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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第四章 人気落ちると唐突にやり出すトーナメント編
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第八十一話:……死んでくれます?

「……お疲れ様でした、ランコさん」


「はい、アインくんの繋いだバトン……ちゃんと届けられてよかったです」


 客席に戻って来たランコは、疲れたように椅子に座り込んだ。

 そして、右側の腰に納めていた刀を先輩に手渡した。


「ありがとうございました。あなたの刀のおかげで、なんとかギリギリでしたけど、勝てました」


「いや、刀はあくまでお前の力の一端になったにすぎん。

勝ったのはお前自身の実力、そしてお前の気迫が奴を上回ったまでだ」


 先輩はフッ、と笑いながらランコから刀を受け取り右腰に差し直した。

 ……で、アインは顔中涙だらけにしながら、ランコを見つめている。

 声を掛けようと思ったのか、時々変な嗚咽を漏らしている。


「……ただいま、アインくん」


「よがっだ……ランコざんが勝っで……」


「泣きすぎッスよ、アインくん。

男なら、もっと笑顔でお迎えしてやらないと!」


「ご、ごべんなざい……な、なびだがどばらなぐで……」


 ……しばらく時間を置いておこう。

 泣き止むのは時間がかかりそうだし、今話しかけるともっと酷いことになりそうだ。


「まぁなんにせよ、ランコさんが勝ってくれたおかげで余裕が出来ました。

私とユージンさん……そしてN先輩で決めれば、アーサーさんは出て来ないで済みそうです」


「そうッスね! ブレイブさんの出番なくして、決勝戦を終わらせてやるッスよ!」


 ハルとユージンはそう言って立ち上がり、勇気凛々気合十分って感じだ。

 ……対戦相手の方が気になるが、確かログを見る限りじゃディララがいたな。

 あとはもう一人……鍔がないタイプの刀を使ってる魔法剣士がいたか。


『凄い……盛り上がる試合だったけど、なんか個人個人の会話が凄かったね』


『なんていうか……VRの闇を見たなぁ、って思いました』


『あはは、でもなんかドラマっぽくて僕は好きだったな』


『あ、大宮さんの、なんとなくわかります』


 ……MCとアイドルからしたら、そりゃそうだよなって感想だ。

 ランコとユリカの会話は、第三者から見たら気になるよな。

 何せ他の観客たちもポカンとしてたし、俺もポカンとしてた。


『えー、そろそろ中堅戦の時間だね』


『それじゃあ相多さんお願いします!』


『はい、それではそろそろ中堅戦!』


「行ってこい、二人とも!」


「応ッス!」


「はい、勝利を持ち帰ってきます!」


 そう言って、ユージンとハルは走り出し、それと同時に選手紹介が始まった。


『えー、それでは準決勝第二試合、中堅戦! 【集う勇者】の【ハル】&【ユージン】VS【王の騎士団】の【ディララ】&【ニナ】!』


『両チーム入場です!』


 紹介が終わると、ハルとユージン……と、ディララとニナが出て来た。

 相も変わらず、RPGにいそうな魔法使いらしい格好をしたディララ――

 と、褐色肌で白髪のエルフ、白いフード付きのポンチョに加えてやや布面積の少なめな格好をしたニナ。

 ディララの強さは言わずとも知れているが……ニナとやらについては知らないので、凄く気になる。

 ユージンとハルが太刀打ちできるか、いや、勝てるか……気になる。


「敵として戦うのは初めてですね、お二人とも」


「確かに……ですが、勝ちは譲りませんよ」


「綺麗なオネーさんッスね、俺たちが勝ったら一狩り行かないッスか?」


「……それはない、私たちが必ず勝つから」


 ハルとディララ、ユージンとニナ……それぞれ試合前の言葉は済ませたみたいだ。

 っつーかユージン、なんつーとこでナンパしてんだお前。


『それでは……試合、開始ぃーっ!』


 そうこうしていると、もう試合が始まった。

 ……ディララとニナは何やら詠唱を始めていた。

 ハルもスキルの詠唱をしているみたいで、ユージンだけがフリー。

 だが、そのユージンも動かず何やらスキルの詠唱やらなんやらしてるようだ。


「【ゴーレム・サモン】!」


「【ヒドラ・インウォーカーティオ】!」


 ニナが手から何かをばらまいたと思うと、そこからは四体のゴーレムが出現した。

 俺の使える小鬼召喚と似てるが、あれは俺のMPやSPを代償に召喚する。

 だが、一般的なNPC召喚系魔法は触媒を使ったりすることで召喚出来る。

 まぁ尤も、召喚出来たところで俺のゴブリンみたいに詳しく命令を聞けるわけじゃないけどな。

 大雑把な命令しか出来ないから、精々肉壁になるのがいい程度だったりする。

 で、ディララは自分の目の前に九つの首を持った龍を出現させたみたいだが、アレもゴーレムと大差ないだろう。


「うっひゃぁ……凄いデカいッスね」


「ですが予想通りです……ユージンさん、頼みますよ」


「おうッス!俺の手にかかれば、こんなの朝飯前ッスよぉッ!」


 ユージンはやる気満々に飛び出し――


「ディフェンス・ブレイクッス!」


 ニナたちがゴーレムの陣形を整えている最中に突撃していった。

 そのままダンッ、とジャンプすると、空中で三回転しながらゴーレムの首を刎ねた。

 ……硬そうに見えたが、HPの量は全然ないみたいだ。


「な……くっ、速い!」


「ヒドラ! 止めてください!」


「ヒドラの弱点なんて知れてるッスよ、超加速!」


 ユージンは一瞬アバターをブレさせたと思うと、二体目のゴーレムの両腕とヒドラの首を二つ落とした。

 姿が視認できるようになったら、その直後にまたアバターがブレ、ヒドラの片足と首を一つ落とした。


「凄い……速すぎる」


「フ、あれがユージンの全速力か……何やら事前に別のスキルも使っているようでもあるが」


「本当に凄いのは、アレを制御できるユージン自身でしょ」


「……ですね、僕だってベルセルク状態に慣れるのには凄い時間がかかりましたし」


 俺だって超加速を使いこなすのにはかなり練習したからな。

 感覚が滅茶苦茶ブレるせいで、下手すると酔った状態みたいになる。

 けれど、ユージンは常に感覚を安定させている。

 ……どれだけの練習をしたかはわからないが、あれはあれで最早達人の域だ。


「オォォォッ!」


「マズい……これだと詠唱時間を稼げない。

ディララ、先に詠唱してて、私が奴を止める」


「わかりました……お願いします、ニナさん!」


 ディララが両手で杖を握りしめて詠唱を始める一方、ハルは未だに動かず盾を構えている。

 ニナは腰から鍔のない刀を抜き、あっと言う間にゴーレムを全滅させたユージンの方へと向けて走っている。

 残ったヒドラも、もう残り一つの首が炎を纏わされた短剣でゆっくりと斬られていっているだけだ。


「これで終わりッス――っと!」


 ユージンがヒドラの最後の一本の首を落とそうとすると、ニナが横から飛び出て来た。

 急ブレーキをかけながら、ユージンは斬られたヒドラの首にバーニング・ソードを放って焦げ目を作る。

 ……確か、SBOのヒドラって斬った首に炎属性の攻撃を当てないと再生するんだったっけな。


「……あなたは確かに強い」


「そりゃどうもッス」


「でも、私たちは負けない」


「じゃあ……どうやって俺たちに勝つんッスかね」


 ユージンは刀を構えているニナを他所に、腰から抜いた投げナイフを蹴りで飛ばす。

 それも、一本抜いたように見せて二本……一本はディララに、もう一本はヒドラに。


「――ッ!」


 超加速を利用しての投擲はあまりにも速かったようで、ニナは身を挺してディララを守った。

 だが、刀で投げナイフを落とすなんてことは出来ずに自身を盾にする他はなかったようだ。


「ヘヘッ、ディララさんの魔法で一気にカタをつける……やっぱりハルさんの予想通りッスね」


「バレてるなら……押し通すまで! 超加速!」


「ヘヘ、俺だってバフを一つしか使えないわけじゃないッスよ、【疾風脚】!」


 ニナがフッ、と消えたと思うとユージンに斬りかかった。

 ユージンは超加速の効果が切れたが、別のバフを使ってユージンは避けに徹し始めた。

 ……ディララはこの間に詠唱を済ませ、杖で照準を定めている。

 ユージンを狙おうにも、そのまま範囲魔法を撃つんじゃじゃニナを巻き込む。

 かといって一点に絞ってユージンを狙うのは難しいだろう。

 となれば――


「ニナさん!」


「わかった! マジック・アヴォイド!」


「行きます……メテオ――」


「ユージンさん!」


「わかってるッスよ!」


 ディララが杖を掲げると、大量の魔法陣と共に顔を覗かせる無数の隕石。

 ハルは盾をガァンッ! と地面に立て、流星盾を始めとした防御スキルを展開した。

 ユージンはフッ、と消えたと思うといつの間にかハルの後ろに立っていた。

 ……ハル側からしたら結構怖いだろうな、アレ。


「レインッ!」


 ディララが杖を振り下ろし、そのまま隕石をハルたちに向けて放った。

 ドガァン、ガガァン、バガァンッ、と様々なサウンドエフェクトと共に煙を巻き起こす。

 会場全体を包むほどのソレは、壁や地面にも凸凹とした穴を作っていた。


「うっひゃぁ……すげぇ威力ッスね」


「えぇ……まさか、私がここまで展開したシールドでも足りないとは思いませんでした」


 ハルの鎧の一部が破損し、鎧の下に着ていたインナーの一部まで破れていた。

 ……セクシーだなんだと騒ぎ出す奴もいたが、俺はその威力の方に目が行っていた。

 あのシールドの数は勿論、ハル自身の防御力はかなり高い。

 それでいて、あれだけの準備をしてもハルは防具を破損する程のダメージを受けている。

 ディララの魔法はそんなにも強いのか、と驚くほかない。


「……耐えるとは思いませんでしたよ。

ですが……マジック・ストック分も詠唱した甲斐がありました。

これで決めさせてもらいます!」


「させるかっつーんッスよ! サード・スロー!」


 ユージンは腰から投げナイフを取り出し、ディララに向けて投擲。

 しかし、超加速分のバフがないためか投げナイフはニナに斬って落とされた。


「……ディララに構ってる暇を、作らせてはあげない」


「ヘッ、上等ッスよ……!そ っちこそ、ディララさんの援護なんてする余裕をなくしてやるッスよ!」


 二人は武器を構え――

 タンッ、と軽いステップの音と共に一気に切り結び始めた。


「……アインとアルトリアの戦いも凄まじい速度だったが……更に速いな」


「速すぎて、目で追うのがやっとですよ」


「あぁ……でも、凄いのは速さだけじゃねえ。

よく見ると、あの二人はチマチマフェイントやら何やらも混ぜてる」


 辛うじて見える範囲だが、二人の攻撃はたまに右を装っての左とか、剣と見せかけての蹴りとか。

 そういう類のフェイントが高速で混じっていて、ただ武器をぶつけ合っていた時の先鋒戦とは違う物だ。


「ッ……結構粘るッスね」


「根競べになるなら、負けないから……!」


 一か所で斬り合っていた二人は、今度は走りながら剣をぶつけ合わせている。

 この二人の戦力は互角……となれば、戦況を動かすのはハルとディララだ。

 なら、いかにユージンがニナを足止めできるか、それにかかってるだろう。


「どうやら、迷ってる場合じゃないですね……狂化!」


「なら……短期決戦ですか」


 ハルは狂化を使い、一気に勝負を決めることにしたようだ。

 一方でディララは……さっき撃とうとしていた、マジック・ストック分の魔法を撃つつもりのようだ。

 左手に持つ本をパラパラパラパラ……と捲り、ハルに向ける。

 そのタイミングでハルは走り出し、盾を構えながらディララに突撃していく。


「フェニックス・ヘルファイア!」


「ッ……流星盾!」


 ディララが放った不死鳥を象った炎に、ハルは流星盾を展開。

 だが、流星盾はすぐに砕け散り、ハルは盾を捨てながらもフェニックスの軌道を逸らして回避する。

 ……これでもう、ハルは攻撃を防ぐ手段がないに等しい。


「これで終わりです! フォース・サンダーランス!」


 ディララは後方に跳び、壁を背に持たれながら巨大な雷の槍をハルに向けて放つ。

 ハルのAGIでこれを避けることは敵わないし、盾もない以上防ぐ術はない。

 ……だが、それはハルの狙っていた展開だと、俺は瞬時に理解した。

 俺より頭いいアイツが、ただただ無謀で突撃するわけがないなんてのは、もうわかってる。


「マジック・アヴォイド!」


「なっ――」


 ハルは透過するようにディララの雷の槍を潜り抜け、ディララへの距離を詰める。

 ディララのAGIは0、それは今でも変わらないようで、走り出そうにも遅すぎる。

 俺が徒歩で歩いた時よりも遅いそれは、ハルの剣を避けるには足らなさすぎる。


「【ジェット・ストライク】!」


 ダダダダダ……と走って来たハルが、全身を投げ出すかのような突撃と共に剣を突き出した。

 それは魔法を放棄して逃げようとしたディララの腹部へと突き刺さり、壁ごとディララを串刺しにした。


「よし……!」


「私が紙装甲なことくらい、自分で理解してます……!」


 だが、ディララのHPバーはまだわずかに残っていた。

 俺の持っている根性と似たようなスキルか……!


「ッ!」


「メギド・バースト!」


「な――」


 魔法の詠唱を諦め、マジック・ストックすらしてないかったはずのディララ。

 彼女は、ハルが剣を動かすよりも先に魔法を放っていた。

 ……まさか、ディララもカオス同様に無詠唱で魔法を放てるってのか!? それをわざわざ、この時のための隠し玉として、隠していたのか!?


「ふぅ……無詠唱を見せるのは、プレイヤーでならあなたが初めてでしたよ」


 腹を抑えながら膝をつき、ディララはハルが立っていた跡を見ながらそう呟いた。

 ……ハルのアバターは既にポリゴン片となり、砕け散っていた。


「ッ! ハルさん……!」


「隙アリ!」


「チッ!」


 ユージンはハルが撃破されたことに一瞬隙を晒すが、間一髪でニナの攻撃を避ける。

 だが、無茶な避け方をしたせいかバランスを崩し、転んでしまった。

 しかしニナはそんなユージンに追撃をせず、何故かディララの隣まで下がった。


「……あぁ、そういうことッスね!」


「メテオ・レイン!」


 ニナが下がったのと同じタイミングで、ディララがメテオ・レインを放つ。


「スキマ、多すぎるッスよ! 超加速!」


ユージンはディララの放つ隕石の隙間をくぐるように駆け抜ける。


「速いけど、単純」


 真っ直ぐにニナへ向けて走ったユージンは、地面から突如放たれた斬撃に下半身を三分割されていた。

 上半身だけになった彼はそのまま投げ出され、ディララの足元を転がった。

 直後に、ニナが振るった刀がユージンの両腕を両断し、ユージンは胴体と首だけになった。


「ぐ……!」


「終わりです」


「パンツ見れたんで、儲けものッスかね……負けッスけど」


「……死んでくれます?」


 ディララは無言で杖から魔法を放ち、ユージンを黒焦げに焼き尽くした。

 ……燃えている途中でユージンのアバターは消えていたため、灰すら残らず燃やしたみたいに見える。


『中堅戦、王の騎士団の勝利ーっ!』

プレイヤーネーム:ディララ

レベル:60

種族:混族


ステータス

STR:0 AGI:0 DEX:0 VIT:0 INT:255(+205) MND:0


使用武器:キングヒドラ・スタッフ キングヒドラ・ブック

使用防具:宿魔の帽子 増魔の服・上 増魔の服・下 キングヒドラ・マント 増魔の手袋  キングヒドラ・ブーツ キングヒドラ・グラス


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