第八十三話:残念でした
「お疲れ様です、Nさん」
「凄いハラハラドキドキでしたけど、N・ウィークさんが勝ってよかったです!」
先輩が帰ってきて早々、ランコとアインの二人は先輩に駆け寄った。
二人の言葉を受けて先輩はフッ、と微笑んでから頭を撫でる。
……で、疲れたかのようにハルの隣に座って、ハルの膝を枕代わりにし始めた。
「……N先輩、何やってんですか?」
「フ……疲れたから膝枕をして貰っているだけだ」
「何で私なんですか……」
「お前なら遠慮なく出来るからだ」
先輩、ハルのことをなんだかんだで凄い信頼しているんだな。
いつもはあんまり仲良くないように見えるのに、こうして膝枕なんてするとは。
「さて……寝ながらだがブレイブ、アーサーについて話しておこう」
「はい」
「アーサーは一言で言えば、『公式チート』と言う言葉が似合う男だ。
剣技、スキル、装備……どれにおいても今の私が同等かそれ以上……と見ていい。
正攻法で挑むのなら、お前では勝てん……が、戦い方次第では勝てるだろう」
……勝てるのか勝てないのかどっちなんだか。
まぁ、どっちでもいいか……ただ全力で挑むだけなんだから。
SBO最強の男に、この身一つで。
「で、使ってくるスキルとかなんかあるんですか」
「そうだな……エクスカリバー以外でなら……二つほどある」
「どんな奴ですか」
「ガードを固めてくる【風神ノ守リ手】と遠距離攻撃の【バースト・エア】だ」
……あぁ、オロチが使ってた奴と似た感じのスキルと、なんか飛ばす奴か。
守リ手とやらがどれぐらい硬いかは知らないけど、シールドくらいなら俺にも張れる。
バースト・エアとやらはフェニックス・ドライブで対策出来るし、多分問題ないな。
「……じゃ、情報ありがとうございますね、先輩」
「気にするな、あいつに一泡吹かせられるのもお前だけだろうからな」
「応援してますよ、先輩。私、しっかり見てますから……!」
「俺たちも応援するッスよ、今日の大一番の舞台みたいなもんッスから!」
「お義兄さん、頑張ってくださいね!」
「ファイトだよ……兄さん」
皆の応援の言葉を胸に俺は客席から控室を通り、闘技場へと入場する。
大勢の人の前でこうやって剣を振るう、それも対人戦で、だ。
RWOをやってる頃には考えられなかったし、リアルでも考えたことは少ない。
剣道の試合とは違った、別の緊張感が俺を包む。
「……やぁ、ブレイブくん」
「よぉ、アーサー」
敬語は使わない……対戦相手を敬う気持ちは確かにある。
けれど、100%の俺をぶつけるなら、畏まってる状態なんかでいられねえ。
『さぁいよいよ決勝のカードが決まる一戦、大将戦です!』
『【集う勇者】の【ブレイブ・ワン】VS【王の騎士団】の【アーサー】!』
アイドルによる俺たちのコールが入ったところで、一気に歓声が上がる。
そんなことを気にも留めないかのように、アーサーは腰から剣を抜き放つ。
俺はそれなりに気にしつつも、小鬼帝の剣・改を抜く。
「……こうして間近で見ると、君は前回のイベントの時から大分変わったね」
「そりゃどうも……あんたはあんまり変わってなさそうだけど」
「あぁそうだね、何せ変える必要もないから……ね」
両手で剣を握りながら、俺を睨みつけるかのように構える。
その動作は無駄がなく……何万回も練習したかのように美しい。
……けれど、だからってこんなところでビビってなんていられない。
――漢ブレイブ・ワン、まかり通るぜ!
この言葉を心の中で叫び、俺は剣を右手に握り盾と共に構える。
『それでは、試合……』
『開始ぃーっ!』
試合開始の合図と共に、俺はスキルの詠唱を始める。
アーサーも同様にスキルの詠唱をしているのか、まだ斬りかかってはこない。
「おおッ!」
スキルの詠唱を終えた俺はダン、と一歩踏み込んでアーサーに接近する。
アーサーはまだ詠唱中なのか、俺が近づいて来ても動じることなく立っている。
だったら……先手で攻めて……攻めて、攻めまくってやる!
「バースト・エア」
「ッ! ゴブリンズ・ペネトレート!」
アーサーが剣の切っ先を俺に向けて放つと、凄まじい風圧が俺を襲った。
ゴブリンズ・ペネトレートを放ったおかげで直撃は避けられたが、風圧に俺のアバターは根負けして吹っ飛び、派手にスッ転んだ。
「……マジかよ」
「君にもこのスキルが効果的のようで何よりだ、コレが効く奴は大体勝てるからね」
アーサーはそう言って、その場から動かずにスキルの詠唱を続けている。
……バースト・エアとか言うスキル、まさか連発出来るのか?
「バースト・エア」
「ッ! うおおおっ!」
俺は飛び込むように転がり、突風どころか小竜巻にも等しい風の塊を避ける。
あんなのをまともに受けてたら洒落にならない、っつーか封殺されかねん!
「逃げ回るだけでは、僕には勝てないよ」
「チッ! 斬撃波!」
「ヌルい」
俺は苦し紛れとわかっていながらも斬撃波を放つが、一瞬で斬られた。
一応これもスキルの内なのに、通常攻撃で破られると頼りなく思える。
いやまぁ、実際始めたての頃しか役に立たなかったスキルなんだけども!
「では、お返ししよう、斬撃波!」
「流星盾!」
「ついでのバースト・エア」
アーサーが放った斬撃波を流星盾で受け止めたら、今度はバースト・エアで木端微塵にされた。
……何があってもシールドで休ませてくれたりはしないってか、アーサー!
「休む暇は与えないよ」
「しれっと読心してんじゃねえ!」
ようやくアーサーが動いたと思うと、真正面から斬りかかってきやがった。
俺は剣を横薙ぎに振るってアーサーの剣を受け止めるが……重い! 片手での攻撃のはずなのに、KnighTの剣を受け止めた時と同じくらいの重さが伝わってきやがる!
「あんまりガッカリさせないでくれ……楽しみで、夜も眠れなかったのだからね!」
「そう……かよ……ッ!」
グググググ、と押し込まれて俺はそのまま倒れ込むようにスキルの時間を稼ぐ。
カウンター・バリアなら……この接近状態のアーサーを引き剥がせるはずだ!
「カウンター・バリ――」
「させん!」
「ぐはっ!」
カウンター・バリアを展開する前に、アーサーはつま先で俺の顎を蹴り飛ばした。
おかげでバリアが出る前に俺はすっ飛んで行って、またも転がされた。
「バースト・エア!」
「チィッ! フェニックス・ドライブ!」
転がる俺に追撃で放たれたバースト・エアをフェニックス・ドライブで相殺……出来た! これなら、バースト・エアだって怖くはねえ。
……まぁ、フェニックス・ブレードを瞬時に抜けたのはいいが、コイツじゃ多分エクスカリバーには打ち勝てないだろう。
となると……瞬時に武器を切り替えながら戦う、ってのがいいか。
エクスカリバーにはゴブリンズ・ペネトレートで、バースト・エアにはフェニックス・ドライブで対応する!
「これでは決め手にならないか。なら、君は奥の手を抜くに足りるかな」
「たりめーだ。奥の手でも手前の足でも、全部引き出させてやるよ……!」
俺は盾を構えながら、少しずつアーサーに近づく。
あのバースト・エアってスキルも、射程が長くても範囲は狭い。
精々、プレイヤー2人分程度ってトコ……だったら少しずつ近づいて行って、放った瞬間の隙を狙う!
「……バースト・エア!」
「超加速!」
振りかぶった剣を叩きつけるように振り下ろし、小竜巻を放つ。
それに合わせて俺は超加速を使用し、バースト・エアの範囲から外れつつアーサーに急接近する。
「くらえ……!」
「風神ノ守リ手!」
「フェニックス・スラスト!」
左手で抜いたフェニックス・ブレードによる一撃を放ち、アーサーが展開したバリアを砕く。
そして、右手に持った小鬼帝の剣・改で詠唱しておいたスキルを横薙ぎに放つ!
「サード・スラッシュ!」
「ッ――おッ!」
なんと、アーサーは俺の放った攻撃を最小限の動きだけで避けた。
しかもそのまま左足で俺の右手を蹴り上げ、俺の剣を弾いた。
「ホープ・オブ・カリバーンッ!」
「フェニックス・ドライブ! っ──ぐぅあっ!」
手から剣が離れた所に好機を見出したか、アーサーは両手で剣を押し出した。
アルトリアも放っていたそのスキルに、対抗するも、あまりにも近くで放ちすぎた。
相殺する時に爆発が起こり、その衝撃で俺は吹っ飛ばされたがアーサーは平気だった。
「チィッ……!」
運よく、さっき弾かれた剣が手元に戻ってきてくれたのはありがたい。
が……アーサーは強い、あまりにも強すぎて勝ち目を見出せねえ。
「まだまだ、どんっどん行くよ!」
「小鬼召喚!」
アーサーはバースト・エアを放たずに距離を詰めて来た。
俺は急いでホブゴブリンを三体召喚し、ソイツらを壁にしながら距離を取る。
アイツを倒すには……これだけじゃあ足りねえ!
「小鬼召喚ッ!」
ホブゴブリンを十体、また新たに召喚。
次にSPを一瞬で全回復させるSPクリスタル、貴重なアイテムだって惜しみなく使ってやる。
更にメイジゴブリンを七体、ついでにホブ二体を召喚。
今度はSPポーションを飲んでSPを回復し、俺自身が唱えるスキルの分の準備を済ませる。
「来たか、小鬼……!」
『ギャギャギャ!』
『ギャギャッギャッギャギャギャッ!』
ホブゴブリンたちが一息にアーサーを包囲し、抜剣し始める。
よし……一点突破を目指そうもんなら、そこで待ち構えてカウンターをお見舞いしてやる。
「さぁ……楽しませてやるよ、アーサー!」
「ゲーマーとして、数のハンデがある方が楽しくなるものだ……よし、行くぞ!」
俺の挑戦的な言葉にアーサーはフッと笑い、剣を構え直す。
軽く手を振るだけで、ゴブリンたちは自律して行動を始めた。
包囲の輪を少しずつ縮めてゆっくりと、ゆっくりとアーサーに近づく。
……一応、盾は持っているみたいだから遠距離スキルも致命傷にはならないだろう。
「バースト・エア!」
『ギャギャッ!』
凡そ五歩ほどの距離まで近づくと、アーサーはバースト・エアを放つ。
ホブゴブリンたちは密集して盾を並べ、数体合わせてそれを受け止める。
「押し通る……!」
『ギャアッ!』
アーサーは剣を薙ぎ払い、盾を並べているホブゴブリンたちを一撃でノックバックさせた。
そのまま包囲を突破し、ホブゴブリンたちをまとめて相手取れる位置に立った。
だが、それは俺も攻撃に参加していいってことになる。
「フェニックス・ドライブ!」
「チッ、バースト・エア!」
俺の放ったフェニックスをアーサーはバースト・エアで相殺する。
だがそれでいい……! 連発がしやすく、ノックバックの効果があるバースト・エアが一番厄介な攻撃な以上、それを使えない隙を作るのがベストだ。
その隙を突けばホブゴブリンたちは一気にアーサーに襲いかかれる。
『ギャーッギャッギャッギャギャァ!』
『ギギギ!』
「これは随分と……斬り甲斐のある数だね」
アーサーは飛び掛かってくるホブゴブリンたちを避けながら斬撃を放つ。
……ホブゴブリンたちの攻撃速度は決して遅い物じゃないし、弱い物でもない。
だが、アーサーは信じられないことに俺の召喚したホブゴブリン全てを相手に出来ている。
KnighTは普通のゴブリンだけでも十分追い込めていたというのに。
「こりゃマズいな、オイ……」
俺はSPポーション片手にスキルを唱え、アーサーに向けて突撃する準備をする。
一方で、アーサーの方はスキルを使う余裕もないのか、それとも余裕だからスキルを使わないのか。
ホブゴブリンたちに通常攻撃だけで対処し、ゆっくりとホブゴブリンたちのHPを削ってゆく。
「確かに数は多く、自律行動と言うのは厄介だが……何度か見れば、動きは対処しやすい!」
よし……アーサーがホブゴブリンの動きや連携に慣れて来た。
強襲をかけるなら、ここか……!
「バースト・エア!」
「流星盾!」
だがアーサーは俺にまで攻撃を飛ばしてきやがった! なんとか流星盾で防いだが……連発されたら洒落にならん!
「ホブゴブリン! 今だ!」
「ッ――おおお!」
『ギャッフ!』
ホブゴブリンたち後ろから襲いかかっても躱すどころか、反撃までしやがった。
俺に攻撃してきたのは、アーサー自身に本当に余裕があったからか。
なら、結構もったいねえが……この方法でやる他ねえ! と、俺はスキルを唱えてからSPポーションを飲み干し、使えるだけのバフを使っておく。
そして……ゴブリンズ・ペネトレートの詠唱を済ませ、剣を構える。
「うおおおっ!」
「来たか!」
俺は一直線にアーサーに向けて突進。
アーサーはホブゴブリンたちを蹴り飛ばし、剣を薙ぎ払って退かせ――
「エクスッ! カリバァァァ!」
返す一太刀、と言わんばかりに俺に剣を振り下ろした。
俺はその一撃を、盾を使わずに真正面からモロに受けた。
「バフを大量に使っての特攻……愚直だが面白い策だったよ。
けれど、それも……ん? 待てよ? 君、なんでHPが減っていないんだ……?」
「残念でした」
「な――」
アーサーは言葉を失っていたが、まぁ知らないスキルを前にしたら当然か。
そう、俺は使えるだけのバフを全て使った……その中には肉壁もある。
となれば、エクスカリバー一発程度なら、肉壁を使えばノーダメージで突破も出来る。
「ゴブリンズ……ペネトレートォォォッ!」
「ぐはぁぁぁッ!」
真正面から、至近距離で、俺の最高の一撃が決まった。
アーサーの鎧を貫き、腹から背中まで俺の剣が突き抜けた。
プレイヤーネーム:アーサー
レベル:60
種族:人間
ステータス
STR:100(+150) AGI:100(+100) DEX:15(+50) VIT:20(+100) INT:0(+80) MND:20(+100)
使用武器:エクスカリバー・改
使用防具:獅子の兜・改 騎士王の鎧・改 暴風の衣・上・改 暴風の衣・下・改 騎士王の籠手・改 技砕ノ靴 理想郷の鞘・改