私は2人に安心できるように言葉を掛けた。


「元国王、安心して下さい。王都の民はあなた達がいなくても安心して暮らしていけます。あなた方が言う【真実の愛】を王国や民にも向けていたのなら違った答えが出たでしょう。それでは、ごきげんよう」


看守長は私の言葉を聞いてケラケラ笑った。

「【真実の愛】ですか。ここでも見つけられるといいですねー」


こうしてシープ王国は終わりを迎えたのである。

シープ王国はこれにて幕を下ろしました。

王族はあまりにも恨まれていたので根回しは簡単です。

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