第13話 帰りの馬車
(異世界 四日目)
帰りは外門に待たせていた馬車に乗って、外門から城へ真っ直ぐはしる大通りを通って城に戻った。
「私、聖女として役にたつんでしょうか?」
帰りの馬車の中。
目の前にいるエリスワース王子にさやかちゃんが聞いた。
クロエさんの話を聞いて不安が大きくなったみたいだ。
「大丈夫です。きっと今は実感がわかないんだと思うのですが、ステータスだけ見るとさやかさんは兄よりも強いですし、過去の勇者より強いです」
「そんなまさか……」
さやかちゃんあの人間ブルドーザーのライアン王子よりも強いの!?
「それに聖女なので、癒しも使えると思います。だからきっと大丈夫です」
エリスワース王子が力強く頷いた。
それを聞いたら逆に私の方が不安になった。
「私は……どう……しよう……」
最弱スライムステータスなのだ。
何の役にたつんだろう?
「琴梨ちゃんは私が守るよ!」
さやかちゃんが右手をぎゅっと握ってくれた。
嬉しいけど、さやかちゃんにずっと守ってもらうのは何だか違う気がする。
「私、役立たずだ……?」
「そう琴梨さんが言うと、私も役立たずな王子ということになってしまいますね。ステータスだけでみると、私と琴梨さんは同じくらいの強さなんです」
エリスワース王子はさらっと言ったけど衝撃の事実だ。
エリスワース王子も最弱スライムステータスらしい。
「鍛えても強くなれないのですか?」
「筋力はつくかもしれませんが、がんばっても森には行けないと思います」
エリスワース王子はちょっとつらそうな顔をした。
お兄さんは強いのに自分にはその能力がないんだ、なかなかしんどいに違いない。
「じゃあ私が、琴梨ちゃんの分もエリスワース王子の分も戦います!」
さやかちゃんがきりっとした顔で宣言した。
「琴梨ちゃんは私の癒しだから、居てくれるだけでいいの。エリスワース王子は王子にしかできないことがたくさんあると思います。王子は王子だから戦わなくていいんです。みんな自分にできることをそれぞれ頑張ればいいんです!」
さやかちゃんがかっこいい。
エリスワース王子の顔がちょっと赤くなった。矢印がピンクでキラキラしてる。
「ありがとうございます。
兄と同じことを言ってくれるんですね。
兄も俺がエリスワースの分も戦うからお前はお前ができることを王としてやればいいって言うんです」
ライアン王子は中身もイケメンだった。
そして兄弟は仲が良いらしい。
「私、エリスワース王子は素晴らしい王さまになると思います」
さやかちゃんが大きくうなずきながらいう。
「ありがとう……」
エリスワース王子はさやかちゃんにほほえんだ。
でも、その後さやかちゃんから視線をそらして言った。
「でも、……兄の方が王にふさわしいんですけどね……」
エリスワース王子はすこし困ったように笑っていた。
視界の端で矢印の色が一瞬暗くなったように見えたが、見上げた時には白だった。
私は何か言おうとしたけど、まだ二人の王子をよく知らないので、どちらが国王になってもいい気がして何も言えなかった。
そのあとはエリスワース王子が、明日の騎士団での訓練の話にあっさり話を変えた。
私は騎士団に行くときは泥だらけになっても自分の足で歩きますっと、エリスワース王子からライアン王子に言っておいてもらうことにした。
明日も抱上げられて運ばれるのは絶対に回避したかった。
エリスワース王子は気にしなくて大丈夫ですよ。
兄が案内しますよ(運びますよ)っと、キラキラな笑顔で言ったけど、私が歩きたいんですと断固主張しておいた。
あと騎士団の方々が私の名前を『ことり』ではなく『ウサギ』だと勘違いしてそうな気がします。と、相談したらエリスワース王子はあぁっと、困ったように笑った。
「兄が幼少の頃、もっていたうさぎのぬいぐるみに琴梨さんが似てるみたいで……グラディス団長がおもしろがって兄をからかってるみたいなんですよね。それで騎士団の騎士も……。私はそのぬいぐるみを見たことがないんですが、兄が五才くらいまでずっと抱えて歩いてたみたいなんですよ」
まさかのぬいぐるみ扱いだった!
ライアン王子が五才までぬいぐるみを抱っこして歩いてたというのもびっくりだけど……。
そうか、グラディス団長はライアン王子の祖父になるんだよね……。
ライアン王子は昨日も身内にからかわれて怒ってたらしい。
無言、無表情だったから全然わからなかった。
「ぬいぐるみと言うと……もしかして、今日見たお店のぬいぐるみでしょうか?確かに垂れたうさちゃんのお耳がふわふわの茶色い毛で琴梨ちゃんの髪みたいだと私も思ったんですよ」
さやかちゃんがふふふっと笑いながら言った。
ガンダルン伝統のぬいぐるは、いろいろな動物が居たのでうさぎのぬいぐるみがどんな感じだったか、私は思い浮かばなかった。
だけどさやかちゃんは確かに似ているとうなずいた。
つまり、ライアン王子の『ピンクのキラキラ矢印』は、持ってたぬいぐるみに似ているせいだったんだ!
うっかり私のことめちゃめちゃ好きなのかと勘違いしてたよ!
勘違いしてたことが恥ずかしい……。
そして少しだけがっかりした。
絶対明日は髪を二つに結わわない!
明日は騎士団で訓練です。