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第四十三話:ミノタウロス

 ダンジョン、地下要塞。

 最深部、ボスのいる部屋を守らんとしている門番のミノタウロス。

 大剣を片手で持ち、2m50cmはあろうその肉体。

 四本のHPバーを持ち、耐久力が高いであろうモンスター。

 対するは俺たち、平均身長160cm程であろうプレイヤーたち。

 彼に向ける物は──ただ一つ。


「シャイニング・アックス……双鉞!」


「ライトニング・スピアァァァッ!」


「サンダー・シュート!」


「ブラスト・ショット!」


「【セカンド・ヘルファイア】!」


「流星剣!」


 俺たちの全身全霊を込めた、必殺スキルだ!


『グモアアア! サード・スラッシュ!』


 だが、ミノタウロスも俺たちの攻撃を黙って受けるほど親切ではなかった。

 両手剣でスキルを発動させ、多方向から一斉にに放たれた俺たちのスキルに対抗した。

 薙ぎ払うように両手剣を振れば、どうにか止められはするだろうが……そんなもんで、簡単にこっちが折れると思ったら大間違いだ。


「ゾームーは近接武器で俺について来てくれ! スティーブンはそのまま援護射撃を!

ランコはスキルの詠唱、ディララは威力の高い魔法を詠唱してその場で待機、俺が撃てと言ったら頼む! カエデはヤバくなった時にカバー頼む!」


「あ、あのブレイブさん、僕はどうすればいいですか!?」


「お前も俺について来い!」


「はい!」


 俺は素早く皆に指示を出し、先頭を走る。

 ゾームーとアインが俺の横に並ぶように走り、ディララとランコはスキルの詠唱を始めた。

 ……で、カエデは暇を持て余しているように見えるが、防御力に極振りしてるんだから仕方ねーだろ。


「グモォッ!」


 ミノタウロスが両手剣を振り上げ、横並びになっている俺たちに目線を向けている。

 注意は俺たちに向いている、この状態なら振り下ろしか袈裟斬り……だが袈裟斬りなら傾くはず。


「左右に散って避けろ! スティーブン、ランコ! 今だ、スキル撃て!」


「グモッ! セカンド・スラッシュ!」


「っと!」


「あらよっと」


 俺とアインは左に転がり、ゾームーはジャンプで右に避ける。

 ミノタウロスの剣が地面にヒビを入れたと同時に、ランコとスティーブンのスキルが放たれた。


「ブリザード・スピア!」


「ファイア・アロー!」


 氷の槍と炎の矢が放たれた……だが、属性相性が悪すぎた! 炎系スキルと氷系スキルを同時はマズい!

 空中で軌道の重なった槍と炎は、互いに威力を弱め合って、かすかな炎だけがミノタウロスに当たった。

 弱弱しい炎ではHPバーが削れることもなく、かえってミノタウロスに隙を与えただけだった。


「グモアアアアアッ! パワー・タックル!」


「Fフロート・シールド! Sフロート・シールド!」


 ミノタウロスは体を屈め、俺に向かって突進してきた。

 俺は咄嗟にフロート・シールドを唱えるが、所詮はセカンド系スキル程度。

 すぐにバキン、と音を立てて砕けてしまった。


「ぐっ……ぐあっ!」


 盾でそのまま受け止めるが、俺は受けきれずに吹っ飛ばされる。

 だが、今は奴にも隙が出来ている!


「ゾームー! アイン! 今だ!」


「芸術は爆破だぜ!【アックス・バースト】!」


「バーサーク・スマッシュッ!」


 ミノタウロスの背中に向けて斧を叩きつけたかと思うと、斧を中心とした爆発が起こる。

 そして、ミノタウロスがそのダメージで崩れた所で、アインのバーサーク・スマッシュが決まった。

 凄まじい攻撃力と、その乱舞の数……それは瞬く間にミノタウロスのHPバーを、一本削り切った。


「よし! HPバー一本削りました!」


「新しい行動が出るかもしれねえ! そこらへん注意!」


「聞いたかお前ら!」


「はい!」


 アインの報告と共に俺が指示を出し、ゾームーが確認を取る。

 皆は声を揃えて頷いた。

 よし、HPバーがあと三本……出すなら今か。


「カエデ! 俺がヤバくなったらカバーで俺の前に立ってくれ!」


「はい!」


「ゾームー、アイン! お前たちは遠距離攻撃に切り替えてくれ、俺は奴の注意を引き付ける!」


「わかりました!」


「目まぐるしいなオイ……了解だぜ」


 三人に指示を出したところで、俺は走ってミノタウロスの注意を引くために走る。

 が、奴の中でヘイト値が最も高いのは恐らくアイン、だから俺が走ったところで奴はアインを狙う。

 そんな時にこのスキルが役立つ。

 ゾームーとアインが武器を切り替え、射撃と投擲の構えに入ったところで、俺は剣と盾を重ねる。

 そのまま高々と掲げ、スキル名を叫ぶ。


「ヘイト・フォーカス!」


 ハルから習得方法を教えて貰ったこのスキルで、ミノタウロスのヘイトを俺に向ける。

 ミノタウロスはまた体を屈め、俺を睨んでから……突進の構えに入っているようだ。


「グモアアアアア!」


「サード・シールド! セカンド・シールド!」


 今度は真っすぐ突っ込んで来た。

 さっきは焦ってすぐに動かせるフロート系を使ったが……直線的な動きならこれでいい。

 ミノタウロスの突進の前にはシールドは砕かれるが、威力こそ落ちた。

 これなら──!


「サード・スラッシュッ!」


 突進してくるミノタウロスの角へ向けて、サード・スラッシュを発動させる。

 ギギギ……と、角と剣による鍔競り合いの状態となる。

 STR値は俺の方が低い故に、今もこうして押されつつある。

 だが、シールドで奴の突進の威力を削いだ今なら……!


「加力!」


 俺のSTR値を1.5倍に引き上げれば、互角の状態に持って行けないことはない!

 よし、なんとか推されている状態からは抜けれそうだ!


「グッ……モモモ……!」


「うっ……おあああああッ!」


 角によって止められていた剣を滑りぬけるように振り下ろす。

 ミノタウロスにはダメージこそ与えられないが……俺はミノタウロスの脇を滑りぬけるように避けれた。


「グモオオオオオ!」


「今だディララ! 全力で撃て!」


「はい! 【サード・ヘルファイア】!」


「グハァ!」


 俺に向けて雄たけびを上げたミノタウロスの背後から、ディララの最大威力の魔法が入った。

 ドカァァァン、と巨大なサウンドエフェクトと共に、地獄の業火がミノタウロスを飲む。

 おお、流石極振りの出すサード系スキル……ミノタウロスのHPバーの一本を半分削った。

 最初に使ったのはセカンド系だったからか、それとも奴が剣で弾いたからかロクなダメージにはならなかった。

 けれど、これは十分なダメージだ。


「ランコ! スティーブン! ディララ以上にヘイトを稼げ!」


「わかってるって……【ダークネス・スピア】!」


「任せろや、ブラスト・ショット!」


 ランコの穂先から放たれた、黒と紫の大槍、スティーブンの放った炸裂する矢。

 それらはミノタウロスの顔面に向かったが……ミノタウロスは咄嗟に腕でガード。


「グモオオオオオ!」


 ミノタウロスは雄たけびを上げて両手剣を構え、スキルの詠唱に入った。

 何のスキルが来るかはわからないが、ここは守りに入るべきだ。

 皆のスキルも詠唱に入っているが、まだ打つのは待って貰うのが得策か。


「カエデ! 奴の攻撃が来た瞬間、カバーを発動させてくれ!」


「あ、え、っと誰にですか!?」


「ミノタウロスが攻撃する奴に向けて、だ!」


「わ、わかりました!」


 カエデは盾をグッと両手で握り、完全な防御態勢に入っている。

 よし……カエデの守りは使える……ここでミノタウロスが何をして来るかだ。

 ミノタウロスは両手剣を片手ではなく、両手で握り……大上段に構えた。

 さっきの振り下ろしと同じだろうが……恐らくスキルだから威力は高い。

 俺じゃ十中八九受けきれないだろうから、やはりカエデに任せて正解か。


「グモオオオオオ! 斬撃波ァァァアアア!」


「ッ──! ディララに向かってる! カエデ!」


「はーい! カバーッ!」


 詠唱中のディララに向けて放たれた斬撃波。

 カエデは瞬間移動するかのようにディララの前に現れ、斬撃波を受け止めた。

 スキルもなしに受け止めているのを見ると、嫉妬したくなるが……流石極振りと褒めておこう!


「よし、皆ぁっ! 反撃だ!」


「おう! ファイア・アロー!」


「ライトニング・スピアァッ!」


「アックス・スロー・オブ・バーサーク!」


「ふーん、これでもくらいやがれ! サンダー・シュート!」


「モオオオオオ!」


 多方向からの矢、槍、斧の投擲をミノタウロスは両手剣を振り回して弾く。

 だが、アインの攻撃はミノタウロスの反応速度を超えていたようだ。

 矢と槍は弾かれようと、アインの斧はミノタウロスの胸に突き刺さった。

 ……しかし、皆同じスキルばっか使ってる気がするな。

 まぁいい、結局俺も使うスキルは一緒なんだ、レパートリーが少ないのを責めちゃいけねえな。


「流星剣!」


「グモッ!」


 ミノタウロスの背中を切り裂く。

 よし……アインと俺のスキルで、ミノタウロスのHPバーも残り二本と二割。

 あとちょっと削れれば半分くらいは行くか……?


「グモオオオオオアアア!」


「っと!」


 ミノタウロスは即座に振り向いて拳を叩きつけて来たが、俺はジャンプでそれを躱す。

 隙を晒したミノタウロスの角に、ゾームーとスティーブンの射撃が当たる。


「よし……あと少し削れば半分だ!」


「ほんなら……その功は俺が貰うわ!」


「あ、ちょっとウツさん!?」


 スティーブンは装備を弓から斧に切り替えて、ミノタウロスに斬りかかった!

 あの野郎! どんな功を貰えると思ってんだよ!

 HP半分にした決め手くらいで与えられる功なんて何もねえだろ!


「グモオオオオオ!」


「おっわっぶね! けど、俺は回避は結構得意だからな……っと!」


スティーブンはミノタウロスの振るってきた拳をひらりと避け──


「セカンド・スマッシュ! 邪魔だ!」


 ミノタウロスの脛に向けてスキルを発動させた。

 ……そのネタはいつまで引っ張るんだよ!


「おいウツ、全然削れてへんぞ」


「あ、コイツ随分硬いねんな」


「グモオオオオオアアアアア!」


 ミノタウロスは怒ったように叫び、スティーブンに殴り掛かる。

 スティーブンは余所見してやがる! 馬鹿かアイツ!


「あっぶねえだろ! 馬鹿野郎ォッ!」


「おわっ、マジかすまん……」


 ミノタウロスが反撃で放ってくる拳攻撃からスティーブンを守る。

 腰も入ってないテレフォン・パンチだった故か、なんとか受け止められた。


「持ち場に戻れ!」


 俺はスティーブンの腹に蹴りを入れ、無理矢理下がらせる。

 ったく……危うく陣形がバラバラになるところだった。

 ただでさえ扱うのが難しい戦力なのに……俺の負担がデカいぞ。


「あぁ、マジすまん……ホントガバったわ……」


「悪いと思うんなら、働いて返せよ」


 後ろ脚で地面を蹴り、突進の構えを取るミノタウロス。

 俺はカエデに目配せし、カエデは頷いて盾を構える。

 恐らく俺に向けて放たれる物……ならここは、俺はスキルの詠唱をしておこう。


「グモアアアアア!」


「俺か……カエデ! カバーだ!」


「カバー!」


 俺に向けて突進してくるミノタウロスを、瞬間移動したように動いたカエデが盾で受け止める!

 よし……これなら、攻撃のチャンスだ!


「今だ皆! バーニング・ソード!」


「はい! クロッシング・スラッシュ!」


「【ウィンド・アロー】!」


「ブラスト・ショット!」


「乱れ突き!」


 ディララはまだ魔法を詠唱中なので、ディララ以外の皆のスキルがミノタウロスに放たれる。

 突進だったせいで、ミノタウロスが防御の姿勢に入る前にスキルは入った。

 そのおかげか、HPバーの残りは一本と、もう一本ある内の九割……!

 よし……これで半分は切った! あと少しだ!


「半分切ったぞ!」


「よっしゃ! こっからが本番や!」


「ブモオオオオアアアアアアアア!」


 スティーブンの言葉に応えたかのように、ミノタウロスは全身を真っ赤にした。

 HPが半分を切ったからか、本気モードにでも入ったのか。

 ……俺じゃ受けきれるか怪しいので、全部カエデ任せにしとこうかな、防御。


「さぁ、第二ラウンド開始か……」

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:44

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:60(+74) AGI:92(+59) DEX:0(+20) VIT:35(+99) INT:0 MND:35(+64)


使用武器:小鬼王の剣・改、小鬼王の小盾・改

使用防具:龍のハチガネ・改、小鬼王の鎖帷子・改、小鬼王の鎧・改、小鬼王のグリーヴ・改、ゴブリンガントレット、魔力ズボン・改(黒)、回避の指輪+2

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[一言] 自由を奪った状態で殴るなんて...! と言いたいところでしたが別に奪ってませんでした
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