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第九十四話:すみませんでした

「さてと……やりますか!」


『我が大聖堂に侵入せし者よ……瞬きの間に、失せるが良い』


「残念ながら、俺はそんな簡単にやられてやる男じゃねえよ。

一対一でも、お前を苦戦させるくらいには戦ってやる! 見とけよ、漢ブレイブ・ワンの強さってやつを!」


 ティーセットもテーブルも消滅したところで、闇の大聖堂のラスボス……【魔教皇・デビルギャラクシア】が出現した。

 HPバーは……七本と、今までのボスと比較にならない本数。


「いくぜ……! 教皇!」


 ダン、と踏み込んで剣を構えた俺は────




「すみませんでした……いや、マジ、ホント調子乗ってました……」


 勝負開始から二、三十秒でボッコボコにされて、ダンジョンから追い出されたのでした。

 反則的な速度に、反則的な攻撃力と反則的な防御力……ゴブリンズ・ペネトレートがクリティカルヒットしてもダメージ0、俺の防御力でも一撃貰っただけで半分以上持っていかれたし。 

 なんなんだったんだ、アイツ……。


「……あの、元気出してください、先輩」


「アーサーとカオスはソロで踏破したってのに、俺は惨敗だぞ。

ダメージを1も与えられないで、なすすべもなくやられたんだぞ」


「フ……気にするな、私はボス戦前に死んでいる。

そこまで進めただけお前たちは奮戦した、ということだ」


「やー、あたしはあんま役に立たなかったからさー……ラスボス戦だって、気づかないうちにやられてたし」


 ……闇の大聖堂で死亡すると強制的に追い出されるみたいだ。

 ので、皆一回死んだらそれぞれダンジョンから離脱させられたみたいで。

 ペアを組んだままラスボス戦まで行けたのは、俺と鈴音だけだ。

 他の皆は、ラスボスに辿り着く前に死んでしまったらしい。


「私はイチカくんと組みましたが、敵のスキルにハマってしまって……お恥ずかしながら、同士討ちみたいになりました」


「スキルの詳細を看破できなかった俺の責任だ、恥ずべきことはない」


 ハルとイチカはため息をついて嘆いた。

 同士討ちってのは、なんとも格好のつかない終わり方だ。

 それに、そのスキルさえなかったら二人はいいとこいけただろうに。


「私はシェリアと組んだのだが……」


「フレンドリーファイアしちゃったせいで、連携崩しちゃったのよ……」


 淡々と話す先輩と悔しそうなシェリア、先輩も顔には悔しさのようなものが浮かんでいる。

 あるあるなミスだけれど、やってしまった時のショックは大きいものだよな。

 俺も、RWOで連係ミスをして味方が死んだとき、夜しか眠れないくらいには悩んだなぁ。


「私はユリカと組んだけどさ、なんていうかね……その、武器的な意味で連携は取れてたんだけど」


「あまりにも防御力がなかったので、中ボスと戦った時に一撃で溶けました。いいとこまで行ったんですけどね」


 回避のし損ねであっさりとやられたようで、二人もため息。

 ま、コンビを組めって言われたら最適な組み合わせは難しいよな。


「俺はアインくんと組んだッス。

スピードコンビでいい感じだったんッスけど」


「僕のスキルに、ユージンさんが自分から当たっちゃって……その、凄いダサい感じで終わっちゃいました」


 ハハハ、と笑い話のように話すユージンとアイン。

 連係ミス……こればっかりは、うっかりだと笑うしかないな。

 特に、スキルの誤ヒットってのは何度やってもたまに起きる。


「僕はスターさんと組めたんですけど、その……はは」


「私も頑張ったんだけどねー、やっぱ私らだけじゃ色々足りなかったわー」


 申し訳なさそうに凹むムーンと、気だるげにため息をつくスター。

 まぁ、ギルド入りたての二人なんだ……まだ俺たちよりもレベルは低いみたいだし。

 レベルの上限はまだ60だし、80くらいまで解放されたらもう一度挑んでみるかな。


「さて、じゃあドロップアイテムの分配とかしますか?」


「……分配できるだけのドロップがあるのか?」


 ハルがメニュー画面を開くと、イチカに突っ込まれた通りアイテムは少しだけだった。

 ……それも、空き瓶とか枯れ枝とか鉄のインゴットとか、無用なものばっかだ。

 んー、まぁ……使わなくもないかもしれないけど、正直欲しいとは思わない。

 俺は生産系スキルなんて持ってないので、空き瓶もインゴットもいらないのだ。


「フ……私も似たようなものばかりだ」


「といっても、空き瓶とかよりかはマシだと思うわ」


 先輩とシェリアは、鉄の槍(破損)と鉄仮面(破損)とドアノブ(破損)を出した。

 壊しまくりじゃねーかよ! と言いたくなるのを我慢しつつも、ハルのと見比べる。


「んじゃ、私たちもっと……」


「ちょっと目玉品もありますよ」


 ユリカは真っ赤な鞘に包まれた、柄から刀身まで真っ赤な剣を出した。

 ランコは空き瓶と、レンズの無い眼鏡……ゴミばっかじゃねえか。


「そんじゃ俺たちも!」


「褒められたものじゃないですけど……」


 ノリノリで出すユージンと、苦笑いしながら出すアイン。

 ユージンからは空き瓶とメモ用紙と缶詰(中身不明)が出て来た。

 アインからは緑色の液体が入った瓶、それとなんかのロープ。


「えーと、僕たちは……その」


「なんもなーし」


 ムーンとスターは何もないみたいだ。

 まぁ、空き瓶とかわざわざ拾ったりはしない……しないよな。


「あたしはなんも拾えてないよ」


「俺も、この剣一本限りだ」


 鈴音は手をプラプラとさせて物がないアピール。

 俺はホワイトを撃破して手に入れた剣──狼雪の剣を出す。

 白い革の鞘に包まれていて、雪のような儚さを思わせる剣。

 出来れば売りたくないな……使わないとしても、取っておきたい。


「へぇ、じゃあめぼしい物ってユリカと兄さんの剣だけか……」


「そうだな、では適当に売り払って、その金を均等に分けるとしよう」


 ランコが残念そうに言うと、先輩は剣以外のアイテムを一か所に集める。

 そして歩き出し、ついて来いとジェスチャー。

 皆がそれに揃ってついて行く中、俺とユリカは顔を見合わせる。


「……剣、見せてくれるか」


「私も言おうと思っていました」


 俺とユリカは剣を交換し、互いに見てみる。

 ユリカの手に入れた剣は……【血樹の剣】と言う名前だった。

 名前とは裏腹に、綺麗な赤色の剣だった。

 装備の際に要求するステータスの値も高い。


「ユリカ」


「なんですか」


「それ、やるよ」


「え」


 皆と数歩分離れた距離を保ちながら、俺はユリカにそう言った。

 驚くユリカを気にせず、血樹の剣もユリカに返す。

 何故そうしたのか、たった数秒の出来事なのに理由を思い出せない。

 ただ、ユリカに持っていて欲しいから渡したということは変わらない。


「ありがとうございます、ブレイブさん」


「別に礼はいい……その代わり、これからも妹をよろしく頼む」


「……こちらこそ、よろしくお願いします」


 皆に聞こえない程の声で、俺とユリカはそう言葉を交わした。

 それ以降、特に喋ることはなかったけれど――

 ちょっとだけ、ユリカと仲を深められた気がしたのだった。




 翌日、王の騎士団ギルドホームの会議室。

 俺とユリカが、アーサーに用があったので脚を運ぶと。


「ははははは! ふふっ、くっ……あーっはっはっはっはっは!」


「アーサーよ……やめてやれ、いくらブレイブ・ワンと言えど嗤うことはないだろう」


「いや、悪いとは思っているんだけど、笑いが止まらなくて……ははははは!」


 闇の大聖堂での散々な結果を聞いて、アーサーは笑い転げていた。

 イラッ、と来てぶん殴りそうになるが……ゲームの話だ、我慢しよう。


「何もそこまで笑わなくても……」


「いいんだユリカ、俺が悪い」


 後にカオスから聞いて分かった話だが、闇の大聖堂はちょっとしたギミックがあるようだ。

 それは、挑む人数が増えれば増えるほど敵が比例して強くなる……とかいう、数の暴力を許してくれない仕様だ。

 中ボスとかは基本的に変わらないみたいだけど、ラスボスだけは話が違うようで、複数人で挑んだ場合、全員揃ってなきゃまず攻略は無理……初見殺しにもほどがある。

 アーサーとカオスがソロで踏破したというのはそういうことか、と納得したけれどどこでそんな情報を手に入れたのやら……。


「……話は変わるけれど」


「なんだ」


 さっきまで笑いこけていた姿が別人にでもなったか。

 アーサーは少し真剣な目で、ユリカの方を見た。


「ユリカくん、集う勇者は楽しいかい」


「……はい。とっても」


「そっか、なら良かった」


 ユリカの答えに満足したのか、アーサーは笑った。


「ウチにいた頃の君、ほぼソロで動いてたからね。

集う勇者に入ってからは仲良くやってる子がいてよかったよ」


「初めての友達、ですから」


 ユリカのフレンドリストに入ってる奴なんて、いくらでもいる。

 いや、実際どれくらいいるかとかは知らないんだけどさ。

 ただ……ゲームだけじゃない、本当の友達ってのがランコ……鞘華なんだろう。


「……さて、次は君だ、ブレイブくん」


「俺?」


 アーサーはまたも真剣な目で俺を見て来た。

 ……と思うと、すぐにフッと笑った。


「君たちのギルドには新戦力が来たようだね」


「あぁ、ユリカ含めて六人ほど」


「前から声をかけようと思っていたんだが、君たちのギルドの人数が二桁を越えたなら迷う必要はないか」


 いったい何の声をかけようと思っていたんだ。

 まさか、王の騎士団と合併しろとか言い出すんじゃなかろうな。

 もしそうだったらすぐにここを出て行こう。


「君たち、集う勇者に――」


「に?」


「第四都市解放戦、レイドボス戦に参加して貰いたい」


「え」


 思ってたのと違う答えが返って来た。

 っつーか、都市解放戦?レイドボス?よくわからんぞ。


「……都市解放戦ってなんだ?」


「あぁ……49人までのレイドパーティを編成して挑むレイドボス戦さ。

第二都市と第三都市も、僕たちが皆を率いて挑んだものさ。

言わば、イベントを終えた後のアップデート要素のアンロックってところかな」


「……はぁ」


 えーとつまりだ、アーサーの言いたいことは。

 7×7の人数で、巨大なボスに挑んで……新しい都市を解放しろってことか。

 王の騎士団のギルドホームは第二都市にある。

 真の魔王は第一都市で、集う勇者も第一都市だけど……その都市ってのを解放していくのが、レイドボスなのか。


「参加するとなんかメリットとかあんのか?」


「ラストアタックを取れば専用の報酬が貰える。

まぁ、取らなくても凄い額のGとCP、ついででレア素材のドロップが貰えるよ。

運が良ければ、モンスタードロップのレア装備も手に入る」


「マジか……そりゃいいな、丁度金欠だし助かるぜ」


 第三回イベントや闇の大聖堂のせいで、Gはスッカラカンだ。

 貴重なSPクリスタルとかも、CPで購入する必要があるので買うまで大変だ。

 となれば、少なくとも俺にとっては超好都合なもんじゃないか。


「……因みに、第四都市が解放されればレベルの上限も70まで上げられるよ」


「よし参加しよう、そうしよう」


「即決だね」


「俺にとっちゃ嬉しすぎるもんだからな」

 

 早速俺は立ち上がり、アーサーに礼を言ってから頭を下げ――

 王の騎士団会議室を飛び出し、集う勇者ギルドホームへ飛び込むように帰った。

 因みに、この間ユリカとは一言も言葉を交わすことはなかったのである!


「いよぅ!全員揃ってるな!」


「することないのに揃っちゃってますけどね」


 愛用の盾を絹で作られた布でフキフキと磨くハル。

 なんでかイチカとチンチロリンをやってるシェリア、それを眺める鈴音。

 一方でババ抜きをやってるユージンとランコとアイン、お茶を飲んでる先輩。

 タブレット端末をペンでいじってるスター、剣の素振りをしてるムーン。


「フム……何か嬉しそうだが、アーサーに何か誘われたか」


「その通り、第四都市解放戦、レイドボス戦に誘われたんですよ」


「フ……私も第二都市解放戦には参加したな。

第三はパスしたが……恐らく今回も呼ばれるとは思ってはいた」


 先輩は何やら思い出に浸るように、目を閉じてお茶を飲んだ。

 ……第三都市解放戦をパスした理由が若干気になる。


「うーん……レイドといっても、集う勇者全員が呼ばれることはないでしょうね」


「そりゃまたなんでッスか?」


「だって、私たち全員がトップギルドに並ぶ強さってわけじゃないでしょう」


 ハルは盾を磨き終えたと思うと、今度は鎧を磨きながら言う。

 ……まぁ、確かにたった49人って枠に俺たち全員が入るのはないよな。

 辛口で見ると俺、先輩、ハル、ユリカ辺りしか誘われなさそうだ。


「まぁ、僕も誘われる気はしないですけどね。第三回イベントで散々でしたし」


「それを言うなら、私だって器用貧乏だしねー……」


 ランコとアインはため息をついてはいるが、補欠くらいには入るだろうな。

 俺がパーティを編成しろ、って言われたら一応補欠くらいには入れるぞ。


「ま、誘われたなら誘われたで、誰が行くかは寝て待てばいいっしょ」


「そうだ、今何をしたところで何が変わるわけでもないだろう」


「そうよね……都市解放戦に選ばれるのがすべてじゃないもの」


 鈴音、イチカ、シェリアは余裕でもあるのか……それとも、選ばれても選ばれなくても何も問題はないって事か。

 ……スターとムーンは興味なさそうだな。

 っつーか、あの二人が一番レベル低いんだったよな……なんか、今更ながら心配になって来たぞ。

ちょっとした説明


【血樹の剣】ユリカとランコが、ブレイブ同様に最初に撃破した中ボスからのドロップ武器。

特殊な条件を満たさなければ入手できない武器のため、かなりレアな武器。

狼雪の剣もこの剣と似たような条件を満たさなければ入手できない。

どちらも固有スキルが予めセットされている。

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