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第九十三話:うっそーん……

「……で、どうよ鈴音。逃げる? 逃げない?」


「あたし的には逃げたい、リーダーは?」


「俺は勿論……」


 逃げるか否か、言う前に行動で示すように俺は出入口に向かって走り出す。

 剣はロストすることはないだろうし、この際置き去りでもいいだろ。

 腕が治ってから再突撃して、そん時に回収すれば――


『ふん』


「え」


 ブラックがタン、と一歩踏み込んだ音を立てたと思うと、出入口の前にいた。

 更にそこで剣をブン、ブンと軽く振るうと――


「えええええええええ……」


「あちゃー……」


 ガラガラガッシャーン、と天井から瓦礫が降って来た。

 たちまち出入口までの道は塞がれて逃げようのない状況になった。

 クソッ、これじゃどうしようもねえじゃねえか……!


「ここで倒すしかないみたいだね、リーダー」


「しょうがねえな……」


 鈴音は俺の腕を拾って持ってきてくれていた。

 普通なら誰だって自分の手を優先するはずなのに、俺の腕を持ってきた。

 本当にいい奴だよ、鈴音……。


「ったく、俺はお前が仲間で嬉しいよ」


「そりゃどーも」


 雑嚢からポーションを取り出し、斬られた腕をくっつけた所にかける。

 そこで一気に再生までの時間が飛躍的に上がり、俺の腕は無事くっついた。

 よし……これならまた剣も振れる……鈴音に感謝だ。


「よっしゃ……じゃあ、第二ラウンド始めようぜ! ブラック!」


「あのリーダー、その前にあたしの腕……治すの手伝ってくんないかな」


「あ、わりいわりい」


 鈴音今度は俺が鈴音の斬られた腕をしっかりと掴み、ポーションをかける。

 幸いにもブラックはこちらに来ることもなく、出入り口の前で突っ立っている。

 となれば、今が準備のチャンスってところだな。


「やった、くっついた……!」


「よし、今度は二人でかかろうぜ」


「そだね」


 鈴音も拳法のような構えを取り、俺も剣を構える。

 対するブラックは――


『【タイガー・クロー・マキシマム】』


「やべっ……流星盾!」


『【インフェルノ・スラスト】』


 さっきの炎の虎よりも更にデカい虎、その上に炎を纏った短剣!

 ブラックが何もしてこなかったのは、スキルの詠唱をしていたからか!

 と、流星盾が砕かれると同時にブラックの行動を理解した。


「リーダー! 来るよ!」


「そうは言ってもッ……! ぐあっ!」


 炎の虎と獄炎を纏った短剣は受け止めきれなかった。

 俺は防御を崩されて吹っ飛ばされ、背中を打ち付けて転がった。

 ブラックの狙いは……依然として俺か!


『フン!』


「フォース・カウンター!」


 だが、俺だって転んでもただじゃあ起きないとも。

 起き上がると同時にカウンターを放ち、ブラックに一撃くらわせた。

 よし……攻撃力は高いが、防御力は大したもんじゃないな。


『ハァッ!』


「カウンター・バリア!」


『ぐ……』


 よし……ダメージは着実に入っている。

 コイツの攻撃のテンポを掴めたってのもあるが……今の俺は、コイツを倒すための攻めに出れる。


「ま、要は当たんなきゃいいんだ……スリリングだけどクリアする自信は出来たぜ」


『チィッ……スプラッシュ・スティンガー!』


「諸刃の剣・超加速!」


 俺は一瞬だけ無茶苦茶なまでに速度を高めると同時に、集中力を引き上げる。

 ブラックが高速で突いてくる攻撃の軌道を読み、それらを紙一重で避ける。


「ゴブリンズ・ペネトレート!」


『ぐはあああッ!』


 今度は、ブラックのカウンターの餌食にならずに済んだ。

 一瞬だけ、一瞬だけ諸刃の剣を使えばこういう風に立ち回ることも出来る。

 ……で、ブラックのHPバーは全損し……隣にある宝石がバシンと砕けた。

 新たなHPゲージが生成されるが……コイツはホワイトよりゲージが一本少ない。

 よく見ると、MKillerの残骸にあったHPバーが消えている――


「あぁ、お前……MKillerのHP貰ってるのか」


『我が全力を解放しよう……さぁ、ついて来るがいい、戦士よ』


 コイツのHPバーは最後の一本……だったら、こっちも全力で行こう。

 ホワイトみたいな厄介なギミックがなしとなれば、純粋な力比べ。

 やってやろうじゃねえの。


『ベルセルク』


「え」


 一番見たくなかったスキルを、ブラックが使用した。

 狂化よりも段階が上……これは洒落にならない奴だ!


『ハァッ!』


「う、うおおおおおッ!」


 ブラックがダン、と踏み込むと反応するのがやっとなほどの速さで剣が振り下ろされた。

 どんなステータスの上がり幅してんだ、この野郎!

 っつーか……心なしか、目つきが変わったように見える……ってそれはどうでもいい!


『死せよ!』


「ッ――!」


 ブラックと目があった瞬間、咄嗟に俺は真横に転がった。

 何が起きたかはわからないし、何も起きてないかもしれないけれど。

 ヤバいと感じた。


「うっわ……溶けてる……」


「ん?」


 俺の後ろで見ていた鈴音がそう呟くと、俺は周囲を見回す。

 ……すると、ブラックの目元は真っ黒に焦げていた。

 というか、目そのものがないようにも見えるし……ブラックの目線の先は。

 穴が開いていて、ドロドロに溶けている。


「目からビームとか……反則だろコラ!」


『死せよ』


「どわっ!」


 間髪入れずに俺に向けて撃って来た! ステップでそれを躱すが、少し下がってしまった。

 距離が開いたってことは……


『カァッ!』


「おおおおおおおおわああああああっ!」


 ブラックの目から、熱そうなレーザービームが連射された!

 マシンガンだとかガトリングだとかそんな域じゃあないが……俺を焼き殺すには十分な量!

 盾でガードしても、ダメージは殺しきれるほどのものじゃない。


「リーダー! あ、あたしどうすればいい!?」


「ッ……俺が、何とかビームを防ぐ! お前は最大限の一撃を食らわせろ!」


「わ、わかった!」


 鈴音は全身にオーラのようなものを纏い、何かを溜め始める。

 ……さて、鈴音に攻撃を当てさせないようにしないとな。


『魔性如き、人如き!』


「お前もそのどっちかだろ!?」


 そう言いながらブラックは目からビームを放ってきた。

 だが、慌てず騒がず驚かずに、よく見て集中すれば!


「……ハアアアアッ!」


 パァンッ、と音がしてビームは消し飛んだ。

 よし、あくまで熱を射出してるだけのビーム……! これなら、弾丸や矢と違って切っても反動はない。

 それに、小鬼帝の剣なら耐久値は気にしなくていい。


「いよぅし……かかってこいやゴルァ!」


『死せよ!』


「うっらあああああッ!」


 大量に飛んでくる、雨あられのような熱の光線。

 それらを、鈴音に当たりそうな奴だけを見繕い――

 ぶった斬る!


「あぐっ……」


「リーダー!」


「気にすんな!」


 だが、当然鈴音を守ることに集中していれば俺もダメージは受ける。

 HPが心許なくなってきたが……それでも、それでも……! 今の俺は、鈴音に攻撃を頼んでいる以上、壁役として頑張らねえと!


『ぬぅんっ!』


「オォッ!」


 ブラックはビームの乱射を辞めたと思うと、踏み込んで俺に斬りかかって来た。

 俺はそれを剣で受ける、勿論向こうがベルセルクを使っているせいで押されるが。

 でも、耐えきれないほどなわけじゃない。


「鈴音……!」


「……うん、もう溜まったよ!」


 鈴音の方にチラリと視線を向けると、鈴音は拳に物凄いエネルギーを抱えていた。

 何と言うか……その……まるで燃えているように滾っている。


「これで……決める!」


「え」


 俺はブラックの剣を弾いてから鈴音の攻撃を頼もうと思ったが――

 まさかまさかで、鈴音は俺が離脱する前に拳を構えて俺に密着していた。


「そんなバナーナ……」


 超絶古臭い言葉が出てくると同時に――


「せぇぇぇやぁッ!」


 鈴音の拳が、俺の腰に叩き込まれた。


「背中痛ァァァ――ッ!


……って、あれ?」


 俺には1のダメージもなく、それどころかブラックに大ダメージが行っているようだった。

 ブラックはくの字に曲がって吹っ飛んで行き……床にずさーっ、と倒れた。


「ふぅ……こういう時に活躍するね、【裏当て】」


「う、裏当て?」


「そ、あたしの拳系スキルで使えるバフなんだけど……味方を貫通して、敵だけを殴れるって便利スキルなの」


「へぇ~、そりゃまた……」


 で、俺はブラックの方をちらりと見る。

 HPバーは全損していて、いつの間にか剣は粉々になっていた。

 これじゃあ回収は出来ない、と言う程に。


『フ……いつか……いつか死ぬとは思っていた……だが、それが今になるとは、誰が思っていようか……生と言う物は……いつまでも、理解できぬものよ……!』


 ブラックは倒れたままそう言うと、ぶはっ、と血を吐いて動かなくなった。

 そして、脚の末端からゆっくりとポリゴン片へと戻って行き、消えた。


「……行こうぜ、鈴音」


「うん……もう少しでボスかもね」


 俺と鈴音は、HP、MP、SPを回復させながら……一言も話さずに進み始めた。

 階段を上る時も、周囲の探索をする時も……ずっと、無言のままだった。

 ちょっとばかしセンチな気分になった、ってのが原因かはわからない。

 けれど、しばらくは……黙っていたい気分だった。


「……はぁ」


 俺はため息をつき、全然美味しくない携帯食料を齧って水を流し込む。

 鈴音はもう食い物を持ってないみたいで、なんかを咥えながら水を飲んでいた。

 ……恐らく、最後になると思われる巨大なボス部屋の前で。


「結局、先輩たちとは合流できずだな……」


「んー、皆のHPバーが見れないからわかんないけど。

何人か死んでて、ダンジョンから強制的に追い出されたとかないかな? まだ死に戻りしてないからわかんないけどさ」


「……ありえそうだな、もし片方だけでも死んだら、とかなら余計に」


 ハルや先輩がそう簡単にやられるとは思えないが、相方が死んでる可能性もある。

 片方だけでも死ぬと、強制的にダンジョンから離脱させられる……

 そう仮定すると、俺たちだけしかここまで来れてない、と考えてもおかしくなさそうだ。


「あー……だとしたら、また俺たちだけの攻略って事に……」


「最悪じゃん」


 ……と、ため息をつきながら俺たちは嘆くも――

 扉を全力で蹴っ飛ばした。


「だったら……! やれるとこまでやってやるぜぇぇぇッ!」


「応とも!」


 扉が開くと共に、俺は吠えた。

 ……アーサーやカオスは一人でここの攻略をやってのけた。

 だったら、俺だって、俺だって出来るはずだ!


「鬼でも蛇でもゴリラでもバケモンでも、なんでも出て来い! まとめてぶった斬ってやるぜ!」


『あら、残念ながら出たのは女の子よ』


「うっそーん……」


 タンカを切りながら、いざ巨悪たる魔王的なエネミーと……なんて思っていたら出てきた奴はまさかの可愛い女の子だった。

 体の真ん中の所で、髪も服も白黒で分かれている、ヘンテコな服。

 しかも形はエプロンドレスだし、オッドアイ……可愛いけどなんか変だ。

 既視感があるが、俺はそれを思い出せなかった。


『初めまして、ブレイブ・ワン……と、あなたはどうでもいいわね』


「え」


 俺の名前を普通に喋ったと思うと、女は軽く手を振った。

 すると、鈴音が声もなく倒れ……そのまま消えた。


「は!?」


『話に必要がなさそうな人間は除外させて貰ったわ』


「ソロでボス戦かよ……」


 このダンジョン……どこまでも難易度を高くしにきてやがる。

 ソロになるのは、必然的なことだったのかよ。


『……さて、本来のボスと戦う前にお話でもさせて貰おうかしら、ブレイブ・ワン』


「はぁ? 話?」


 女がパチンッ、と指を鳴らすと、そこにはテーブルとイスが。

 更にはティーポット、ティーカップ……まるでお茶会とでも言わんばかりだ。


『あなたは、私が見定めた二人目の人間よ』


「……二人目、だ?」


『そう、一人は騎士の男……アーサー、って言ってたわね』


「なんでアーサーと俺を?」


『私が、話したいと思ったからよ』


 女はそう言うと、俺を手招きした。

 罠の可能性もあるので、俺はその場に立ち止まったまま剣を――


「あ、あれ……体が……」


『フフフ、お話の場に剣はいらないでしょう?』


 抜くことは出来ず、気を付けをしたときのような形に戻された。

 更に、脚は何かに引っ張られるように動いて……俺は椅子に座ってしまった。


『さぁ、問答を始めましょう』


「問答……そんなことをやる前に、まずお前誰だよ」


『私は人間のコピー品、完全自立思考及び学習を行う人工知能……その試作二号機よ』


「……へぇ、今の科学はそんなことも出来るのか」

 

 人類の科学の進歩は目覚ましい物、それは毎日ニュースで見てる。

 何のワクチンが出来ただの、新型なんちゃらウイルスを潰す薬だとか。

 VRMMOという存在だって立派な技術革新だ。

 だから……いつしか人間のコピーや、人造人間が出来てもおかしくはないだろう。


『……人間には、無駄が多すぎる。機械には、柔軟さが足りない。

あなたは、そう思ったことはないかしら? ブレイブ・ワン』


「さぁな、考えたこともねえよ」


『そう……でもね、私を作った人はそう考えている。

だから、人間と同じ思考能力を持つ人工知能を作り、機械へ組み込む。

そうすることで、無駄のない完璧な人間が出来上がるのよ』


「へぇ……そりゃまた、随分と進化してるもんだな。

永久エネルギー炉でも見つけたら、お前ら不死身なんじゃねーの?」


『随分あっさりしてるわね』


 あっさり……そうは言われても、俺は人工知能と話してる実感がない。

 今目の前にいるのは、ただの可愛い女の子としか思えない。

 何せ、今の世の中じゃいつかは出て来そうな奴だし。


「んで? 話すことはそんだけなのか? 技術が発達していく世界で、そんなことを言われたって既に納得出来るさ。

なんなら、人間が種族単位で進化したってSF映画じゃ腐るほど見た。

だから、今更スゲー人工知能が出来ても、はいそうですか、って感じだ」


 要は、ド〇えもんのポケットなしバージョンが出来た。

 そう考えれば、まぁ今の世の中なら、それくらい出来るかなと思う。

 人間の脳みそを解析して、コピーなんて……フルダイブ技術なんて物があるなら、出来ると想像くらいはする。


『……じゃあ、本題を聞こうかしら』


「どーぞ」


 お茶を一杯飲むと、女は真剣な眼差しでこちらを見て来た。


『あなたは、私を人間と認めるの?』


「あぁ、まぁ人間なんじゃねーの? コピーなんだし、イコールで結んだっていいだろ」


『うふふ……なら、また会いましょ? また、二人きりで……いや、三人でもいいかもしれないわね』


 女は立ち上がったと思うと、塵になっていくように消え始めた。

 ……普通のプレイヤーの転移や消滅とは違う消え方。

 まぁ、特別なアカウントが与えられてると見ていいかな。


『さぁ、楽しみなさい……この大聖堂の主との戦いを』


 そう言い残して、女は完璧に消え去った。

 ついでに、俺が手を付ける前のお茶もティーセットも消えた。

 クソッ、一個くらい食っとけばよかった……!

【おまけ話】

実はブレイブこと勇一、バトル系ならアニメや映画等に興味深々だったりする。

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