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第四十九話:ダンジョンクリア

『ぐぅっ……ぅぅぅああっ……』


 燃え尽き、HPを全損したヴラッドは元の姿に戻った。

 ……と言っても、心臓に穴が開いて全身が焼け焦げた姿だ。

 服も上半身はもう跡形も残っておらず、下もボロ雑巾同然。


『この……我が……かつて、数千年も世界を支配してきた我がっ……敗れるとは……』


 致命傷を受けたというのに、割と元気そうだなコイツ。

 まぁ、元気であって欲しくはないんだけどな、こっちはもう限界だし。

 次に立たれたら、多分俺たちは全滅する。


『異界には……我をも凌ぐ……者がいたか、ぐぅっ……』


 ヴラッドはフラフラと千鳥足だったのが、とうとう膝をついた。

 ちょっと……いや、かなり粘るなコイツ。


『人の子らよ……儚き命を持つ貴様らが……この先の世界を……作れると思うな……』


 ヴラッドは俺を指差し、眼光だけで人を殺せるんじゃないかってくらいに睨んできた。

 ……クイーンウィッチもそうだったけど、何で俺を見て睨むんだよ。

 エクストラシリーズがあると、喋るようなボスとの戦いは何か変化が起きるのか?


『常々……貴様らの後ろには……魔がある……それを、努々忘れるな……』


 最後は含み笑いと共に、俺を指差したまま……ヴラッドは前のめりに倒れた。

 ……経験値は凄い量だな、全員レベルアップしたし、GもCPも膨大だ。

 7人で分けたとは思えない程の量、流石は最新のダンジョンだ。


「うーっ、疲れたぁ……くへぇ」


 カエデはバタン、とその場に寝転がった。

 スティーブンとゾームーも、何も言わずその場に寝ていた。

 ランコとアインは……背中合わせで座っていた。クソッ、リア充め。


「ディララ」


「どうかしましたか。ブレイブさん」


「いや、サンキューな……さっきの」


「いえ、トドメを譲って貰って何よりでした。

丁度良いドロップアイテムも手に入りましたし……それより、マスターにメッセージを送らなくても良いのですか?」


「あぁいけねっ、忘れてた……!」


 そうだ、冷静に考えたら俺たちは勝負をしていたんだった。

 ダンジョンをクリアしたと言うことを、早くアーサーに伝えねえと。

 と、俺はメニュー画面からメッセージの欄を開き、アーサーの方へメッセージの入力を始める。


『ダンジョンクリアした、そっちはどうだ』


「……よし、帰るか」


「はい、帰って感想会でもしたいですね」


「SBOでも、美味しいものがあるみたいだしね……折角だし、楽しんじゃおうよ」


 俺はメッセージを送信し、奥の方に立っていた帰還用の魔法陣に向かって歩く。

 疲れた顔をしながらも、アインとランコも……無言ながらも、スティーブンたちもついて来た。

 あぁ、今回のダンジョン攻略はかなりギリギリだったが……楽しめたものだった。

 正直……もう一度行ってもいいくらいだな、経験値と金の入りが美味しいしな。

 ……と、そんなことを考えながら、俺は王の騎士団のギルドホームへと帰着したのだった。

 帰還用魔法陣に乗ってダンジョンの外に出てからは、直ぐに転移アイテムで帰れるからな。


──そして。


「フフフ……まさか、このメンバーで負けるとはな」


「えぇ、アルドさんが存外役に立ってくれたので勝てると思ってたんですけど……はぁ」


 先輩とハルは、凄い意外そうな顔をしながらため息をついて席に座っている。

 ……後ろでリンが土下座していて、カエデに何をされても動かないみたいだ。

 そういや、トラップに引っかかって最初の場所に戻されたとか言ってたよな。


「まぁ、ダンジョンで入り口に戻されるのはあるあるさ。

こんな形で挑んだ勝負に負けるのも、ダンジョン勝負の醍醐味だ」


 アーサーは達観した様子で大人な振る舞いをしてはいるが……机の下に隠している拳、音が鳴るくらいに滅茶苦茶握りしめてるじゃねーかよ。

 悔しいなら悔しいって、素直に言えやいいのに。


「ま、約束は約束や……ほな、稼いだアイテムやらなんやら出して貰おか」


「フッ、僕は例え勝っても負けても、ディララたんにはアイテムを献上するつもりでいたとも!

だって、僕の愛は……ディララたん一人のためだけに、注ぎ続けるのだから!」


「おうええ根性やないかい……さぞええアイテムあるんやろなぁ」


 闇金の取り立てみたいな言い方でアイテムを請求し始めたスティーブン。

 で、アイドルに全てを捧げるような事を言い出したアルド。

 二人ともこえーよ、それぞれ別の意味でだけれども。


「待ってください」


「む? ディララたん、どうしたのかな!?」


 ディララが手を挙げて、オラついていたスティーブンとハイテンションなアルドを止めた。

 アルドはすぐにディララの方を向いて、膝をついてかしこまっていた。

 ……ぶっちゃけ見ててオーバーに感じるぞ、コイツ。


「今回の勝負に関して、勝った側である私たちからの提案をさせてください」


「提案?勝負をすると決めた時点で、スティーブン・ウツくんが決めたことでは不服かい?」


 スティーブンが決めた内容、勝ったチームには、負けたチームがダンジョンで稼いだ物を全て献上するってルールだ。

 元々コイツはアーサーやランスロットみたいな強い奴と組めることを前提に考えてたみたいだけどな。

 ……まぁ、結果的に凄まじいチームの偏り具合をしていたわけだから、本当に危なかった。


「えぇ、不服です」


「おう、ディララの嬢ちゃんも言うやないか」


「稼いだものを全て押収……と言うのは、あまりにも無情かつ、非合理的かと。

せめて、稼いだドロップアイテムの半分……それではいけませんか?」


 ディララが眼鏡のツルに手を掛けながら、俺とアーサー、そしてスティーブンに言い放った。

 ……まぁ、元々俺はあまりこのルールに対して乗るつもりはなかったからな。

 何せ、負けた側が得たものなんて経験値くらいだけだし、アイテムもかなり使っただろうから損だらけ。

 ディララの意見はごもっともだ。


「あぁ、俺はディララの意見に賛成だな。

便乗するわけじゃねえけど、これじゃあ先輩たちが損をしただけになる」


「ええんかリーダー! レアアイテムとか貰えるのかもしれへんのやぞ!」


「いいんだよ……それに、ドロップアイテムの半分って言うのなら十二分にこっちの得だろ」


 俺がそう言うと、スティーブンはやや不満そうにしつつも椅子に座り直した。

 っつーか、道中での露払いはゾームーの方がずっと役に立ってただろ。

 スティーブンは何を思ってその自分の働きで報酬貰えると思ってんだ。


「……まぁ、この不条理なほど戦力差のあるメンバーで勝つほど努力をしたのだ。

負ければ、自分たちが稼いだものを全て奪われると知っていながらな。

そのスティーブンには、少し不満があるのもわかる。

故に……私は低確率で手に入るレアドロップをつけて、少し多めに渡してやろう」


「おぉ、N・ウィーク……今度ちょっと飯でも行かへん?リアルで。

いや俺が奢るからさ、今後ともいい関係をな……」


「ありがたいが断る」


「そかそか……ほな、ありがたく頂かせて貰おうか」


 先輩が口元だけを笑った笑みをスティーブンに向けると、皆一斉にメニュー画面を開きだした。

 アルドだけはディララに何か添付して送ったようで、それ以外は全員アイテムストレージを開いた。

 ……さっきまで土下座をしていたリンですら、笑みを浮かべながらメニューを操作していた。

 嫌な予感をすぐに感じ取った俺、ランコ、アイン、ゾームーはすぐに部屋を出た。

 ディララもスティーブンもカエデも不思議そうに俺たちを見ていたが……仕方ない。

 だって、これは本能的に見ちゃいけないとかそういう類のものだってわかったんだもん。


「なんちゅーもん取って来てんねんお前らアアア!」


「うええええ……なんてものを……!」


「ヒイイイ! リン! なにこれ!?」


 ……部屋は凄い光景になっているようなので、俺は手を合わせておく。合唱。

 ご愁傷様、スティーブン、ディララ、カエデ……。


「おいゴルァ!ブレイブゥ!」


「あ、生きてたのな」


「何逃げとんねんお前は!リーダーなら責任もってコイツを見とけや!」


「……うぷっ」


 先輩たちが手に入れて来たドロップアイテム……モザイクこそかかっているが──

 どう見ても内臓……それも、凄まじい量だし、見ているだけで吐きそうになる。

 ……本当に全年齢対象なのか気になって来るぞ、このゲーム。

 っつーかスティーブンよ、よくもこんな吐きそうなものを俺に見せて来たな。

 お前の欲張りでの自業自得だろうが、まったく……ドロップアイテムの半分ってのは嘘じゃなさそうな量だし。


「うわマジエッグいなコレ……欲張りは損をするんやなぁ……」


「今すぐ焼きたいね、アインくん」


「……僕、トイレ行きたいです」


 VRにトイレの概念はねーだろ……と、心の中でツッコミつつも俺は吐き気を催すこの内臓をしまって貰った。

 アインはぐったりした顔で壁に寄りかかり、ランコに介抱されている。


「では……今回のダンジョンでの反省点などを振り返ろうか、皆」


「ですね、私たちもまだまだ、磨くべきところはありますから!」


「あぁ、次同じような勝負をしたときは、必ず勝つために……反省会としようではないか」


 ランスロット、ハル、アルトリア……三人はもう反省会か。

 俺としては、リアルに戻ってぐっすりと寝たいが……まぁいい。

 折角だし、こっち側も反省会をして……ギルド同士の結束が固まることを願おう。

 いずれまた開かれるイベントでも、また負けないように……今度は、ランキング十位以内を本気で取れるくらいに。






「今日処刑される人は……アーサーだ」


「くっ、ランダムパワープレイではこういうこともあるか……」


「人狼がいなくなったので、村人陣営の勝利だ」


「ぃやったぁぁぁっ!」


 ……どうしてこうなったんだ。

 いや、まぁ……経緯は俺にだってわかっている。

 ダンジョン攻略を終えて三日が経った頃。

 現実の方はもう九月の中旬で、まだ残暑がある頃。

 土曜日で暇だった俺は、SBOで時間を潰すつもりだった。


「やぁブレイブくん、少し付き合って貰えるかい?」


「ん? 狩りにでも行くのか?」


「いや、他のメンバーも王の騎士団のギルドホームに集めての、大事な事さ」


 何故か、ログインして三分くらいでアーサーに話しかけられたのだ。

 それで……王の騎士団のギルドホームに集まったわけだ。

 そこにはランスロット、アルトリア、ディララ、アイン、ハル、アルド、スティーブン、ゾームー、マイクがいた。

 それで、俺とアーサーが来た所で急に人狼ゲームをやろう、となったわけで……今、人狼のアーサーを俺とアインが処刑してゲーム勝利……ザ・エンドってね。


「ブレイブくんの動きは面白い物だったね」


「そう褒めないでくれ、たまたま当たっただけだからな」


「でも、流石先輩って感じです! 私、先輩を守れたので光栄でしたよ……!」


「それが襲撃されて死んだ奴の台詞だったら良かったんだけどな」


 と、まぁ感想をそれぞれに話し合って、第二回、第三回をやったりで楽しんだんだが……折角SBOにログインしたのに、何にもしないまま一日が過ぎていった。

 ランコと先輩もログインしていたはずなのに、出会わないまま終わっちまった。

 まぁ……けれど、たまにはこういう一日もありだし……ダンジョン攻略でかなり頑張った分、たまにはこういう無駄な時間も面白い物だった。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:45

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:60(+75) AGI:93(+60) DEX:0(+20) VIT:35(+100) INT:0 MND:35(+65)


使用武器:小鬼王の剣・改、小鬼王の小盾・改

使用防具:龍のハチガネ・改、小鬼王の鎖帷子・改、小鬼王の鎧・改、小鬼王のグリーヴ・改、ゴブリンガントレット、魔力ズボン・改(黒)、回避の指輪+2


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― 新着の感想 ―
[一言] レベル表記で思い出したけど新しい街解放されたのにレベル上限は増えなかったのね
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