第五十二話:ブレイブの発言は0点
「ここは中庭みたいッスね……漫画とかで見たような景色ッス」
「気をつけろよ、中庭と言ったらトラップの宝庫みてえなもんだしよ」
「先輩は、このダンジョンに侵入したことがあるんですか?」
「いや、ただゲーマーの勘みてえなもんだ。広い場所は罠が多めってな」
俺は割と長めにゲームをやっているので、大体ダンジョンのテンプレ的な罠はわかる。
広い場所なら、そうだな。地雷タイプの罠、つまり踏んだら何か起きてしまう奴。
もしくは落とし穴、ワイヤートラップ、死角からの刺客……こう言うのは、VRゲームなら結構多いハズだ。
「ま、罠だなんだろうと、サクッと進んで行っちゃうッスよぉ!」
「おいユージン、足元には注意して──え」
そう、こんな風に。
ずんずんと先に進んでいこうとするユージンを注意しようと、足元を注意しない俺。
それを嘲笑うように発動する、地雷型の罠。
中庭に生えている雑草の色が微妙に違うので、そこさえ踏まなければ良かった。
だが、俺は足元不注意で運悪くソレを踏んでしまった。
「ほがあああああああああああ!」
ちゅどーん、と派手なサウンドエフェクトと共に俺は吹っ飛んだ。
そして空中で三回転しながら落ちて、先輩の腕の中に落ちた。
あらやだ先輩、落ちて来た俺をお姫様抱っこなんて……!
「降りろ」
「ふべ」
冷ややかな目と共に、先輩は俺を地面に叩きつけるように下ろした。
まぁ、散々罠に注意しろって言った奴が罠かかったんだもん。
そりゃあ信頼できなくなるよな。
「もう兄さん、次からは気を付けてよ? あれだけ他人に注意を促しておいて自分で罠にかかるとかさ……間抜けすぎて、人様には見せられないからさ」
「お前リアル戻ったら覚悟しとけよ」
だがランコ、お前は別だこんにゃろう。
罠に注意こそしていても、完全に対策出来てるわけじゃねえんだっての。
それに、ユージンがあんなひょいひょいと進んでいたら、あんな風になるだろ。
「まぁ、俺がちょっと急ぎ過ぎたッスね。
ほらブレイブさん、これ飲んで元気出してくださいッス」
「あぁ、悪いなユージン」
ユージンは申し訳なさそうに頭をぼりぼりと掻くと、HPポーションをくれた。
のでありがたく飲み干し、HPを回復する。
「はぁ……全く、地雷程度……どうとでもなるだろう」
「うわっ、と、Nさん?」
先輩は俺たちに呆れた様子でディララの腹に手を回し、脇に抱えた。
……何をするつもりなのか。
「スキルの応用だ」
先輩は俺たちの心を読んだかのような事を言って──
ジャンプしてから居合の構えを取った。
「【居合・閃】」
すると、居合の状態から刀を振りぬいた先輩が屋敷の玄関前に着地していた。
……あぁ、空中でも発動すれば一直線に突き進むスキルなのかあれは。
だから地雷を踏むことなくして……クソっ、ズルいな。
「ディララは地雷にかかると即死しかねないからな。
こうして保護したが……お前たちは地道に頑張ってこっちまで来い」
「N先輩、随分とケチですねー」
「ん?どうやらハル、お前はどうやら自信がないようだな。
その防御力と素早さを持ってもか……フフフ」
先輩に向かって文句を垂れるハルに、先輩は不敵な笑みを浮かべて挑発していた。
一触即発の仲だ、この二人。
「はー、仕方ねえ……ここは、リーダーの俺が手本見せますかね」
イライラしているであろうハルたちのために、俺が一肌脱ごうじゃないか。
と言うことで俺は──
「諸刃の剣! 超加速!」
ここ最近、経験値増加アイテムを利用したレベルを上げ続けたことで俺のレベルはもう50だ。
そしてステータスポイントはAGIへ割り振り続けた……故に、俺のAGIは丁度装備抜きで100であり、超加速をようやく習得したわけだ。
諸刃の剣とそれを組み合わせた俺。
「……まさか、こんな脳筋プレイを見せられるとは思いませんでしたよ、私」
「うおおおおお! いぃぃっくぜえええええ!」
俺は一直線に玄関の扉まで駆け抜けた。
勢い余って、玄関の扉にバーン! と大きな音を立ててぶつかってHPを減らしたが……まぁ、それだけなので致命傷じゃない。
俺は地雷を何個も踏み抜いて爆発させたけど、地雷自体のダメージは受けていないからだ。
爆発するよりも速く走り抜ける、シンプルイズベストな攻略方法だぜ。
「どっ、どうだぁ! AGIを上げるスキルは、時にこうやって使えるんだぜ!」
「よっし、なら俺も……参考にしてみるッス! うおおお! 超加速!」
ユージンも俺に倣ったかのように超加速を使い、凄まじい速度で走って来た。
だが、ユージンは俺と違って高い防御力を素早さに転換出来ないはず──
と思っていたら、ユージンは的確に地雷がある位置を割り出していたのか、地雷がない部分だけを進んできた。
あんなに速いのにも関わらず、ちゃんと制御出来てるのがすげえな。
俺は加速までなら何とかなるが、超加速は諸刃の剣と併せて使うともう制御出来ねえ。
一直線に動いてしまうから、力を持て余したパワー系の馬鹿みたいになる。
「さて、残りはアインにランコにハルか……フフ、一人だけなら私が連れて行ってやってもいいがな」
「うっわー……先輩意地悪ですね」
「この程度のトラップを突破出来ずで、この先に行くことは出来ないだろう?
ならば……その力を、今ここで推し量る時だ」
「実に合理的な考えです。
流石、集う勇者のサブマスターですね」
先輩の判断に、ディララは眼鏡のツルを押さえながら先輩を褒めていた。
うーん、プレイヤーごとに向き不向きがある以上、こんな風にしなくてもいいと思うんだけどな。
でもまぁ……あの三人がどうやってここを突破する? って聞かれたら気になるんだよな。
「じゃあ、私はッ!」
「うお!? ハルさん何やってんッスか!?」
「あー、結構危険な奴だけど……ハルのステータスでなら正解だな」
ハルは盾を真下にするように倒れ込み、地雷を発動させる。
そうして地雷の爆発で高く吹っ飛んだかと思うと、前に落ちるように空中で回る。
地面に落ちる寸前に盾を構え、もう一度地雷を爆発させる……うーむ、ハルの高い防御力だからこそ成しえたものだけれど、普通にやったら死ぬだろ。
俺なら大体三回やって溶けるぞ。
「ふぅ……ギリギリですが……なんとか辿り着けましたね」
「自分のステータスに見合った攻略法を見つけるのも、プレイヤーとしての腕前だ」
先輩はそう言いながらHPポーションをハルに投げ、ハルはそれを口でキャッチ。
犬かお前は……とツッコミたくなるのを堪えつつ、アインとランコの方を見る。
ハルがポーションを飲んで回復している間も、俺たちのバフが切れた時も。
アインとランコは攻略法が浮かんでこないのか、焦った顔だ。
「アインくん、私にはわからないんだけれどどうすればいいかな……」
「僕も今、ランコさんに同じこと聞こうと思ってました……」
うーん、この二人は流石に無理……かもしれねえな。
アインとランコは特別AGIが高いわけでもないし、VITも微妙な値だ。
ハルはディフェンス・コネクトを使うつもりは微塵もないみたいだし。
どうすりゃあいいんだ、コイツは……と、俺たちまで悩み始めた所で。
「確率は低いけれど、やるだけやってみるか……」
アインはそう呟いたと思うと、いきなり装備を全解除した。
おかげでインナーだけの姿に……と思ったら、一つだけ違う斧を装備していた。
長い鎖と分銅が手斧とくっついていて、モーニングスターに近いものを感じる。
「いくぞ……アックス・スロー・オブ・バーサーク!」
装備による恩恵が働かないからか、アインはアックス・スローの上位スキルを放った。
一直線に回転しながら飛んでくる手斧は、俺の足元にガンッ!と刺さった。
あぶねえじゃねえかこの野郎。
「よし……」
「あり?」
よく見ると、アインが投げた斧はいつものエネルギー状の斧じゃない。
アインが装備していたモーニングスターみてえな武器の方の斧だ。
「ブレイブさん! その斧にある鎖を……全力で上の方に引っ張ってください!」
「え」
アインのまさかの頼み、俺は一瞬固まった。
先輩とハルの方を見ると、二人は親指を立てた。
あぁ、やってもいいよってことね。
「可愛い義弟からの頼みとは言え……一回だけだからな!」
俺は斧の柄についている鎖を掴み──
「諸刃の剣! 加力!」
そして!
「うううううおおおあああああああああッ!」
脳がショートするんじゃないか、と言う程にアバターへ力を込めた。
唸れ、俺の脳みそパワアアアアア!
「う、うわああああああっ!」
「せえええいやあああああっ! くたばれゴルァァァァァッ!」
「わあああ!」
俺は分銅にガッチリと捕まっていたアインを玄関の扉にバガァンッ!と、言うほどドデカいサウンドエフェクトを響かせる威力で叩きつけた。
アインのHPは……防具がないせいでゴッソリ削れたが、死んでないからいいだろ。
「ふぅぅ……なんとかなったぁ……」
「一人じゃ絶対無理な攻略法だけれど……仲間がいるって状況ならではの考えだし、まぁ及第点だな」
「ブレイブの発言は0点だがな、仲間に向かってくたばれとはなんだくたばれとは」
俺がアインを褒めていると、先輩からは手厳しいお言葉が。
仕方ないだろ、俺だって言いたくて言ってるわけじゃねえし。
ただ、力を込めると俺の口が悪くなるだけだ。
……ん? なんか声が聞こえるな。元から悪い? 馬鹿言ってんじゃねえよ。
「うー、あとは私だけかぁ……」
ランコは困ったように嘆き、その場に座り込んで考えているようだった。
……助けに行ってやりたいが、超加速のクールタイムはまだ終わっていない。
ディララもハルも俺と同じ気持ちだろうが、先輩がそれを許してくれてない。
が、俺も見たいという気持ちはある。
ランコがどんな機転を利かせるのかとかな。
ただ、妹故に助けてやりたいと思う心もあるので、俺は板挟みだ。
「アックス……」
「やめておけ、過度な助けは本人のプレイヤースキルの向上に繋がらん」
「でも!」
アインは俺たちと違って、行動に移そうとしていた。
だが先輩がアインの手を遮り、アインは納得がいかないという顔をしていた。
……アインのやった抜け方も、俺みたいなSTRのある仲間ありきだからな。
だから、アインも助けてやりたい気持ちがあるのはわかる。
だが、仲間を利用するのと……仲間にただ助けて貰うってのは違う。
「アイン、お前はブレイブを利用した。それに何ら問題はない……だが、お前のやろうとしていることはただランコを楽させるだけだ」
「……はい、ごめんなさい」
アインは先輩の言葉に反論する様子もなく、大人しく防具を装備し直していた。
まぁ、まだ小学生と言うのなら、納得のいかないことをそう簡単に受け入れるのは難しいよな。
「よし……手当たり次第……かな!」
「どうやら、ランコさん動くみたいッスね」
ランコは何を決め込んだのかと思うと、蜻蛉切を構えた。
……嫌な予感がしたので、俺はすぐさまスキルを唱えた。
流星剣と同じ時期に習得したスキル……ダンジョンじゃ使う機会は少なかったな。
「流星盾!」
「どうしたんですか、ブレイブさん」
「下がってろ、下手に巻き添え食ったらお前は死ぬから」
ディララは頭にクエスチョンマークを浮かべて俺に聞いてくるが、先輩は腕組してるだけだ。
ユージンは流星盾をツンツン突いたりしていて、ハルは盾を構えている。
恐らく俺の流星盾が壊れた時のためのスキル詠唱……と見ていいな。
「ファスト・ジャベリン! セカンド・ジャベリン! サード・ジャベリン!」
「やっぱりか!」
ランコは片っ端からスキルを発動させ、槍特有の遠距離攻撃で地雷を発動させまくり、どんどん爆発を起こして、安全地帯を作っていた。
確かに地雷がなくなれば、その場所は安全と見てもいいけれど……恐ろしくダイナミックな方法だ。
爆発の影響とか、たまに外れたスキルが流星盾に当たってんじゃねーか。
流星盾がなかったら、ユージンとディララが死んでた可能性があったぞ。
「ふふっ……どう? 兄さん!」
「まぁ、地雷の母数を減らして踏みにくくするのはありだけどよ」
「ちょっと、SP使い過ぎなんじゃないッスかね?」
「でも、ランコさんはSPの量が一番多くて回復も早いし……」
男三人でそれぞれ感想を述べたりしていると、先輩は親指を立てていた。
あぁ、グッドなのね……先輩的にはグッドだったのね。
まぁSPなんてすぐ回復するもんだけどさ、スキルばっか使うと武器の耐久力も心配になるんだよな。
つまりこの理論で考えると、ハルの方法も結構装備に負担をかけているわけだし……一番現実的だったのはユージンか俺だったってことになるな。
「まぁ、各々の攻略法を見れて私は満足した。
では、次に進むとしようッ!」
先輩は玄関の扉を蹴りでブチ抜き、そのまま歩き始めた。
……相も変わらず扉蹴っ飛ばすの好きだなー、この人。
プレイヤーネーム:ランコ
レベル:50
種族:人間
ステータス
STR:40(+75) AGI:40(+70) DEX:40(-5+20) VIT:40(+45) INT:40 MND:35(+45)
使用武器:真・蜻蛉切
使用防具:技の髪飾り 技のジャケット 真・マジックノースリーブ 技のスカート 真・怪力の手袋 真・疾風のブーツ 技のネックレス+2