第23話 20年後
(異世界召喚から二十年後)
私は華やかに飾りつけられた王都の大通りを城の一番高いバルコニーから見下ろしていた。
美しい街だ。
前国王のレナウスは高齢の為に、エリスワース王子に王位を譲った。
そして、昨日戴冠式を終えた。
エリスワースは国王になったのだ。
「ガンダルンはいい国ね。私この世界に来て本当に良かった」
私が微笑んで隣に居るエリスワースにいう。
エリスワースは微笑み返してくれて、 うなずいた。
「私はさやかが居なかったら王になろうとは思わなかっただろう」
エリスワースは後から私を抱きしめた。
「この国に来てくれて……私を選んでくれてありがとう。私は王として、君とこの国を守っていくよ」
二十年前、ガンダルンの貴族の多くが『戦えない王子はこの国の王にはふさわしくない』と言った。
もともと兄であるライアンが王位につくべきであったのだ。
最強の騎士であったセレナ王妃に心酔していた貴族はエリスワース王子を『戦えない王子』と揶揄した。
エリスワース自身もその様に思っていた時期もあったらしい。
でも、兄のライアンは王位を望まず、エリスワース王子以外に王子は居なかった。
エリスワースは望まれない国王にはなりたくなかった。
だけど、聖女と結婚した事によって『戦えない王子』と揶揄した貴族は完全に沈黙した。
そして、秀麗なエリスワース王子が国王になることを誰もが望んだのだ。
私がもし『あの時』願わなければ、私はどんな人生を歩んだのだろう。
私は願っていた『どこか知らない場所に行きたい』と。
私は、中三の時に母と父の愛人の彩さんを交通事故で亡くしてしまった。
きっと兄弟が居たらもっとなにかが違ったのかもしれない。
二人の母が居なくなった家は空っぽでただただ寂しかった。
私は一人だった。
私には婚約者が居たが、名ばかりでお互いに特に興味も無かった。
私の気持ちを考えず、色々な事を押しつけてくる父は大嫌いだった。
しばらく家からでないでぼんやりしていたら、高校受験が終わっていた。
父はお金があれば入れる学校に私を入学させ、母と彩さんと暮らした大切な思い出の家を売ってしまった。
私は、知らない家に居るのも嫌で、機械的に毎日高校に行っていた。
そんな風に父の思い通りになる私を私は嫌だった。
できるならば、違う世界に行きたいと日々強く願っていたのは私だ。
でも、まさか願いがかなって、異世界にくるなんて思わなかった。
そして、琴梨ちゃんを巻き込んでしまった。
私は琴梨ちゃんに償わなければいけない。
そう……私の人生はその思いにずっと支えられていたのだ。
私は十五才でこの世界に来て、一年でたくさんの魔物を倒してまわった。
聖女として人に感謝されるのは楽しかった。
今までの勇者の中で一番平静化が早かったらしい。
ガンダルンは日々豊かになった。
十六才でエリスワース王子と結婚した。
幸せだったが、私はある懸念の為にあせっていた。
早く子どもを作らないといけないと。
なぜなら、ライアンは前の聖女の曾孫だったこともあってとても強かったのだ。
もし、ライアンの子が私の子より強いステータスを持って産まれてきたら?
もし私に一人も子どもができなかったら?
ライアンの子は前聖女の玄孫になる。
誰かが二人の子どもに価値を見いだす事を私は恐れた。
もしステータスが高く女の子なら、スライシアが王妃に望むだろう。
平民だったセレナ王妃がレナウス王に嫁ぐ事を断れなかった様に。
だから、私の最初の子が女の子で、さらにステータスがちゃんと受け継がれていることを知ったとき、私はこれできっと大丈夫だとほっとした。
自分の子どもがかわいくなかったわけではない。だけど、私の子はどうあがいても聖女(勇者)の子どもであり、第一王妃の子どもなのだ。
私の子には王族として幸せになって欲しい。
そして、幸いな事に琴梨ちゃんの子は二人とも一般的なステータスを持って産まれてきた。
私とエリスワース王子は二人で神に感謝した。
これで、琴梨ちゃんとライアンは誰かに子どもを奪われることはない。
父であるライアンが元王族であっても、何の横槍もなく子は平民として穏やかに人生を送れるだろう。
さらに、聖女であり勇者である私の子どもは最初の三人まではステータスを受け継いだ。
おかげで、ある程度の年齢になると戦えるようになった。
私は出産で勇者としてのステータスは下がったが、戦い方を変えて聖女の力を使って戦い続けた。
それで多少ライアンが遠征にいく頻度が減った。
ライアンは前より琴梨ちゃんの傍に居れるようになったのだ。
そして、琴梨ちゃんと結婚してから彼はよく笑う様になった。
その幸せな顔をみて、エリスワース王子はやっと奪ったもの(笑顔)を返せた。償えた。と、私に言うのだ。
私は私の贖罪の為の人生だったけど、私はエリスワースの人生をも変えたらしい。
エリスワースはよい夫だ。
それに聡明な王になるだろう。
私はたくさんの子どもと、仲のよい第二王妃、第三王妃に囲まれて、国民からも聖女として慕われ幸せな人生を送っている。
私がこの世界から居なくなった後、また異世界から誰かが召喚されるのだろうか。
過去の記録を見ると、
ある時の勇者は、人に騙されて借金を負い、人生に絶望した天涯孤独の青年だった。
ある時の勇者は、大戦中に特攻隊として飛行機に乗り込み、死にたくないと願った少年だった。
ある時の聖女は、批判されて人の目がこわくなり死を決意したアイドルだった。
一様に彼らは勇者として、聖女として、人に感謝され、元の人生より幸せな人生を送ったようだ。
私は過去の勇者や聖女の記録の最後に、自分の幸せな人生について書き記した。
そして、そっと本を閉じた。




