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第九十五話:剣城鞘華ことランコです。

「あぁ~いいお湯ッスね~っ……」


「まさか、SBOに銭湯があるなんて思いもしなかったですよ~……」


 闇の大聖堂での戦いから数日。

 ……現在、俺たちは第三都市にあるプレイヤー経営の銭湯に来ていた。

 VRでも風呂に入る感覚を味わえるってのは、結構いいものだな。

 ユージンとアインもとろけるような表情だ。

 確かに入っていて気分が良くなる湯だし……脳にリラックス効果を与えてるんだろう。


「それに……アインくん、この構造ならアレが出来るッスよ」


「アレ? 何ですか?」


「フッフッフー……俺たちは風呂に入る前、男女に分かれたじゃないッスか」


「分かれましたね」


 ユージンが邪悪な笑みを浮かべて、壁の上の方を指差した。

 肩車でもすれば、顔を出せそうなくらいの隙間があった。

 なんとなくユージンの言いたいこと、やりたいことはわかった。

 が、当然協力するつもりは微塵もない。


「あの……ユージンさん、VRでも犯罪ってあるみたいですよ?」


「ハハハ、アバターの裸見るくらいなら平気ッスよ、きっと」


「迷惑行為で運営にコールされて、BANされたきゃやれよ。

新しいアカウント作ってもギルド入れてやんねーけどな」


 少なくとも覗きなんてやる奴と同じギルドにはいたくないな。

 いやまぁ、確かに先輩のあの体に興味がないと言えば嘘も嘘、大嘘だ。

 だが、大好きな人の体なら、正々堂々と夜のベッドで拝むがいいだろう。

 こんな銭湯や温泉で、覗きなんてふしだらな行為をするのは漢じゃねえ。


「ま、確かに二度と集う勇者にいられなくなるかもしれないッスよ……それでも、俺は男のロマンを尊重するッス!」


「真性のアホかコイツ」


 ユージンはざばっ、と湯船から出てから覗きをする壁と逆の方に歩く。

 そして、タタタタ……と思い切り助走をつけて、ダンッ、と跳んだ。

 パシッ……と壁に手をついて顔を出す――


「ファスト・シールド」


「ちょ、ブレイブさん酷いッスよ!」


 ユージンの顔が出たところ丁度に、シールドを出す。

 これで向こう側を見ることは出来ないだろう。


「……ま、でもこういう手があるんッスけどね!」


「チッ」


 ユージンは滑らせるように手と体を動かし、シールドの範囲外から顔を出した。

 街中だから斬り殺すことは出来ないしな……シールドを増やしてもイタチごっこになるだろう。

 なら、どうやってこの馬鹿の覗きを阻止するか――

 と考えていたら、バァンッ!という音がしてユージンが落ちて来た。

 ザバァン、と湯船に落ちてケツを俺の前に向けるように沈んでいる。


「……シェリアか」


「わぁ、綺麗なヘッドショット……」


 街中ではPKこそ出来ないが、スキルを受けた時の衝撃はある。

 ので、スキルを使えばこうやってユージンを撃ち落とせるってわけか。


「ちょっと男子ー、次やったら運営に通報するからねー」


「俺とアインは無関係だから、ユージンだけよろしくなー!」


 シェリアの声に、壁越しに答えておく。

 俺とアインは無関係だからな、止めようとしたし。


「……覗き、かぁ」


「どうしたアイン」


 何かを考えているのか、アインはそう呟くとすっかり黙ってしまった。

 ただ天井の方を見上げていて……凄い考え込んでいるようだった。

 ……まさか、ランコとか想像してんじゃねえだろうなコイツ。


「いや……やっぱり、僕も成長したらそういうことしちゃうのかなって思っちゃいました」


「それは人それぞれ、だろ」


「そう、ですよね……」


 アインは不安そうな顔をしながらユージンを眺めていた。

 ま、アインは誠実な奴だし……変な友達でも出来なければそんなことはないだろう。

 さて……普通の風呂は楽しんだし……そろそろ水風呂にでも入ろうか。


「おや、ここで会うとはね、ブレイブくん」


「よ、久しぶり」


「……3トップで揃うか、普通」


 水風呂に入るために湯船から出たら、アーサーとカオスが入って来た。

 っつーかカオス、ホンット女みてえなアバターだな。

 銀の長髪、中性的な顔立ち……腐ってる女子の方々が喜びそうだな。


「何だよ、人のアバターをじろじろと」


「いや、お前どっちの性別からでもモテそうだよなって」


「褒めてんのかソレ」


「一応」


 かけ湯……もとい、かけ水をしてから水風呂に入るカオス。

 アーサーは熱い方に入っていて……アインとなんか話してる。


「んー……やっぱ水風呂のキーンって感じがいいな」


「へぇ、水風呂好きなんて変わってるなお前」


「そうか?この冷たさが気持ちいいんだけどなぁ」


 カオスはそう言いながらストレージを開くと、お盆と何か液体の入った瓶を取り出した。

 ……小さなコップもセットだから……あぁ、まさかコイツ……!


「んっ、んっ、んくっ……ぷはぁっ、やっぱりVR酒は美味い!」


「銭湯で酒飲んでんじゃねえよ馬鹿野郎!」


 カオスは満面の笑みで俺の注意をスルーし、二杯目を飲み始めた。

 この野郎……温泉で熱燗ならまだ雰囲気的にOKだけど、銭湯の水風呂で日本酒って……氷まで入れてるし、マナー違反の域飛び出てるだろコレ。


「まぁまぁブレイブくん、ここはVRなんだ。

現実で出来ないことくらい、やってみてもいいじゃないか」


「いやなんでそこで沈んでた馬鹿の手伝いをしてんだ」


 いつの間にかユージンがアーサーに肩車されて、壁から顔を出そうとしている。

 俺は急いで水風呂からアーサーたちの入ってる方に移る。


「ブレイブくん、君も男ならわかるだろう」


「わかるか、わかってたまるか馬鹿野郎。

女の裸ってのはな……ちゃんとそういう仲になってから見るもんだろうが」


「フフ……流石、モテるギルドマスターは言うことが違うね」


 モテてねえよ。確かにメンバーに女の子は多いけど。

 リアルでの先輩後輩、妹、妹の友達ってのがいるだけで……シェリアと鈴音とスターはついこないだ入って来たばっかだ。

 それに、シェリアとスターとはまだあんま話したこともないんだぞ。


「お前の方がモテるタイプだろ」


「いやぁ、よく言われるけど実はそうでもないんだ。

確かに僕のことを好いてくれる女性はいるけれど、僕が本当に好きなのは君の所のハルくんみたいなボン・キュッ・ボンなんだ! というわけで、覗きは決行させて貰うッ! いくぞユージンく」


「死ね、クズども」


 俺はただその一言と共に、アーサーの股間を思い切り蹴っ飛ばした。

 メキョォッ!という何かが潰れたようなサウンドエフェクトが鳴ると共に――ユージンを肩車していたアーサーはザバァンッ、と湯船に沈んだ。

 と思ったら直ぐに出てきて。


「あああああっ……AHHHHH――――ッ! テメェェェ―――ッ! 何してんだァァァァァッ!」


「うわ、大声上げんなよ……」


 今までの振舞い方とは別人かのように、アーサーがキレた。

 カオスは酒瓶片手に驚くが、なんか面白がってるぞコイツ。

 アインは……なんか別の遠い所を見てるし、ユージンは上半身だけ湯船に沈んでいる。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……くそっ……倫理コードONにしておけばよかった……!」


 アーサーはぜぇぜぇ言いながら湯船を出ると、水風呂に倒れ込んだ。

 あぁ……蹴られたタマタマを冷やそう、ってワケなのね。

 ……にしても、SBOじゃVRでも股間とか蹴られると痛みってのはあるのか。

 今まで散々ダメージを受けて来たのに、痛みを味わったことはまだ一度もないんだけどな、俺。


「倫理コードなんてOFFにしてんのか、お前……変わってるな」


「そちらの方がリアルな感覚だからね……その分痛みはやって来るけど。

カオス、君は切らないのかい? 出来ることが増えて楽しいよ」


「切らねーよ、イベントの時お前腹ブチ抜かれてただろ。

あれの痛みとか味わうこと想像したらますます嫌だって」


「まぁ、流石にその辺のダメージは痛みが来ないように設定されるよ。

倫理コードでどうこう出来る痛みは、そのプレイヤーが耐えきれる痛みまでだからね」


 アーサーとカオスはそんな豆知識を話しながら、首まで水風呂に浸かっていた。

 気にしてなかったけど、湯船に髪が入らないように髪を結んでるカオスは女にしか見えない。

 アーサーを父親とするなら、一緒に銭湯に来た娘とかに見えてくる。


「まったく……寛げそうにねぇ銭湯だぜ」






 ――――と、男湯の方がギャーギャーアハハと騒いでいる一方で。

 私……読者の皆さんには初めまして、剣城鞘華ことランコです。

 現在女湯がそれなりの人数になっています。


「フ……VRでも、銭湯とは良いものだな」


「そうですね、お風呂に入ると謎の肩こりがいつの間にか解消されますから」


 ……胸のサイズに月とすっぽん程の差が出来ているNさんと、ハルさん。

 ニッコニコ笑顔なハルさんに対して、Nさんの笑顔は凍てついていた。


「はぁ……アバターなんだから、そんな気にする必要ないじゃない」


「そうだよ、やっぱ自然が一番だって」


 シェリアさんと鈴音さんはそんなに興味がないみたい。

 だけど、シェリアさんは秘かにハルさんのことをじーっと見てたのを私が見た。


「……ランコは、どう思う?」


「私? んー……まぁ、それなりにあればいいんじゃないかな。

大きすぎても困るだろうし、ちょっと膨らんでれば」


「そっかぁ……私は、ランコが大きかったらよかったんだけどなぁ」


 ……ユリカの意味深な発言と、目線に若干引いた。

 ううっ、友達でもこういう一面を見るとちょっとゾッとするなぁ。

 友達とか全然いなかったからわかんないんだけど。


「ア、アルトリアさんはどう思います?」


 王の騎士団の女性プレイヤー、アルトリアさん。

 ついさっき入って来たので彼女にも話を振ってみる。


「……まぁ、自分が納得出来るのならどうでもよいだろう」


「おぉ……大人だ」


「大人なの?」


 ユリカはアルトリアさんの意見に目をキラキラ輝かせてる。

 ……ユリカが王の騎士団であんまり悪口言われてない理由がわかったかも。

 と、勝手な納得をしていると。


「テメェェェ―――ッ! 何してんだァァァァァッ!」


「わっ」


「ひっ」


 突然、男湯の方からガラスが割れるんじゃないかと言う程の大声が。

 ……声だけじゃ完璧にはわからないけど、アインくんと兄さんではなさそう。

 と、ホッとしたら、私はアルトリアさんに抱き着いていたことに気付いた。


「あっ、ご、ごめんなさい……! ゆ、ユリカと間違えました……!」


「別に構わない」


 慌ててアルトリアさんから離れるけど、アルトリアさんは表情を崩していない。

 これだけ冷静沈着なら……アインくんを真正面から倒せる強さに納得だなぁ。

 何よりも、美人でスタイルいいし……凄いカッコいいアバターだ。


「じろじろと見てどうかしたか」


「い、いえ……な、何でもないです」


 アルトリアさんはざばっ、と湯船から上がると体を洗い始めた。

 ……一方で、Nさんはずっと黙っていたと思うと。


「フン」


「ぐぅっ!」


 男湯と繋がっている空間に、鞘に入ったままの刀を投げた。

 刀は男湯の方に入って、誰かに当たったみたいだった。


「あの、N先輩……何を?」


「……うるさかったのでな、静かにしろという意味を込めた」


「どういう意味ですかソレ」


 ハルさんがNさんの挙動に呆れてため息をついていると、シェリアさんと鈴音さんがいなくなっていた。

 そう言えば、私が入る前から湯船に浸かってたから、もう十分だったのかも?


「そろそろ出よ……」


「あ、じゃあ私も」


 私と一緒に入って来たユリカも、もういいやと言って湯船から出た。

 女湯の出入り口を開けて……更衣室に入ってから濡れたアバターを拭く。


「……持って来てよかった」


 私は楽なTシャツとズボンに着替えると、ストレージからあるものを取り出す。

 ユリカに一つ投げて渡して……二人でソレの蓋を開ける。

 腰に手を当てて、一息にグビグビと飲み干して――


「ぷはっ!」


「おいしーっ!」


 と、瓶を持った手を天高々と上げる。

 そう……銭湯の定番、コーヒー牛乳……もどき。

 近くのお店でプレイヤーが売っていたので買っておいたんだ。


「コーヒー牛乳か……」


「あ、まだ三本くらいありますよ、欲しいですか?」


「では一本貰えるか? 言い値で買おう」


 アルトリアさんが物欲しそうに私たちの持つ瓶を見ていた――ので、私はコーヒー牛乳もどきを買った時のGを貰って、一本渡す。

 彼女はそれを美味しそうに飲んで、顔に笑みを浮かべた。


「あぁ、とても良いものだな。

ありがとう、ランコ、ユリカ」


「どういたしまして」


 アルトリアさんのお礼に、私たちは声を揃えた。

 ……VRでも、こういうほのぼのとした一日もいいなぁ。

 現実に戻ったら……明後日は学校に行く日だし、百合香の帰る日だ。

 今日は目いっぱい休もうかな。

【アルトリアとユリカ】


王の騎士団でアーサーからの信頼度が高かった女性プレイヤー二人。

ユリカ自身も無意識にアルトリアへ信頼を寄せている所がある。

そのため、ランコがいなかった場合はアルトリアが……

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