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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第四章 人気落ちると唐突にやり出すトーナメント編
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第七十一話:ベルセルク

「貴様は……随分と楽しめそうだな!」


「そんな余裕……なくしてやるッ!」


 アインは強引に双鉞を振り抜き、鍔迫り合いの状態を抜ける。

 そこから一歩踏み出し、回り込んでホウセンの背後を取る――

 前に、ホウセンは片足を軸にしながら最小限の動きでアインの回り込みに追いつく。


「ぬぅんッ!」


「ぐっ!」


 アインは薙ぎ払われた方天画戟を双鉞で受けるが、止めきれずに吹っ飛んだ。

 地面を転がるアインに向け、ホウセンは方天画戟の穂先を構えた。

 ……スキルが来る、だがアインだってそれくらいは読めているはずだ。


「ライトニング・スピア!」


「もう……かよっ!」


 アインが立ち上がるよりも先にホウセンの追撃が放たれた。

 起き上がるよりも、迎撃を優先したのかアインは膝たちのまま双鉞をクロスさせる。

 斧を光り輝かせ、雷の槍がアインに到達する……直前!


「シャイニング・アックス! 双鉞!」


「よし! 止めた!」


 光り輝く斧をクロスさせて放ったことで、ホウセンのスキルと相殺される。

 ランコはグッと拳を握って歓喜し、アインは立ち上がってから武器を即座にチェンジ。

 双鉞を納めたと思うと、右手に手斧を握ってホウセンに肉薄する。


「うおおおおっ!」


「ふん!」


 ホウセンは左手に槌を出し、アインの手斧を受け止めていた。

 ……方天画戟は右手に持ったままだというのに、どんなSTRしてんだよ。


「……ダブル・アームですか」


「なんッスかそれ」


 ハルが呟いたと思うと、ユージンがクエスチョンマークを浮かべながらハルに質問。

 するとハルは人差し指をピン、と立てた。


「本来、方天画戟は槍からの派生武器で普通なら両手持ちの武器です。

簡単に言えば、私の持っている大盾とかもそれに該当したりします。

ですが、ホウセンさんはパッシブスキル【ダブル・アーム】を習得しているのでしょう。

故に、両手持ちの武器を片手で持ち、あのように疑似的な二刀流が出来るのです」


「はぇ~……そうなんッスね。

俺、今まであんなの見たことないから、驚いたッスよ」


 ……俺も知らなかったけど、わざわざ言うことじゃねえよな、うん。

 じゃあ黙っててもいいだろうし……うん、知らないとか言わなくていいか。


「先輩も知らなかったみたいですし、いい解説の機会になりましたね」


「心の中を読むんじゃねえ!」


 ……と、俺らがくっちゃべっている間にもアインはホウセンと武器をぶつけ合っていた。

 手斧と槌が攻撃と攻撃、言わば互いに攻めの姿勢のままにぶつかり合っている。

 が、アインの方が攻撃を弾き合った時のノックバックが大きいな。


「やはり……ホウセンはブレイブ、お前と同じエクストラシリーズの使い手だろう。

ともなれば、アインの武器ではホウセン相手に真っ向から力勝負を挑んでも無駄だ」


「マジか……」


 直接戦ったというのに全く気が付かなかった。

 ……向こうは多分、俺がエクストラシリーズを装備してるって知ってるんだろうな。

 そう思うと、なんだか手の内を知られているようでゾッとする。


「ぐあっ!」


「フン……突撃ばかりを繰り返すか。やはり、楽しめると思ったのは見当違いか?」


 気が付くとアインは攻撃を弾かれ、距離を開かされていた。

 マズい、アインは元々方天画戟に対応できないから超近距離戦に転じたんだ。

 なのに……方天画戟は愚か、弓ですら十分な射程と言えるほどに離されている。

 そうなると、もうホウセンのスキルの間合いには十分。


「言ってくれるじゃないですか……もう飽きたとか言うんですか?」


「飽きたとも。それがわかっているのなら――大人しく死ね! 鬼神砲!」


「くっ……バーサーク・スマッシュ・オンリー……ワンッ!」


 アインはホウセンがスキルの詠唱をしている最中に狂化。

 そのまま放たれた鬼神砲を叩き落とし、その勢いを持って走り出す。


「うっるあああっ!」


「温い!」


 アインが再度真正面から手斧を叩きつけようとすると、ホウセンは方天画戟で受け止めてからいなす。

 即座にアインは真横に薙ぎ払いを放つがホウセンは最小限の動きでそれをかわす。


「貴様の攻撃なぞ、タダカツの槍に比べれば止まって見えるわ!」


「だったら……コイツは、どうだ!」


 アインはスキルを使わずに斧を投擲。

 当然のごとく弾かれ、地面に叩きつけられる。

 だがアインはそのまま走り出し、ホウセンに肉薄していた。


「なんの策を練っているかは知らんが、小細工で俺を止められると思ったか!」


「思ってないからこその! これっ! だあああ!」


 アインの黒い籠手が黒いオーラを纏った。

 まさか……先輩の使っていた魔崩剣か!?


「なっ――ぐはぁっ!」


「どうだ!」


 アインが手刀を横薙ぎに放ったと思うと、ホウセンはすっ飛んで行った。

 ノックバックだとかそういうレベルではなく、文字通り壁に吹っ飛んで行った。

 どういう仕組みの武器だ、アレは……


「ハル、あれなんだかわかるか?」


「私は辞書とかじゃないのでわかりませんよ……」


「勿論俺もわからないッス!」


「同じく!」


「知らん」


 ……全員知らないようで、沈黙が漂っていた。

 って、いかんいかん……アインの試合に集中しねえと。

 アインは両腕に黒いオーラを纏っている。

 ただ、それは先輩の魔崩剣とは何かが違う……何が違うのかはわからないけど。


「まさか……素手で俺を吹き飛ばすとはな」


「まぁ……特訓したので!」


 アインはそう言うと、右手を振るだけで手斧を回収した。

 まるでサイコキネシスでも使ったかのように……と思えるが、違う。

 アインの纏っている黒いオーラが、紐のように伸びた。

 それが斧を拾って、手に納めたってワケだ。


「さぁ、存分に楽しませてあげますよ!ホウセンさん!」


「小癪な……だが、いいだろう。貴様の武、俺に通用するかここで見定めてやる!」


 ホウセンは槌を納め、武器を方天画戟一本に持ち替えた。

 アインは腕をクロスさせ、黒いオーラを全身に纏わせている。

 そのオーラは狂化と合わさって、赤黒い雷のようなものまで走っている。


「ぬぅァッ! 鬼神砲ォッ!」


「同じ技を何度も受けてたまるか!」


 アインはホウセンが三度放った鬼神砲を素手で叩き落とした。

 ……先輩でもスキルを使わないと止められなかったのに、強くなりすぎだろアイン。


「『漆黒の腕よ、今こそ終幕を齎せ。

僕が求めるのは宿敵の滅び、今こそ輝ける光を討ち滅ぼす時! 黒の流星よ、刹那の闇を今ここに!』


【ベルセルク・アーム】!」


 アインは会場全体に響き渡るボイスメッセージを響かせる。

 長ったらしい詠唱、それに加えて全身に纏うドス黒いオーラ。

 アインの目は赤く光り、辺りには赤黒い稲妻が走る。

 その姿は正しく狂戦士バーサーカーと言う姿がお似合いな、化け物染みた姿だ。


「フン、たかがブーストスキルを使った程度で、俺に叶うと――」


「だりゃあッ!」


「ぐぅぉッ!」


 アインのステータスのアップ量は凄まじいようで、瞬く間にホウセンへ一撃。

 ボディブローがホウセンのみぞおちへと突き刺さり、ホウセンはその衝撃で数歩下がる。

 だが、アインはそれをも認めないと語るように、一歩踏み込む。


「バーサーク・スマッシュ!」


「ぐっ、くっ、ぐおぉぉぉ……!」


三回戦で見せた時のバーサーク・スマッシュとは比べ物にならない速度。

恐らく……このベルセルク・アームこそ、アインの奥の手なんだろう。

ホウセンを一方的に追い詰め、防御に徹しているホウセンももうHPが半分を切った。


「ふぅ……ふぅ……はぁ……中々やるな」


「そっちは大分バテてますけどね。しっかりしてくださいよ、大人なんでしょ?」


「貴様ァ……!」


 アインはホウセンに向けて挑発のポーズを取りながら、ホウセンを笑った。

 ……逆上させるつもりなのか、それとも余裕故の台詞か。

 出来れば前者であって欲しいが……アインみたいな優しい奴って後者なんだよな。


「アインくん! もう少しで勝てるよ! だから、あとちょっと! 頑張れ!」


「……!わかってます、ちゃんと勝ちます!」


 ランコは慢心すればまた負けると考えたのか、アインに向けて精いっぱいの声量で叫ぶ。

 アインはわかったようなことを言っても、まだ攻撃には移っていない。

 スキルのチャージなのか、それとも……何か別の物を待っているのか。


「もう少し……? この俺が、押されているだと?」


「確かに……もう少し、ですよね!」


「ふざけるな……俺は最強のホウセン、真の魔王の誰よりも強い男だ! ならば……貴様のような雑魚に、負けている暇などあるかアアアアアァァァァァ!」


 ホウセンは咆哮するかのように叫んだと思うと、全身を光輝かせた。

 黄金の稲妻を纏い、金と白をメインにした武具……さっきとはまるで正反対のカラー。

 対峙するアインとも、正反対のカラーリングをした姿だ。


「パワーアップか……それでも、僕は必ず勝つんだ!」


「ならば……やってみろッ!」


 ホウセンは槌と方天画戟を構え、スキルを詠唱していた。

 一方で、アインは右手をグッと握りしめて、深く腰を落とした構えを取った。

 ホウセンの攻撃に合わせて、チャージしたスキルでも放つつもりか。


「ぬぅォォォァァァッ! 【雷鬼ノ矛】!」


「はぁぁぁ……バーサーク・スマッシュ・オンリー・ワン!」


 ホウセンは二つの武器をぶつけ合わせ、雷をチャージした方天画戟を突き出す。

 一方でアインは、ベルセルク・アームと狂化を合わせた拳を放ち、ホウセンのスキルと拮抗する。

 ……ホウセンの装備している武器、恐らくあれは俺と似ているもの。

 エクストラシリーズの内の一つか、それと似て非なるものなのか……どちらにしろ、かなり厄介だな。


「くっ……ぐっ!」


「ぬぅぅぅ……」


 アインの拳はホウセンのスキルと相殺され、互いにノックバック。

 しかし止まることを知らないのか、二人は走り出して互いに距離を詰める。


「【バーサーク・スマッシュ・クイック】!」


「【乱武撃・迅雷】!」


 アインの手刀とホウセンの方天画戟+槌がけたたましい金属音を鳴らしながらぶつかり合う。

 ……っつーか、アインの奴……バーサーク・スマッシュに一段階上があったのか。

 そんな奥の手があるなら、せめて三回戦の内から使っとけよ……いやまぁ、仕方ないとこはあるかもだけども。


「うううおおおおおッ!」


「おおおあああああッ!」


 己の武器をぶつけ合い、雄叫びを上げる二人。

 攻撃の速度は更に上がり、俺たちの距離からじゃ視認するのが精いっぱいだ。

 一撃一撃が大きな威力を持つ攻撃同士で、この速度。

 Aブロックの決勝戦には相応しいバトルになりそうだ。

 例え勝っても負けても本戦に進めるルールだろうと、これはアツいというほかない。


「チィッ!随分と粘る男だ。

大人しく……くたばれェッ!」


「それはこっちの台詞だっ!」


 二人は連撃を辞めたと思うと、距離を取って武器に何かをチャージし始める。

 ホウセンは鬼神砲……ようにも見えるが、槌と方天画戟をくっつけている。

 鬼神砲と、雷系スキルの何かを合わせているのなら、とんでもない威力になりそうだ。


「うおおおおおォッ!【雷鬼鉄槌】!」


「せええアアアアアァッ!【ベルセルク・スマッシュ・オンリー・ワン】!」


 ホウセンが槌と方天画戟の二つをクロスさせ、背中に鬼神のような像を出現させ――

 雷を纏わせた槌を巨大化させて振り下ろす。

 アインは全身に纏わせたオーラを一点のみに溜め、一つの黒い巨腕を作り上げる。

 赤い雷を迸らせながら放たれるその巨腕と、黄金の雷を纏う巨大な槌がぶつかり合った。


「でえええあああああぁぁぁ……!」


「どうっ、したぁぁぁ! こんな、ものっ、か! 貴様の力はァァァ!」


「うぅぅぅっ、うるっ、せえええええええェッ!」


 スキルの威力自体は互角……となれば、後は二人がどれだけ力を込めるかだ。

 二人の力を込める、と言う動作で入力される信号の強さ。

 それがこの二人のぶつかり合いを制するはずだ。

 なら、俺たちにもそれをアシストすることが出来る……誰にも文句を言われない方法でな!


「アインくーんっ! 負けるなぁぁーーっ!」


「アイーンッ! 勝てえええッ!」


「頼むッスーッ!」


「アインさんっ! その調子です! あなたなら、絶対に勝てます!」


「漢を見せろ、アイン!」


 ランコ、俺、ユージン、ハル、先輩。

 アインが信頼してくれた、俺たち五人の呼びかけ、応援なら。

 彼の心を支える大きなものとなれるはずだ。

 なら、アインは決して折れない強さを持つ。


「ぐっ、くっ、ぅぅぅっ……ぅぅぅぁぁぁああああああああッッッ!」


「ぬっ、ぅぅぅっ、馬鹿な……この、俺が……押し切られ――ぐはあああああッ!」


 背中から出現させた雷の鬼諸共吹き飛び、ホウセンは闘技場の壁に叩きつけられた。

 しかし、悪運の良いことにホウセンはまだHPバーを数ドット程残して生きている。

 一方でアインは――


「……どうやら、互いのスキルがぶつかり合ってダメージを受けていたようですね」


「で、でも、相手だって虫の息ッス! このままいけば、勝てるはずッス!」


 アインのHPも残り一割を切り、互いにもう限界を迎えているようだ。

 二人は先ほどの攻防にすっかりと疲れたか、呼吸を乱している。

 ホウセンは方天画戟を杖代わりに立ち、何とか体制を整えている。

 一方でアインはすぐに倒れそうだが、双鉞を取り出してそれを止める。

 ……丁度、狂化状態も解けたようで、アインは元の状態そのままだ。


「……勝負は」


「一瞬か……!」


 深呼吸をして、最後の構えを取るアイン。

 方天画戟を振り回し、四股を踏むように足を踏み鳴らして己を奮い立たせるホウセン。

 二人の距離は、少しずつ迫って行き……闘技場の真ん中で、二人が睨み合う。

 だが距離は離れ、もう少し近づかなければ互いの武器は当たらない――

 と俺が眺めていた時。


「ぅぅぅ、せあッ!」


「かァッ!」


 一瞬の出来事……たった、たったほんの数秒もない出来事。

 フェイントもクソもない……ただただ手元からの最短距離を走る武器。

 アインの手斧がホウセンの頭に、ホウセンの槌がアインの胸に叩きつけられていた。


「貴様の名と顔……忘れんぞ、次勝つ時までは」


「僕だって……何度勝とうと負けようと忘れません」


 二人のアバターはポリゴン片となって砕け散る。

 そして、それが何なのかをこの場に示した。


『先鋒戦、引き分けーっ!』


プレイヤーネーム:ホウセン

レベル:60

種族:人間


ステータス

STR:100(+80) AGI:95(+45) DEX:0(-5) VIT:30(+40) INT:0 MND:30(+20)


使用武器:方天画戟

使用防具:鬼の鎧 武将の羽冠 鬼の鎖帷子 鬼の腰当 鬼の靴 オーガガントレット 疾風の腕輪

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