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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第四章 人気落ちると唐突にやり出すトーナメント編
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第七十六話:ゲームは無謀な事が出来るのが楽しい

「……俺が本気でプレイをすれば、誰も俺についてこなくなる。

無詠唱魔法、同時詠唱魔法……これを使った時、皆いなくなるんだ……! 『ついて行けない』、『お前には勝てない』って言って。

俺だけを置いて、皆でどこかに行って……だから、俺は――!」


「どこ見てんだ、馬鹿が!」


 俺は詠唱していたパワー・スマッシュをカオスの顔面に叩きつける。

 殴られた勢いでカオスは地面を転がり、倒れた。


「そんなことで、んな舐め腐った真似して、お前は楽しいのかよ!」


「だって、皆いなくなるんだよ……そんなんじゃ楽しくないんだ、一人は嫌なんだ……! だから、本気を出さなければ、仲間はついて来てくれるんだ、それなら、俺もいつか楽しく、なるんだ……!」


「お前は何も見ちゃいねえよ。

カオス! お前が今本気を出しても、客席でお前を見守る奴らは! 『すげえ』って思いでいっぱいの顔してたんだぜ! お前の大切な仲間は、簡単に折れるような奴らなんかじゃねえってのは、お前自身が知ってるんじゃないのか!?」


「そんなことないだろ……結局、真の魔王の皆だって、俺が手を抜いてないといけない。

だから俺は本気を出しちゃ、ダメなんだ……!」


「この馬鹿野郎! お前の仲間が! 強い奴について行けないから離れる!? ふざけんのも大概にしろ! 今はお前が勝手に離れて行ってるだけだろうが! 皆、皆お前に追い付こうと必死に足を進めてるんだろうが! なのに! お前が勝手に周りを見下して、勝手に失望してる! ただ、それだけのことじゃねえか!」


 俺は立ち上がりもせず、ネガティブなことを呟くカオスを立たせてから殴る。

 武器を使わずに、スキルを使わずに……俺の拳だけで、コイツを殴る!


「いいか、よく聞きやがれこのクソネガティブ野郎! お前は確かに強いし、ぶっちゃけ両手使われたら俺じゃ勝てねえ! でもな……!」


「でも……?」


「勝てねえ奴が相手でも、やれるだけやって楽しむ! 勝ちてえ時には、惜しみなく全力で勝つ! ゲームってのは……! そうやって、自分の全力を出して、精いっぱい楽しむもんだろうが!」


 機械的な作業をこなすかのように、死んだ目をしていた。

 コイツとさっき初めて対面して、目を合わせた時、俺はそう思っていた。

 だから俺は、この言葉を伝えたかった。

 戦う時ですら作業的にやっていたコイツに、楽しむことを諦めようとしたコイツに。

 全力を出し尽くす程のバトルを、大声を上げて楽しむバトルを!


「俺は……ずっと、楽しむつもりでこのゲームをやったんだ! お前はどうなんだ、カオスッ!」


 俺のボディブローを受けて、カオスは数歩後ずさる。

 ……また項垂れたと思うと、体を震えさせた。


「……いいのかな、俺……本気で楽しんで、やっていいのかな……。

なぁ、ブレイブ……お前は、俺の本気を受けて、折れないでいてくれるかな」


「いいんだよ! 来いよ! 全力のお前がやれるだけのことを……やって見せろ! 魔王カオス!」


 魂の奥底から絞り出すように叫んだ俺の言葉に、カオスは涙を流しながら応えた。

 左手からは火山の噴火を起こした、と言わんばかりの火炎を。

 右手からは氷山そのものを作り出した、と言わんばかりの氷を。


「なら……文句は言わせないからな……小鬼帝ブレイブ・ワン!」


「すっげぇ……」


 炎と氷……相反するものを同時に出して、互いが互いを強め合っている。

 冷えた空気を利用した炎の小爆発、温まった空気を利用した急速冷凍。

 二つが二つを強くする、同時詠唱と無詠唱でしか出来ない芸当だ。


「……なに笑ってんだよ、お前。

俺がこんな魔法使って……本気出してんのに。

お前、本当に楽しいんだな、今のゲームが」


「お前こそ、さっきまで『本気を出したらいけない』とか言ってたのに。

すっげぇ活き活きした表情カオじゃねえか」


 カオスと俺は、互いを見つめ合って笑う。

 やっぱりVRMMORPGは楽しい……剣道をやっていた頃から、RWOを始めた頃から、SBOに戻って来たこの今も。

 対人戦でしか得られないこの感覚、高揚する気分。


「行くぞ! カオス!」

「覚悟しろ! ブレイブ!」


 俺たちの声が揃った、この攻防で勝負は決まる……いや、決めて見せる! 全身の感覚を研ぎ澄ませ、集中しろ……ブレイブ・ワン! 極限まで集中力を高めて……迫る炎と氷から、僅かな隙間を見つけて抜けろ! アインとランコの二人と戦った時よりも……もっと、もっと! 集中しろ! 標的はたった一人……剣道をやっていた時と変わらない。

 相手の竹刀をいかに避け、弾き、己の剣を相手の頭に叩きつけるか。

 それだけを、普段からロクに使わねえ脳みそをフル回転させて導き出せ!


「うううぅぅぅおおおおおぉぉぉッ!」


「せえええあああぁぁぁッ!」


 防御なんてかなぐり捨てろ! 今のアイツを前に、俺がどれだけ防御をしても無駄だ! 攻めの姿勢を崩すな! アバターが死んでも現実での俺は死なねえ! 雄叫びを上げろ! 自分自身を奮い立たせて、前に前に前にと踏み込め!


「諸刃の剣、超加速、加力……!」


 俺は使える限りのバフスキルの全てを使って、STRとAGIを極限まで高める。

 そして……狙うは一点、カオスに……俺の全部を届かせる!


「あああああぁぁぁ―――ッ!」


「はぁッ!」


 カオスは左から燃え盛る炎を、右からは凍てつき輝く氷を俺に向けて放つ。

 俺は臆することなく、一直線に走り抜けるだけだ!


「フェニックス・ドライブ!」


 目の前に突っ込んできた氷を砕き、その勢いでジャンプして、飛び乗った氷の上を走る!


「フェニックス・スラスト!」


 覆いかぶさろうとした炎を炎を持って穿ち、溶けつつある氷を滑りぬける!


「これでッ……」


 俺はフェニックス・ブレードを捨て、小鬼帝の剣に持ち替える。

 そして、カオスの眼前に迫り、スキルを構える! アイツはもう、近接で俺の攻撃を防ぐ手段はねえ!


「ゴブリンズ! ペネトレェェェトォォォッ!」


「奥の手だ……! 【メギドバースト】!」


 両手で杖を握っていたカオスの――

 額に現れた魔法陣のような物から放たれた、巨大な紫色の球体の魔法。

 いや、正確には魔法でも物理攻撃でもないスキル。

 あらゆるものを破壊する属性たる、”ソレ”と、俺はぶつかり、通り抜けた。


「……やっぱり、すげぇや。二位ってのは」


 カオスの一撃は、俺のアバターを崩壊させ、HPバーを全損させた。

 防御力が0なのに……アイツは最大の一撃を持って俺に応えてくれた。

 心の底から、笑ったような顔で……俺に、大きな一撃を見舞いしてくれた。

 ……俺のアバターはポリゴン片となって砕け散った。


――だが。


「……引き分け勝利なんて、笑えるようなオチにしやがって」


 俺の剣はカオスの心臓部を貫いていた。

 カオスのHPバーは全損し、俺の直後に彼もアバターはポリゴン片となって砕け散った。


『大将戦! 引き分けーっ!』


 アバターはとっくに砕け散って、体は動かせないはずなのに。

 意識だけはそこにあって、MCの声が聞こえて来た。

 ……さて、ルール上では、最終的に勝利数の多い方が勝ち、なんだよな。

 例え大将戦で引き分けだろうと、リードしていた方が――


『Aブロック決勝戦! 集う勇者の勝利ーっ!』


 決勝戦に勝たなくても本戦に進むことは出来る。

 それでも、このバトルで俺たちは全力を出し尽くした。

 それは、この真の魔王との戦いを楽しみたかったからだ。

 本戦では誰が相手だろうと……全力で戦おう。


――――




「……おかえり、兄さん」


「ただいま、ランコ……そして、なんかごめん」


 目を覚ますと、皆の顔が視界に入ってきた。


「全くだ、あれだけ格好つけて引き分けとはなんだ、引き分けとは。

お前はそれでも漢か、ブレイブよ」


「いや、全力でやってあれですから、先輩より強い奴に引き分けですから」


 戦いが終わった後に、皆が口々に言う言葉に返答する。


「でも、最後はスッゲー熱くて、俺……本戦が待ちきれないッスよ!」


「そっか、なら本戦でも頑張ろうぜ、ユージン」


 本戦まであと少し、だからもっと楽しいバトルが出来るかもしれないと、俺たちはワクワクが止まらない。


「私は先輩が勝つと思ってましたけど……ハラハラしましたし、今はホッともしてます」


「あぁ……お前たちが繋いでくれた、俺たちの勝ちだな」


 勝ったことの喜びと安心が、全身を支配している。


「お義兄さん、お疲れ様です!」


「……そうだな、皆お疲れだな」


 それでも、やっぱり皆疲れたものは疲れているから、もうアバターの動きが鈍くなっている。


 ……第三回イベントの本戦は、明日からだ。

 今日はあれだけ集中したし、めちゃくちゃに疲れた。

 ここらが、骨の休め所ってとこだな。


『それでは皆さん、また明日、第三回イベントの本戦でお会いしましょう~!』


『またね~!』


 俺たちがそれぞれ話していた所で、もう既に大将戦の感想を語り終えたらしい。

 MCとアイドルの二人が締めくくって……自動ログアウトの通知が来た。

 ……段々と意識が薄れる。




 ……ぐっすりと眠っていた状態から覚めるように、意識が戻る。

 見慣れた天井、いつもの俺の部屋……今回は鼻血ブーとはいかなかったな。


「……飯食お」


 取り敢えず腹が減ったので、脈略もクソもなく飯を食おう。

 VR内とは言えど、あれだけ叫んだりしたら腹減るもん。

 ……まぁ、いいか。


「明日の本戦……どうせアイツと戦うだろうしなぁ」


 王の騎士団のアーサー。

 多分、カオスよりも強いんだろう。

 ……勝てる気はしないけど、まずは戦おう。

 勝てない相手だろうが何だろうが、全力で楽しむ。

 ゲームってのは……無謀な事が出来るのが楽しいんだから。


「兄さ~ん! ご飯出来てるよ~!」


「あぁ! 今行くよー!」


 ……さぁ、妹の飯で体を癒そう。

 出来る妹を持って、お兄ちゃんは嬉しい。

 明日の英気を養おう。

ハル「私の扱い、一番地味な気がするんですけど」

ブレイブ「タンクで目立てると思うな」

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