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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第四章 人気落ちると唐突にやり出すトーナメント編
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第七十話:ラグナロク・ウォー・オンライン

「話してくれる?さっきの女の人と……何があったか」


「……わかった。キッチリと話す。でも、それは……せめて皆が集まった状態で話したい」


「そう。なら皆を呼んでくる」


 ランコは淡々とした態度で控室を出て行き、五分足らずでアイン、先輩、ユージン、ハルを連れて来た。

 ……本当に俺に何があったか気になる、って顔だ。


「さ、話してくれる? 兄さん」


「あぁ、話すよ、ちゃんと話す。俺とユリカがラグナロク・ウォー・オンラインで遊んでた話……二年前のことを」


 二年前……俺がまだ中学三年生だった頃だ。

 今と変わらず、必要最低限の勉強だけをして部活とゲームにのめり込んでいた頃。

 俺はラグナロク・ウォー・オンライン、通称【RWO】にどっぷり漬かっていた。

 RWOでも、今と大して変わらないような装備に戦闘スタイルで、俺は戦場を駆けていた。

 陣取り合戦のようなシステムであるRWOで、俺は当時尤も領土の大きい所に所属していた。

 俺とユリカはそこの領土で初めての合戦をする時にパーティを組んだことからお互いを知り合って、フレンドにもなった。

 ユリカと俺はログイン時間がよく合うからか、自然と狩りを共にすることが多かった。

 対人戦でも俺たちはコンビを組めば戦果を大きく上げたし、エースプレイヤーとも呼ばれた。

 でも……そんな日はいつまでも続くことはなかった。


『ツルギさん、ラストアタックおめでとうございます』


『あぁ、ユリカのアシストのおかげで上手くいったよ。サンキューな、相棒!』


『ありがとうございます……ところで、ツルギさん。

そのラストアタックで手に入れたボーナス装備、使わないんですか?』


『まぁ、今持ってる装備の方が俺的には肌に合うからな……もしかして、欲しいのか?ならなんかと交換するぜ』


『じゃあ、これと』


『あぁ、それなら売れるだろうし、いいな。ほらよ』


 ある日、俺はレイドパーティを組んで、全陣営共通ボスモンスターを撃破した。

 そのボスモンスター戦では俺がラストアタックを取って、レアドロップ装備を手に入れることが叶った。

 ユリカはその装備を欲しがっていたので、俺はユリカの持つレアアイテムと交換した。

 ──この時、俺が何も聞かなければ今も俺はRWOをやっていたのだろうか。


『なぁ、ところでユリカ……最近夜中もレベル上げとかしてるらしいな』


『そうですけど、それが?』


『いやぁ……どうして、そんなに強くなりたがってるのかなぁ、って気になって』


『私の強くなる理由……ですか。

そんなの簡単です、VR世界での強さは現実世界の強さに直結するからです』


『……は?』


『私はまだ弱い、弱いから無様に痛い思いをして、泣き叫んでばかりなんです。

だから、この世界で強くなって……強くなって……とにかく強くなる。

そうすれば、現実世界で弱い私も強くなれるんです』


『……馬鹿じゃねえのお前、そんなことあるわけねえだろ……漫画の読み過ぎか?』


 ユリカの言葉は、今の俺なら否定せずに受け止めてやることが出来たかもしれない。

 でも……あの時の俺はユリカの言葉を受け取らずに、ただただ否定した。

 ユリカを馬鹿な奴だと思って、真っ向から否定して……挙句の果てには笑い飛ばした。

 今思えば、その考えはユリカが何かを考え抜いて生まれた結論だったんだろう。

 そこからは、俺とユリカの仲へ亀裂が入る一方で……ベストコンビはバッドコンビになった。

 最終的には俺たちのギルドのリーダーが審判の下、立ち合いをすることになった。


『……まだ、私は弱かったんですね。あなた如きに負けるなんて』


『今のお前に必要なものはお強さどうこう、じゃねえよ。

VRでいくら強くなろうが、現実じゃなんにも変わらねえよ。

ゲームが上手く出来たって、何か変わるわけでもねえ。

ゲームなんて結局はただの娯楽で、自分を強くしてくれるための夢の装置でもなんでもねえ!』


『ッ……そう、ですか』


 そして、俺はその翌日からRWOへログインすることをやめた。

 ユリカに向かって言った言葉が、あの時からずっと心のどこかで引っかかっていた。

 言わなければよかった、どうしてあんなことを言ってしまったんだ、って。

 だから俺はVRゲームをプレイすることをやめた。

 今もサービスが続くRWOで、俺の帰りを待っている人はもういないだろうに。


「……それが、俺とユリカの……二年前の出来事だ」


「ふむ……まぁ、価値観の相違、発言の後悔は誰にでもある話だ。

私もそういう類の失敗をして、友を失いそうになったことは幾度かはある。

何が大切なのか、それは価値観が違うのならばただ違うな、と呟けばいい。

否定もせず、肯定もせず……自分はこうだ、と……な」


「……そう、ですね。VRと現実においては、やはり区別が難しい部分もあります。

彼女……ユリカさんの言葉は、受け取る人次第の答えです。

だから、この議論に完全な正解はない、それが私の答えです」


「俺は正直、ゲームなんですしどうだっていいッス。

ゲームで遊ぶのなら、大切なのは楽しむ心ッス! だから……VRで楽しけりゃ、きっと現実も楽しいはずッス」


「僕は、VRに出会ったおかげで現実でも、ほんのちょっぴり強くなれました。

だから……体が強くならなくても、前に一歩だけ踏み出せるようになります」


「私も……アインくんと同じ、VRに出会ったおかげで前に一歩踏み出せるようになった。

自分が一人じゃない、背中を押してくれる友達がいる、って。

でも、その人は孤独に強さだけを求めて、ただがむしゃらに戦ってるだけ。

変な使命感背負って、狂った戦士みたいに……VRで感じられることを、感じてない。

だから……兄さん、私はそのユリカと戦う、そして勝つ。

全力全開の私をぶつけて、お互いの意見を全部武器に乗せて、心で理解し合う」


 ――五人のそれぞれの答えを聞くことが出来た。

 俺はただ、二年前の出来事を他人に話したに過ぎない。

 けれど……どこか、胸のつかえが取れた気がする。


「さぁ、ブレイブ。真の魔王との戦いまであと少し……気は楽になったか?」


「えぇ……ずっと抱えてたもんを下ろしたみてえな気分で、スーッとしましたよ」


「先輩、私たちは今をこうして楽しく生きています。

過去は変えられなくても……これからの楽しみがあります。

だから、今はこのイベントを楽しみましょう」


「あぁ、心の底から楽しむよ……誰よりも。

何よりも楽しんで……ひたすらに楽しんで、優勝しよう」


「ブレイブさん、俺はずっと変わらないッス。

楽しく遊んで、戦って……ブレイブさんと一緒に笑うッス!」


「ユージン……俺も、お前と一緒に笑うよ。

イベントが終わっても、SBOが続く限り、一緒に……」


「お義兄さん、僕は前に一歩踏み出せました。

だから、お義兄さんは二歩でも、三歩でも……もっと踏み込んでください!」


「踏み込むさ、何歩だって……ずっと、前に、真っ直ぐに」


「兄さんいつもの”アレ”やってよ、私たちはさ、ずっとあれで元気付けられてきたんだから」


「……ちゃんとやるぜ、大きなバトルなんだし。

皆が元気出るって言うなら……俺の色んな思いを込めて、な!」


 俺たちは各々の武器を抜き放って、それぞれに掲げる。

 カチン、という軽い金属音と共に俺たちの武器の刃が合わさる。


「よし……漢ブレイブ・ワン! まかり通るぜ!」


「応!!!!!」


 俺の掛け声に応えてくれた五人は、ガチン、と互いの武器を弾き合う。

 流れるような動作で腰や背中に納め、俺たち専用の客席へと足を踏み入れる。

 ……闘技場は盛り上がっていて……王の騎士団が勝利を迎えた後だった。


『真の魔王、ここまで全勝ってすごいねぇ……』


『次の試合でぶつかる【集う勇者】との試合が楽しみですね!』


『そうだねぇ、すっごい白熱したバトルが見れそう』


 MCとアイドルもすっかりと楽しみにしているようだ。

 なら……今の戦いを全力でやって、楽しんで……色んなプレイヤーに届けよう。

 俺たちの想いを、俺たちの力を、全部この場で示すんだ。

 過去のわだかまりも、未来への不安も……今の楽しみに比べたら大したことねえ。


「アイン……楽しんで来いよ!」


「はい! 僕が先陣を切って、皆さんの勝利のために頑張ります!」


 俺はアインの背中をブッ叩き、控室の方へと送り出す。

 アインは今までずっと負けて来たが……今度こそ成果を上げてくれるはずだ。

 きっと、アイツならやってくれる、今ならそう信じて送り出せる。


「アインくん! 私、アインくんが勝つのを待ってるから! アインくんが、真の魔王の先鋒の人に勝って、カッコよく帰ってくるのを!」


「はい! 僕もランコさんが笑顔で待っててくれる場所に、すぐに帰ってきます!」


 そう言って、アインは走り出して行った。


『さぁ、いよいよAブロックの決勝戦! 【集う勇者】と【真の魔王】! 一回戦からも危ない橋を渡りながらも、大将と副将の強さに物を言わせた集う勇者! 対するは、一回戦から先鋒、次鋒、中堅のみで完勝を続けて来た真の魔王!』


『凄い白熱したバトルが見られること間違いなしですね!』


 MCとアイドルが俺たちと真の魔王の紹介をしたところで、モニターに俺たちの姿が映る。

 今までのハイライト……ホウセン、タダカツ、オロチ……真の魔王の名だたる面々の姿もある。

 けれど……ホウセン達以外にも知らない顔がちらほらとある。

 大将の位置……つまり俺と戦う予定の相手は、第二回イベントで二位を取った【カオス】ってことはわかる。

 けれども、中堅のとこにいる奴らはちょっと知らない奴だな。


『さぁ、選手入場! 【集う勇者】の【アイン】、【真の魔王】の【ホウセン】!』


 モニターの方を眺めていると、アインとホウセンが入場してきた。

 先鋒からホウセン……第二回イベントで奴と対峙した時、俺は虚を突いて倒せたが……アインは真正面から挑むようなスキルばかり、要は俺みたいなことは出来ない。

 それに、ホウセンだって馬鹿じゃないから俺みたいな奴のスキル対策もしているはず。

 ともなれば、本当に真っ向から奴を打ち崩すしか勝ち目はない。


「ほう……雑魚どもと思っていたが、ここまで勝ち進んでくるとはな」


「そっちこそ、僕はあの頃のブレイブさんよりも強くなってるんだ。

簡単に負けてくれたりはしないでくださいね!」


「いいだろう……貴様の力、俺が図ってやる」


 ホウセンは背中から方天画戟を引き抜き、右手だけで振り回しながら構え始める。

 アインは背中から双鉞を抜いて、ホウセンのように振り回さず、そのままに構える。


『それでは……試合、開始ぃーっ!』


「アックス・スローッ!」


「竜牙突ッ!」


 試合開始と同時にアインが投擲した斧を、ホウセンは突きで弾く。

 その時にはもうアインがホウセンに肉薄し、斧を振りかざしていた。


「せあっ!」


「ぬんっ!」


 ホウセンは振り下ろされた双鉞、一本だけではなく二本を、片手だけで受け止めた。

 いや、正確には片手で握る方天画戟一本だけで、だ。


「どうした、その程度か?」


「いえ、まだ……まだッ!」


 アインは一歩下がったと思うと、再度突撃してホウセンと武器をぶつける。

 鍔迫り合いの状態となって、ホウセンも両手で方天画戟を握っていた。


「やるな」


「褒めていただいて……何よりです!」


 二人のバトルはまだまだ始まったばかり……それでも、俺の肌にビリビリと伝わってくるこの感覚。

 間違いなく、今までよりも激しいバトルってことがわかる。

プレイヤーネーム:アイン

レベル:60

種族:人間


ステータス

STR:100(+100) AGI:95(+70) DEX:0(+20) VIT:50(+100) INT:0 MND:10(+50)


使用武器:真・双黒竜斧、真・白銀斧

使用防具:真・黒銀の鎧、真・黒銀の兜、真・魔侯爵の服・上、真・魔侯爵の服・下、真・黒鉛のグリーヴ、真・黒銀の籠手、疾風の腕輪

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