第37話 三百年
(異世界召喚から?年後)
目が覚めた。
目が覚めたけど、なかなか体が思うように動かない。
私は右手を挙げてみた。
右手は挙げたままを維持できず、ベットにぼすっと落ちた。
そこに右手がある……。
十数年間失われていた、右手があるんだ。
不思議だ。
私がたてた音に気がついたのか、同じ部屋のテーブルの方に居たらしいリッカがこっちにきた。
私は両目でリッカをみた。
リッカは泣き出した。
リッカはさみしがりやで泣き虫なんだ。
「良かった! 計算したよりも目が覚めるのが遅くて、俺がまた何か間違ってしまったのかと……!」
リッカは本人が言うに、ぬけてるのだそうだ。
完璧だと思った時ほどいつも変な失敗をすると言っていた。
私は思ったより長く仮死状態だったらしい。
泣いているリッカは憔悴していた。
私が無理を言った……。
そして、何故こんなことになったかと言うと……。
「大賢者ですから~」
というリッカの口ぐせ?は相変わらずで、しょうもない言いあいをしてた私は……リッカに言ってしまったのだ。
「でも、腕は生やせないんだよね~」
にやり。
ただの意地悪だ。
今はもう右腕が無くても戦えるし、無いことに慣れたから不自由していない。
右腕なんか要らない。
何でもできる大賢者さまでも、失った右腕は取り戻せない事は知ってる。
だからただの意地悪だったのだ。
だけどリッカは青ざめた。
「……右腕も右目も治す事はできる」
あれ? 治せるけど、リッカは治さなかったらしい……?
「だけど……治すと俺と同じ死ねない体になってしまうよ? ……それでも治したい?」
リッカは、そう私に聞いたのだ。
「なんだそれは!? 私はリッカとずっと一緒に居ると言ったはずだ!!」
私はリッカに怒った。
リッカはまた一人になるつもりだったことに私は気がついた。
「右腕なんて無くていい! だけど私はリッカを一人にするのは嫌だ!」
リッカは泣き出した。
さみしがりやで泣き虫なのだ、私が死んだらまた一人でこの森で何年も泣くのだろう。
リッカは話だした。
リッカは妻の亡骸を抱いてこの家に戻ってきたあと、妻をよみがえらせようと狂ったように研究していたらしい。
死者を蘇らせる術なんてこの世にはない。
そして、試しに発動させた魔方陣でリッカは誤って自分が『老化しない体』になってしまった。
その時、作りたかったのは『体を正常な状態で維持する魔方陣』だったのだ。
だか、妻の亡骸は維持できず三百年で朽ちてしまった。
そして、その三百年でリッカは全てをあきらめてしまったのだ。
その後人恋しくなり、街に戻ろうと思ったこともあった。
だけど、こっそりあちこちの街に設置しておいた『転移魔方陣』の上に三百年の間に家が建ち、どこの街も魔方陣が起動しなかった。
ただ、ガンダルン王都の外門は千年前からあの場所にあり、上に家が建たなかったから今も唯一動かせるのだという。
だが……。
「ガンダルン王都の外門は見たくないんだ。変わらずそこにあるガンダルン王都の外門を見ると、そこに妻の亡骸を見てしまう」
見たら本当に呪いの言葉どおり、ガンダルン王家を根絶やしにして、国を滅ぼしてしまうに違いない。
千年の間、リッカが街に行くことは一度も無かった。
だから、王都に移動した時にリッカの様子がおかしかったのだ……。
「リッカがしんどいなら、私は里帰りしなくてもいいよ?」
リッカは首を横に振った。
「セレナと一緒なら……外門を見ても憎しみは湧いてこない。ただ悲しいだけ」
困ったことに家は宿屋なので、外門のすぐ側にある。
里帰りするたびにリッカが外門を見て、悲しい気持ちになるのだ。
「私の部屋に転移できればいいのにね」
私はできるとは思わず、そう言った。
この間、母がここは『セレナの部屋』だからいつでも帰っておいでと宿の部屋を1部屋セレナにくれたのだ。
「セレナがいいなら……そうする」
リッカは頷いた。
「できるの?!」
簡単に言うと、街に設置した『転移魔方陣』は、『転移先に物がないこと』『転移時に人目がないこと』なんかの条件を満たさないと発動しないプログラムを魔方陣に組んでいるらしい……。
だから上に家があると動かないし、外門に行くなら人が居ない夜中にしか起動ができないのだ。
部屋に設置するなら『部屋に人が居ないこと』『部屋のドアが開いていないこと』という条件に変更すればいいだけだから、ほぼ既存の魔方陣を流用して簡単に設置できるとリッカは説明してくれた。
「意味がわからないけど、大賢者すごい!」
私は喜んだ。
「大賢者だからね」
リッカはいつもの台詞を満足気に言った。




