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第四十話:どうしてこうなったの

「……どうしてこうなったの、兄さん」


「さぁな、俺が知りてえよ」


「お前ら文句言わんといてや、ある意味親睦の会みたいなもんやろ」


「僕はランコさんと同じパーティだから良かったですよ」


「そうですか、向こうにトップ全員持ってかれたので負け確定ですけどね」


「でも、味方最大の脅威がいるから攻略捗らないかも、って言ってましたよ!」


「その渾名をコイツ以外につけんといてや、脅威は一人でええ」


 王の騎士団傘下に入った俺たちは、アーサーの提案で第三都市の方にあるダンジョンを攻略することとなった。

 それで、丁度推奨レベルが同じダンジョンが二つあったので、七人パーティを二つに分けてという形になったんだが……

 その分け方がくじ引きだったおかげで、メンバーの偏りが酷いことになってしまった。


「ほんまもう……くじ引き提案した奴誰やねん……一言言わせろや」


「私ですが、何か文句でも?」


「ふざけんなやコラ」


「勝負形式にしたスティーブンさんの方がふざけんなや、では?」


「ぐうの音も出ない正論ですねー……ハハハ」


 くじ引きと言う方式に文句を垂れるスティーブンの嘆きに、真面目に答えた青髪の魔法使い……ことディララ。

 そう、俺のチームにはディララがいる。

 アルドたちの言っていた通り、確かに可愛いし強いし真面目そうだし、悪そうなプレイヤーではない。

 尤も、極振りなんてしてるから足並みがそろわないんだよなぁ……コイツ。

 ダンジョン攻略で足並みが揃わないのは問題だし、かといってディララやカエデみたいなAGIが0の奴に合わせると攻略は遅れる。


「んー、にしても、何でこうも戦力が偏ったんだろう……極振りの私とディララさんじゃ、キャラ被っちゃうよ」


「馬鹿にしないでください、少なくともカエデさんとキャラが被ることはあり得ませんので」


「キャラ被り以前に戦闘スタイルで問題になってるってことを指摘し合ってくれや」


 カエデの嘆きに返答するディララ、それを見て呆れるゾームー。

 俺とランコは顔を見合わせ、首を左右に振ってため息をついた。


「んー、向こうにランコさんが行かなくて良かった気持ちはありますけど……せめてスティーブンさんとランスロットさん辺りを交換して欲しかったですね」


「やめろアイン。それは俺が目立たなくなる、何だったら劣化ランスロットって言われるから」


「え、兄さんってそうじゃないの?」


 ランコの言葉が俺の心の臓を抉りぬくような威力を持っていた。

 くっ……確かに俺はランスロットと色々被ってる部分はあるのは自覚してる。

 けど、他人からそれを指摘されると心にグサッと来る。


「ま、メンバーやら戦闘スタイルに文句言うても仕方ないやろ……ここはそれなりに頑張って、まぁこのメンツじゃ仕方ない、ってなるよりもこのメンツでこれは凄い! って思わせようや」


 ゾームーが俺たちを盛り上げる言葉をくれたので、俺たちはおー、と声を揃える。

 因みに……このパーティのリーダーは俺であり、メンバーはゾームー、スティーブン、ランコ、アイン、ディララ、カエデだ。

 理想の陣形だと……前衛にカエデ、そのちょっと後ろに俺とアイン。

 中衛にゾームーとスティーブンとランコ。

 後衛にディララ一人。

 って感じなんだが、極振り組のせいで見事に破綻している。

 カエデは範囲防御スキルを習得していないようだし、コイツを前列に歩かせてたら凄いトロい。


「そうですね、私も今回は壁が出来るのでダンジョンは楽に戦えそうです」


「僕とランコさんがいれば……」


「千人力のつもりでいてください!」


 ディララはゾームーの言葉でやる気を出したようで、ふんす、と燃えていた。

 ランコとアインは一緒になれたからやる気出してるし嬉しそうだ。このリア充が、爆発しろ。末永く。


「よーし、私もリンには負けないよう活躍するぞっ!」


「せやな、どうせ負けるんなら、いい負け方にしたるわ」


 凄いな、ゾームー。俺よりもリーダーらしい言葉をちゃんと言ってくれた。

 あ、因みにさっきから向こうのチームとか言われてるチームはAチームだ。

 リーダーがアーサー、メンバーにランスロット、アルトリア(書記の人)、先輩、アルド、リン、ハル。

 ダンジョン攻略におけるパーティとしてはこれ以上安定したものはない。

 俺たちはBチームだ、名前のイニシャルが合ってるからって理由で。


「お、早速モンスターのおでましやわ」


「俺が攻撃を止めるから、ゾームーとスティーブンが弓矢を撃ってくれ」


「お、了解了解」


 さっきまで一匹たりともいなかったモンスターが機を測ったように出て来た。

 数は三体、出て来たのは……クレイジーハウンド、ゾンビハウンド、スケルトンハウンド……ここも死者系のアレか?

 ダンジョン名とか詳しく見てなかったせいで、どんな敵が出てくるとかわかんねえや。

 石で作られた要塞のような建物って事だけしかわかんねえ。


「グ”ゥ”ゥ”ゥ”!」


「ガルァッ!」


 ゾンビハウンドが真正面から、回り込むようにして壁を走った二匹が俺の脇を通り抜けようとする。

 だが、それをさせないために俺は新たなスキルを習得したんだ。


「【F・フロート・シールド】! 【Sフロート・シールド】!」


「フロート・シールド……ですか」


 ディララが驚いたように俺を見ているが、別に大したスキルじゃない。

 強度で言えば普通のシールドよりも劣る……が、行動阻害には持ってこいのスキルだ。

 何せ、移動することが出来るシールドだから、スケルトンハウンドとクレイジーハウンドはこれで抑えられる。

 今までのシールドだと、ピンポイントで出さなきゃいけないから強度は合っても狙いが難しかった。

 だが移動の出来るフロート・シールドならば、大まかな狙いでも移動さえさせれば──


「ゲタッ!」


「ガァッ!」


 盾にぶつかった二体の狼は倒れた。

 俺に飛び掛かって来たゾンビハウンドは……現在盾で受け止めている。

 盾から決して顎を離さない辺り、ゾンビらしいっちゃゾンビらしいが……それは俺にとって好都合だ!


「【バーニング・ソード】」


 俺は盾に噛みついて離さないゾンビハウンドへ向けて、新たなスキルを発動させた。

 そう、俺が今まで習得していなかった属性系攻撃スキルだ。

 普通に物理攻撃で仕留めようとすると、ゾンビ系モンスターには効果が薄い。クリティカル以外だと。

 だが、属性剣ならクリティカルを出さなくてもダメージを与えられるし、炎系なら持続ダメージも入る。


「ギ”ャ”ゥ”ゥ”ゥ”!」


「アイン! 頼む!」


「はい!」


 燃えて、HPバーが削れても尚俺の盾から離れないゾンビハウンドを、アインの前に差し出す。

 アインは双鉞を抜いて、それをゾンビハウンドに叩きつけ、HPバーを全損させる。

 で、スティーブンとゾームーは……ノックバック効果のある弓なのか、どっちのハウンドもハメに持ち込んでいた。

 近づく動作すら取らせず、延々と矢を放つだけで狼たちは壁に叩きつけられていた。

 見ていて楽しいものではあるが、チマチマとダメージを与えているのが嫌な気分になってくる絵面だ。


「へいへいへいへーい」


「ほら近づいてみろよ駄犬がよぉ!」


 ……コイツら小動物とか相手には強気に出そうな性格してんなー。

 カエデとかランコとか若干引き気味の表情だぞ?


「あの、ゾームーさん、スティーブンさん」


「あぁ、なんや」


「非効率的すぎます」


「えっ」


 ディララが痺れを切らしたようにゾームーとスティーブンをどかすと、杖を向けた。

 攻撃が止んだ、と言わんばかりに真っすぐ走ってくるスケルトンハウンドとクレイジーハウンド。

 ディララの杖からは赤い魔法陣が一つ展開された。


「【ファスト・ラピッドファイア】」


 すると、ディララの杖から小さい火炎の弾丸が高速で射出された。

 それは瞬く間に二体を消し炭に変えた。

 ……焼き殺したせいか、ドロップアイテムは出なかった。

 あ、でも経験値と金は入った。


「ふぅ、これで進めますね……さ、先を急ぎましょう」


「……おう」


「なぁウツ、後ろから矢ぁ撃ったら即死するかな」


「やめとけ」


 ディララが先頭を歩き出したところで、ゾームーとスティーブンはヒソヒソ囁き始めた。

 コイツら……パーティメンバーを殺す事を至極当然かのように考えてやがる。


「なんか、先行きが不安になって来たなぁ……私」


「あぁそうだな、殿がお前で先頭がディララのせいで足が遅いことも不安になって来た」


 カエデがやれやれ、と言った感じでボヤくが足並みが凄い遅い。

 どうやったらこの遅さを解決できるんだろうか……と、そこで俺に電流流れ、閃いた。


「なぁ、一つ皆に聞いていいか?」


「何ですか?」


 ディララがくるっと振り返る。

 ゾームーたちも足を止めて俺の方に向き直る。


「こう……長いタイプの手錠とか持ってるか? 三つくらい」


「あー、なんとなくブレイブの言いたいこと分かったわ」


 ゾームーはストレージから何かをアイテムを出した。

 ……鎖、手枷……うん、完璧に手錠だ、長さがすっげえことになってるけど。


「な、ウツもわかるやろ」


「あぁ、これでディララ拘束して、集団──」


「死んどけ」


 ウツの鼻っ柱にパワー・スマッシュを叩き込んで壁に叩きつけた。

 惜しいことにHPが一割くらい残った。もう一発殴ろうかな、ケツでもシバいてやりたい。


「何すんねんお前……殺す気か!」


「全年齢対象のゲームでそんなこと言う方が悪いだろ」


「せやな、これはウツが悪いわ」


 ゾームーはまだスティーブンよりかは普通の奴だ。

 まぁ……あくまでスティーブンよりかは、だけどな。


「あぁ、話が脱線した……! で、ゾームー、お前その手錠三つある?」


「三つ? すまんな、二つしかないわ」


「あ、僕ちょっと短いんですけど、一つ持ってますよ」


 ゾームーがストレージから二つの手錠を取り出したが……長さは同じ。

 だが根本の本数が足りないと言ったところで、アインが一本取り出した。

 確かに数センチほど短いものだが、これなら使えそうだ。

 ゾームーがくれたのは五メートルほどあるし、アインのはそれより少し短い程度。


「よーし……じゃあディララ、カエデ、手ぇ出せ」


「いったい、何を……?」


「まぁまぁ、見てりゃわかるから」


 不思議そうに手を差し出すディララに、俺は手錠をかけた。


「!? あの、ちょ、ブレイブさん!?」


「安心しろ、別に悪いことするわけじゃねえから。

怖がる必要はねえぞ? なぁ、そこの逃げようとしてるカエデ?」


「あ、あはは、ばっ、バレてた……」


 こっそりと逃げ出そうとするカエデも直ぐに捕まえ、ディララの左手とカエデの右手を繋ぐ。

 そしてディララの右手、カエデの左手につけた手錠は余りがある。


「私たちを繋いで、一体どうしたいんですか?」


「ディララさん、私ちょっと前にリンとナナタにやられたからわかるんだけど……」


「こうする」


 二人の余りの部分を俺の手に片方ずつつけて、トライアングルの形が完成した。


「……これは?」


「あぁ、極振りしてAGIが0なお前らのための処置」


 俺の言葉を聞いてようやく意味が分かったのか、ディララは冷や汗をかき始めた。笑顔のまま。

 そう……AGIとSTRの両方が高い俺なら、この二人を手錠で引きずって走ることが出来る。

 丁度長さにも余裕があるので、戦闘でもそこまで差支えはない……はずだ。


「兄さん、これで本当に大丈夫なの?」


「心配すんなって、バフスキルとスイッチスキル使うから」


「……なんだか僕、少しディララさんとカエデさんが可哀想に思えて来ちゃったよ」


 心配するランコ、二人の未来を察して拝むアイン。

 顔が青ざめて冷や汗をかいたディララは、首をぶんぶんと左右に振っている。

 カエデは諦めたようで、はぁ……とため息をついた。


「いよぉぉぉしッ! 行くぜお前らァ! 全速力で駆け抜けるぞ!」


「ほなこの千里馬飲むか!」


「まぁ奥の手のつもりやったけど、ワンチャン勝てるかもやしな……ほないただきまーす」


 ゾームーとスティーブンは懐から水色のポーションを取り出して飲んだ。

 すると青いオーラが二人にかかった……恐らくAGIを挙げるアイテムか。

 アインとランコも何かスキルを使ったようで、AGIは皆バッチリか。


「加力! 加速! 諸刃の剣!」


 加速で俺のAGIを1.5倍にし、更には諸刃の剣で俺の防御関連ステータスを全てSTRとAGIに還元。

これなら──!


「舌噛むんじゃねえぞ二人とも!」


「きゃあああああああああ!」


「うわあああああああああ!」


 ディララとカエデの悲鳴が揃い、要塞内に響き渡った……

 が、俺はリンもビックリするであろう程の速度で要塞内を駆け回る。

 幸いにもそこまで入り組んでいないようだから……カーブこそあれど行き止まりはない。


「ちょ、ちょっとブレイブ速すぎちゃう?」


「千里馬より速いとかバケモンかよ」


 俺の後ろをついて来てるゾームーとスティーブン。

 いや、加速と諸刃の剣を同時使用した俺に追いつく方も大概だろ。

 一応コレ、俺の奥の手だぞ? 防御を捨てた最高速度なわけだし。


「兄さん、前!」


「あ、もう中ボスか」


 出てくる雑魚は俺たちが認識されるよりも先に進んでたから、あっさりと中ボスまで行けた。

 ここがこのダンジョンの中継地点と言うか……丁度真ん中に値するわけだな。

 因みにこの要塞は地下にボスがいるタイプだから、階段を下ってる方式だ。

 階段は飛び降りてもいいが、今の俺は装備の効果すら働かないVIT0なので、ちょっと危ない。

 カエデをクッションにしてもいいが、流石に良心が痛んだのでやめた……って話が脱線したな。

 とっとと目の前の中ボスを倒そう。


「あぁ、目が回る……死にそう」


「お父様、お母様、今私は死にそうです……うぷっ」


「HPマックスだろお前ら」


 目を回してフラフラするカエデとディララにツッコミを入れる。

 VRじゃ致命傷でも普通の状態と何も変わらねえだろ、まったく……


「んじゃ、ほなとっととこのボス倒して……先行こか」


「手柄はワシらのもんじゃい!」


 やる気を出したゾームーとスティーブンは弓を構え、追い付いて来たアインとランコも武器を抜く。

 俺どうしようかなぁ、剣振ったらディララを繋いでる鎖が邪魔になりそうだし、盾を出したらカエデが 前に吹っ飛んでくし。

 と言っても、折角速く動けるんだからカエデを壁にして、ディララに指示出せばいいか。

 カエデも俺に引っ張られれば速く動けるわけだし。


「さぁて、作戦は固まった。やるぞ!」


「蜻蛉切に斬れぬものなし、いざそれを実践!」


「いよぉぉぉし、僕らの力を見せてやる!」

スイッチスキル:諸刃の剣発動時

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:42

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:60(+204) AGI:89(+154) DEX:0(+20) VIT:0 INT:0 MND:0


使用武器:小鬼王の剣・改、小鬼王の小盾・改

使用防具:龍のハチガネ・改、小鬼王の鎖帷子・改、小鬼王の鎧・改、小鬼王のグリーヴ・改、ゴブリンガントレット、魔力ズボン・改(黒)、回避の指輪+2

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 少し気になるのですが我々だのメンバーの名前がほとんどまんまで出ているのは権利的に大丈夫なのでしょうか?関係者とかでしたら申し訳ありませんが… [一言] 設定とか内容とかはすごく面白く文…
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