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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第四章 人気落ちると唐突にやり出すトーナメント編
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第六十四話:ヴォルフ

「へぇ……俺とパワーで互角たぁ、やるじゃねえの!」


「まだまだこんなもんじゃないですよ! 活性化!」


 アインは狂化ではなく、活性化を使ってステータスを強化。

 そして更に何かコマンド入力でもしたのか、アインの背中に何かがついた。

 ……ランドセル、みたいな……バックシールド、的な装備だろうか。


「おもしれぇじゃねえか! 【超加力】!」


 DoGはアインの出した新しい装備のことを知っているのか、セルフブーストスキルを使った。

 おぉ、俺の持っている加力の更に上のスキル……見るのは初めてだ。

 先輩は使えないのかな、と先輩の方に視線をやると、目が合った。

 あぁ、お互いのステータスで期待しちゃってたのね、因みに俺はこのスキルを習得してない。


「せあああっ!」


「どぅぅるあっ!」


 アインの双鉞とDoGの両手剣が再度鍔迫り合いに。

 ただ、今度はアインが押され気味になっているので、アインはすぐに距離を取る。

 そしてエネルギー状の斧を右手に握った。


「アックス・スロー!」


「ハッハァ! ヌルいぜぇ!」


 DoGはアインの投擲した斧を一刀のもとに斬り伏せた。

 だがアインは斧を投擲すると同時に走っていて、もうDoGの目の前だ。


「クロッシング・スラッシュ!」


「うごぉっ!」


 剣を振りぬいた姿勢からでは回避が出来ず、DoGは攻撃をモロに受けた。

 流石に一撃でとはいかなかったが、DoGのHPバーは三割ほど削られた。


「中々やるじゃねえか!」


「僕だって、勝ちたいですからね!」


 アインはポーションを飲んだ。

 ポーションの色から察するに……ブースト系ポーションと見ていいか。


「へぇ、ドーピングか!」


「せりゃあっ!」


 アインは真っすぐに打ちかかり、DoGの両手剣と三度目の鍔競り合いに。

 だが、今度のアインは……ちゃんと互角になっている。

 それどころか、双鉞の一本だけで両手剣をしっかりと受け止めている。


「せえぇい!」


「ぬあっ!」


 アインはもう一本の鉞を薙ぎ払うようにして、DoGの肩を狙った。

 だが、DoGは咄嗟に剣から片手を離して、鉞を掴んで止めた。


「ぐぐぐ……」


「ッハァ、おもしれえ、二連続で負けてる雑魚かと思ったら……こんなに強えなんてな!」


「そりゃ……どうっ、も!」


 アインは右手の鉞を滑らせるように斬り下ろし、先輩や俺がやったように鍔競り合いを抜ける。

 だがアインの武器とDoGとの距離では、同じことは出来ない。

 それはアイン自身もわかっていて尚、その状況に持ち込んだということは──


「アックス・バースト!」


「ナイスだアイン!」


「あぁ、文句なしの回答だな」


 アインは武器を持ち替え、DoGの腹部で斧を爆発させた。

 DoGはその攻撃に溜まらずノックバックし、HPを大きく削られていた。


「おぉっ……コイツぁ……効くじゃねえか」


「まだまだ……アックス・スロー!」


「チッ、両断波!」


 ノックバックしたDoGに間髪入れずにスキルを放つアイン。

 投擲された手斧をスキルで叩き落とし、その間に肉薄してくるアインを前に構えるDoG。


「オォラァッ!」


「そこだ!」


 アインは振り下ろされる両手剣をを、鎧の肩パーツを利用して受け流す。

 そして鉞による突きを放ち、DoGの兜を吹っ飛ばした。


「チッ……」


「名前から想像してはいましたけど……なんか可愛いですね」


「本人の凶悪顔が台無しにしてないッスかね……」


 ゴツい鎧の下から出て来た男……DoGの正体は、犬系の亜人だった。

 兜が外れてようやく犬の耳だけが見えたので、まぁ……普段は鎧で完全に見えないんだろうな。


「しゃーねぇ、奥の手だったけど……温存して負けてちゃ話になんねえよなぁ」


 両手剣を地面に刺したDoGは、バキボキと拳の骨を鳴らし始める。

 そして、メニューを操作して鎧装備を全解除……ただのシャツとズボンだけになった。

 裸足に素手……まさか、素手で戦って勝つとか言わんだろうな。


「【獣人化】!」


「あ……」


 アインがポカーン、と口を開けっ放しな表情になった。

 DoGは上半身を肥大化させ、シャツを引き裂く演出と共に毛むくじゃらな狼になった。

 狼男ウェアウルフという表現が、最も似合うであろう姿に。


「オオオオオオオオ!」


 上半身に対して下半身が弱そうだが……下半身自体も若干大きくなっている。

 だってズボンの膝から下が破れてるし……


「くっ……狂化!」


 アインは狂化をかけてから、手斧を投擲する構えに入った。


「アックス・スロー・オブ・バーサーク!」


「ガルァ!」


 が、DoGはアインの投擲した斧を両腕……いや、二本の前足で受け止めた。

 ……と言うか、投擲された斧の状態を保持しながら構えに入っている。


「ウッルルルアアアァッ!」


「パワー・アックス!」


 今度はDoGがお返しと言わんばかりに、アインのエネルギーの斧を投げ返した。

 アインはスキルでそれを打ち落とすが……既にDoGがアインに肉薄していた。


「【ヴォルフ・ブレイク】!」


「がっ……ぐはっ!」


 ラリアットのような一撃から繰り出されたスキル。

 赤いオーラを纏い、見るからに危険とわかるスキルだった。

 だが、アインはそれに反応することもままならずに吹き飛んだ。

 闘技場のド真ん中にいたはずのアインは、壁に叩きつけられていた。


「なんて威力なんですか……」


「ま、まずいッスよ! これじゃアインくん負けちまうッス!」


「アインくん……お願い……今度こそ、勝って……」


 俺でも無傷で受けきるのは無理であろうスキル。

 それに爪をガリガリと噛むハル、慌てるユージンと、祈るランコ。

 先輩はただ無言で見つめているだけだ。


「クソッ……見えなかった……」


「ガアアアア!」


「うわぁっ!」


 アインが息をついている間に、突っ込んできたDoGの一撃が壁に突き刺さった。

 正確には壁にいるアインを狙ったが、アインが首を逸らしたおかげでギリギリ助かっている。


「ひぃいいい!」


 アインは戦うことすら放棄したように、背を向けて走り出す。

 いやまぁ、当然正しい選択肢ではあるんだが……客席は盛り下がってるな。

 さっきまで互角だった二人が、こうも差をつけられてるんだからな。

 DoGは壁を抉りながらアインを追いかけまわしているし、それにビビったアインは無様にも転んだ。


「ガルルルッ!」


「うわっ、ちょっ、待っ……ぎゃっ!」


 アインは寝転がった状態からDoGの攻撃を三発避けたが、サッカーボールのように蹴られた。

 ……まぁ、そのおかげで体制を立て直して立つことが出来たが……不安だな。


「こうなったら……バーサーク・スマッシュ!」


「【ヴォルフ・スマッシュ】!」


 アインの狂化による高速の連撃と、DoGの高速の拳撃がぶつかり合う。

 両者の武器同士がぶつかり、互角なまでに競り合っていた。

 ……何とか保ててはいるが、アイン……大丈夫なのか?


「んぬぅぅぅ……」


「ガアアア!」


 高速で火花を散らし、単純ながらも迷いのない攻撃が連続でぶつかり合う。

 そうだよ、こう言うのを求めていたんだよ、と客は大盛り上がりだ。

 わーわー歓声が聞こえるし、俺たちも不思議とテンションが上がっていた。


「ガアッ!」


「ぐっ……」


「やはり、武器と拳では……一瞬の隙が生まれるか」


 アインの双鉞の片方が弾き飛ばされて、地面に刺さった。

 それは足を使おうと届かない距離であり、回収は難しいだろう。


「グルァァァ! 【ヴォルフ・ペネトレート】!」


「うおおおおお! パワー!アックス!」


 手刀を突き出し、アインを貫かんと繰り出したスキル。

 凄まじい勢いだが、アインも怯まずに片手の鉞だけで応戦した!


「ガル!」


「せえっ!」


 続く二撃目の手刀による突きを、アインは首の動きだけで避けた。

 そして、カウンターのパンチがDoGの顔面にめり込んだ!


「僕は……今度こそ、勝って!ランコさんたちに希望を繋ぐんだ!」


「グルルルァァァ!」


 アインは恥ずかしげもなくそんな台詞を言い放ち、手斧を取り出してスキルを詠唱する。

 DoGは後ろ脚に力をグググ……と溜め、目を赤く光らせて全身に赤いオーラを纏った……スキルか。



「だから……ここで負けられないんだ! 【バーサーク・スマッシュ・オンリー・ワン】!」


「フルルル……ガアアア! 【ヴォルフ・ブラスター・バーサーク】!」


「ぜえええあああああああッ!」


「ガルアアアアア!」


 DoGの薙ぐように放たれた赤い閃光の蹴り、アインの力を全て込めた右の手斧。

 狂化というスキルから放たれた、同系統のスキル。

 それらはガツン、とぶつかり合うと──


「うわっ……!」


「音がデカいッスーッ!」


「アインくん……」


 爆発が起き、土煙とその風圧は客席にまで及んだ。

 ……直接的なダメージがあるわけじゃないが、爆風を身で感じることは出来る。

 それほどに巨大な煙と風の圧が止むまで……凡そ20秒が経過した。


「あっ……あぁ……」


「……及ばずか」


「でも、スゲー試合だったッス」


「えぇ、ですから……私たちも、立ち上がりましょう、何としてでも!」


 ……DoGの片足を斬り落とすことは出来たアイン。

 だが、両腕を吹き飛ばされたため、もう何もすることは出来なかった。

 逃げ回れば腕も回復はする……だが、アインのHPはもう一割だ。

 逃げ切るのは無理な話だった。


「あぁ……二度あることは三度ある、か」


 アインはギリギリ俺たちに聞こえるであろう声で呟き──

 DoGに心臓部を貫かれ、HPを全損した。

 アバターはポリゴン片となって砕け散り、消滅した。


『先鋒戦! 朧之剣の勝利ーッ!』


『すっごい熱いバトルでしたー!』


 MCとアイドルのコールが終わると、アインは客席に戻って来た。

 肩を落として、申し訳なさそうな表情だ。


「ごめんなさい、お義兄さん、ランコさん……僕……僕……」


 涙を堪え、下唇を噛みながら、アインは嗚咽を漏らす。

 ランコはアインを抱き寄せ、頭を撫で始めた。


「大丈夫だよ、アインくん。私……ちゃんとアインくんの分までこの槍に乗せるよ。

アインくんが頑張った分、私ももっと戦うよ。だから……ほら、泣かないで」


「ランコ……さん……」


 すっかりと仲良しなカップルになった二人だな。

 何があったらこんな風になるか聞きたいが、まぁ……それはいいか。

 今は、ランコの応援をするだけだ。


「ランコ、頑張れよ!」


「勿論! ここまで負けっぱなしなんだし……勝たなきゃ、カッコつかないよ!」


 ランコは俺と拳をぶつけ合わせる。

 ビリビリ……と、ランコの強い思いが伝わって来た。

 ……これで勝って貰わないと、ピンチだからな。

 ユージンたちのためにも、ランコには勝って貰いたい。


『いやぁ、なんかこう……バトルらしいバトルだったよね』


『最後の、こう……打ち合ってる所が、アクション映画みたいで好きでした!』


『あ~、それわかる、僕もそういうの大好きだもん』


 MCとアイドルはアインとDoGのバトルの感想で盛り上がり中だ。

 ランコは準備体操をしてから、闘技場へと続く通路を踏み出した。

 そして、アインは何か深刻そうな顔をしてメニューを開いていたと思うと、ため息をついた。


「どうした、アイン」


「いえ……なんでもないです。ただ、この先も皆さんを信頼していないとな……って」


「へぇ、そっか」


 ……なんとなく嘘ついてるっぽいことはわかる。

 けれども、アインが俺たちを信じたいってのは嘘じゃねえだろう。

 なら、それだけを信じてやればいいだけの話だな。


『さぁお待たせしました! 三回戦第一試合、【集う勇者】VS【朧之剣】!次鋒戦です!』


『次鋒戦、すっごいバトルを待ってまーす!』


 ……と、ようやく次鋒戦が始まるみたいだ。

 先鋒戦の事を長々と話してたな、この二人。


『えー、次鋒戦は……【集う勇者】の【ランコ】!対する【朧之剣】は【CaT】!』


『二人とも可愛らしい名前です!』


 ランコと……その対戦相手、CaTが入場してきた。

 CaTは白いコート身を包み、両手には双剣を持ち、真四角な眼鏡を掛けていた。

 それでいて、無駄に美形……インナーの黒シャツと胸当ても映える映える。

 で、その体に猫耳と尻尾、これじゃねえ! って感じが凄いしてくるぜ。


「悪いですけど、速攻で終わらせます」


「良かろう。かかってくるがいい、お嬢さん」


『それでは試合……開始ぃーっ!』

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