第四十七話:さぁ慄け
「出でよ……我が下僕よ!」
吸血鬼──ヴラッド・ドラキュゥラァが片手を振るうと、床に魔法陣が。
まさか、またグリフィンやミノタウロスたちが出てくるのか!?
『ゲッゲッゲ……』
『クキキキ……』
『フヒヒヒ……』
「……存外拍子抜けですね」
「せやな」
ヴラッドが召喚してきたエネミー……それはグールだった。
召喚されたのがキメラやオークとかだったら、めちゃ困ったが……拍子抜けなことにグール。
ゾンビやスケルトンと大して変わらないような奴だ。
「こんな三下の雑魚ども、俺らだけで十分やわ」
「せやな。おいリーダー、そっちは任せたで」
「あぁ、露払いは頼んだぜ」
召喚されたグールたちに向かって、スティーブンとゾームーは斧で打ちかかった。
よし……俺たち五人で、何とかヴラッドを倒さねえとな。
折角二人が雑魚を倒しに向かってくれたんだ、キッチリと仕留めねえとな。
「よぉし! 来いよ吸血鬼!」
『フフフハハハハハッ!』
ヴラッドはノーモーションで跳躍した。
そのまま空中で体制を変え、俺たちの前に着地した。
グールと戦っている二人と分断されたような位置。
……存外楽そうになってくれたぜ。
『さぁ、慄け! 我が力の前に!』
「アックス・スロー!」
「セカンド・ジャベリン!」
ヴラッドが両手を広げ、紫色のオーラを纏った。
だが、その直後にアインとランコの武器が投擲され、命中。
HPの減りはたったの一割程度……かてえなオイ。
『ほう……私に傷を負わせるとはな……エサにしては中々の強さよ』
「中々に硬いですね」
「それでも、HPは無限じゃねえ。いつかは倒せるってワケだ」
「それもそうですね……私の魔法があれば、もっと早いでしょうし」
ディララは杖を握りしめ、目を閉じた。
詠唱に入ったディララを守るのはカエデに任せとくか。
「カエデ、ディララを頼む」
「はーい!」
よし、元気のよい返事だ。
なら俺の役目は……この吸血鬼をブッ倒すことだ。
「よぉし、来いッ! ヘイト・フォーカス!」
『フゥァッ!』
俺は盾を構え、ヘイト・フォーカスを発動させる。
ヴラッドは俺に目線を向けてから、飛び掛かって来た!
よし、足が二本とも地面から離れる瞬間こそチャンス!
「Fフロート・シールド! Sフロート・シールド!」
『!?』
Fフロート・シールドと、逆さまに発動させたSフロート・シールド。
それは飛び上がって俺に強襲をかけに来たヴラッドを拘束するには充分。
腰のあたりを挟み込むように動かしているから、これを壊さなければヴラッドは動けない。
「んじゃ……ガラ空きの頭貰うぜ!」
「行くよ、アインくん!」
「はい!」
俺はランコとアインに目配せし、三人でスキルを詠唱する。
カエデは攻撃に参加させず、ディララの守りに回す。
ディララは魔法の詠唱時間が長いので、やっぱり三人になる。
そうこう考えている内に、俺たちはスキルを発動させていた。
「流星剣!」
「アックス・スロー・オブ・バーサーク!」
「ブリザード・スピア!」
俺の流星剣、アインの狂化状態による斧の投擲、ランコの氷の槍。
三人で放った渾身のスキルが、無防備なヴラッドの顔面に吸い込まれるようにヒット。
この影響でフロート・シールドは砕けてしまったが、クリティカルだ。
多少なりともダメージは……うん、与えられてる。
HPバーの一本目が半分になっているぞ。
『クハハ……受けるがいい!』
ヴラッドは右手をブン、と振るったので俺たちは一歩下がって避ける。
すると、ヴラッドの周囲に爪楊枝のような形をした針のようなものが出現した。
サイズはどう見たって爪楊枝のそれじゃないが、形状は爪楊枝に近い。
「ファスト・シールド! セカンド・シールド! サード・シールド!」
俺はシールドを展開して前面を防御。
遠距離攻撃だろうが、結局の所通過点に俺たちがいる時点で止めるほかない。
だが──
「な──っ、うぐあっ!」
「風車!」
「ライトニング・アックス!」
俺の展開したシールド三枚はあっと言う間に砕かれ、俺は攻撃を受けきれなかった。
幸いにもHPは残り二割程度で止まってくれたが……この吸血鬼、強すぎる。
俺じゃまともな壁にならねえ。
アインとランコがスキルで何とか俺の受けきれなかった分を落としてくれたが、二人もHPがごっそりと削られている。
「ぬぅんっ!』
「カバー! ヘイト・フォーカス!」
ヴラッドが俺に向けて手刀を振りかざすと、カエデが止めに入った。
俺はカエデがヴラッドの攻撃を受け止めた隙を見逃さない。
すぐさま雑嚢からポーションを取り出して飲み干し、諸刃の剣を発動させる。
「アイン! ランコ! スキルの詠唱頼む!」
「了解!」
「ブレイブさん! 気を付けてくださいね!」
「わかってるよ!」
二人はこれ以上奴の攻撃を受けさせたら間違いなく倒れてしまう。
なら、俺とカエデの二人で受けきるしかないが……ディフェンス・コネクトは習得していない。
だからこうして、スイッチスキルでAGIを上げる他はない。
『身の程を知れ!』
「わわっ、くぅぅぅっ!」
ヴラッドは腕をクロスさせたと思うと、高速の突きを放った。
丁度、カエデに注意が向いているからいいが、カエデもギリギリで止められているって所だ。
大盾に全身を預けられているから何とかなっているが、体に当たったらカエデもタダじゃ済まねえはずだ。
なら、俺に出来る事は──!
「ハイド・ソード、ミラージュ・ムーブ……!」
ヘイトを稼いでいるカエデの代わりに、俺は透明化してヴラッドへ近づく。
やはりヴラッドも喋ろうがなんだろうが、モンスターでしかない。
目の前の敵に攻撃を繰り返すだけ。
『フフッ、フッ、フハハハ!』
「ぅぅぅ……おっ、追い、つけっ、ないぃぃっ……」
だが、ヴラッドはただ一点だけの突破はしない。
回り込んだり、左右から攻撃を放ったりと少しずつカエデの防御を突破している。
……早く狙いをつけないと、カエデがやられちまう。
「Fフロート・シールド」
俺はフロート・シールドを出現させ、それをヴラッドの頭に向けて飛ばす!
『ふっ!』
「避けた!?」
俺が動かしたフロート・シールドは、偶然か必然かヴラッドに避けられた。
……いや、俺が飛ばした軌道は完全にヴラッドの真後ろを取っていたはずなんだ。
となるとコイツ、透明化を探知できる力でも持ってるのか?
『フフフ……』
ヴラッドがさっき同様に鉄の爪楊枝のようなものを出現させた!
マズい……! いくらカエデでも、あれが直撃したら危ないハズだ!
「させるか! Sフロート・シールド!」
『ぐおっ』
咄嗟に俺が放ったフロート・シールドがヴラッドの顔面に直撃し、奴のの体制を崩させた。
爪楊枝発射に、数瞬のタイムラグが起きるハズ!
俺は透明化を解除し、スキルの詠唱をして。
「今だ!」
「シャイニング・アックス!双鉞!」
「ライトニング・スピアァァァッ!」
俺の声に応えてくれたアインとランコのスキルが、ヴラッドに直撃する。
よし、ヴラッドはまだ爪楊枝を発射していない……俺もスキルを使える!
「流星剣! ハァァァッ!」
『ぐっ、おぉぉう……』
駆け抜けるようにヴラッドを流星剣で斬りつけ、俺はディララの後ろに下がる。
カエデはHPの回復を終えていて、ヴラッドも攻撃の体制に入っている。
アインとランコも、俺の反応を見てディララの後ろに下がった。
そう、今一番前にいるのはカエデ……なんとか攻撃を受けきって貰おう。
『フンッ! 受けるがいい!』
「絶対守るよー!」
カエデは盾を水平に構え、横並びになって飛来する鉄の爪楊枝を受け止めた。
だが、カエデが止めただけじゃまだ勢いが殺しきれていないのか、競り合いになっていた。
しかも、カエデが少しずつ押されている。
俺とアインはカエデの横に並び、爪楊枝に目掛けてスキルを発動させる。
「サード・スラッシュ!」
「クロッシング・スラッシュ!」
横からスキルを放ち、俺とアインが爪楊枝を二本落とす。
……よし、カエデの競り合いはピッタリと止まった!
だがヴラッドが動き出し、カエデに追撃をかけようとしている。
クソッ、こうなったら……!
「ランコ! アイン! ディララ! 耳塞げ!」
ランコとアインはその場で耳を塞ぎ、俺に目配せしてきた。
ディララも既に詠唱を終えていたようで、ちゃんと耳を塞いでくれた。
よし、これなら使えるが……カエデには少し申し訳ねえことしちまうな。
「咆哮!」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!』
俺のSPの七割が消えたが……まぁ、どうせすぐ回復するんだ。
それよりも、カエデが動けなくなった上に爪楊枝が直撃してHPを1まで落としてしまった。
カエデも根性を習得しているから問題はなかったが、現在進行形で死にかけだ。
だが、ヴラッドもちゃんと止まってくれた。
だから俺は、安心してスキルを詠唱することが出来る。
「行くぞアイン!ランコ!」
「はい!バーサーク・スマッシュ!」
「くらえっ!サード・ジャベリン!」
「ライトニング・ソードッ!」
俺たち三人のスキルがヴラッドに突き刺さり、ヴラッドのHPバーを一本削り切った。
よし、ここからはディララの番だ。
「さぁ遊戯ましょう……宇宙の産物よ、降り注げ!メテオ・レイン!」
大分イタい詠唱と共にだが、ディララが杖を振るうと共に隕石がヴラッドに降り注ぎ、HPを一気に減らし始める。
うーん、どう見ても対集団戦用の魔法に思えてくるが……黙っておこう。
ディララは更に第二射を用意している。
「おかわりは如何ですか? あぁ、勿論貴方に拒否権はありません。貴方を朽ち果てさせるための魔法ですから……さぁ、燃え尽きなさい! 【フェニックス・ヘルファイア】!」
スキルと魔法の合成か、はたまたディララが習得している特殊スキルか。
ディララが本から放った魔法は、不死鳥を象った炎の魔法だった。
よし……じゃあ、俺もやるか。
「諸刃の剣! エンチャント・スラスト!」
「えっ」
最大限カッコつけて放った魔法を、突如として吸収されたディララ。
言っちゃあ悪いが、すげえ間抜け面してるぜ。
……と言っても、あくまでこれはディララ風に言えば合理的な判断だ。
俺のエンチャント・スラストは魔法の威力+攻撃力。
簡単に言えば……俺の攻撃力+ディララの放った魔法の威力だ。
ディララの魔法攻撃力を100、魔法の基礎威力が50とした場合、魔法攻撃力+基礎威力の合算で生まれる結果が150。
このエンチャント・スラストを使えば、その150に俺の攻撃力……諸刃の剣を使った時は大体250は越える。
ディララの魔法攻撃力も俺の攻撃力の数値以上にはあるだろうし、きっと威力はとんでもないもんだろう。
「俺呼んで……【フェニックス・スラスト】!」
『ぬぅぅぅん! 我が奥義を──』
咆哮によるスタンが解除された瞬間のヴラッドの心臓部に、炎を纏った俺の剣が刺さった。
クリティカルを出せなかったのは痛い所だが……極振り相当の威力だ。
今の一撃で、ヴラッドのHPバーはみるみる減っていき、もう残り一本だ。
何やら必殺技を出すみたいだったが、それも中断された。
「会話イベントか」
「皆さん、今のうちにポーションを飲んでおきましょう」
冷めた目で見てんなー、ディララ……。
まぁ、俺もアインもランコもHPポーションとSPポーションに口をつけてるんだがな。
……心臓部を抑えてよろめいているおっさんを前にしてポーションを飲みだす集団。
なんと奇怪な事か。
『ぐっ……くぅっ……馬鹿な……この私が……追い詰め、られるとは……』
ヴラッドはよろめいてフラフラになっていた。
弱体化パターンか、強化パターンか……出来れば前者であって欲しい。
前者なら全力でスキルをぶっ放して終わらせるだけだし。
『フ……フフフハハハ……仕方がない……こうなっては、奥の手を出す他あるまい』
ラスボスにありがちな台詞を言うと、ヴラッドは袖から手のひらサイズの何かを取り出した。
……あぁ、異形化で起きる強化と弱体化のハイブリッドな奴か。
もう読めてるからこのイベントスキップしたい。
『スゥーッ、ハァーッ……ハァァァ!』
ヴラッドは深呼吸をしてから、手のひらサイズの何かを潰した。
すると、パリンと砕けた音と共にヴラッドからドクン、と音がした。
どんな鼓動音だよ、デカすぎるわ。
『ぐぅっ、ハァッ……うっ、ううう……おあああああああッ!』
「うっわキッモ」
「よく全年齢対象で出せましたね、このゲーム」
語彙力を失ったランコは口元を押さえてヴラッドを指差していた。
ディララも眼鏡を掛けなおしてそう呟くが……まぁ、見てていいもんじゃねえな。
ヴラッドは眼球から赤いビームのような血液を噴出し、着ている衣服は弾け飛んだ。
そして上半身は肥大化し、右腕からは触手が生え、左腕は巨大な爪が出来上がった。
HPバーが砕けると、新たなHPバーが一本設定された。
『さぁ……絶望に顔を歪めよ、恐怖に屈し……砕けよ!』
ラストスパート……ようやくこのダンジョン攻略も終わるな。
プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン
レベル:44
種族:人間
ステータス
STR:60(+74) AGI:92(+59) DEX:0(+20) VIT:35(+99) INT:0 MND:35(+64)
使用武器:小鬼王の剣・改、小鬼王の小盾・改
使用防具:龍のハチガネ・改、小鬼王の鎖帷子・改、小鬼王の鎧・改、小鬼王のグリーヴ・改、ゴブリンガントレット、魔力ズボン・改(黒)、回避の指輪+2