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第17話 お茶会

(異世界 六日目)


グラディス団長に明日のライアン王子とのデートの話で無理やり流された、今日のエリスワース王子との魔法の練習は結局できなかった。

エリスワース王子は予定ができてしまったようだ。残念だ。

だから、今日の午前中は私には何の予定も入らなかった。

私はさやかちゃんと離れたくなくて、さやかちゃんの仮縫いについていく事にした。

聖女の部屋にあるクローゼットの隣の部屋に衣裳係りのメイドさんがたくさんきて、布を広げている。

クローゼットは普段着替えをする部屋で、隣ははじめて入ったが、仮縫いに使う部屋らしい。

私は邪魔にならない場所に椅子を置いてもらってさやかちゃんを眺めている。

布やデザインを相談しながらあわせていく。

聖女特有の衣装は決まった基本型があるらしいが、デザインは個人で違う。

形は神官服の変形バージョン。

白い柔らかい布が幾重にも重なったロングスカート。マントまで真っ白。

マントはサイズを合わせたあとこれから房飾りや刺繍が入ってすごく豪華になるらしい。

重そう……。

聖女のお披露目は約一ヶ月後。

訓練も平行して行なうので筋肉がついて多少サイズが変わる事も想定して作るらしい。


御披露目自体は、城でお披露目会をやって街に告知するだけなのでそんなに構える程のことはないとアンさんが言ってた。

まだ先の話だけど、魔物の森の平静化が無事に終わったらお祝いのお祭りが盛大に行われるものらしい。

その時までにダンスや立ち振舞いも徐々にやっておきましょうと説明されてた。

あとドレスも今日まとめて注文すると言っていた。

今クローゼットにある服は調整の利く既製品らしい。

琴梨さんも今度ドレスを作りましょうと言われたが……都合が悪くなければ私には既製品で充分ですとお断りしておきました。

こんなに衣裳作るのが大変だとは思わなかった。

聖女大変だ……私はおまけで良かった。


お昼を食べたら、午後はさやかちゃんは訓練なので、動きやすい格好に着替えた。

茶色の膝丈ズボンにスタンドカラーの白シャツ。

あと、編み上げロングブーツだ。

長い黒髪は編み込んで頭にピンで止めている。

森に行く寸前に騎士団で軽い皮のワンピースの様な物をさらに上から着るらしい。

さやかちゃんの用意はアンさんがしている。


私はお茶会なのでワンピースとドレスの中間のような、ピンクでヒラヒラがついた膝丈フレアスカート。

髪はいつも通りふたつにくくった。

私の用意はメイドのヨルシェさんがしてくれた。

さやかちゃんと別行動なのが寂しいし不安だ。


さやかちゃんが出掛けてから私はヨルシェさんに連れられてお茶会の部屋に移動した。

王妃達とその子ども達の私室は城の中でも一ヶ所に固まっているとヨルシェさんが説明してくれた。

ここにレティシア王妃もエリスワース王子も部屋があるらしい。

ライアン王子だけは騎士団の宿舎にも部屋があって城の部屋は今はほとんど使われていないそう。


あとメイドに『さん』付けしてはダメですよっとまた注意された。

さやかちゃんはあっさり慣れたみたいだけど私は未だにアンさんヨルシェさんと言ってしまう。

今日はさやかちゃんが一緒ではないから、私が口を開く機会も多い。

今日からがんばるとヨルシェに約束した。


「お招きいただきありがとうございます」

私が挨拶をすると、テレーゼ王妃はにこにこと優しく笑った。

前回会った時は胸から下がゆったりとしたドレスで意識がいかなかったけど、既にお腹はかなり大きくなっていた。

ソファに座るとテレーゼ王妃が早速二人の姫を紹介してくれた。

「私の娘のステラ。琴梨さんより四つ下の十一才。スライシアに行ってて帰ってきたばかりなの。仲良くしてね」

ステラ姫は大人びた雰囲気の女の子。金色の長い髪、水色のワンピースを着ている。

「それから娘のソフィア。四歳になったばかりよ」

目が大きくて、髪はテレーゼ王妃と同じ淡いピンク色。

そして、ソフィア姫は犬のぬいぐるみを抱っこしている。

ガンダルン伝統のぬいぐるみはずっとそばに置いておく子が多いのかもしれない。

ライアン王子もこんな感じでぬいぐるみを抱っこしてたんだろうかと思った。

ソフィア姫はわんこのぬいぐるみを私の方に見せながら「アレキサンダー」とぬいぐるみを紹介してくれた。可愛らしい。

「アレキサンダーもよろしくね」

私がそういうとソフィア姫はうふっと笑った。

そのあとメイドがお茶を入れてくれて、ステラ姫が買ってきたというスライシアのお菓子を頂いた。

スライシアのお菓子は……砂糖の塊だった。

金平糖と落雁の間というか、控え目に言っても砂糖の塊だ。でも甘い物が出たことが今まで無かった。もしかすると砂糖は貴重品なのかも知れない。

ソフィア姫が幸せそうに食べてる。

「このお菓子はソフィアが大好きで、ライアン王子が遠征でスライシアに行った時によく下さるのよ」

「遠征で……?」

テレーゼ王妃が説明してくれた。

ガンダルンの城にあるのが第一騎士団。スライシアに第二騎士団があり、ガンダルンとスライシアの境に第三騎士団があるらしい。

どの騎士団も結界のそばにあって神殿とセットで建っているそう。

「ライアン王子は国で一番強いの。だから討伐の難しい魔物がでると、スライシアに呼ばれるんですよ」

国で一番強いのはライアン王子らしい。

さすが人間ブルドーザーだ。

しかも、あの時は対人だった。

あれでステータスの力は載っていないのだ。

前の聖女の孫のセレナ王妃が聖女のステータスが遺伝しているなら、その子供のライアン王子も影響をうけているのだろう。

相当強いに違いない。


「琴梨さんはライアン王子こわくない?」

ステラ姫が私に聞いた。

テレーゼ王妃がすかさず。

「ライアン王子はあまり感情が顔にでず、口にされないだけで、ちゃんと人を気遣ってくれる方なので優しいですよ」

フォローに入った。

ここにも私とライアン王子をくっつけようとしている人が居るらしい……。

「そうですね。最初はこわかったですが、今は優しい方だと思います」

テレーゼ王妃はにこにこしてうなずいた。

「琴梨さんはライアン王子の事をわかってくれてて嬉しいわ。王子は小さい頃から知っているから、私は自分の子供の様に思ってるの。王子はちょっと不器用なだけなのよ」

そして、ステラ姫にはそっと釘を刺した。

「ステラはルーカス王子と会ったばかりだからナーバスになっているんです。まだ成人までは五年あるのだから……ね?」

ステラ姫はスライシアの王子と婚約するためにスライシアに行ったらしい。

十一才で婚約って早いと思ったけど、この国は十六才が成人で成人と同時に結婚する人が多いんだって。だから結婚するのは早ければ五年後。

つまり、つまり! 私もさやかちゃんもエリスワース王子もあと一年しかないということだ。

周りが一生懸命外堀を埋めようとがんばっている理由が理解できた。

「私はエリスワース兄さまみたいな人が良かったです」

ステラ姫の基準はエリスワース王子らしい。

それはお相手が可哀想だ。

イケメンスキル持ちのキラキラ王子に勝てる訳がない。

十六才で結婚ということは……不意に気がついた。

「ライアン王子は奥さんがいるんですか?!」

王族は複数の嫁が居る世界だ、実は奥さんが居てもおかしくなかった。

「いないわよ? ライアン王子はまだ結婚してないわ。婚約はしてたけどお相手の姫がエリスワース王子の方がいいと言い出したり……タイミングが悪かったのよ」

婚約者が兄より弟が良いって言ってもいいんだ?

エリスワース王子が大人気過ぎて、比べられるライアン王子がちょっと不憫に思えてきた。

ライアン王子も無表情で無言だけど、顔はかっこいい。

雰囲気がこわいから台無しだけど……。

「え~っ! それなら私もルーカス王子よりもハンス王子がいいわ」

更に、ステラ姫が爆弾発音をした。

ここにも兄より弟な姫がいた……。

「ハンス王子だと王妃にはなれないわ。それはいいの? あら。でもそうすると年令的にルーカス王子とあう姫が居ないのよね。困ったわ」

テレーゼ王妃は考えこんでしまった。

政略結婚だけど本人の意見も多少は考慮されるらしい。

ここでソフィア姫がお菓子を食べ終わり眠くなったのかぐずりはじめたので、ソフィア姫とステラ姫はメイドに連れられて自室に戻って行った。


だけど、困ったな。

昨日騎士団から戻ってから、聖女の部屋でさやかちゃんと話した内容が思いだされた。

「ライアン王子とデートすることになってしまったけど、琴梨ちゃんはいいの?」

さやかちゃんは私がライアン王子とデートすることになったことをとても心配してくれた。

「うーん。さやかちゃんの様に結婚しろと周りに言われてる訳ではないからね……。それよりさやかちゃんは? エリスワース王子とはどう?」

「エリスワース王子はかっこいいし、優しいし……いいかなと思ってる」

「ほぉ?」

私がにやりっと笑うと、さやかちゃんは照れたのか慌てて付け足した。

「知らない世界で頼れる人がいた方が生きやすいかな~って打算もあるんだからね」

エリスワース王子は優しいし、さやかちゃんを守ってくれそうだ。

さやかちゃんがいいならお似合いのカップルだ。

すでに周りはその様に動いているし、私はさやかちゃんを応援しよう。

そう、昨日は思ってた。


だがしかし!

「エリスワース王子にも婚約者がいるんですか?」

「スライシアのシャーロット姫とユリオックのアメリア姫と婚約してるわ」

テレーゼ王妃には常識なのかあっさり言った。

確かにレティシア王妃はさやかちゃんに第一王妃になって欲しいと言ってた。

つまり、第二王妃も第三王妃も居る前提だったのだ。

私はさやかちゃんの気持ちを考えた。

大切な友達が二股を掛けられている様な微妙な気分になった。

「あ、でもね! 多分アメリア姫とエリスワース王子の結婚は無いんじゃないかしら?」

アメリア姫がライアン王子よりもエリスワース王子がいいと言った姫らしい。

当然年上だからエリスワース王子の成人を待って結婚する予定だった。

だけど、ここで聖女のさやかちゃんが第一王妃として浮上。

もしさやかちゃんと結婚するなら、第二王妃との結婚は最低でも一年はあけなければいけない決まりがあるらしい。

そうするとアメリア姫は二十才近くなってしまう。

だから他を探すんじゃないかしら?

あら?

ルーカス王子が丁度いいんじゃないかしら?

なんてテレーゼ王妃は計算し始めた。

ステラ姫はルーカス王子の第二王妃枠だったらしい。

話を聞けば、ルーカス王子はエリスワース王子よりも年上……ステラ姫が嫌っと言うのもわかる気がした。

この国は十六才~二十才くらいで最初の結婚をする文化であるらしい。

つまり二十才のライアン王子もギリギリだと周りに思われているということだ……。

それは、タイミングよくちょうどよさそうなのが現れて、本人がその気なら周りががんがん押すはずだよね。


「エリスワース王子はさやかちゃんと結婚するつもりなんでしょうか?」

「レティシア王妃はそう思ってるみたいだけど、……さやかさんはどう思ってるかしら?」

レティシア王妃はやっぱり結婚させるつもりなんだ……。

でもさやかちゃんの意思は無視されないようだ。

「どうなんでしょう?私にはわからないです。そもそも十六才では結婚しない世界から来たので……まだ結婚するつもりがないかもしれません」

常識が違うってこわいよ。

王さまのゆっくり考えてのゆっくりが一年しかないとは私もさやかちゃんも知らなかった。

さやかちゃんも来年結婚と言われたら戸惑うに違いない。しかも妻が複数……。

「そうなの? それは困ったわ。じゃあ琴梨さんは? ライアン王子と結婚しないの?」

はっ?!

飲んでいた紅茶を吹きそうになりました。

「ライアン王子とはまだほとんど話をしてないので……」

あわてていいつくろう。

「えーっ? そうなの? 騎士団長の話と違うわぁ~」

「グラディス騎士団長は何ておっしゃってましたか?」

「そうね~。ライアン王子が恋愛しててわたわたしてて微笑ましいとか。とても2人はいい雰囲気だから早く結婚すればいいとか……かしら?」

それは、グラディス団長が勝手に思っているだけだ……。

団長のにやにや顔が浮かんだ。

「つまり周りへの牽制と情報操作ね~」

不穏な単語がでてびっくりした。

「情報操作ですか??」

「私もうすぐ三人目の子が生まれるの。だからね」

私には私とライアン王子と生まれる子の話が結びつかなかった。

「レティシア王妃は難しい人なの。むしろ王妃らしい王妃かしら?昔から自分の子が国王になるんだと言ってたみたい。でも最初に嫁いできたレティシア王妃は、なかなか子どもができなくて……だから、ライアンのお母様にあたるセレナ王妃は二十才ギリギリまで王に嫁ぐのを待ってたらしいわ。もっともセレナ王妃がギリギリまで子どもを作りたく無かったのもあるみたいだけど……セレナ王妃は結婚するよりも騎士を続けていたかったのね」

子どもを産むとステータス値が下がるとクロエさんが言ってた……。

ライアン王子とエリスワース王子は五才差がある。つまり……。

「セレナ王妃は結婚してすぐライアン王子ができたの。だから、レティシア王妃がセレナ王妃と幼いライアン王子にあたり散らしていた時期があるらしいわ。そのあと私が来てすぐにエリスワース王子ができたから、私は荒れているレティシア王妃をあまりみて居ないのだけど……」

レティシア王妃こわい。

「私が嫁いで来た時にね、セレナ王妃が言ったの。ライアンは騎士になりたいと言っているから、レティシア王妃か私に王子ができたら王位継承権はその子どもに譲ると。そう決まったらあっさりレティシア王妃は妊娠して、エリスワース王子を出産したの」

「だから、ライアン王子は継承順位が今は二番目なの。もし、私のお腹の子が男の子だったらこの子が継承順位が二位でライアン王子は三位に更に下がるわ」

「でもエリスワース王子が順位が一位なのは変わらないんですよね?」

「そうなんだけど、エリスワース王子はライアン王子が王になった方がいいと思ってるのよね」

確かに! そう言ってた!

「つまり、エリスワース王子も継承権を譲ってしまうかもしれないとレティシア王妃は思ってるって事ですか?」

ライアン王子もエリスワース王子も辞退したら残る王子が王になるかもしれない。

「そう思ってたわね。だけど……今はエリスワース王子が王になるだろうと、レティシア王妃はうきうきしてるでしょうね。だから情報操作」

うん?? 意味が繋がらなくて、首を傾げた私にテレーゼ王妃はにこりと笑って話を変えた。


「ライアン王子が琴梨さんが可愛過ぎるって言ってたわよ」

可愛い……過ぎる? 過ぎるってなに?

ライアン王子がそんなこと言うかな?

言わないでしょ?!

顔が暑い。絶対赤くなってる。

「うふふ。王子って昔からちっちゃい子とか可愛い物が好きなんだと思うわ~ステラやソフィアにいつもお土産買ってきてくれるもの。でも懐いてもらえなくてしょんぼりしてるの。ステラにも未だにこわがられてるし。たぶん琴梨さんはこわがって逃げて行かないから嬉しいのね」

テレーゼ王妃がくすくす笑った。

ステラ姫はエリスワース王子にはブラコン気味なのに、ライアン王子はこわがって逃げちゃうらしい……。

あれ? ライアン王子はもしかしてロリコン?


じゃあまたお話しましょうねっとお茶会が終了した。

あと、さやかちゃんへのお土産の箱を渡された。

お茶会で出してくれたスライシアの砂糖菓子だ。

すごく長く話し込んでしまったみたいで、私がお茶会から戻った時には、すでにさやかちゃんは騎士団から戻っていた。

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