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第21話 でーと

(異世界 7日目)


ヨルシェが『今日はおデートですから』っと朝から気合いが入っていた。

服は袖がふくらんだパフスリーブの薄桃色のひざ丈ワンピース。

髪はサイドが三つ編みになってるポニーテール。

靴はお散歩だからと編み上げショートブーツ。

お昼はサンドイッチのようなものをヨルシェが用意してバスケットに詰めて持って行ってくれるらしい。


さやかちゃんは昨日と同じ様な格好をして、ウエストにパチンとベルトを留めた。

ポーションの入ったウエストポーチらしい。

さやかちゃんの動きがいつもよりも気だるげだ。

森を歩き回ったせいで筋肉痛になったのか、もしくは少し疲れが残っているのかもしれない。

「明日はできれば図書館に行きたいな~。」

そう私がいうと、さやかちゃんはグラディス団長とエリスワース王子に言ってみるとうなずいてくれた。


騎士団まではいつもの馬車で移動した。

そしていつもの様にライアン王子とエリスワース王子が待っててくれて馬車から降りるのを手伝ってくれる。

ライアン王子はいつもの騎士団の制服ではなかった。

いつもはきっちりとした制服で隠れている腕や胸の筋肉の盛り上がりが薄手のシャツ越しにみられてどきどきした。

髪がいつもよりもちょっとだけラフな感じでかっこよかった。


「じゃあ琴梨ちゃんいってらっしゃい」

「うん。いってくるね」

さやかちゃんとエリスワース王子に小さく手を振る。

「馬車の道もでこぼこしてるので手を繋いだ方がいいですよ」

いつもどおり騎士団の建物の方へいくさやかちゃんの手をとったエリスワース王子が笑顔で言った。

ライアン王子は私の手をとった。

私は綺麗な馬車の道をライアン王子と手をつないで歩き始めた。

道の左右は緑いっぱいでお散歩にちょうどいい。

この道は王都の大通りにも繋がっているらしい、でも歩いてる人も馬車もなかった。

「この道は人が居ないんですね?」

「王都には冒険者ギルドがないので森に入る人間は騎士団くらいなんです。だからこちら側には人がこないんだと思います」

おぉ!冒険者ギルド!

単語だけでテンションがあがった。

「左はお城の敷地で、右は騎士団の敷地なんですよね?騎士団もすごく広いですね」

どこまで行っても騎士団の敷地だ。

「そうですね。人が結構いるので……。でも、建物自体はあまり多くなくて、団長室のある本部建物と、宿舎、魔物の解体所と保管所……あとホールとトレーニング用の武道館と倉庫くらい。あと戸外にグランドと訓練所ですね」

家の近所の国立大学のようだ……鬱蒼とした林の向こうに大きな建物が見えた。

「あの建物が宿舎ですか?」

「そうですね。通いも居るんですが数百人住んでます。今は半分以上不在だと思いますが……」

「不在なんですか?」

「何日か野営しながら王都の左右の森や、奥に入る部隊がいくつか。あと、他の町や村に派遣されてる隊もあるので、多くの隊が今は居ないと思います」


そんな風に王都の話、国の話、騎士団の話と話が途切れることもなく2人で手を繋いで、てくてく歩いた。

思ったよりは気まずくなることも無かった。

そして、かなり歩いてから気がついたけど、この道は別に手を繋ぐ必要なくない!?

確かによく馬車が通るであろう真ん中の方は多少馬車の車輪に押し潰されて段差ができていた。

でも、歩いてるところは全然デコボコなんてなかった。

そんなことに気がついたら手を繋いで2人で歩いてるのが恥ずかしくなってきた。

今さら手を振り払うのも変だ。

考えちゃ駄目だ。

ライアン王子は無表情だけど、矢印はキラキラしてるし。

私は助けを求めて後ろを歩いてるはずのメイドのヨルシェを振り返った。

あれ!?予想外に遠い!

ヨルシェは50メートルくらい後を歩いてた。

ヨルシェぇぇ~。そんな気遣いはいらないからね!?


「そういえばライアン王子はメイドや執事を連れていないんですね?」

エリスワース王子はいつもセバス(仮)を連れているのに、ライアン王子が連れているのを見ない。

「2人で歩きたかったので」

あわわわわわ。

なんで空気を甘くするんですか!?

デートだからですか!?

私は動揺して、思わず王子と繋いでる方の手をブンブン振った。

「ライアン王子はいつも連れていないと知ってますっ」

「母が平民だったこともあって・・・あまり要らないんです」

そう言ったライアン王子はいつもよりもすごく優しい雰囲気で私はどきどきした。


ちょうど騎士団の敷地が終わって、遠くに神殿の白い建物が見えた。

「この先にある騎士団と神殿の敷地の間にある門から街の外に出ましょう」

道を曲がると前方に小さく門が見えた。


更に歩いて門に着くと、ライアン王子が門の警備の騎士にカードを見せて、門を開けてもらう。

外門のミニバージョン。

こっちは裏門みたいな扱いなのかな。

「神殿と騎士団は敷地の半分が街の外に出てる作りになってるんです」

「わぁ。ここはもう王都の外なんですね」

さらに神殿と騎士団の敷地の間の道を歩く。

目の前には森。

そして結界を知らせる壁があった。

壁と言うと語弊がある。

1メートルくらい石が積んであるたけだ。

それが右にも左にもずっとどこまでも続いている。そして目の前には深い森。

『魔物の森』なんていう物騒なものだとは思えない、のどかで綺麗な景色だ。

壁の数メートル先にあるという結界はやっぱり目には見えない。

「……私、壁は王都を囲んでいるような高い壁を想像してました」

「スライシアまで続いているので場所によっては低いところも、高い所もあります。

第二騎士団のあるスライシアの街は雪で埋まるのでもっと高い壁です。王都の壁ほどの高さはありませんが……」


ちょっと歩くと壁がすこし低くなった。

もう腰よりも低いくらいの高さだ。

「壁が低くなりました!」

「騎士団の建物の方に行くと、森に出入りを頻繁にするので、ここよりもさらに壁が低いです」

そして壁の向こう側に白い花のお花畑が見えた。

「わぁ。ライアン王子が言っていたミュラーの花ですね?」

王子と繋いでいた手を放して、壁の向こう側のお花畑を見ていると。

抱き上げられた。

「ふぁ」

びっくりして変な声がでた。

さらに、ライアン王子は壁の向こう側に降りて、壁の上に座った。

そして私をライアン王子の右足の上に下ろした。

気がついたら私はライアン王子の足の上に座っていた。

あわわわわわ。

「ぬいぐるみ扱いしないで下さい」

私は真っ赤になりながら抗議した。

「服が汚れるので」

いつもならライアン王子の方が緊張している気がするのに、今日は私が1人であわあわしてる。

多分私があわあわしてるからライアン王子は落ち着いてるんだ。

私は落ち着こうと黙りこんだ。


「今日の髪型も可愛いです」

何で今突然そんなこというんですか?!

私はさらにあわあわして顔を赤くした。

あっ!でもライアン王子は私が2つに髪をくくってる方がもしかして好きなのでは?

ポニーテールで本当はがっかりしたかも?!

2つの方が幼く見えるし。

ぬいぐるみに似てるんだよ?

今日は2つにくくれば良かった……。

そう思ったからライアン王子に聞いてみた。


「2つにくくった方が『うさぎちゃん』ぽくて好きですか?」


赤くなった顔を手で隠しながら、ライアン王子を見上げて聞いた。

私は意図せずライアン王子を上目遣いでみたことには気がつかなかったが、ライアン王子の耳がちょっと赤くなった事は気がついた。

「うさぎのぬいぐるみを私が小さい頃に『うさぎちゃん』と呼んでいたのは事実なんですが……そのぬいぐるみはもう手もとにないので、実はあまり覚えてないんです」

「えっ?そうなんですか?」

何となくまだ持ってるのかと思っていた。

「火事で燃えてしまったんです。5才で騎士団の宿舎に部屋をもらったので・・・……城の自室に置きっぱなしにしていたそのぬいぐるみを最後に見たのは……多分、5才くらいです」

「燃えちゃったなんて、悲しいですね?」

大切なぬいぐるみがなくなってしまって悲しかったんじゃないかと私は思った。

ライアン王子はちょっと首をかしげた。

「あのぬいぐるみ、魔除けみたいな意味があるらしくて持ち主の厄災をもっていってくれるらしいんです。だから役目をまっとうしたんでしょう」

ライアン王子は『うさぎちゃん』に似ているから私が好きなのかと思ってた。

すごく大切なぬいぐるみなんだと思ってた。

けど、どうも違うらしい?

「髪型はどちらも琴梨さんに似合っていて可愛らしくて好きです」

ライアン王子は言いながら、私の体を支えている手とは逆の手で私の頭を優しく撫でた。


どうしよう!?

私、ライアン王子が好きかもしれない!


でもライアン王子も王子だからたくさん奥さんをもらわないといけないんだろうな。

それは嫌だな。

日本人だから奥さんがいっぱい居るのはなんか許せない。

私はさやかちゃんみたいに仕方ないって思えない気がした。

「ライアン王子も奥さんをたくさんもらうんですよね?」

ライアン王子はちょっと考えて赤くなりながら言った。

「琴梨さんだけがいいです」

あわわわわ。

それはプロポーズに聞こえます!!

私は更に赤くなった。

違うんです。

そんな台詞を誘導したわけじゃなくて!

ちょっと確認しただけなんです!


違うんです。

目の前に広がるミュラーのお花畑も。

違うんです。

確かに壁が見たいと言ったのは私だけど、私はこんな完璧なデートスポットみたいな場所を想定したわけではなかったんです!

私はただ純粋に壁と魔物の森を見てみたかっただけなんです!

雰囲気が甘い。甘すぎる。

どうしよう?


「王族は融通が効かないので、身分を捨てて平民になった私でも結婚してもらえますか?」

王子じゃなかったら奥さん1人でも良いんだ?

でもそんなことの為に王子辞めちゃうの?

私の為に王子辞めちゃうんだ……。


私はこっくりうなずいた。


何か後で音がして、ライアン王子が振り返った。

私はライアン王子の膝の上から立ち上がった。


なぜそこに?

グラディス団長が数メートル背後に立っていた。

えええぇぇ!!

なんで!?なんで居るんですか!?

グラディス団長は頭を掻きながら。

「・・・声が掛けられなくてタイミングをみてただけだ」

言い訳をした。

甘い空気が霧散した。


騎士団の敷地を背にしてミュラーの花畑を見ていたから、私たちは後にいた団長に気がつけなかったようだ。


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