第六十一話:首を洗って待っていやがれよ
『いやぁ……なんて言うか、凄い早く終わっちゃったね』
『なんか、すっごい一瞬で……終わっちゃいましたね』
MCもアイドルも、ここまで来るとコメントに悩んでいた。
まぁ、そりゃそうだよな……観客たちもざわついている。
さっきまで激しいバトルって感じだったのが、一瞬で終わったんだ。
『でも、さっきのスキルのエフェクトは綺麗だったよね』
『あ~、確かにそうですね!キラキラー、ってしてて……ステージの演出みたいでした!』
……流石アイドルと褒めたい。
あんな試合からちゃんと嬉しそうにコメントしてる。
一方で先輩は、ふふんと自慢げな表情だ。
「いったい何のスキル使ったんッスか、N・ウィークさん」
「フッ、秘密だ。本来なら奥の手にするつもりだったが……是が非でも勝たねばならなかったからな」
「……まぁ、N先輩がそうであっても、私とユージンさんはちゃんと残してますからねーっ」
「ね、ねーッス……」
ハルのノリに不慣れっぽそうにノるユージン。
で、アインとランコは……ちょっと肩を落としている。
「……随分大人しいなお前ら」
「そりゃあ、皆さんは奥の手って呼べる必殺技ですけど……僕の残してる手なんて、ちょっとショボいですし」
「私も奥の手はあるけど……出来れば使いたくないもん」
……うーん、この二人はなんか次の試合でも負けそうな気がしてきた。
因みに、俺にもクラスアップを果たしたことで、奥の手はある。
フェニックス・ドライブやフェニックス・スラスト以上の奥の手だ。
ディララにも見せてねえから、まだ秘匿状態だ。
「フ……まぁいい、ブレイブ。お前で決めてこい」
「えぇ、バッチリと決めてきてやりますよ」
先輩は俺の背中をバシッ、と叩いて押し出してくれた。
俺はその声に応え、観客席から控室に転移する。
そして、控室の扉が自動ドアのように開き、俺を出迎えるように光った。
「漢ブレイブ・ワン……まかり通るぜ」
俺は静かにそう呟き、拳をグッと握る。
皆に託された一戦、ここで勝たなくて、何が勇者か。
何がギルドマスターか。
ハル、ユージン、先輩の三人が繋いでくれたこの一度の戦い。
ランコとアインの雪辱を果たすためにも、全力で戦おう。
そう思い、俺はメニュー画面を開いた。
「よし、行くか」
観客席では俺の登場に、期待を込めて歓声をあげるプレイヤーたち。
期待のギルド、と掲示板で騒がれていたことに心躍らせるプレイヤーたち。
大将戦の盛り上がり所を大きくするために、トークを始めるMCとアイドル。
『さぁ、とうとう大将戦です!』
『わ~! 楽しみです!』
このイベントが始まって、初の大将戦。
主催する側も、それを見る側も、やる側も盛り上がりは最高潮だろう。
ならば……俺はその皆の期待と盛り上がりに応え、最高の試合をしよう。
そして、このゲームを最大限楽しんでやろう。
「アンタが俺の相手か」
「へェ、大将がお前かァ、副将よりかァ弱そうだぜェ」
俺の目の前に立つ男は、頭蓋骨を模した兜を被っている。
口元の部分は開き、目の部分は赤く光っている。
武器は……先輩と同じく、両手でも片手でも扱えるサイズの刀か。
「名前は?」
「見りゃわかんだろォ、俺の名は【コフィン】だ」
「へぇ、お菓子みてえな名前してんな。
俺は──」
「【ブレイブ・ワン】、集う勇者のギルドマスターにして、新進気鋭の剣士。
戦闘スタイルは小盾と片手直剣による近接バランス型。
やや脳筋染みた思考を持ち、突撃や真っ向からの斬り合いを好む。
第二回イベントではホウセン、タダカツを討ち取ったことで名を挙げる。
必殺スキルは【エンチャント・スラスト】に【サード・スラッシュ】、【毒撃】」
……ストーカーかよ、コイツ。
と、ツッコミたくなったが、プレイヤーの目撃情報を集めたらこんなもんか。
ややリサーチ不足に見えても、フェニックス系はダンジョンでしか使ってない。
なら、人前で使ったであろう俺のスキルなら知っていてもおかしくはない。
「随分調べたんだな」
「あァ、人を調べるのは面白いからなァ」
「あっそ」
試合開始の合図がそろそろ来る、と言う所で俺たちは互いの武器に手を添えた。
合図が来た瞬間に、全力のスキルを叩き込むためだ。
『一回戦第一試合、大将戦!【集う勇者】の【ブレイブ・ワン】VS【ぷくぷく倶楽部】の【コフィン】!』
「全力で殺してやるゥ」
「そりゃこっちの台詞だ!」
コフィンと俺が鞘から武器を抜き放つと同時に──
『試合……開始ィーッ!』
試合のゴングは鳴り、俺とコフィンはスキルの詠唱を始めた。
コフィンは抜いた刀は月輪のような装飾が施され、刀身が真っ黒だ。
対する俺が抜いた剣は。
「おいおいなんだよアレ!」
「刀身がねえ剣なんてこのゲームにあったか?」
「いや、魔法剣とかじゃね?」
「でもアイツガチガチの近接ビルドだろ」
フェニックス・ブレード。
炎の刀身を出さずにスキルの詠唱をしているおかげで、観客席はざわついている。
……っつーか、魔法剣って何?とツッコミたい所だが、今は我慢だ。
「【拾ノ太刀・弧月】」
「【ブレード・ショット】」
月が弧を描くように、横薙ぎに刀を振るうコフィン。
それに合わせて俺が放ったのは、フェニックス・ブレードの炎の刀身を飛ばすスキル。
本来なら持っている武器をロスト……言わば壊して使うスキルだ。
だが、フェニックス・ブレードは元々刃がないおかげか、このスキルを使っても壊れない。
炎の刀身がすっ飛んで行くだけで、こっちには何の影響もない。
「うお」
「チッ」
コフィンは何とかスキルを放った状態から屈んで、炎の刀身を避けた。
だが、俺は奴の太刀を盾で受け止めたとは言えど……ダメージは殺しきれてない。
僅かながら、俺のHPを減らしている。
……まぁ、自然回復ですぐに治るレベルだからどうとでもなるんだけども。
「面白れェスキルじャねェかァ」
「褒めてくれてサンキュー、じゃあお代わりもくれてやるよ」
俺はフェニックス・ブレードの炎の刀身を出し、スキルの詠唱を始める。
コフィンは俺のスキルに合わせてカウンターでも撃つつもりか、刀を居合に構え始めた。
「来たな馬鹿がァ」
「その台詞、文字通り打ち返してやるよ」
俺は剣を思い切り振る──
という具合に振りかぶって見せた後、全力で後ろに跳んだ。
「はァ!?」
コフィンは俺の攻撃に合わせてカウンターを放つつもりだったろうが……
その攻撃は空を切ってしまい、隙を晒していた。
「フェニックス・ドライブ!」
「チィッ、属性剣かァ……ライトニング・ブレイド!」
俺の放ったフェニックスに、コフィンは雷を帯びた刀で相殺を狙う。
だが、フェニックス・ドライブの欠点であり利用できるポイント。
それは、距離が離れれば着弾までが若干かかる。
だからこそ、俺はこのスキルを使えるわけだ。
「ブレード・ショット!」
「ぐっ!」
コフィンの放ったライトニング・ブレイドはブレード・ショットとぶつかり合う。
まぁ、ブレード・ショットは属性剣と大して威力こそ変わらない。
だから相殺が出来ただけで、十分すぎる!
「二撃は無理だろ?」
「チッ、ブリザー……ぐはぁっ!」
コフィンは何かまたスキルを出そうとしたが、間に合わずに吹き飛んだ。
まぁ、フェニックス・ドライブの着弾寸前に合わせてブレード・ショットを放ったんだ。
二連続で属性剣を出すか、俺みたいに盾と剣を両方とも扱えなきゃ止められねえさ。
「中々やるじゃねェかァ……」
「お、今の耐えたか」
「たりめェだ、PKする側が一撃で死んでたまるかよォ」
「じゃ、二撃三撃はどうだ?」
俺はフェニックス・ブレードを大上段に構え、スキルの詠唱を始める。
よし……向こうはスキルの詠唱をせず、刀も抜かずに突っ込んできた。
凝りもせずに居合スキルを放つんだろうが……簡単にやられやしねえぜ。
「捌ノ太刀・地擦り斬月!」
「サード・カウンター!」
刀を地面に擦る限界まで屈んだ状態から、斬り上げを放ってくるコフィン。
それに対し、俺は剣道で竹刀を振るように、フェニックス・ブレードを振り下ろす。
ガチィンッ……とどうやって鳴ったのか不明な金属音が互いの剣から響く。
……コイツ、カウンターに合わせて体の角度を変えやがった。
PK特化ギルドってだけあって、判断力はズバ抜けてやがるな。
「甘ェなァ、カウンターくれェ見慣れてんだよォ」
「生憎、俺も刀スキルは見慣れてるぜ」
俺は再度フェニックス・ブレードを大上段に構え、スキルの詠唱を始める。
懲りずに同じことを繰り返す馬鹿と見られるか、それとも策があると見られるか。
相手の実力がわかっていない以上、やや博打に近いが……試すしかねえ。
「ヘッ……弐ノ太刀・十文字―」
「くらえ!」
「甘ェ!」
俺はコフィンが突っ込んでくるタイミングに合わせ、コフィンの死角に出しておいたフロートシールドを動かす。
だが、コフィンはそれを察知していたのか、飛んでくるシールドを俺に向けていたスキルで斬って落とした。
……マジかよ、ヴラッドの時みてえにはいかねえのか。
「ヘッ、そんな手くれェ誰でも思いつくぜェ」
「ま、そうだろう―なッ!」
俺は刀を振り終えた姿勢のコフィンに向けて、突進する。
コフィンはすかさず刀を守りの構えに取るが、俺が使うのは。
「オラァッ!」
「丸見えだぜェ!」
「シッ!」
「グッ……!?」
左拳で振りかぶったパンチを放ち、直後に右の回し蹴り。
武器ですらない通常攻撃だが……俺の場合は、通常攻撃の威力がアップするパッシブスキルがある。
故に、回し蹴りでもしっかりとしたダメージは入る。
「チィッ……」
コフィンは蹴りを受けても、直ぐにバク転して下がり、武器を構え直す。
「オォォォ……」
コフィンは緑色のオーラを纏い、刀を水平に構えた。
……属性剣、それも俺たち使っているような、遠距離にも対応出来る奴とは違う奴か。
自身のアバターをシステムによって強制的に動かし、突撃するスキル。
スキルのカテゴリとしては、【ラッシュ】に分類される。
因みに俺の持つスキルだと、フェニックス・スラストとかがそれに該当したりするな。
当然、システムによるアシストがあるわけだから……威力も凄い。
俺に直撃したら……一撃は耐えられるだろうが、それでもダメージはデカいだろう。
「行くぜェ! 【カマイタチ】!」
だが。
「サード・カウンター!」
「がっ……ハ……」
軌道は至ってシンプル、直線的な攻撃だ。
システムアシストのせいで、直角に曲がることすら許されない。
無理矢理曲がろうとすればスキルは解除されてしまう。
だから、軌道がわかっている以上、後はタイミングだ。
リアルでいつも先輩が出すような、『音を置き去りにする太刀』……
それに比べれば、AGI特化でもない奴のラッシュなんて、止まって見えるぜ。
「さて、焼却処分だな」
「ぐ……」
しかも、ラッシュをカウンタースキルで返されると、スキルの効果は自分に返ってくる。
故に、コフィンの放った風属性ラッシュスキル、カマイタチの効果……
受けた相手の数秒の硬直、それが見事なまでに入ったな。
「これで終わりだ……咆哮!」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!』
俺の声を模した、けたたましいサウンドエフェクトが闘技場全体に響き渡る。
観客席にもそれはビリビリと聞こえたようで、観客たちも歓声をあげ、盛り上がったようで何よりだ。
と、俺はそう考えながらSPポーションを飲み干す。
折角のイベントバトルなのだから、映える技で終わらせてやらないと、負けた側も可哀想だろうしな。
「フェニックス・スラスト!」
燃え盛る剣から放たれた、一点集中の炎の剣。
俺の背中には炎の不死鳥の姿が大きく映り、更なる盛り上がりを呼んだ。
と、言う所で……咆哮によって動けなくなっていたコフィンはポリゴン片となり、砕け散った。
『大将戦!集う勇者の勝利ーっ!と言うことで、一回戦第一試合の勝者は、【集う勇者】!』
「いよっしゃああああああああ!」
俺はガッツポーズを取り、専用観客席にいる先輩たちを見る。
すると、彼女たちもピョンピョンとジャンプしながら全身で喜びを表していた。
『いやー、一回戦から凄い盛り上がったねぇ~……』
『はい、私もうすっごい興奮しちゃって……』
『一回戦でこれってことは、二回戦、三回戦、決勝戦が楽しみだね~!』
『すっごい楽しみです~!』
よしよし、MCとアイドルも盛り上がって喜んでるみたいだ。
後で知ったことだが……何やら、このイベントはネットで配信されているらしい。
だから、こうして映えるスキルで決めたりすることは、視聴者からの投げ銭が増えるんだとか。
……ま、今の俺はそんなことを知る由もなく、六人で勝利を喜んでいただけだった。
そして、次の対戦相手は……【メイプルツリー】。
あのたった二人だけの状態から、新たにメンバーを集め、俺たちに対抗するまでになったか。
なら……首を洗って待っていやがれよ、カエデ。
プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン
レベル:60
種族:人間
ステータス
STR:80(+80) AGI:100(+95) DEX:0(+20) VIT:40(+135) INT:0 MND:35(+100)
使用武器:フェニックス・ブレード、小鬼帝の小盾・改
使用防具:龍のハチガネ・改、小鬼帝の鎖帷子・改、小鬼帝の鎧・改、小鬼帝のグリーヴ・改、ゴブリンガントレット、魔力ズボン・改(黒)、回避の指輪+2