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第八十九話:新戦力

「ふーむ……まぁ、残ったのはこんなもんか」


 一次試験、俺の召喚したホブゴブリンと二対一での戦闘。

 二次試験、集う勇者のメンバーと二対一での戦闘。

 と、試験を二つ行ったところで。


「合格者発表~、合格者の名前を順次呼んで行きまーす。個人個人で見てるから、ペア丸ごと合格ってワケじゃないので注意なー」


「はーい!」


 元気のある返事が、三十人分返って来た。

 試験監督である俺から合格者を発表、理由はギルドマスターだからだ。

 因みに合格基準は全て俺の独断と偏見であるので、異論は認めない。

 先輩からの物言いなら考えなくもないけどな。


「まずはそこの少年、【ムーン・リバー】くん」


「は、はい! ご、合格ですか!?」


「その通り、おめでとう。今日から集う勇者の一員だ」


「ぃ~っ、やったぁ!」


 少年……こと、ムーン・リバー。

 ホブゴブリンとの戦闘を最初に行ったAチームの剣士だ。

 連携が上手いことに加えて、周りを気にかけてあげられる優しさが俺の気に入ったところだ。

 二次試験でアインと戦った時はペアを気にかけながら戦っていたし、自分の役割を忠実にこなそうとしているのが感じれたし、育てれば伸びるタイプだな。


「次、ムーンの隣の【スター・ドロップ】さん」


「はーい」


「おめでとう」


「どーもー」


 ムーンと同じチームで、攻撃系の魔法でムーンをサポートした少女。

 ディララほどじゃないのは当然だが、魔法使いとしては期待できる強さ。

 気だるげって感じだが、程よく力を抜けているようで悪くない。

 何よりも、集う勇者には魔法使いがいないから丁度良かった。

 二次試験ではムーンのことをキッチリと信じて、やることを全部攻撃に割り振ってたおかげでアイン相手にもかなりいい線までいけてたし、間違いなくデキるやつだ。


「んじゃ次、結構飛んでそこのエルフ……【シェリア】さん、合格」


「え? 嘘、あたし?」


「イエス、おめでとう」


「やったぁっ!」


 弓使いのエルフ、シェリアは飛び跳ねて喜んでいた。

 ホブゴブリンとの戦闘では、自分の役割に徹した行動を常に取っていた。

 集う勇者メンバーとの戦闘でもそれは変わらず、ユージンを相手にしてキッチリと攻撃を当てられたのは凄いって一言に尽きる。

 自分の役割を理解して、それを徹底できるのはとても良いことなので合格だ。


「それじゃあ次、そこのチャイナガール……【鈴音リンイン】さん」


「あたしが合格? え? マジなの?」


「マジの合格だよ、おめでとう」


「わぁ、嘘みたいだけど現実だぁ……うれしーっ!」


 チャイナドレスを着て、素手で戦うスタイルの少女、鈴音。

 彼女も自分の役割に徹しきれるって言うのと、逃げないガッツが気に入った。

 ウチのメンバー……それも、先輩を相手に逃げ出さないのは強い。

 何人かは腰が引けてたし防御に徹して時間を稼ごうとしていたけど、鈴音は攻めの姿勢を最後まで崩さず、相討ち覚悟でも挑みかかった。

 なら、これを合格させずして誰を合格させるか。


「んでー……えー、そこの【イチカ】くん」


「ふむ、俺が合格か」


「その通り、おめでとう」


「当然の結果だな」


 彼は軽装に身を包み一見武器を持っていないようにも見えるが、【魔法弓】【魔法剣】【魔法拳】など、何もない所から武器を作り出すスキルを使う戦闘スタイルのプレイヤーだ。

 正確にはMPを使った魔力の塊である武器を使うわけで、近距離、中距離、遠距離のすべてがこなせる万能タイプなことに加えて、そのプレイヤースキルの高さが魅力だ。

 人の動きに合わせて動けるのはこういうゲームにおいて大事なところだし、個人でもチームでも強い奴ってのはこういう場にいると嬉しい。

 二次試験ではほぼ一人でハルをあと少しってところでまで追い詰めたし、その強さは本物だ。


「んー、よし。これで合格者発表は終わりだ。

残った方々はまぁ、今後の活躍をお祈りいたします、それじゃ」


「えーっ!?」


 俺は合格者五人を手招きして、ギルドへの勧誘を飛ばしておく。

 全員がすぐに承諾し、これで集う勇者のメンバーが五人増えた。

 おっと、ユリカを入れて六人でもあるな。


「ちょ、ちょっと待った!」


「ん、なんか不満か」


「そりゃそうだ! 俺はイチカと同じチームだったのに、何で俺だけ不合格なんだ!?」


 と、俺に物申して来たのはイチカとチームを組んでいた男だ。

 ちなみに鈴音とシェリアは別のチームなので、相方が不合格ってワケだ。

 不満も何も言わず、鈴音とシェリアを快く送り出しているのが今現在確認できる。

 プレイヤースキルのなさやステータス不足で不合格にしたけれど、人柄は良さそうだから他のギルドに入って育てば、きっと人から慕われる強いプレイヤーになれるだろう。

 ……けど、イチカの相方だったプレイヤーの方は俺から見れば見込みゼロだ。


「まぁ……なんで、って言われたってなぁ、俺よりイチカの方がよりキチンと説明できると思うなぁ」


「あぁ。なら説明しよう、答えはたった一つ、お前が役立たずだからだ」


「わーお、ストレートに言うなぁ」


 イチカにズバッと言われた男は、目をまんまるにして開いた口がふさがらないようだった。

 もう名前も忘れちまったけれどこの顔は忘れられなさそうだ。


「や、役立たずって……なにも、そういわなくたって……!」


「だが事実だ、ホブゴブリンは俺が倒し、集う勇者とも俺がほぼ一人で戦っただろう」


「そ、それはそうだけど……でも……!」


「そもそも、いい歳した男がそんな真似をして恥ずかしくないのか? 悔しければレベル上げやらスキルの取得を頑張れ」


 イチカは言うだけバサッ、と言うと顔が真っ青な男に背を向けた。

 ……まぁ、それでも集う勇者に入りたい気持ちはあったんだ。

 だったら一応、それなりのアフターサービスくらいはしてやるか。


「まぁ、不合格者の人にも一応救済のチャンスはある。

ので、取り敢えずまだ解散はしないように、はいそこ帰らない」


 と、二十五人の不合格者を一か所に集めておく。

 何があるのかとかざわざわしてるけど、俺はメニュー画面を開く。

 そしてメッセージ画面を開き――


『カエデ 今暇か』


 メイプルツリーに、頼ってみるとする。

 無理だったら……まぁ、我々冒険団とかディララたん親衛隊辺りにでも頼ってみよう。

 と思ったら、カエデからの返信が来た。


『今リンと一緒にパフェ食べてました! 何か用ですか?』


 大きなパフェを背に二人で大きなハートマークを作っている写真つきだった。

 どっちを目立たせたいのかわからない写真だな……。


『突然だけど、ギルドメンバーを増やしたいと思わないか?』


『ありますよ! もしかして集う勇者さんと合併ですか!』


『違う、絶対違う、何が何でも違う』


『じゃあ何かあるんですか?』


『ギルドメンバー募集して、そこで集まったプレイヤーたちを俺基準でふるいに掛けたら二十五人くらい余ってな。

カエデ基準で欲しいと思ったプレイヤーがいたら、と思ってその二十五人を紹介したいと思ってな。

メイプルツリーも、王の騎士団傘下だし人数を増やして悪いこたないと思うぜ』


『あー、そうですか……ちょっとリンに相談してみます!』


 と、メッセージが来てしばらくすると。


『OKです!』


 両手で大きな丸を作ったリンとカエデの写真が送られてきた。

 ……あぁ、良かったよかった。


「不合格者の皆さんはここに行くように、望んだ結果を得られるかどうかはわからないけど、何もしないよりかはマシだと思うぜ」


 俺はメイプルツリーのギルドホームがある場所を不合格者たちに添付して送る。

 ……これなら、無責任な野郎ってことにはならないだろう。

 王の騎士団の直系になれるんだから、ゆくゆくは王の騎士団入りも目じゃないしな。


「……あの、そこはどんなところなんですか?」


「ギルド、メイプルツリーのホームだ」


「は、はぁ……」


 あまり嬉しそうではないが、不合格者の二十五人たちは足を動かし始めた。

 メイプルツリーのホームに向けて歩き出し、その姿はゆっくりと見えなくなって行き――

 草原には、十二人の集う勇者メンバーが揃ったのだった。


「いようし……新メンバー六人が加入したんだ。

ギルドホームに案内するぜ、皆!」


「そうッスね、今日はちょっと珍しい肉で乾杯ッス!」


「偶然にも食材や飲み物を揃えてよかったです」


 歓迎会をやろう、ってことなんだが……俺のお財布はスッカラカンだ。

 なので、まぁ……あんまり金はかけられないかもなぁ。


「フ、細やかだがこの人数であれば十分な祝いの席となるだろう」


「そうですね……楽しい歓迎会になりそうです!」


 先輩とランコも賛成のようで、アインの方を向くと無言でうなずいていた。

 ……なら、ユージンとハルの持っている物だけで足りるといいな。

 因みに俺も飲み物と食材くらいはあるけれど、品質はショボい。

 俺の料理系スキルの熟練度が皆無なのが原因でもあるけど、美味しくなかった。

 料理スキル……他の皆の熟練度が高いことを祈るぞ……。




 天に祈る気持ちで歓迎会を迎えることになり――

 美味しくもないし不味くもない微妙な料理と飲み物で歓迎会は終わった。

 始まる前から終わったような気分で、最早談笑がメインになってた。

 と、そんなこんなで割愛しまくりな一日は終わり、俺は現実に戻って来た。


「……よう」


「三分ぶりですね」


 食卓には俺、鞘華、百合香の三人で座っていた。

 ……しかしまぁ、改めて見ると現実の百合香も中々可愛いな。

 こんな子をイジメようって気には到底なれんぞ。

 いや、ブスだからイジメるとかそういうわけじゃないんだけどさ。


「…………」


「…………」


「…………」


 話すことはなく、淡々と目の前の物を食い続けるだけになって来た。

 いや、本来なら食事ってのはこれが当たり前なのかもしれないが……アツアツの味噌汁を飲んでいても、空気は冷めきっている。

 ……これ、年長者として俺が話題振らないとマズい奴かな。


「……うん、やっぱり現実の飯は美味いな、ここだけは現実の勝ちって感じる」


「そ、そうだね。

SBOで料理熟練度0のご飯食べた後だから、美味しく感じるね……」


「は、はは……確かに、そう、ですね……」


 気まずそうな話題振りに、気まずそうな返事二つ。

 ……余計に気まずくなった気がするので、いっそ誰か俺を気絶でもさせてくれ。

 もう気絶して逃避したくなるような環境だぞ、コレ。


「……ゆ、百合香は何か好きな物とかある? 何かリクエストとかあったら、明日作るよ」


「え、えっと……私は……その……」


 俺が涙をこらえながら飯を食っていると、鞘華が話題を振り始めた。

 あぁ、なるほどね、飯方面で繋げていくってことね。


「その?」


「ちょっと恥ずかしいっていうか……笑われそうだし……」


「なんだよ、好きな食いもんくらいで笑うことはねえだろ」


 某お風呂大好きヒロインの焼き芋好きがおかしい、みたいなイメージでもあんのか。

 元々学校じゃイジメられてて、あんなイタイ言動までしちゃって、既に下がり切ってるイメージを更に下げれるとでも思ってんのか。

 現状俺がこれ以上百合香に幻滅するイメージはないぞ。 


「……じゃあ、笑わないって約束して」


「う、うん……」


 鞘華はゴクリと喉を鳴らした。

 緊張の一瞬みたいになってるけど、好きな食べ物聞いてるだけだからな。


「……長ネギの味噌焼き」


「あー、長ネギの……味噌、焼きね……うん」


 恥じらいながら言った百合香に、鞘華は若干面食らっていた。

 割と普通……と言うか、笑う要素とか一つもないだろ。

 サバの味噌煮とかを作った時に余る味噌で、野菜類を焼いたりするのはあるあるだし。


「米に合うよな、俺は好きだ」


「で、でも……その……」


「その?」


「私のお父さんが、『こんなに酒に合う物はない』って言うくらいなので……」


 あー……父親が酒のつまみにしてるから、か。

 それで、おっさんの飯って印象のせいで恥ずかしいのか。


「あのなぁ、百合香……自分の好きなものを恥じることはねえぞ? いい歳こいた大人が卵ボーロとか、甘口カレーで喜ぶことだってある」


 俺も17歳だけど、よく小さい子が食べるような味付けも好きだったりする。

 お子様ランチとか……ロマンがあるし、子供っぽいものでなんだって話だ。

 自分の好きなものは好き、嫌いなら嫌い……いちいち他人の目なんて気にしないもんだ。


「だったら、14歳のお前が何食ったって『それが好きなんだな』としか思わねえよ。

むしろ、一番恥ずかしいのは他人の好きなものを馬鹿にすることだよ、自分の『好き』をアピールして、他人の『好き』を褒める、それでいいんだよ」


「……じゃあ、今度、作って皆で食べたり、とか……」


「するよ、百合香の好物ならたーっくさん作るよ」


 鞘華はグッ、と親指を立てて微笑んだ。

 百合香はどこか救われたような顔をしながら、残りの飯を食べた。

 ……鞘華も成長したなぁ、この間まで俺に対して悪戯を繰り返していたのに。

 なんて言うか、一人のお姉さんになったって感じだ。


「よぅし……その長ネギの味噌焼き、最ッ高の奴にしようぜ。

だから……そうだな、明日のSBOはいざダンジョン踏破だ!」


「随分急な話だね、兄さん……」


「剣を振った後の方が飯は美味い、現実でもVRでも同じだろ」


「……ちょっと前まで、ご飯の味なんて考えてなかったけど。

今なら、きっと……すっごく美味しく食べられると思います」


 飯すら大事にしてなかった、それくらいVRに浸ってた百合香。

 そいつが、飯をちゃんと食べて、美味しいって感じられるようになる。

 なら、きっとそれは百合香にとっていいことになったんだろう。


「んじゃ、とっとと片付けてもうちっとSBOダイブするか!」


「兄さん、勉強とか大丈夫なの? この時期になると、テストとか……」


「ん? あぁ、テストなら来週だけど大丈夫だ。

俺はテストになると、赤点にならない範囲をギリギリで取れるから」


「ブッ飛ばされたいの?」


「大丈夫だって、今まで大体それで何とかなって来たから」


 そう言うと鞘華は大きなため息をついた。

 そこまでか、そこまで信頼ならないのか……しかしまぁ、夏休みからSBOを始めた俺ももう季節をまたいだんだな。

 11月も、あと少しで終わるし……もう少しで冬になるんだな。


「……冬、か」


「今度はどうしたの」


「いや、ただもうちょいで冬だな、ってだけだ。

第四回イベントの事とかも気になってな」


「もう……ホントにちゃんと勉強とかしてよね? お母さんだけじゃなくて、春さんとか千冬さんに怒られるのは兄さんなんだから」


「わーってるって」


 そう言いながら俺はコップの水を飲み干し、空いた食器から洗って片付けて自分の部屋へと戻る。

 部屋に戻ってすぐ、部屋の隅に置いてある木刀と竹刀が入った鞄に目を移す。


「……俺のキッカケ、か」


 冬、剣道……小さい頃に出会った、剣とのキッカケ。

 ただカッコいいからって理由で始めようと思った剣道。

 その道に本気になれるようになった出来事を思い出した。


「そういや、あの時は本当に弱かったなぁ」


 すぐに泣きじゃくるような弱虫だった頃で、情けない姿だった頃。

 金髪の女の子に、『頑張って、諦めないで』って言われたんだっけ。

 ……それで、剣道に本気になろうって、なんでか思えたんだよな。


「元気かなぁ……あの子」


 知りもしない子に、勇気を貰ったから今の俺がいる。

 SBOでも、現実でも……知らない子の言葉が俺の心の支え。

 変な話だけど……俺にとっては大事だった。

雑な新キャラ紹介


ムーン・リバー・・・片手剣と小盾を使う剣士、中学生。集う勇者に入る前までは別のギルドにいたりもした。

スター・ドロップ・・・シンプルな魔法使い、中学生。大体どこ行ってもムーンと一緒になる。

シェリア・・・エルフの弓使い、第二回イベントに出てきた奴とは関係なし。

鈴音・・・中華料理が大好きなバリバリな日本人、好きな国はローマ帝国。

イチカ・・・言うことはスパッと言う魔法剣士、剣は帯びない、出す。

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