第22話 五年後
(異世界召喚から五年後)
常連客のヤーウさんがお手伝いしてえらいからお駄賃だと言って、おつりから一リラくれた。
優しいおじいちゃんだけど、いつも色んな事をすぐに忘れる。
「えっ?ヤーウさん私背が低いけどもう子どもじゃないからね?この店の嫁なんだよ?」
「そうか。ライアンと結婚するのか~」
うんうんと微笑まれた。
「いやいや。もう結婚してるからね?」
このおじいちゃんいつも言ってるのにすぐ忘れてしまうのだ。
「まぁ一リラくらい、もらっておけばいいよ」
一リラの価値は百円くらいだ。
お義母さんが、がはははと笑う。
私は店を閉めてほっとひと息つく。
「琴梨がこの店継いでもヤーウさんはお駄賃くれそうだよね。そしたら今度は『嫁なんです!』から、『私の店なんです!』に変わるのかな~」
クロエさんはにやりっと笑った。
クロエさんは下の食堂を私に譲ると言うのだ。
「上の宿はもう畳んでもいいんだよ?子どもの部屋も欲しいだろ?」
「……まだ予定は無いので大丈夫です!」
私は照れながら言った。
異世界に来てから、毎日忙しくて気がついたら五年も経ってしまった。
ライアンは私と結婚できるなら、王族から籍を外すと言って本当に平民になってしまった。
もともと騎士団で仕事をしていて、王族としては名ばかりだったから何も変わらないと言ってくれたのだ。
私は結婚して、クロエさんのお店を手伝っている。
そして、思いつきでスライシアの砂糖菓子を砂糖の代わりに使ってお菓子を作ったら食堂はいつも満席になるようになった。
パウンドケーキやパンケーキ、あとフレンチトーストそんなに難しいものではないけど、甘いものが珍しいからたくさんお客さんが来てくれる。
そして、琴梨にこの店をあげるとお義母さんは言ってくれた。
「私の子どもはみんな街の外にでていっちまった。だから琴梨以外に継げる子どもは居ないんだよ?琴梨が継いでくれて、家族の帰ってくる場所を守ってくれたら……私は嬉しい」
次男のラットルさんはスライシアで仕事をしているうちに、スライシアでお嫁さんをもらってそのまま帰ってこないらしい。
次女のアイリスさんは近くの街で自分のお店をすでにもっている。
そう説得されて、私はお店を継ぐ決心をしたのだった。
お義母さんはとても喜んでくれた。
魔物の森はさやかちゃんが魔物を駆逐してまわってほぼ一年あまりであっさりと平静化した。
そのあとエリスワース王子が成人したので二人は結婚した。
さやかちゃんは続け様に子どもができて、すでに王子が二人と姫が一人居る。
そして、エリスワース王子はスライシアのシャーロット姫とアリア姫を、この数年でさらにお嫁さんにもらった。
だけど、さやかちゃんは念願の妹だ!って、二人の姫をすごく可愛がっている。
さやかちゃんは一人っ子だったから兄弟が欲しかったっていつも言ってたもんね。
そして、アリア姫にもすでに王子が居る。
二人で子育てできるから楽だよ?とさやかちゃんに自慢される。
琴梨も早く子どもを産んで一緒に育てようと言われるけど、私はお店を継いで落ち着いてからが良いと思ってる。
あと、テレーゼ第二王妃も子どもは全部で四人になった。二人は王子だ。
でも聖女と結婚したエリスワース王子が次期国王なことは誰の目にもあきらかで、レティシア王妃も穏やかに自分の孫を可愛がっているらしい。
あと、私の事を最初に『うさぎちゃん』と言ったのはテレーゼ王妃だったらしい。
広めたのはグラディス団長みたいだけど。
店を閉めたので、クロエさんがキッチンの片付けに向かった。
私は店の床をモップがけだ。
「ただいま。琴梨!」
ライアンが扉を開けて帰ってきた。
「お帰りなさい!」
ライアンが荷物を床に置いて両手を広げたので、私はライアンに抱きついた。
ライアンはしばらくスライシアの騎士団に遠征に行っていたのだ。
ぎゅーって抱きしめられて、そのまま抱き上げられた。
そのまま店の椅子に座る。
ほっぺにチュッとキスをして、ぎゅっと抱きしめなおした。
「琴梨の存在が可愛い~」
ライアンはどこの外人だよってくらい私に可愛いとよく言うようになった。
ライアンは、はじめ私に会った時は可愛いと思うと特に緊張してしゃべれなかったらしい。
初めて二人でデートに行く事が決まった時に、エリスワース王子に緊張して話せないと相談したらしい。
そしたらエリスワース王子が、話さないと兄さんはこわいので嫌われます。
と、ばっさり言われたらしい。
確かに無表情で無言のライアンは威圧感がこわかった。
話をしていると無表情でも話言葉が丁寧で優しいので、口を開いた途端にこわくなくなる。
エリスワース王子のライアンへの理解度がすごい。
とりあえず無難な会話をする。そして、沈黙になってしまったらとりあえず琴梨さんを可愛いと具体的にほめておけばいいんです。
と言って可愛いのバリエーションを一緒に考えてくれたらしい。
エリスワース王子のイケメンスキルが優秀過ぎる。
それでうまくいったので、ライアンはよく話すようになり、よく私を褒める。
しかも、ライアンはよく笑う様になった。
それに威圧感も無くなった。
だから誰がみてももうこわくない。
ライアンは無表情でも無言でも無ければただのイケメンだからね。




