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第四十一話:YourDead

 HPバーが二本設定され、真っ黒な体に巨大な翼、赤い角を生やしたモンスター、【ブラック・デーモン】。

 その姿はよく神話などの本で見かけるような……デーモン、悪魔そのものだった。

 次いでと言わんばかりなのか、三又の槍も持っているしドリルみたいな尻尾も生えていた。

 それが俺たちを敵として認識し、武器を構え、スキルの詠唱を始めた所で──。


「シャイニング・アックス!双鉞!」


「ライトニング・スピア!」


「ふーん、俺の活躍を見とけよ、【ブラスト・ショット】!」


「ほなぶっ放すで、サンダー・シュート!」


「【セカンド・ホーリーランス】!」


「ヒドラ・ストライク!」


「【流星剣】!」


 アイン、ランコ、スティーブン、ゾームー、ディララ、カエデ、俺。

 既に詠唱を完了していた七人全員の最大威力のスキルが、次々にブラック・デーモンへと放たれた。

 それはもう、凄まじいエフェクトとサウンドエフェクトを響かせた。

 ブラック・デーモンは一瞬でHPバーを全損し、金と経験値になって俺たちの懐を温めた。

 経験値は……まぁ、七人だからあんまり美味しく感じられないな。


 「……なんか、拍子抜けやったな。他にギミックでもあったんか?」


 「まぁ、七人の最大威力のスキルですからねー。

私なんてスキルの威力を高める装備やらスキルやら使ってますし、兄さんにはスイッチスキルで凄いブーストかけてますもん」


 弓を握ったままに頭をボリボリと掻きつつ首を傾げるゾームーに、威力の高さを語るランコ。

 スティーブンはそれに納得がいっているようで、うんうんと首を縦に振っていた。

 ディララを見ると……ドヤ顔で眼鏡をクイッ、と持ち上げていた。


「しかし、何時の間に流星剣とか覚えてたんだね、兄さん」


「あぁ、流星系があれば硬い敵に有利だからな。

俺の十八番が通じないなら、ってのと……純粋にカッコ良かったから習得した」


 ランコが苦笑するが、何とでも思ってくれ。

 流星シリーズは詠唱の時間こそ少しかかるが、クールタイムの短さと威力の高さは凄い。

 俺の習得してるスキルの中じゃ一番威力が高いし、使える時は使って行きたい。


「ま、なんにせよ中ボスはぶち殺したんや、とっとと行くで」


 先を急ごうと奥を指差すスティーブンに頷き、俺は後ろを向く。


「ディララ、カエデ。すぐ戦闘になるかもだから準備しとけ、酔ったりとかすんなよ」


「えっ、またですか!?」


「諦めよう、ディララさん、極振りはきっとこういう運命なんだよ」


 また青ざめて震えだすディララ、涙を流しつつ諦めの境地に入ったカエデ。

 ……そんなにこれが嫌なら今度からステータスポイントをAGIに使えよ。

 もしくはAGIの上がる装備を付けるとか……さ。


「さーてーとぉぉぉ、いぃぃぃっくぜえええッ!」


「ひああああああああああああああ!」


「わあああああああああああああん!」


 再度走り出した俺……に続くゾームー、スティーブン。

 ランコとアインは流石に追いつくのが無理なようで、二人の姿は遠くにあった。


「しかし、スイッチスキル使った俺に追いつくって相当だなアンタら」


「ま、千里馬はバカ高いポーションの効果再現してるしな……こんなん格安で使えるのはクルァレ先生とエミさんのおかげやわ」


「我々冒険団が王の騎士団傘下に入れたのもコイツのおかげやしな」


「ふーん……今度そのポーション、俺も売って貰おうかなぁ……っと、また中ボスか」


 と、雑談をしつつも俊足で駆け抜けた俺たちは、大部屋に入っていた。

 立ち止まったせいでディララとカエデがスッ転んでまたフラついた。

 しかしまぁ、もう大部屋とは……通路に沸いたモンスターは基本無視してたからか、すげえ速い。

 で……大部屋にいたモンスターはHPバー2本のキメラ……デッケー。


「わー、今度はキメラやん」


「リーダーどうする? 俺らだけでやる?」


「ランコとアインが来るまで、俺たちで持ち堪えつつHPを削る方針で行こう」


 俺が方針を決めると、ゾームーは装備を弓から斧に変えた。

 で……ディララとカエデは目を回してフラフラしてるので、ゾームーたち二人に頑張ってもらう他ないな。


「オッケー、ほな俺近接で行くからウツは援護頼んだわ」


「へいへい」


 ゾームーは斧で中ボスのキメラへ斬りかかり、スティーブンは弓を射っていた。

 ……よく見ると弓の効果が違うみたいだな。

 雑魚戦で使っていた弓はノックバック効果をつけた奴みたいだが、こっちは威力重視か?


「へいへいへーい」


「オン・マイ・ウェーイ」


 その英語の使い方があっているかどうかはわからないが、二人は息がピッタリなようで何よりだ。

 ゾームーの攻撃にスティーブンがすぐに弓を射るおかげで、ヘイトが揺れている。

 大体ほぼ同じ威力で攻撃しているのと、スティーブンもゾームーも、必ず対称の位置に動くおかげで誤射がない。


「よし、ディララもなんか魔法撃てるか?」


「やっと視界が正常になって来たので……なんとか」


 さっきまでフラついていたディララがようやくピシッと立った。

 カエデはまだ目ェ回してんのかよ……どうしよう、こういうのどうやって治すんだっけ。


「ゾームーさん! スティーブンさん! 大規模魔法を使うので、合図をしたら離脱を!」


「お、オーケーオーケー! 合図が来たら離脱な!」


「んなら合図はリーダーのスキルかなんかで頼むわ」


 空中でキメラの攻撃を捌きながらゾームーはディララの言葉に返答。

 スティーブンはこっちを向きながら弓矢を正確に射っていた。PSたけえな。


「よし、じゃあディララ、詠唱に入ってくれ。なるべく早く」


 キメラのHPバー……やはりスティーブンとゾームーは通常攻撃だけだからかHPの減りは少ない。

 まだ一本の半分も削れてない……となると、ディララが大規模魔法を唱える理由もわかる。

 よし、俺も合図用のスキルの詠唱をしておこう。

 やっぱり、合図となればエフェクトが派手なスキルの方がいいよな。


「──────……」


 俺が聞き取れないほどに早口で詠唱をしているディララ。

 うん、もう少し遅くてもいいんだけどな……。


「あ、ちな詠唱って何秒くらいかかるん?」


「知るかそんなの」


「まぁええわ、ゾームーがそろそろ一人で攻撃捌くのもキツなっとるし……そろそろ離脱のしどころさんかもやわ」


 よく見るとゾームーのHPバーは少しずつ削れていて、いつまでも持つわけじゃなさそうだ。

 スティーブンも矢の数には限度があるだろうし……ディララの魔法を待つには、せめてもう少し人手が欲しい。


「ちと、コレはあかんわ。リーダー、ちょっと回復するために離脱させてくれや」


「わかった、カエデに何とか──」


 ようやく足のフラつきが止まったカエデに視線を向けると、どこからともなく声がした。


「サード・ジャベリン!」


「アックス・スロー!」


『ギャオルガッ!』


 キメラの顔面に、エネルギー状の投擲された槍と斧が叩き込まれていた。


「ランコ! アイン! ナイスタイミングだぜ!」


「間に合ったぁ……もう兄さん速すぎ……はっ倒すよ?」


「はぁっ……はぁっ……でも、結構ダメージ入りましたよね?」


 キメラのHPバーを見てみると、残り一本。

 よし、これなら行けるだろう。

 まぁ尤も、俺は手錠で繋がってる以上勝手に動くとカエデとディララを巻き込みかねないし……動くとしても、皆の行動の後じゃないとな。


「カエデ! 一応聞くけど、お前範囲防御スキルとか持ってるか?」


「え? え? は、範囲防御技?」


「習得してるかって!」


「い、一応持ってます!」


「じゃあ使ってくれ! ディララの魔法に必要なんだ!」


「わ、わかりました!」


 いきなり何なんだ、と言う顔をしつつもカエデはスキルを唱えた。

 ……キメラがさっきから動かずに棒立ちなのが気になるが、今は身の安全が最優先だ。

 一応俺もスイッチスキルを解除してからフロート・シールドを出してはいる。

 が、俺はまだバリア系のスキルに詠唱時間がかかるし、カエデよりも脆いからなー。


「【ポイズン・バリア】!」


 カエデが紫色のバリアを張った。

 紫色だが色は濃くないので、キメラの行動は見ることが出来る。

 どういう動きをしているかはわからない――と思ってたら、俺たちは目を見張るハメになった。


「っておい! HP回復してんじゃねえか!」


「さっき動かなかったのはこう言うことだったんだ……最悪」


 キメラのHPはいつの間にかマックスまで戻っていた。

 努力を台無しにされたと言わんばかりに、目を真ん丸にして驚くスティーブン。

 ゾームーの目元は頭巾のせいで見えないが、一筋の汗を流していた。

 何故動かなかったか、意味を理解したランコ。

 俺は静かに、流星剣の詠唱をする。


「僕、このバリアを出て奴のHPを削ってきます! 全快させるのを、少しでも遅らせないと!」


「あぁアイン! 俺にも手伝うぜ!」


 アインがバリアの外に出ようとし、俺もそれを手伝うために一歩足を踏み出す。

 だが、手錠が引っ張られて俺は三歩下がらされた。なんだ?


「その必要はありません。私の魔法……ようやく詠唱が完了しましたから」


「じゃ、じゃあバリア解除するよ!」


 カエデがバリアを解くと、ディララは前に出る。

 威嚇行動を取ってから、口元に何かを溜めたキメラ。

 ブレス攻撃か!


「ディララ!ブレスが……」


「ノー・プロブレム、問題ありません」


 ディララが本をバラバラバラバラ……と無造作に開いたと思うと、本の真ん中でページの動きは止まる。

 そこからオレンジ色に光る文字が出てくると、ディララは指でそれを動かし、杖と共にキメラへ向けた。

 光る文字に書かれている文字……英語、そのスペルは……読めん!


「【メテオ・レイン】!」


 ディララが杖を一振りし、魔法の名を叫んだ!


「いけええええええ!」


 俺も拳を突き出して、そう叫び、ディララの応援をした!

 だが……それだけだった。


「……あれ?」


「なんや、何も起きてへんで?」


 何も起きない。ディララはスキルの詠唱も終えていて、確かに魔法を放った、ちゃんと放ったはずだ。

 最初から、魔法はちゃんと使えているはずだし……火炎弾が放たれた時や、光の槍を放った時も、魔法はすぐに効果を出した。

 なのに、なんで効果が現れてねえんだ?

 ……最悪の事態が、俺の頭の中を過ったので、俺はディララに詰め寄る。


「おいディララ、まさかミスったとかそんなんじゃねえよな!」


「黙っててください」


 ディララは語気を強めにしてそう言うが、なんの説明も効果も無いとこっちだって焦る。


「おいディララどうすんだよ!キメラのブレスが……」


「はぁ……この魔法は放ってから、撃つまでに時間が少し必要なんです!」


「兄さん、上!」


 ディララがイラついたように言うと、何かに気付いたランコが槍で上を指し示した。

 俺たちはランコの槍の穂先が示す、真上を見上げると。


「えっ……なん、っだこれ……」


「王の財宝か?絶対そうやろコレ」


「人類滅亡しそうやな!」


「隕石だぁ……」


 数えきれないほどの大量の魔法陣が展開されていた。

 大、中、小……様々なサイズ、向き……だが全てオレンジ色に統一されていた。

 かつて戦ったクイーンウィッチのエレメント・レイン以上の魔法陣の数。

 魔法陣からは隕石が見えていて……今にも発射寸前の銃口のようだった。


Yourあなたは Deadしんだ


 綺麗な英語の発音と共に、ディララは指をパチン、と鳴らした。

 その音が合図だと言わんばかりに――


「ギャアアア!」


 ブレスを吐く寸前だったキメラに向けて隕石が降り注いだ。

 キメラのブレス攻撃は暴発することもなく、隕石の前にかき消され――

 HPバーも全損して、キメラのドロップアイテム、経験値、金が出現した。


「……圧巻やな。その魔法」


「流石、ランキング八位です! 今まで見て来た魔法よりも凄いです!」


「私も攻撃力に極振りにしたら良かったのかなぁ……」


 拍手をしながらも開いた口の塞がらないゾームー、はしゃぐように飛び跳ねているアイン。

 そして馬鹿なことを考え、蜻蛉切の先っぽを見つめているランコ。

 スティーブンはしれっとドロップアイテムの確認をしているようで、分配を考えていたようだ。

 ……で、カエデは放心しているように固まっていて、ポカーンとしていた。

 まぁ、防御力と攻撃力じゃ、極振りした時の映えは全然違うよな。


「どうですか、ブレイブさん」


「あぁ、すげえ威力の魔法だ。ミスしたかと思ってたけど、ホントに撃ててたんだな……疑って悪かった、ディララ」


「別に構いませんよ。過程がどうあれど、人類の勝利です!」


 ディララはニコッ、と笑ったと思うとVサイン。

 人を恋に落としてしまいそうな仕草だ。

 ハルと先輩が見たら「ケッ」とか言ってそうだ。


「おーい、リーダー、ドロップアイテムの分配するでー」


「あ、お、おう!」


 俺たちはその後、キメラが落としたドロップアイテムとにらめっこしつつ……全員に遺恨が残らないような分け方をして、その先へと進むのだった。

 ……一応、ディララの働きを見て、手錠による引きずり回しはなしにした。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:43

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:60(+73) AGI:90(+58) DEX:0(+20) VIT:35(+98) INT:0 MND:35(+63)


使用武器:小鬼王の剣・改、小鬼王の小盾・改

使用防具:龍のハチガネ・改、小鬼王の鎖帷子・改、小鬼王の鎧・改、小鬼王のグリーヴ・改、ゴブリンガントレット、魔力ズボン・改(黒)、回避の指輪+2

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