第六十六話:バァーイ
『いや~、最初から最後まで瞬き出来ないバトルだったね~』
『はい、私もいつかあんなにカッコよく槍を振って見たいです!』
『いやニコちゃん使ってる武器杖じゃん』
『どっちも使いますー!』
アハハハハ……と笑い声の聞こえるMCとアイドルのやり取り。
と、共に控室で聞こえる武器を鍛造する、カンカンと言う音。
控室にいるアンドロイドへ耐久値が落ちた武器を預ければ、耐久値を回復させてくれるシステム。
良心的なシステムだけれど、俺の装備には発揮してくれなさそうなのが痛いな。
ま、それはどうでもいいか。
今はランコの蜻蛉切を直してるところだし、ユージンとハルの作戦会議中だ。
俺と先輩は黙ってるだけだし。
「SeePさんが援護魔法、HawKさんが主に攻撃を行っている……そう考えると、私が防御力を最大限に高めてHawKさんの攻撃を受け止めるのがいいですね。
ユージンさんは……なるべくSeePさんを狙って、HawKさんの注意を分散させてください」
「そ、そうッスね……端から崩して、二対一に持ち込むんッスね!」
「最終的にはそうですが、上手く行けば私がHawKさんを倒すことも出来るかもしれませんので……まぁ、無理に急いで倒そうとしなくてもいいですよ」
「わ、わかりましたッス!」
ハルが司令塔で、ユージンはその手足……まぁ、この二人ならきっと上手くやってくれるよな。
一回戦も二回戦も危なげなく勝てたんだし。
だったら、俺たちこそ戦いに備えておかねえと。
「先輩、俺たちはどうしてます?」
「知らん、気合いでも入れておけ」
「わードラァイ」
いつになくドライな先輩だ。
何か怒らせるような真似を……散々してきたな、うん。
まぁでも、俺たちは対戦相手を知らねえんだ。
だったら……できるだけ、やれることをやるように考えるか。
相手がどんな奴だったかとか考えるようにしつつ、で。
「うー、緊張してきたッス……」
「今から緊張していては話になりませんよ。
ほら、ユージンさん、もっとリラックスリラックス!」
「り、リラックスッスすね……リラァ~ックスゥ~……ッス……」
なんか海に生えてるワカメみてえな動きをし出した。
……なんだかんだ大丈夫そうだな、この二人なら。
「あ、そろそろ二人の出番みたいですね。
頑張ってきてくださいね、ランコさんに続け! って感じで!」
「そうッスね、集う勇者男性陣として、アインくんのために頑張るッスよ!」
力こぶを作ってニシシっ、と笑うユージン。
うん、ちゃんとリラックスできてるじゃねえか。
「頑張ってくださいね、ハルさん。私も応援してますから」
「えぇ。可愛い後輩のためなら、キッチリとその期待ににお応えしますよ」
ランコの言葉にぐっと親指を立て、にかっと笑うハル。
先輩は無言でハルの背中をパシッと叩き、フッと笑った。
ハルはため息をつきながらも、親指を立てた。
「さぁ行きますよユージンさん!」
「はい! 俺たちで勝利をぶっちぶちにもぎ取りに行って見せるッス!」
「あぁ、気張ってけよ、お前ら!」
俺はハルとユージンを見送りながら、応援して。
集う勇者専用客席へと転移し、闘技場へと入場してくる二人を待つこととなった。
一方で、MCとアイドルの方は次の勝敗予想をしていた。
『ニコちゃん的にはどっち?』
『んー……さっき、勝って士気も上がってると思いますし、【集う勇者】の二人が勝つんじゃないかな~、って思います!』
『そっかぁ、僕もそう思ってたよ~』
『え~? またまた~……』
『アハハ』
ユージンたちが勝利を予想されてる……よし、会場の雰囲気的にもいいな。
アインの時とは打って変わって、こっちにアウェー感は薄くなってきてるぜ。
『さぁそれでは入場です!』
掛かっているBGMが変わると、ユージンとハル……そして、対戦相手のSeePとHawKが入場してきた。
SeePは羊毛に身を包んだような装備で……全体的にモコモコだな。武器も杖か。
HawKは……鷹の頭を模したフードに鷹の翼みてえなポンチョだ。武器は片手直剣か。
「つ、強そうですね……」
「大丈夫だよ、アインくん。あの二人なら……きっと勝ってくれる」
ランコの言葉が真実かどうか、次の先輩の一戦までにどんな結果が訪れるか。
……それは、この一戦が決めてくれる。
『それでは! 試合……開始ぃーっ!』
『開始ーっ!』
MCとアイドルの声が揃って、試合開始の合図が出る。
既に抜刀していた四人は、武器を構えてスキルの詠唱に入る前に、HawKは突出してハルを狙いに来た。
「っ!」
ハルはスキルの詠唱を中断し、HawKが垂直に振り下ろして来た剣を盾で受け止める。
そのままギギギギギ……と、剣と盾が押し合いになっているのを見る限り、HawKの攻撃力の高さはかなりのものだな。
ハルの盾に普通の攻撃だけで拮抗出来るのなんて、ホウセンくらいの火力がねえと無理だ。
「よ、よし……加速!」
「スピードアップ、ガードアップ、パワーアップ……」
その一方で、いきなり攻撃をしたHawKに面食らったユージンはスキルを使うのが一歩遅れた。
で、SeePは大量のバフスキルを自分に付与して、杖を槍のように構えた。
なるほどね、自分で自分をブーストしてから、その状態で白兵戦……なんとも考えたもんだ。
……援護魔法と言うとヤマダを思い出すが……アイツの姿はどのギルドにもなかったな。
「おおっ!」
「遅いね」
ユージンは真っすぐに走り出してSeePに斬りかかるが、SeePは素早い動きでそれを躱す。
そこから杖での突きを放つが、ユージンとてただ突っ込んだだけじゃない。
避けられての攻撃も予測していたか、杖を肘で弾いてからユージンが突きを放った。
「おっと」
「せっ! たっ! とりゃああ! ッスッ!」
「遅い遅い、そんなんじゃ僕にはカスりもしないよ」
「チッ、さっきからすんでのとこで避けてばっかッスね……」
ユージンは攻撃が当たらないのに苛立つのか、それともすんでの所で当たらないのに苛立つのか。
そのどちらかはわからないが、舌打ちをして足を踏み鳴らしていた。
「だ、大丈夫ですよね……なんか、二人とも、分けられちゃってるって言うか……連携出来ない感じに……」
「大丈夫ではないな、むしろ相手の作戦にはめられているだろう。
ハルたちの各個撃破と言う考えは悪くはないが……それは、己の力が相手を上回っている時のみ、つまり拮抗していては意味がない」
「まぁ、それでも……ハルたちだってそりゃわかってるんじゃないっすかね」
「わかってても、一度立てた作戦を変えるのはムズいよ……」
ユージンはSeePに当たらない攻撃を繰り返し、空振りをさせ続けられる。
ハルは未だにHawKとの競り合いが続いていて、試合は膠着状態だ。
「……ブレイブ、もしあの場にいるのがお前と私ならどうした?」
「そうですね……俺なら──」
「超加速!」
「しか、思い浮かばねえですね」
ユージンはスピードを更に上げ、アバターの残像が見えるほどの速度で動き出した。
SeePもバフを使って自分のステータスを底上げしているのはよくわかるが……ユージンは素早さにのみ特化した装備や、ステータスの割り振りをしている。
だからこそ、ユージンの速度は……恐らくSBO内で三本の指に入るだろう。
「え、ちょ、流石に速い……!」
「ほらほら!どうしたんッスか! さっきまでのっ、威勢はっ!」
ユージンは目で追えば酔ってしまいそうなまでの動きでSeePを翻弄する。
しかも、ところどころ攻撃を加えているので、SeePは少しずつダメージを受けている。
……尤も、SeePは防御力も高くしているせいか、受けるダメージは少ない。
「ユージンさん……!せあっ!」
ハルはユージンの行動を見て、一気に勝負を決めるつもりか。
盾でHawKの剣を押しのけたと思うと、一歩下がってスキルの詠唱を始める。
HawKはHawKで、また別にスキルの詠唱を始めていた。
「【分身】」
「狂化!」
HawKは額に指を当てたと思うと、HawKのアバターが三つに増えた。
同じ装備をして、まんまそっくりな姿……見分けはつかねえな。
対してハルは狂化でブーストをかけ、一気に決めるつもりみたいだ。
「フッ!」
「三方向っ……!」
三角形のように並び、三方向からの突撃をしてくるHawK。
しかも、キッチリと互いを巻き込まないように微妙な速度の差をつけてやがる。
だが、ハルとて何も考えていないわけじゃない。
速度に差がある、それは完全に同時じゃない。
自分へ到達するまでに微妙なタイムラグがある……と言うのならば。
「せああっ!」
「ぐっ!」
ハルは一番最初に向かってきた分身の攻撃を避けると同時に首を刎ねた。
分身は所詮分身なようで、倒されれば跡形もなく消え去るようだ。
「まだっ、まだ!」
「ごはっ!」
続いてハルは間髪入れずに向かってきた二体目の分身の攻撃を盾で受け止め、蹴り飛ばす。
分身は一撃でも攻撃を受けると消えるようで、蹴られただけでバウンドして砕け散った。
「これで!」
「チッ!」
ハルは最後に向かってきた本体への袈裟斬りを放つが、HawKはバックステップでそれを避ける。
するとHawKは剣を水平に構え、剣にライトエフェクトを纏わせる。
「スプラッシュ・スティンガー!」
「くっ……ぐんぬぁぁぁっ!」
ハルはHawKへの追撃のために走り、スプラッシュ・スティンガーを受けながら突き進んでいた。
だが、その甲斐あってかハルはHawKに肉薄していた。
「サード・スラッシュ!」
「おわっ!」
HawKはハルの剣撃を受け太刀するが、狂化で攻撃力を高めた相手にそれは無謀だろう。
すぐに剣を押し込まれ、HawKはノックバックさせられてバランスまで崩した。
「ユージンさん! 今です!」
「へいへい! 了解ッスゥゥ!」
「ッ!」
ハルの言葉にユージンが答え、HawKは自分の後ろで戦っているSeePとユージンを見る。
だが、ユージンもSeePもスピード勝負をしているだけだ。
ユージンの超加速の効果が切れたからだろうが……まぁ、とてもじゃないがHawKを攻撃出来る状態じゃない。
「――ハッ!」
「インパクト・スラストッ!」
「ごばああっ!」
HawKが気づいた時にはもう遅かった。
ハルはHawKが防御することも逃げることも敵わない程の位置に近づいていた。
そこから放たれた刺突は、HawKの腹を貫いた。
「勝負アリですね」
「ヘヘッ、そう言うなよ。まだまだ……楽しみ足りねえじゃねえかよ」
HawKは腹に風穴が空きながらも、まだHPは残っている。
剣を杖代わりにして立ち上がり、手をブラブラとさせながら骨を鳴らす。
「優勢、ですよね……」
「あぁ。見た通りではな」
不安そうに先輩へ訪ねるアイン、頷く先輩。
ハル……このまま勝ってくれるといいが……!
「残念ですが、私は負けたら後がないので……余裕を持つことは出来ません!」
「そうかよ!」
ハルは剣にライトエフェクトを纏わせ、HawKに向けて振り下ろした。
HawKはそれをスレスレで避け、何もないただの突きをハルに向けて放った。
ハルは当然それを盾で受け止める。
「ヘッ……討ち取ったり」
「え」
HawKの微笑と、その一言……それだけで、俺と先輩は察した。
いや、恐らくはランコやアインも嫌な予感は感じ取っていただろうが……俺たちは、予想だにすらしていないスキルを目の当たりにした。
「あっ……」
攻撃を受けたハルの左腕は、内部から爆発するかのように爆散した。
そして、たった一撃でハルのHPはごっそりと削られていた。
「あれは……!」
「防御力比例攻撃か……それも、HawKの高い攻撃力に加えれば……!」
「ハルさんにとって、最悪の攻撃……ってことですよね」
「ああ」
先輩の解説の答えをすぐに言ったランコ……その通り、大正解だ。
ハルの高いVITとパッシブスキルによる防御ステータスのブースト。
HPの母数故に、ダメージをそれほど受けても何とか一撃で死なずには済んでいた。
「くっ……まさか、こんなスキルを持っていたなんて……っ!」
「そうとも、これが獣人化を持たねえ俺がこのギルドで食われねえ理由だ。
尤も、お前みてえなタンクにしか効果はねえけどな、ハハッ」
「くっ……ここは──」
ハルはすぐに一歩下がろうとする。
だが、ハルのアバターは下がるどころか踏み込むことも出来ず、その場で固まっていた。
「!? これは……!」
ハルは何かを踏んでいて、その何かが原因で動けなくなっていた。
白い……ナニカ……とりもちみてえなもんか?
「それは獣人化をしたSeePの毛だ。
予め持ってて、お前が踏むだろうなってトコにバラまいといたんだよ」
「くっ……そんな、このっ……」
ハルはどうにかしてそこから逃れようとするが、HawKは剣を刀の居合のように構える。
「オラよ」
ズバァッ、と放たれたHawKの剣の薙ぎ払い。
それはハルのアバターを真っ二つに切り裂き、ポリゴン片にして砕け散らせた。
同時に──
「なっ、ななななん、ッスか……コレ!」
「それはHawKさんが使ってる剣の素材のアイテムさ。
獣人化でとれる素材で、影を縫えるって代物なんだよ」
「ひ、卑怯ッスーッ!」
ユージンも動きを封じられ、倒れた姿でもがいていた。
……そして、振り返ったHawKがユージンの真後ろにいて、剣を振り上げていた。
勿論、ユージンの防御力には比例攻撃での意味がないため、ライトエフェクトを纏わせていた。
「バァーイ、集う勇者」
「バイバイ」
HawKとSeePの言葉が、ユージンのアバターが砕け散る瞬間を飾った。
それと同時に……ハルとユージンの敗北が決まり、俺たちは初めて中堅戦での敗北を喫した。
『中堅戦! 朧之剣の勝利ーっ!』
『凄い試合でした~!』
無邪気に笑うアイドルの顔が、観客たちを先導するかのように盛り上がらせた。
その会場の盛り上がりと反対に……俺たちは下唇を噛みしめた。
「先輩」
「あぁ、必ず勝つ。奥の手を使ってでも、な」
プレイヤーネーム:ユージン
レベル:60
種族:人間
ステータス
STR:80(+60) AGI:145(+85) DEX:30(+60) VIT:0(+20) INT:0 MND:0(+20)
使用武器:ドラゴンダガー×2
使用防具:俊敏のハチマキ 華のジャケット 根性シャツ 疾風のブーツ ハイスペック・グローブ 魔力ズボン(灰) 回避の指輪+1