第五十九話:重すぎるッスーッ!
『いや~、先鋒戦は正に大逆転でしたね~』
『あんなピンチの状況から巻き返せるなんて、私感動しました!』
台本でも読まされてんのか、と言うくらいテンプレ染みた台詞。
MCたちの席の真正面にあるモニターには、集う勇者とぷくぷく倶楽部の名前、そして刻まれる0-1のカウント。
……まぁ、まだ一度は負けるチャンスがあるが……あと二回負けたらおしまいだ。
「ランコ! 負けるんじゃねえぞ!」
「うん!」
転移で控室へと向かうランコの背中は、少し頼りない。
だが、それでもランコに頼らなきゃ負けてしまうかもしれない。
ならば勝って貰わないと、最悪俺の出番がないまま終わる。
「ごめんなさい、お義兄さん……僕、負けちゃって……」
「仕方ねーよ、アイン。あの状況なら俺でも引っかかってたって」
「そうッスよ、アインくんは二回戦で活躍すればいいんッスから!」
肩をすぼめて落ち込むアインに、俺とユージンは慰めの言葉を掛けるが、先輩とハルはランコの相手の方を凝視していた。
で、MCとアイドルの子の語らいが少し続いたかと思うと……ランコとその対戦相手が出て来た。
今度の相手もハタンと似たような格好をし、黒いぼろきれのようなローブに白い仮面だ。
持っている武器は……まだわからないが、戦闘スタイルもササンと似てると見ていいか。
『一回戦第一試合・次鋒戦! 【集う勇者】の【ランコ】と【ぷくぷく倶楽部】の【ササン】!』
「頑張れよ、ランコ……!」
『それでは、試合……開始ィーッ!』
『頑張れーっ!』
先鋒戦と同様の掛け声と共に、試合の火蓋は切って落とされた。
ササンは懐から……やはりハタン同様に短剣を取り出した……が、ハタンよりかはデカい。
ランコの蜻蛉切を相手にして戦えるようなサイズではないが、あれは投擲用じゃあねえな。
「せあっ!」
最初に動き出したのはランコ、真っ直ぐに槍で突きを放つ。
が、当然……器用貧乏なランコの攻撃じゃササンには当たらなかった。
ササンもハタン同様にAGIの高いステータスだろうし、ランコの攻撃は簡単に当たるもんじゃない。
「……僕の時と似た感じになってますね」
「まぁ、ちょっと違うけどな」
アインがランコを見ながら悩ましい顔をしているが、ホントに悩ましい。
だって、ランコの攻撃はアインのような鋭さはない。
だからハタンと戦った時のアインのように、攻撃に転じることの出来ない連続攻撃ってわけじゃない。
現に、ササンの反撃がチマチマとランコの肩やら腕をかすめてしまっている。
「くっ……乱れ突き!」
「フ、フフフハハハハハッ」
ランコの乱れ突き……まぁ、メジャーなスキルだ。
そんなもん、槍を使う奴なら誰だって習得しているだろう。
だから、ササンも俺と同じで、軌道を読めるんだろう。
乱れ突きはランダムな突きなわけじゃないしな。
「セカンド・ジャベリン!」
「【セカンド・スロー】」
ランコが続けざまに投擲した槍を、短剣の投擲で相殺……はしきれず、ランコの槍が押し勝った。
だがササンは、ランコと違って武器を投擲するとノータイムで動き出していた。
「とぅぉぁっ!」
「くあっ!」
瞬く間に斬撃が交差すると、ランコの左肩が切り裂かれていた。
……すんでの所でランコは避けたんだろうが、それでも……ランコには十分なダメージだ。
何せランコは器用貧乏なステータス、防御力も俺ほど高いわけじゃない。
……ダメージカット系のパッシブスキルは覚えてるだろうけどさ。
「フハハハ……【ポイズン・ショット】」
「風車!」
ササンは左腕に隠し持つようにつけていたボウガンを発射した。
ランコはすぐに対応するが……
「攻めと受けが入れ替わったな」
「こりゃ負け試合ですね」
「もう少し希望を持ってくださいよ二人とも!」
「そうッスよ!これでランコさん負けたら、次の責任が滅茶苦茶重くなるッス!」
……いやー、こりゃ無理だろ。
ササンはランコの攻撃を凌ぎながらでも反撃する余裕を見せていた。
だが、ランコは攻撃を捌ききれずに、チマチマ攻撃を受けている。
形成は完全にランコが不利だ。
そもそも、ランコ自体対人戦闘も不慣れだからな。
リアルで剣道を教えていても、そっちはまだ素振りしか教えてねえからな。
だから、余程の隠し玉でもないと相手の意表はつけないだろう。
「こんのっ……五月雨突き!」
「そんなものか」
ランコの放った五月雨突き……すげえことに、ササンはそれらを掻い潜ってランコに肉薄した。
俺でも出来ねえ芸当をやってのけるあたり、実力はリンと同等クラスと見てもいいな。
……先輩は『私ならあれくらい朝飯前だ』って顔で見てるけど、アンタホントに味方だよな?
「ブ、ブレイブさん! ランコさん勝てるッスよね!?」
「……いやー、どうだろうな」
「ハッキリして欲しいっす!このままじゃ俺泣くッスよ!?」
「じゃ泣いてろ」
「この人でなしいいいいい!」
「黙れ」
泣きだし始めたユージンの頭に拳骨が落ちた。
……うん、理不尽な気もするけど、まぁいいよな。
って、それよりもランコ……うん、ダメダメだな。
「ライトニング・スピア!」
「ヌルいわ」
ランコお得意のスキルもあっさりと躱され、ランコは最早遊ばれている状態にあった。
……でも、先輩とハルはなんで『それでいい』って顔をしてるんだ?
二人はランコの今の状況に満足しているというか、むしろランコを褒めてるんじゃないかってくらいだ。
「くっ……仕方ないか……」
ランコは肩で息をしながら、蜻蛉切を地面に突き刺した。
……すると、両腕をクロスさせた。
何かの新しいスキルか。
「【バトルスイッチ・ランサーモード】」
ランコはクロスさせた腕を放つように、思い切りのけ反った。
すると──
「行くよ」
ランコは蜻蛉切を片足だけで跳ね上げ、片手でキャッチした。
すると、ランコは今まで出したこともない速度で、ササンへ肉薄した。
……俺は急いでメニュー画面を開き、ランコのステータスを確認する。
「げっ」
あの器用貧乏の塊のようなステータスをしていたランコが、凶変していた。
攻撃力と素早さに特化し、他のステータスは低めになっている。
……っつーか、AGIに至っては俺とも並ぶくらい高くなってんじゃねーか。
「あんなスキルを習得していたとはな……だが、それで良い」
「私も初耳なスキルです、だから意表はつけてますね!」
「俺だって聞いたことないッスよ、なんスかあれ!」
三人揃って驚きの表情を見せる中、アインはワクワクとした表情をしていた。
そして、ランコが本気を出したように見えるこの光景は、観客たちにも熱狂を与えていた。
「ふっ!」
「むっ」
すると、ランコは今までの倍以上の速度でササンに突きを放った。
うん、アイン以上の速度の攻撃……これこそ、特化ステータスの凄さって奴だな。
ササンは何とかランコの攻撃を避けてこそいるものの、さっきまでの余裕はない。
ランコもステータスが上がったおかげか、今までにない動きを見せている。
「乱れ突き!」
「これは……」
ササンもランコの攻撃を避けるのが難しくなってきたのか、反撃のタイミングを失っている。
……これなら、ランコにも勝機が見えて来たな。
「ランコさーん! 頑張ってーっ!」
「そうッスー! 一勝をもぎ取ってくれッスー!」
ユージンとアインが身を乗り出さん勢いでの声援をランコに送る。
すると、ランコのギアは更に上がったかのように、突きの速度が増していた。
……単純な奴だなぁ、ランコ。
だが、その単純さが、ササンを少しずつでも追い詰めている。
まだまだ攻撃の手段としては微妙だが、石突による打撃や蹴り等、槍の穂先以外の攻撃も出来ている。
「たぁっ!」
「むっ、ぐっ……」
ランコは槍の石突による突き上げをササンの腕に命中させ、穂先を地面に刺す。
そして槍を軸に回ったランコの蹴り、そのまま振り下ろされる槍。
攻撃を何とか武器で受けても、HPの減りは抑えられずにノックバックするササン。
「これで……決める!」
「むぅぅ……」
いつの間にかササンは壁際へと追い詰められ、ランコのスキルの射程内に入っていた。
そして、ランコは槍の投擲の構えに入っていた。
「はぁぁぁ……」
「舐めるでないわ……」
ササンもスキルの詠唱に入り、右腕を赤黒く染めていた。
あとは……単純な力と力のぶつかり合いか。
ランコは槍をバトンのように回転させ、一度真上に放り投げる。
そうして落ちて来た槍をキャッチし、槍に溜めたエネルギーを、穂先に集中させ──
「【流星槍】!」
対するササンは、赤黒く染めた右腕を、異形と呼べるほどに伸ばした。
腕の長さだけで3メートルはあり、元の姿と相まって不気味さはすさまじい。
「【ハートクラッシュ】」
二人のスキルが同時に放たれた。
だが、そのスキルはぶつかり合うことなく、交差した。
「え!?」
「スキルが交差した……? なんッスかあれ!」
アインとユージンが驚きの声を上げる中、俺たちは固唾を飲んでいた。
ササンの放ったハートクラッシュ……は、異様に伸びた右腕がランコの胸部を貫いた。
綺麗に血のエフェクトまで飛び散り、ランコの貫かれた胸からは臓器が出ていた。
……人体模型とかで見たことあるような、如何にもな心臓。
ササンの腕はそれをぐしゃっ、と握り潰した。
その途端に、ランコのHPはゼロとなった……つまり、ササンの放ったスキルは即死スキル。
「そんな……」
「でも、ランコさんのスキルだって!」
ユージンが言い終わる前に、ササンもHPはゼロとなっていた。
……ランコの流星槍は、キッチリとササンの胴体をブチ抜いていた。
流石流星シリーズ、威力と範囲は本当に凄いもんだ。
「あ……」
「ぐ……」
ランコは倒れ、ササンは砕け散った。
二人のアバターはポリゴン片となって──
『次鋒戦、引き分けでーす!』
『わぁ~! ビックリです!』
気の抜けたようなMCの声と、驚くアイドルの声が、試合の終わりを告げていた。
……だが、引き分け。
引き分けならば、まぁ満足できる結果だな。
これなら、一度の負けの猶予を残せてはいる。
「……次、俺たちッスよね……」
「ですね」
顔が青ざめて膝がガクガクに震えているユージンと、すました顔のハル。
……二人を足して二で割れたらいいんだけどな。
「張り詰めるなユージン、あと一回は負けても問題ないのだ」
「そうですよ、仮にあなたが役立たずでも私一人でどうにかしますから」
「うわああああああ! 励ましになってないッスー!」
頭を抱えて、半泣きになるユージン。
……っつーか……よく帰って来たランコの事をスルー出来るな、先輩。
勝ちではなく、引き分けと言う結果を持って帰ってきてしまったランコは、アインに抱き着いていた。
……と言うよりかは、アインがランコを抱きしめて、慰めていた。
「ごめんね……アインくん……あんなに、応援してくれたのに」
「いいんです、ランコさん……僕だって負けちゃったんですから。
だから……ユージンさんたちに、あとを託しましょう」
「お、お、重すぎるッスーッ!」
緊張のあまりに地団駄を踏みだしたユージン、呆れるハルと先輩。
泣いているランコ、慰めるアイン。
そして、どうすればいいかわからず、ポカーンとしている俺。
……大丈夫、だよな、このチーム。
プレイヤーネーム:ランコ
レベル:60
種族:人間
ステータス
STR:43(+75) AGI:43(+70) DEX:43(+30) VIT:42(+45) INT:42(+37) MND:42(+45)
使用武器:真・蜻蛉切 マジックガン
使用防具:技の髪飾り 技のジャケット 真・マジックノースリーブ 技のスカート 真・怪力の手袋 真・疾風のブーツ 技のネックレス+2




