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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第四章 人気落ちると唐突にやり出すトーナメント編
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第八十五話:第三回イベント・終幕

「……ごめん、負けちまった」


 俺はアーサーに敗北してしまった。

 よって、集う勇者は本戦第二試合に敗退。

 俺たちはベスト4、とどのつまり準優勝にすらなれなかった。


「気にするな、お前は全力を尽くし、アーサーをあそこまで追い詰めたのだ。

それはとても誇れることであり、お前が負けを気にする必要のないことの証明だ」


「そうですよ先輩、私たちだって負けたんですから」


「うん、大切なのは結果じゃなくて、兄さんが楽しめたかどうかだよ」


「負けたのは悔しいッスけど、ここまでなら大健闘ッスよ!」


「僕なんて白星ゼロですから……気にしなくていいんですよ、お義兄さん」


 俺は皆の励ましの言葉を聞いて頬を緩ませる。

 本当にいい友達を、いい仲間を持つことが出来た。

 こうして、ゲームをとても楽しめるのだから。


『えー、ただいまより本戦決勝まで、15分間の休憩時間が設けられます。

選手のプレイヤーの方々は、決勝に備えてお待ちください。

観客のプレイヤーの方たちは、どうかごゆっくりとお過ごしください』


 ピンポンパンポーン、なんて古典的なチャイムと共に、MCの声が放送された。

 ランコはそれを聞いたと思うと、タッタッタ……と走って何処かに行った。

 追いかけようと思ったが、脳が疲れていて果てしなく面倒臭いのでやめておこう。

 何があったなら、アイツがちゃんと言ってくれるだろうし……俺は休みたい。

 出来れば先輩の膝枕でスヤスヤと眠って、この動かすのも億劫なアバターを癒したい。


「せんぱ……あ」


「……」


 俺はしばらく休んでもいいですか、と言おうとしたらコケた。

 と言うか、足が思うように動かず体が投げ出された。

 結果、先輩の控えめな胸へと顔面からダイブした形になった。

 ……VRだからなのかもしれないけど、柔らかさは皆無だ。


「ブレイブよ、今のは不可抗力として許そう。

だが、ハルやランコには決してやるなよ? うっかりお前をリアルで殴ってしまうかもしれん」


「あ、はい……すみませんでした」


 普通なら蹴りの一発や二発くらい放つであろう、畜生の所業を先輩は許してくれた。

 それも、顔を真っ赤にしながら……怒りたい気持ちをかなり我慢しているんだろう。

 凄く申し訳ないことをしてしまった。今度、何かお詫びをしなければ。


「……で、ブレイブさんは何がしたかったんッスか」


「休みたいから休んでていいか、って」


「どうぞどうぞ、先輩。

私が膝枕をするので、二人きりの控室でお眠りください」


 ハルが笑顔で手招きをして、脚をポンポンと叩いている。

 ……まぁ、ハルでもいいんだけれど、ボロボロの鎧とインナーの姿のせいで目のやり場に困る。

 胸のパーツとか完全に壊れてるし、絶対落ち着いて寝れない奴じゃねえか。


「待てハル、お前は試合でも見ていろ。

ブレイブを休ませるなら私だけで十分だ」


「膝枕される側の気持ちとか考えたことありますか? N先輩」


「黙れ乳牛女が、デカいだけの物で何がされる側の気持ちだ」


「絶壁のN先輩がそれを言いますか! 小さいものなんて見たって誰も嬉しくないでしょう!」


「ほう、ただでさえクズ同然に壊れてる鎧を粉にでも変えたいか?」


 ……先輩がマジで怒ってる奴だ、コレ。

 胸のサイズとか気にしてたのかこの人、てっきり小さいことに感謝してる人かと思った。

 っつーか、この二人の罵り合いに巻き込まれたんじゃたまったものじゃねえ。

 ただでさえ頭が痛いんだから、叫び声とか聞きたかねえぞ。


「あー……じゃあ、僕がお義兄さんに膝枕しますか?」


「おう、んもうこの際だから何でもいいわ」


「えっ」


「正気かブレイブ」


 一触即発だったハルと先輩も、アインの思わぬ発言に面食らったようだ。

 で、防具を全解除した状態のアインの膝枕にて、俺は眠りに落ちるのだった……





 ……目が覚めると、そこは花畑だった。

 VRでも夢って見るんだなぁ、と若干感心したが……二度寝したいな。

 ぽかぽかとして気持ちがいい気温だし、きっとすぐ寝れるだろう。


『待って』


『ん、なんだ?』


 夢の中の住人がいたのか、俺に話しかけて来た。

 ……VRで見る夢なのに、随分とリアルな夢だな。

 VRだからか、俺のイメージが具現化しやすいんだろうか。


『あなた、今眠るつもりだったでしょう』


『そうだけど、それが?』


『少し待って、ここで少しお話しましょう』


 ……この夢の住人はいきなり何を言い出すのだ。

 と思うけれど、これも一種の隠しイベントとかなのかもしれない。

 プレイヤーの膝枕で、レム睡眠だかノンレム睡眠に至ると発生……とか。

 なら、お話くらいなら聞いてもいいかもしれない。


『まぁいいけど、どんな話だ? 手短にしてくれよ、俺は頭痛いんだからよ』


『大丈夫、たった一つの質問に答えてくれればいいわ』


 しかしまぁ、この夢の住人……なんか姿にモヤが掛かってるんだよな。

 目のピントを外すというか、視点を合わせないようにするとモヤは消えて全体像は朧気ながらわかってくる。

 けれど、ハッキリとコイツを見ようとすると白い煙みたいなのが出て、姿形が一切合切全部見えない。

 なんなんだろうか、コイツ……凄い仕掛けだな。


『……もしも、あなたは人間を複製した人工知能と出会ったら、それを「人間」と認める?』


 想像以上に重い質問が来たな……本当に何なんだこのNPC、凄い質問だなオイ。

 とは言っても所詮ゲームなんだ、答えは自分の正直なことを言うのが一番だろう。


『認めるさ、人間のコピーならもう人間なんだろ、だったら人工知能って呼べねえよ。

そもそも人間だって人間同士が作って、あれこれ教えて学んで知能を得るんだから、人間も人工知能みたいなもんだろ……』


『……そう。なら、あなたはまた私と会えるかもね、バイバイ。ブレイブ・ワン』


 白いモヤのかかっていたソイツは、いつの間にか姿を現していた。

 金髪碧眼に、水色と白のエプロンドレスを纏った女の子。

 兎耳のようなリボンをつけ、まるで地下の国にでも迷い込んでいそうな子だった。

 彼女が手を軽く振ると、俺の意識はまた薄れ、眠くなるような感覚と共に――




「……やっと起きたか、ブレイブよ」


「へ?」


 目を覚ますと、控室の天井と共に呆れ顔の先輩が目に入った。

 ……いつの間にかアインの膝枕もなくなっていて、俺はふかふかなベッドで寝ていた。


「あ、もう決勝戦始まっちゃったんですか?」


「とっくに終わったぞ、3対2で王の騎士団が優勝した」


「え”っ」


 ……俺は恐る恐る、視界の端に表示されている時計を確認してみる。

 うーわー……俺が眠ってから二時間も経ってやがる。

 真の魔王と王の騎士団の戦いを見逃すとか、すげえ恥ずかしい。

 っつーか、カオスの奴に申し訳が立たないな……。


「さ、三位決定戦とかは?」


「アルゴーノーツが速攻で棄権した故、私たちが自動的に三位だ」


 表彰式的な物は、と尋ねようとしたら先輩の首からメダルがぶら下がっていることに気付いた。

 ……あぁ、眠りこけてる馬鹿な俺の代わりに、先輩が出てメダルを受け取って来てくれたのか。


「ほらブレイブ、お前の分のメダルだ。

私が代わりに出てやった分、相応の礼はリアルで期待しているぞ」


「は、はーい……」


 俺は先輩からメダルとトロフィを受け取り、銅の色をしているソレをアイテムストレージへと収納。

 ……そして、誰もいなくなった控室で、俺はメニュー画面に通知が来ていることに気が付いた。

 カオス、そしてユリカからのフレンド申請だ。

 勿論俺はそれを承認し、晴れて二人のフレンドとなったのだった。


「さて、私はもうこれからログアウトして休むつもりだ。

ブレイブ、お前はどうする?」


「……俺もログアウトして、きっとリアルの俺が出してる鼻血でも掃除します」


「そうか、ではまた明日」

 

 先輩はそう言ってメニュー画面を操作してログアウト。

 俺もログアウトしようと思ったが……その前に皆がどうしてるか見ておこう。

 フレンドだと、大体どこにいるかとかわかるからな。


「……全員ログアウト中か」


 ランコもログアウトしてるってことは、現実じゃ鞘華が飯でも作ってるかもしれん。

 となると、俺もとっととログアウトしねえとな。


「よし、ログアウト……っと」


 俺は今度こそメニュー画面を操作してログアウト。

 ……短期間に何度も味わった気のする意識の薄れる感覚。

 目を覚ませば、ハード越しに何度も見て来た家の天井。


「ん……やっぱ鼻血は出てんのな」


 鼻からタレて来た血は、案の定俺の首を伝ってシーツを赤く染めていた。

 ……こうなる予感がして、あらかじめ汚れても構わないタンクトップ着ててよかった。

 秋だから若干寒いけど、まぁそこは許容して貰うとしよう、洗うの俺なんだし。


「……にしても、あんま頭痛くねえな」


 鼻血を出すほど集中したって言うのに、あれほど感じた頭痛はもうない。

 剣道の試合の時も、無茶苦茶集中して鼻血を出したことはあったが……あの時だって頭痛になったし、第二回イベントの時だって立てなくなるほどだ。

 なのに、驚くほど頭がスッキリしている。

 ……そして、なんだか重大なことを忘れたような気もする。

 まぁ、忘れたなら忘れるほどのことだった、って話だよな……うん。


「さーてと、飯食お……」


 長々と考え事をしながらシーツを外し、シーツを洗って顔も洗って服も着た。

 頭を使って糖分が不足気味だったので……暖かいココアを飲んで一息。

 一息ついた後は飯の時間だ……と、冷蔵庫の中を開ける。


『ごはん作っといたよ

 適当にチンして食べてね

 私は出かけてくるから

    可愛い妹・鞘華ちゃんより


 P.S 近々学校行くかも』


 ……そう折られた厚紙が、鞘華の手料理と共にお盆の上に乗っていた。

 にしても、可愛い妹って自分で言っちゃうのか、鞘華。


「まったく、ナルシストにもほどが…………ん?」


俺は鞘華の書き置きを、よーーーく見てみる。


『可愛い妹・鞘華ちゃんより

P.S 近々学校行くかも』


 ……念のため、瞬きして頬を叩いてもう一度見てみる。


『P.S 近々学校行くかも』


 ……よし、俺の目に間違いはない。

 俺は正常に情報を認識し、鞘華の書き置きの意味を理解した。

 ので――


「ええええええええええええええええっ!?」


 と、ベタながらも叫ばせて貰った。

 ……後でご近所さんになんか言われるかもだが、取り敢えず叫んだ。

 嬉しさ七割、驚き二割、疑問一割で!


「……と、取り敢えず飯は食おう……そうしよう」


 俺は冷蔵庫から鞘華の作ったおかずを取り出し、ご飯ジャーにあるご飯を茶碗によそう。

 そしてコンロの上に乗せられていた、冷めた味噌汁を温め、おかずをレンジでチンッ。

 ……と、しながら俺の頭の中は悶々としていた。

 何があった、鞘華に何があったと言うのか……俺が寝ている間に何かあったのか。

 アインと何かあったわけでもなさそうだし、これは非常に気になってしまう。


「どうすっかな」


 どう、鞘華に尋ねるか……こんな書き置きだけ残していくというのはどうなのか。

 学校に行く、と言うのはそんなにも簡単なのか。

 アイツが引き籠った原因を考えてしまうと、ううむ、となる。


「まっず……」


 心なしか味がしないどころかご飯が全然美味しくない、っつーか不味い。

 ……と思ったら、それは俺がアホなだけで、味噌汁に七味を入れようとしたら砂糖を入れていたようだ。

 狼狽えすぎだろ俺……落ち着け、落ち着け剣城勇一、お前は高校二年生なんだ。

 妹が勇気を出して、今まで引き籠っていた家を飛び出して学校に行くんだ。

 それくらい、笑顔で祝福するために受け止めてみろってんだ、過程はどうあれ。


「……と思っても、過程が気になるのが兄貴ってもんだよな」


 そう呟いて、俺はため息をつきながら項垂れたのだった……が、そうネガティブになってばかりもいられないだろう。

 折角鞘華が前を向こう、って言うんだ。

 彼氏と●●なことしたから、とかでもなきゃそのキッカケ共々祝福してやろう。


「うんうん、やっぱり平和が一番だよな……」


 と、鞘華に対してどうするかを考え終えた所で、シイタケを一口食べる。

 ……うん、ちゃんと考え事を終えて食った飯ってのは美味しく感じる。

 よしよし、これから飯をちゃんと食べ……


「げ……マジか」


 今食べたシイタケが最後の一口で、もう皿は空だった。

 ……皆は考え事しながらご飯とか、食べないようにな?


「……片付けるか」


 俺は皿を流しにおいてから水に浸け、スポンジに洗剤を染み込ませて洗う。

 すると、食器を洗い終わったところで玄関の鍵が開く音がする。

 ……父さんたちが帰って来たんだろうか。


「ただいま」


「お、お邪魔します……」


「おかえり。鞘華……と、誰だ?」


 玄関まで出迎えると、そこには制服に身を包んでいる鞘華――

 と、怯えた目をした女の子が、鞘華の少し後ろに立っていた。

次回からは章のタイトルと関係ないことします。

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