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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第四章 人気落ちると唐突にやり出すトーナメント編
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第七十二話:妹なんだから

「お疲れ様、アインくん」


「えぇ、前回イベント6位のホウセンさんとの引き分けは大金星にも等しいです。

アインさんは実質勝ちに等しい戦果をあげました!」


「……そう、ですか」


 俺たちの客席に戻って来たアインは疲れ切った顔でそう言いながら、そのまま座った。

 そんなに勝ちたかったのか、と思ったが……やっぱり、惚れた女の前じゃ最高にカッコつけて勝ちたかったんだろう。

 自分でも勝てたなら、ランコも勝てるって元気付けるために。

 でも、アインのその激励がなくたってランコはベストコンディションでキッチリと戦って見せるだろう。

 なんてたって、俺の妹なんだし。


「よし! 行って来いよ、ランコ!」


「勿論! アインくんのためにも、全力でやるよ!」


 ランコは親指をグッと立てて、俺たちにウィンク。

 ウィンクが下手くそで、若干顔が引きつってるが……まぁそれはそれでいいか。


「ランコ。恐れることはない。

お前がいつも通りに、出来ることをするだけで丁度いい」


「そうッスよ、ランコさんならきっと勝てるッス!」


 先輩とユージンの激励も受け、ランコは俺たちに背を向けて歩き出す。

 客席を出て、控室を出て……既に入場の準備は整っているんだろう。

 だが、今回ばかしはMCとアイドルのコメントが長めだな、うん。


『今回は引き分けだったけど、集う勇者側からは大金星だよね。

真の魔王ってさ、ランキング上位のプレイヤーとか多いじゃん。

なら……僕的には集う勇者が凄い頑張ったな、って思うよ』


『そうですねよねー、やっぱり私もそう思います。

なんていうか、よくあるバトル漫画みたいで……無名が優勝候補に一杯食わせた! みたいな』


『あー、それわかるわかる……っと、そろそろ試合の方だね』


 思い出したかのようにMCはコメントを止め、選手紹介に入った。


『Aブロック決勝戦、第一試合、次鋒戦! 【集う勇者】の【ランコ】VS【真の魔王】の【タダカツ】!』


「タダカツか……今更だけど、蜻蛉切対決か」


 ランコもタダカツも武器は蜻蛉切なんだよな……と言っても、ランコは身長とかに合わせて長さを削っていたりする。

 それに――


「蜻蛉切、と言ってもランコのものは贋作だ。

タダカツの持っている物は本物で、数珠や兜と合わせることで装備セットボーナスがつくような代物だ。

だがランコの物にはそれがなく、ただ少し強いだけの槍にすぎん」


「ま、そりゃプレイヤーメイド武器ならそんなもんでしょうよ」


「となれば、その武器のスペックなどを埋めるのが鍵と考えられますね」


 先輩の解説に俺とハルは頷きながらランコの戦いについて考える。

 ユージンはよくわからない、と言った感じでただ見ているだけだ。

 で……肝心のアインは、何か思いつめたような表情だった。


「アイン、どうかしたか?」


「あ、あぁ、すみません、特に何でもないです」


 ……心配になってくるようなこと言うなぁ、コイツ。


「大丈夫だアイン、貴様の彼女を信じろ」


「かっ、かかか彼女!?」


「ん? 違うか? ランコは私といると、やたらと貴様の魅力を語るが……」


「先輩、それ以上言ったらお兄ちゃんである俺が気になりすぎて三時間くらい問い詰めることになるんでやめてください」


 先輩がランコの試合直前だというのにとんでもないことを言い出したので、肩を掴んで止める。

 本当に試合直前だし……ランコとタダカツはもう互いに武器を抜いている。

 ランコは両手で槍を構え、一方でタダカツは片手だけで持っている。

 STRの差が現れていることがよくわかるけれど、ランコだってどうにかする手段はあるはずだ。


「そなたも蜻蛉切の使い手か」


「そうですよ。貴方よりかは、劣るかもしれませんけどね」


 ランコは両手を器用に動かして槍をぶん回し始める。

 曲芸か何かとも見えるような手さばきで槍を回すと、ランコは右手に槍を持つ。

 左手は真っすぐ前に突き出し、まるでスキルの詠唱をしているようだ。


『それでは試合……開始ぃーっ!』


「バトルスイッチ・ランサーモード! 加速!」


「加速」


 ステータスを変化させ、加速でAGIにブーストを掛けるランコ。

 それに対応する気か、タダカツも加速を使用して対抗する。

 しかし、二人とも加速を使用したはいいものの、数秒程睨み合っている。


「ッ……! サード・ジャベリンっ!」


「風車!」


 動きの読み合いでもしていたか、ランコは小さく息を漏らした。

 それで、自分から仕掛けるしかないと判断したようで、ランコはサード・ジャベリンを放つ。

 タダカツはそれを風車で受け止め、押されながらもランコが放った槍をノーダメージで止める。


「せああっ!」


「ぬぅんっ!」


 ランコは槍の投擲と共に走り出していて、攻撃を受け止め終えたタダカツに肉薄。

 そのまま突きを放つが、タダカツも直ぐに対応して互いの穂先がぶつかり合った。


「くっ……」


「その程度の攻めで我が槍は折れぬ」


「ロールプレイしながら……そんな余裕あるんですかっ……!」


 ランコの握る槍はカタカタと震え、ランコ自身も震える。

 タダカツはブレることなくランコの槍と競り合う姿勢を維持している。

 ……よく見ると、タダカツは体に芯があるような動きをしていた。

 対してランコは無駄な部分がまだ多く、現実ならすぐバテるような動き。


「リアルで槍術でも習っていたのでしょうか、タダカツさん。

動きに無駄がなくて……なんというか、PSプレイヤースキルとは違う物を感じます」


「かもな、ランコはまだ剣道しか教えてねえし。

剣と槍じゃ全然違う分、活きる経験も少ないんだよな。

ここがVRってこともあるけど」


 ハルの分析はごもっともな形だ。

 槍術でもリアルで習ってなきゃ、タダカツのこの動きは見事と言うほかない。

 それに、ランコの動きはリアルで武器を振るったことがないような動きだ。

 まぁ……簡単に言うと、VRでしか戦闘経験がない。

 だから体の軸を上手く扱えなかったりするし、戦い方が大雑把になる。

 俺や先輩、ハルなんかは剣道を学んでいたおかげでその経験はVRに活きてはいる。


「くっ……近距離で不利なら!」


「ほう……次の手を打つか」


 ランコは競り合いを避け、三歩程距離を取ってからスキルの詠唱を始める。

 タダカツも槍の構え方を変えて、穂先にライトエフェクトを纏わせる。

 互いにスキルが詠唱し終わったか。


「ライトニング・スピアァァァーッ!」


「【誘導槍】!」


 タダカツはランコが槍から放った雷を見て、槍を思い切り地面に突き刺した。

 すると、ランコの槍から出た雷はタダカツの方の槍に吸い込まれ、地面に散って消えた。

 ……なるほどな、槍をアースみてえにしてランコのスキルを止めたのか。

 ツッコミを入れるところはあるんだろうけど、まぁ……ゲームだから、そこら辺は何でもありだよな、コレそもそもスキルだし。


「ランコさんのスキルが通用してない……!」


「これでもダメなら……これで!」


 ランコはダンッ! と大きく一歩踏み込み、また槍にライトエフェクトを纏わせる。

 タダカツは既にスキルの詠唱を終えているようで、槍を突き出す構えに入った。


「乱れ――」


「【ウィンド・ランス】!」


「きゃぁっ!」


 ランコがお得意の乱れ突きを放つ前に、タダカツが槍から放った小さな竜巻が飛来。

 それはランコに直撃し、ランコを数メートル吹っ飛ばし、転ばせた。


「ランコさん!避けて!」


「へ? は――わぁっ!」


 危機を察知していたのか、アインが客席から身を乗り出さん勢いで叫ぶ。

 すると、タダカツは槍の穂先に巨大な炎の剣を作り上げていた。

 ランコはアインの声でそれに気づいたか、驚きながらも右に転がる。

 ……さっきまでランコが倒れていた位置には、炎の剣が振り下ろされた跡が。


「あ、あっぶな……」


「仲間に助けられたか、それは喜ばしい事であろう。

しかし……己の力のみで拙者を倒せねば、優勝なぞ夢のまた夢!」


「っ……団体戦で、そういう事言わないでくださいよっ!」


 振り下ろした槍の穂先から火が消え、槍を回転させながら構え直すタダカツ。

 ランコはタダカツの言葉を聞いてイラだったか、左手にマジック・ガンを装備した。

 ……アイツ、まさかバトルスイッチでモードを切り替えたのか?


「くらえっ!」


 ポピュン、と言う音と共に火球が三発ほどタダカツに向けて放たれた。

 ランコは火球がタダカツに辿り着く前に走り出し、タダカツの背後を取ろうとする。


「たぁっ! そぉっ! せぇい!」


「くらえっ! 乱れ突き!」


 槍に水のような膜を纏わせると、タダカツは三発の火球を全て斬る。

 その一瞬を狙ったランコは、タダカツの背後からスキルを使う。


「せやぁっ!」


「きゃぁっ!」


 だが、タダカツはランコの乱れ突きの一撃目を首の動きだけで避けた。

 続く二撃目が来る前に、一撃目を避けた時に放っていた蹴りをランコの顔面に当てる。

 ランコはそこでスキルが中断され、ノックバックした。


「おおおおおぉッ!」


「かっ……ハ……っ!」


 ノックバックしたランコを畳みかけるように、タダカツは蜻蛉切を投擲。

 それもスキルを使わず放ったもの、要はタダカツの膂力だけによるもの。


「ランコさん!」


「ぐ……うぅ……」


 ランコは槍で壁に縫い付けられ、HPバーが大きく減っていた。

 壁に縫い付けられるように槍を刺されたせいで、足を地面につくことすら敵わない。


「くっ……うっ、はぁ……はぁ……」


「防御力は薄いと見ていたが……拙者の攻撃を受けて耐えるとは、見事なり」


 ランコはタダカツに刺された蜻蛉切を引っこ抜き、地面に投げ捨てる。

 自分の持っている方は地面に突き刺し、腹を抑えながら雑嚢から取り出したポーションを飲む。

 ……飲んだポーションの質がいいのか、すぐに傷が塞がってHPもすぐに回復した。


「凄い一撃でした……でも、こうすれば、貴方は無手ですよね」


「ほう」


 ランコは引っこ抜いて地面に投げ捨てていたタダカツの蜻蛉切を踏みつける。

 一方で自分が地面に刺した方は引っこ抜き、そのまま構える。


「これなら、私にだって貴方を――」


「倒せる、と思ったか……甘い」


 タダカツは背中から刀……いや、刀とは言い難い武器を出した。

 背中に帯びなければ、持ち運ぶことも出来ないような長さ。

 大太刀、と呼べるような武器だ。


「名刀【稲剪イナキリ】、拙者の持つ武器の二つ目だ」


「くっ……こんのっ!」


 ランコはタダカツの蜻蛉切を蹴っ飛ばしたと思うと、同時に砂煙を巻き起こす。

 そして飛び上がり、タダカツの頭上から槍を振り下ろした。


「目だけが探知するものではない。

この世界とて風の乱れや、人間の発する気は感じ取れよう」


「ッ――うっ、ぐっ!」


 タダカツが十字に斬り払うと、ランコは何とか攻撃を受け止めながらもノックバック。

 そのまま追撃と言わんばかりに袈裟斬りを放ち、ランコをまた壁まで追い詰めた。


「はぁ……はぁ……つ、強い……」


「そなたも素質はある。

修練を積み、力をつければ拙者を越えることも敵うであろう」


 槍を杖代わりにして立つランコを前に、タダカツは大太刀を納める。

 数歩歩くと、ランコが蹴っ飛ばした蜻蛉切を足だけで器用に拾い上げ、右手に持つ。


「だったら……今すぐにでも超えてっ、見せますよ! 【フラッシュ・スピア】!」


 ランコは苛立ったかのように蜻蛉切を地面に叩きつける。

 すると、穂先を中心に閃光が巻き起こる。

 同時に砂煙と煙幕が闘技場に張り巡らされ、タダカツの視界をこれでもかと塞いだ。


「うわっ……凄い煙だ」


「余程姿を隠したかったのかもしれませんね」


「となると……大規模なスキルを使うのか!」


 ランコは俺の知らないところで、スキルを多めに習得して帰ってくることがある。

 となると、ランコはまたそれで手に入れたスキルを使って、タダカツに勝つつもりか。

 ……大規模なスキルと聞くとリスクが大きそうだが、俺の奥の手と似ているのかもしれん。


「【バインド・チェーン!】」


「むっ!」


 タダカツの体が、突如地面から生えてきた鎖に縛られた。

 その鎖を呼び出したのは、勿論ランコ。


「……さて、これならもう避けられはしませんよね!」


 煙が晴れると共に、ランコの姿が現れた。

 ランコはSPポーションを飲み干し、槍を掲げてスキルの詠唱に入る。


「ぐっ……んぬっ……振り解けぬか、この鎖……!」


「たった一撃……それさえあれば、貴方を討つには十分です!」


 ランコは槍から雷を迸らせた。

 それも穂先だけではなく、槍全体からだ。


「さぁ……これでっっ!」


「あのスキルは……!」


 ランコがバチバチバチバチ……! と言うサウンドエフェクトと共に輝かせるのは、雷のオーラ。

 それも、ライトニング・スピアとは違うもの。


「リスク承知で使うんッスか!?」


「ですが、彼女が絶好のものにしたチャンス! それは今ここで最大火力を放つ他に活かす方法はありません!」


 スキルの詠唱を終えたランコは槍を回す。

 決死の覚悟を決めた、と言わんばかりの一撃を。


「メガ・ライトニング……スピッ、アァァァーッ!」


「……見事なり、その一撃。

ならば、拙者も全力を持ってして応えよう」


 ランコがこのあと動けなくなるのを覚悟で放った雷の巨大な槍。

 それを前にタダカツはフッ、と笑うと……鎖の拘束を解きやがった!


「海神の怒りを持ってして、ここに示さん! 来たれ! 水竜よ!」


「そんなっ……」


 タダカツは蜻蛉切とは違う三又の槍を取り出したと思うと、水で作られた竜のようなものを水砲と共に放った。


「これぞ、無双! はぁぁぁっ!」


「な……あ……きゃぁぁぁっ!」


 ランコが全力で放ったメガ・ライトニング・スピア。

 それは、俺やハルで受け切れるかどうかはわからない。

 それなのに……タダカツは、たった一つのスキルでそれを打ち破り、ランコを壁まで叩きつけた。


「その技を使ったと言うことは、もうそなたは動けまい。

さぁ、大人しく降参せよ」


「……だ……っ、いや、だ……! 兄さんと、アインくんと……皆と勝つ、って……約束……したのに……状態異常なんかで……降参したら! カッコ悪くて……話にならないよ……!」


 ランコはダメージと状態異常でまともに立ち上がることすら出来ないはずだ。

 それなのに、ボロボロのアバターを引きずって歩き出している。


「私は……私は……! 集う勇者、ギルドマスターの! 妹なんだからぁぁぁっ!」


「その生き様……永遠に忘れぬように、胸に刻みたもう」


 強く咆哮したランコは、フラつきながらも槍を突き出しに走った。

 しかし、現実は甘くない。

 奇跡など起きることもなく、タダカツは背中から抜いた大太刀を一閃。

 その一太刀で、勝負はついた。


「儚くも強き武人よ。再度相見えることを祈ろう」


『次鋒戦! 真の魔王の勝ちーっ!』

プレイヤーネーム:ランコ

レベル:60

種族:人間


バトルスイッチ・ランサーモード使用時

ステータス

STR:85(+75) AGI:85(+70) DEX:0(+30) VIT:43(+45) INT:0(+37) MND:42(+45)


使用武器:真・蜻蛉切 マジックガン

使用防具:技の髪飾り 技のジャケット 真・マジックノースリーブ 技のスカート 真・怪力の手袋 真・疾風のブーツ 技のネックレス+2

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