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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第四章 人気落ちると唐突にやり出すトーナメント編
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第六十八話:小鬼帝

『さぁ、いよいよこの戦いに幕が下りる時です!泣いても笑っても、ここで勝敗が決する一戦!』


『大将戦の結果で引き分けになったら、勝ちが決まるまで再試合! さぁ、二人とも死力を尽くして頑張ってくださーい!』


 MCとアイドルが説明とついでに語るところで、俺は準備運動をしていた。

 別にVRの中じゃあこんなもん必要はない……けれど、これはある種のルーティンだ。

 俺の中で、剣を振るうことは形がどうあれど剣道の試合に挑むのと同じ。

 だからこそ……こうやって準備運動をして、己を奮い立たせる。


『三回戦第一試合! 大将戦! 【集う勇者】の【ブレイブ・ワン】VS【朧之剣】の【KnighT】!』


『KnighTさんはここで初試合! ブレイブ・ワンさんも二試合目! 二人には見えない手が沢山ありそうです!』


 薄暗い道を歩き、俺は闘技場へと入場する。

 まだ二度目……この戦いを味わうのは、集う勇者の中でも俺だけ。

 そして、奴はこれが初めて……要は、最初で最後に味わう感覚ってことだ。


「貴方がブレイブ・ワンですね。映像で見た時、騎士には程遠い男だと感じました。

が、いざこうして対面すると底知れぬ力を感じ取れますね」


 出て来たのは、白銀の鎧をまとって、腰に剣を携えた騎士のような女だった。

 金髪ロングの髪に青い瞳……なるほどね、確かに絵にかいたような騎士だ。

 盾でも持ってりゃ、本当に騎士と感じられただろうけど……まぁ、ゲームだし仕方ねえか。


「あー、どーもどーも、ロープレしながらそういう事言ってくれんのは嫌いじゃねえぜ。

でも……まぁ、いいさ。お前は最初で最後の試合なんだ、全力でやってやる」


 俺は腰から剣を抜いて、スキルを詠唱する準備を整えながら構える。

 今回の俺が使う剣……レベル上限限界突破を経て【グロウアップ】をした剣。

 【小鬼王の剣・改】と銘打たれていた俺の剣は【小鬼帝の剣・改】となった。

 新たな姿……だとか言う程進化はしてはないが、それでも十分に強くなっている。

 それも、俺の防具も含めてだから……以前の俺とは比較にならねえくらい強いはずだ。


「えぇ、さぁいざ尋常に勝負……小鬼の騎士!」


「あぁ。全力で踏み越えさせてもらうぜ! 騎士様!」


 KnighTは腰から銀色に輝く剣を引き抜き、両手で構えた。

 そして、演出かスキルか……KnighTの体は炎に包まれた。

 いや、正確には炎がマントのような形になって、KnighTに纏わされていた。


『それでは……試合、開始ぃーっ!』


「行きます……!」


「おおおッ!」


 俺はスキルを使って斬りかかるつもりだったが、それを中断して一歩踏み込む。

 KnighTがスキルの詠唱をしている間に、そのまま斬り込んでやる。

 スキルをぶつけ合っても、向こうにダメージが行くとは思えないからな。


「……!」


「カァッ!」


 俺は剣を振り上げ、真上からそのまま叩きつけるように剣を振り下ろした。

 KnighTは剣を横に構え、両腕で俺の剣を受けた!

 ガツゥゥゥンッ、と金属同士がぶつかったようなサウンドエフェクトが鳴り響く。

 それは俺たちのアバターだけではなく、闘技場全体に広がる程だった。

 が――

 それよりも!


「温い!」


「嘘だろ……!」


 俺が放った剣はKnighTに受け止められるどころか、弾かれた。

 ……過去にVRMMOをやっていた経験はあるから、対人戦の経験はある。

 だけれども、叩いた側の剣が大きく弾かれるなんてのは見たことがねえし体験したこともねえ。


「ハァッ!」


「ッ! っぶね!」


 俺が体制を崩したところで、KnighTは剣を横薙ぎに振って来た。

 すんでのところで避けたからダメージはないが……多分受けたら洒落にならねえ威力だ。

 盾と剣、両方を防御に使わねえと真正面から受け切るのは無理だ。


「やああッ!」


「っと! おおッ!」


 だが、KnighTの剣筋はとても真っすぐ、小細工無用って感じだ。

 ……その分、軌道は読めるからまだ避けられない程じゃあない。

 速さも重さもあるんだろうが、軌道さえ読めれば動きの先を読んで避けられる。


「速い分、軌道が単純だな!」


「ならば、貴方がわかっていても避けられない速度で斬ります!」


「そうかよ……やってみろッ!」


「せああっ!」


 KnighTは俺に向かってきて、大上段からの振り下ろしを放つ。

 俺は右足を軸にして左足を回すだけでそれを避け、KnighTとの距離を作らずして攻撃を避ける。

 よし……この距離なら──


「パワー・スマッシュ!」


「ごほっ……」


 剣を振りぬいた姿勢でいたKnighTの腹にパワー・スマッシュを叩き込む。

 少しだけ浮いて、ノックバックしたKnighTに追撃を放つために俺はスキルを詠唱する。

 止めるにしても……奴もスキル詠唱の手間がかかるはずだから、俺の方が速いはずだ!


「貰った! サード・スラッシュ!」


「っ……! サード・スラッシュ!」


 驚く事に、KnighTは俺よりも速くサード・スラッシュの詠唱を済ませていたのか。

 俺とほぼ同じタイミングでスキルを放ち、俺の攻撃を弾いた。


「せああっ!」


「チッ!」


 俺は弾かれた体制のまま、左足を軸にしながら思い切りのけ反る。

 そうすることで顔面狙いだった突きを避けながら、俺は自然と転がるように倒れ──

 左手だけで体重を支え、KnighTへ向けて俺の足払い!


「その手は既に想定済みです!」


「マジかよ……」


 足払いをジャンプして躱したKnighTは、何やら誇ったような表情。

 だが、俺だって無策じゃないし何時だって変わらないような野郎じゃあない。

 時が経てば変化もするし、進化もする……それこそが漢であるブレイブ・ワンだ!


「せあっ!」


「おぉッ!」


 膝をついた状態の俺に向けてKnighTが剣を振り下ろすが、俺は盾と剣で受け止める。

 重い……本当に重い攻撃だけれど……剣と盾を重ねればダメージはゼロだ。

 そして、KnighTと俺の距離もゼロ……やりたいことは今なら普通に出来る。


「……【カウンター・バリア】!」


「なっ――きゃぁっ!」


 意外と可愛らしい悲鳴を上げながら、KnighTは吹っ飛んで行った。

 俺が盾をキョーコに改造して貰った時に着けて貰ったスキル、カウンター・バリア。

 普段から使えば敵は攻撃してこなくなるから、滅多に使う機会がなかったが……対人戦、それも剣の使い手にして鍔競り合いを挑んでくるような奴ならウェルカムだ。

 カウンター・バリアは俺の周囲1mに、触れれば自動でカウンターを放つバリアを生成出来る。

 まぁ……範囲が狭すぎるってのが欠点だし、遠距離攻撃には意味がない所なんだけども。


「さぁて……距離を開けてくれて助かるぜ、KnighT!」


「くっ……まさか、一回戦で使った……あのスキルを!」


 それはこの武器だと使えねぇよ、と心の中で突っ込みながら俺はスキルを詠唱する。

 KnighTはそれでも俺がフェニックス・ドライブを撃ってくると考えているのか、防御体制へ。

 俺はそのあまりにも都合の良い状況に感謝しながら、小鬼帝の盾のスキルを発動させる。


「【小鬼召喚ゴブリンズコール】!」


小鬼ゴブリン……?」


 小鬼帝の盾になったことで新しく習得したスキル……小鬼召喚。

 その効果は文字通り、とてもシンプルな効果だ。


『ギャギャギャギャギャ!』


「まぁ……騎士と言ったらゴブリンが付き物だよな!」


 俺は両手を広げ、声高らかに笑いながら言う。


「……テイムスキルとは違う、別の何か……?」


 KnighTは驚きながらも分析しているが、まぁ考えるだけ無駄だろうな。

 スキルに関する情報は集めたけれど、自分の味方をしてくれるNPCを呼び出すスキルなんて存在はしない。

 尤も、それは今に限った話だし……俺の小鬼召喚はその中の唯一のNPC召喚スキルだ。

 指定した小鬼をSPの消耗量に比例させながら好きな数だけ召喚することが出来る。

 因みに今俺が召喚したのは、通常のゴブリンを10体……これでも俺のSPのうちの半分も使わないで済む。


「……確かに驚きました。

ですが、所詮は小鬼!我が剣と誇りの前には恐れるに足らず! 小鬼の帝! 何するものぞ!」


 剣を構え、啖呵を切りながらKnighTは真っすぐに突っ込んでくる。

 俺は剣も盾も構えず、ただただ手だけを指し示す。

 今この場において狙うべき敵、真っ先に倒す必要がある敵。


「やれ」


 KnighTを指し示すと、10体のゴブリンたちはKnighT目掛けて走り始めた。

 ……因みに、何故かゴブリンたちは俺の持っている剣とデザインが似ている短剣を装備している。

 防具は凄い雑に作られたスケイルメイルだとか、すぐ壊れそうな革の盾とかで弱そうだけどな。


「やぁっ!」


「グギャァ!」


「せっ、たぁっ、とぉっ!」


「ギャギャァ!」


 ……まぁ、いくら10体がかりでも所詮はゴブリンだ。

 KnighTの剣を前に、あっさりと吹っ飛んで行ったり弾かれてる奴らばかりだ。

 KnighTの足止めくらいには出来ているが……KnighTは不思議そうな表情だ。


「……何故」


「あ?」


「何故、小鬼がこれほどの高いステータスを……!」


 ま、そりゃ誰でもそう思ったりするよな。

 俺も初めてこのスキルを試す時、ハルとユージンにも突っ込まれたし。

 ……いや、なんなら俺だってそういう風に思ってたからな。


「まぁ、そこは企業秘密だ。

何せ全プレイヤー中で俺だけが持ってる、と言っても過言でもねえスキルだしな。

だからまぁ……なんとなくで察してくれよ、騎士サマ」


 俺はそう言いながらスキルの詠唱をする。

 あ、因みにゴブリンたちがやたらとタフなのはとても単純な事だ。

 召喚されるゴブリンたちは皆俺のステータスを基準に、ステータスの%を決められているからだ。

 因みに普通のゴブリンで50%、ホブゴブリンで70%、ゴブリンキングで90%。

 と言っても、装備でアップする分のステータスは加味されてない。


「くっ……数がッ!」


「さぁて、どこまで持つ?」


 俺は追加でゴブリンを召喚し、今KnighTと戦っているゴブリンの援護を始める。

 ……呼んだのはホブゴブリン2体とメイジゴブリン1体。

 メイジゴブリンは魔法を使うゴブリン……嬉しいことに俺のステータスが基準でも魔法はちゃんと使える。

 ホブゴブリンのSTRの部分がINTになった、ってステータスみたいなもんだから、ホブゴブリンと同じ位だ。


『ギャーッギャッギャッギャ!』


「これは……全体回復魔法? あの小鬼が……」


「ボス戦の定石だよな、皆でかかってヒーラーが回復するってのは」


「くっ……まさか、数の差で挑みに来るとは……!」


 KnighTはホブゴブリンまで加わった攻撃を捌くのは大変なようで、もう必死な表情だ。

 ……だが、上手いこと攻撃を避けながらゴブリンたちを誘導してるな。

 一か所に集めて、広範囲攻撃で倒すつもりか……まぁ、そうされてもいいように準備は済ませている。


「超加速」


「よし……ここなら──くらいなさい!【ヘルフレイム・バースト】!」


「流星盾!」


 俺は超加速でスピードを上げ、KnighTがゴブリンと戦っている所に割り込む。

 そして、即座に流星盾を展開してKnighTの攻撃からゴブリンたちを守る。

 KnighTが剣に炎を纏わせ、炎の球体を生成してから斬りつけたと思うと、瞬時に爆発が起きた。

 KnighT自身にはダメージが行かないようで、こっちには超高威力かつ広範囲の爆発!


「ぐっ……! ぐぅぅぅっ、ぐはぁぁぁっ!」

 

 流星盾が砕かれて、盾で防御の構えを取っていた俺は吹っ飛んだ。

 ゴブリンやホブゴブリン諸共……ゴブリンは半数が消えている。

 メイジの回復魔法が間に合わなかった、ってワケか。

 まぁ、俺も洒落にならないようで……俺のHPバーもかなり削れている。


「小鬼を守りに来たようですが、その選択が仇となりましたね! これで終わりです!」


「まぁ……そう思うだろうけど、俺だって無策じゃあねえぜ」


「何を……え?」


 パチン、と指を鳴らす。

 するとそれだけでKnighTの動きは止まった。

 いや、俺が止めさせたんだけどもね。


「そ、そんなっ……まだ、いたなんて……!」


「小鬼召喚、プラス……ミラージュムーブ。

超加速と流星盾を展開する間にあらかじめやっておいたんだよ。

まぁ……他のシールドが張れないからバレるかと思ったけど……気付かないでいてくれたことに感謝するぜ、KnighT」


 KnighTの動きを止めた原因……こと、俺が召喚したゴブリン。

 ゴブリンキング……コイツはミラージュムーブや流星盾、超加速の事を考えると一体しか呼べなかった。

 が、一体だけでもKnighTを抑え込むには十分すぎる。

 何せ俺のステータスの90%、STR値は高い……それに体格もデカい。

 だから、今こうしてKnighTを地面に伏せさせるのなんてお茶の子さいさいだ。


「くっ……こんな……こんな!」


「さて、KnighT……俺は騎士でもなんでもねえ。

勇者なんて名乗っちゃいるけど、実際の所はこういう手も使う野郎さ。

勝ち方に文句はあるだろうけれど、こっちには後がねえから……勘弁な。

じゃあ、やれ、ゴブリン」


 と、俺はゴブリンに指示を出す。

 残った5体のゴブリンと2体のホブゴブリンたちは走り出した。

 武器を持ったモンスターたちが、8体がかりで一人をリンチ。

 絵面だけ見たら恐ろしいが……やってることは俺一人のスキルだ。

 それにゲームだし……心を痛めるだとか、そんなことは微塵もないな。

 ……絵面的にショックだけども。


「ちょ、やめ、いやっ、待って……助けっ──!」


 文字通り手も足も出せずに、ゴブリンたちにボコボコに殴られたKnighT。

 彼女はものの十数秒でHPを全損し……ポリゴン片となって砕け散った。

 同時に、俺……及び、集う勇者の勝利が決定した。


『大将戦! 集う勇者の勝利! よって、三回戦第一試合の勝者は【集う勇者】!』


「いよっっっしゃああああああああああああッ!」


 俺は大きくガッツポーズを取り、観客席にアピールをする。

 ……が、なんだか全然盛り上がってない。

 あれ?俺もしかしなくてもスゲーマズい事とかした……?

 と、先輩たちの方を見ると、凄い呆れた表情で俺を見ていた。


「女の子相手にあれはねえよな……」


「それな……ちょっと引くわ」


「女の敵よね」


「勝つためとは言えどどうかと思うわ……」


「KnighTちゃん、可哀想……」


「あんなに真っ向から挑んで頑張ってたのにな」


「なー」


 ……スゲー最悪な雰囲気だった。

 自業自得とは言えど、勝ったのにすげー負けた気分になっちまうじゃねえか……と、こうして三回戦を突破できたのに……俺の心は曇ってしまった。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:60

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:80(+110) AGI:100(+95) DEX:0(+20) VIT:40(+135) INT:0 MND:35(+100)


使用武器:小鬼帝の剣・改、小鬼帝の小盾・改

使用防具:龍のハチガネ・改、小鬼帝の鎖帷子・改、小鬼帝の鎧・改、小鬼帝のグリーヴ・改、ゴブリンガントレット、魔力ズボン・改(黒)、回避の指輪+2

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