第三十九話:第三回ギルド会議
三日ほどかかったSBOのメンテナンス、及びアップデートから一週間。
十日ほどの月日を得て、俺たちはようやくやることが落ち着いて来た。
アップデートで追加されたスキルやアイテムの入手、イベントで習得したスキルの試し打ち……後は新エリアの探索とかだな。
サービス開始時から解放されていた最初のエリア、【第一都市・イカチ】。
第一回イベント終了後に解放された新たなエリア、【第二都市・コソコソイカチ】。
今回のイベント終了後に解放された新たなエリア、【第三都市・コソコソイオト】。
これで行ける街が三つになって、店で売られている装備もそれなりな品が入手できるようになった。
尤も、キョーコの武具にお世話になってる俺たちじゃあ買う物はなかったけどな。
で、今の俺と先輩は何をしているかと言うと……だ。
「それでは、第三回ギルド会議を始めたいと思います。それではギルドマスターの皆さん、自己紹介を」
「じゃあ、招集した身としてまずは僕から、王の騎士団ギルドマスター、アーサーです。
この度は皆さんのお時間を割いて頂き、来ていただいたことに感謝いたします」
「王の騎士団ギルドサブマスター、ランスロットだ。
今回の会議では、私から言うことは何もないとだけ言っておこう」
王の騎士団のギルドマスター、ギルドサブマスターが自己紹介と挨拶を終えると、席に座った。
そう、俺たちはメイプルツリーと同盟を組んだために、王の騎士団傘下に入るわけだ。
故に……こんな小規模なギルドでも大規模ギルドに戦を仕掛けられる心配はない。
まぁ、人数だけしか取り柄のないギルドでも来たなら、逆にボコボコにしてやるけどな。
アーサーとランスロットが席に座ったのを確認すると、次のギルドのマスターたちが立った。
「あー、【我々冒険団】のギルドマスター代理……マイク・トントンと申します、今回は新戦力が来たっちゅーことで、楽しみですなぁ」
「えー、マイク・トントンの補佐で来た、我々冒険団のギルドサブマスター。
スティーブン・ウツって言います、気軽に軍団長と呼んでください」
豚の顔をした……と言うより、豚の顔を模したフルフェイスマスクをした軍服コートを着た男。
と、先日の第二回イベントで俺が後ろから暗殺した青スーツの眼鏡男。
彼等が席についたと同時に、俺は少し顔を逸らした……いやそりゃ、だって気まずいんだもん。
けれども、今日からは味方の陣営として戦う仲間、言わば同盟相手に等しい。
だからこそ、この気まずい状態でも、フレンドリーにやって行く必要があるだろう。
「じゃあ、次は私たちかな……んしょっ、メイプルツリーのギルドマスター、カエデです」
「一応ここにいる全員私たちのこと知ってると思いますけど……メイプルツリーのギルドサブマスター、リンです」
メイプルツリーの二人組……俺たちをこの会合に招待した二人。
新しく結成したギルド、集う勇者こと俺たちが王の騎士団傘下に入ると言う話を二人が通してくれた。
なので、既に王の騎士団傘下のギルドと会議をのようなものをすることになったワケだ。
「僕は【ディララたん親衛隊】のギルドマスター、アルドです。
アーサーさん、今回の会議にディララたんは来ていないんですか?
ディララたんがいないと僕たちの脳の処理速度が五割ほど落ちるんですけど」
「うむ、拙者はディララたん親衛隊のギルドサブマスターの夜一にござる。
見ての通り、マスターのアルド殿共々ディララたんをお守りすべく、この世界にて剣技を磨いている身にござる!」
……青いウィッグを乗せて、黒ぶち眼鏡をした二人組。
一人は片手剣を腰につけ、オシャレな格好をしている少年。
で、もう一人は侍のような格好だが、青いウィッグと黒ぶち眼鏡で台無しだ。
つーか、ディララたんって誰だ?
「……あの、えーと、そちらのお二方、自己紹介をお願いしたいのですが」
会議用か、黒板の前に立ってる金髪の女性が俺たちに自己紹介を促してくる。
あぁそうだ、自己紹介してねえのは俺たちか……と、俺は先輩と共に立ち上がる。
「あー、王の騎士団傘下に入らさせていただいた、集う勇者のギルドマスター……ブレイブ・ワンです。
小規模ギルドなんで、戦力の数としては過度な期待はしないように」
「集う勇者のギルドサブマスター、N・ウィークだ」
ギルドマスターの俺と、ギルドサブマスターの先輩が自己紹介を終える。
席に座るとようやく会議が始まるみたいで、場の空気が少し変わった気がする。
ランスロットは被っている兜のせいで目は見えないし、どういう表情をしてるかわからん。
で……この我々冒険団ってギルドのマイク・トントンってプレイヤーは凄い目立つな。
軍服のようなコートに、豚のフルフェイスマスク、軍隊が被ってそうな帽子……マークでもありゃ軍人そのものだな。
隣に座ってるスティーブン・ウツが青スーツなだけに、ある意味この中じゃ一番見た目にインパクトがある。
「本日の議題は集う勇者について、だね」
王の騎士団のギルドマスターであり、この会議で議長となっているアーサー。
彼が議題を発表し、黒板にチョークで議題を書いている人以外の視線が俺に向けられた。
「ほう……中々の面構えやないかい。
流石、ウチのエース……ゾームーをタイマンで沈めただけはあるなぁ」
「そういや俺も後ろから暗殺されたな、見事な手際でしたわぁ……漏らすかと思った」
「それはお前がガバっただけやろ、ケツの穴もガバガバなんやからちゃんとオムツ履いとけ」
「いやちゃいますって、後ろからいきなり首チョンパされたんやって俺、あとケツはちゃんとしてるわ! おもらしなんて三歳で卒業したっちゅーの!」
マイク・トントン……マイクと、スティーブン・ウツ……スティーブンが一番最初に口を開いた。
関西弁で喋る奴は初めて見たな……SBOはやっぱり日本全土で遊ばれてるのか。
話題沸騰のゲーム、ってだけはあるな。
「あれ、トントンさんの所も負けたんですか?」
「お、もしかしてリンも負けたんか?」
「カエデと二人がかりで挑んでも惨敗でしたよ。
イベントじゃ、ホウセンさんと遭遇させられましたし……ある意味二敗です、畜生め」
リンは俺を見ながら、やれやれと言った表情で語る。
つっても、サクラとの戦いのときは危なかったけどなぁ、俺も。
何せスキルを使用不可にされたせいで、かなり戦い辛かったし。
逃げれたからよかったけど、リンが万全なら負けてたな、俺。
「へぇ……我々冒険団のエースと、メイプルツリーのマスターたちを倒すなんて凄いじゃないか。
これは予想以上の新戦力となりうるかな、君はどう思う? ランスロット」
「私は彼と対峙したことはあったが、いきなり行動不能にしてきたと思えば走って逃げだしたのでな、よくわからない人物としか言いようがない」
アーサーとランスロットは俺を褒めてるんだか馬鹿にしてるんだかわからないような会話をする。
マイクとスティーブンはメイプルツリーの二人と何やら話してるし……ホントに議題は俺たちなのか?
「あー、所で宜しいかな……えーと、ブレイブ・ワンさん?」
「えーっと、アルドだっけ?」
「そうそう、アルド」
「それで俺に何か?」
アーサーたちが喋っていて俺が疎外感を少し抱いてきたところで、アルドが手を挙げた。
すると全員ピタリと黙り、アルドは俺に向けて指を差した。
「君は、ディララたんの好きな所とかある?」
「そもそもディララたんが誰だよ」
「ハッ! まさか、まさかディララたんを知らないとは! 王の騎士団傘下に入ると言っておきながら、あの最高のクールビューティー極振り魔法使いを知らないとは!」
「極振り魔法使いぃ?」
魔法使いで極振りってどう言うスタンスだよ。
と、カエデを見ると、カエデは何故か照れ臭そうに笑っていた。
お前みたいな馬鹿が二人もいるとは思わなかっただけだよ、照れんなバカ。
「フン……ディララたんを知らぬ者とはのう、我々冒険団のエースを倒したと言う話は眉唾でござったか……」
「なんでそうなる、俺の脳みそがスカスカなのは事実だけど実力はマジだっつーの、ブッ飛ばすぞ」
「ブッ飛ばすぞ、はこちらの台詞でござる! ディララたんを知るのはこのギルドに関わるものならば必然! あの青く美しい髪、黒くきらりと光る眼鏡、水晶のような碧眼、クールビューティーな口調!
美しい魔法の数々、それらを補助する装備の着こなし、そして……イベントランキング八位と言う強者の証! それを知らぬのは……ギルティでござる!」
「え、あ、そうなの」
……まぁ、要は凄い強くて美人な魔法使いってことなんだな、ディララってやつは。
一つのステータス以外0になる極振りで八位まで行くってのは、相当すげえ奴なんだろう。
だが突っ込ませてくれ、侍キャラで横文字を羅列するな……笑いそうになるだろ。
しかも最後のギルティでござる! ってなんだよ。
よし、心の中でのツッコミは終わり、あとはカエデへの質問だ。
「えーと、そうだ。第二回イベントだ、カエデ、お前ランキング何位だった?」
「お恥ずかしながら、78位でした……やっぱり防御の方に振ってると、難しくって」
「じゃあディララってプレイヤーは、とんでもなくスゲーんだな」
カエデだって決して弱いわけじゃあない。
極振りという使い辛さが目立つようなピーキーなステータスなのに、3000人以上が参加していたイベントで78位。
これは誇っていい程の順位でもあるし、極振りでここまで行くのは凄いことだ。
……まぁ、俺は確かにカエデよりも順位は上だけど、俺のステータスならこれくらいは当然だ。
カエデの78位は、俺の40位よりも凄いものと見ていいだろうな。
そんなカエデや、俺を遥かに上回る……極振りであろうがなかろうが一桁を目指すのは至難の業だ。
先輩でも初めて聞く名前っぽいことを察すると、新進気鋭のとんでもない奴が現れたってことになるな。
「やっぱりディララを呼んでおいて正解だったね……会議がまとまらなくなるところだった」
アーサーがそう呟くと、アルドと夜一の首がぐりん、180度反対にと動いた。狼顧の相かよ。
数秒すると、首から下も遅れたように180度動いた……ただのラグかよ。
「ディララたんが」
「会議へ来ると……?」
「あ、あぁ……彼女もここにいるのは楽しいようで、時間が合う時は──」
「フォオオオオオオオオオウ! ディララたあああああん!」
「アルド殿ぉ! 今回の会議はとても良いものになりそうでござるなあああ!」
アルドと夜一は手を組んでやいのやいのと踊り始めた。
マイクもスティーブンもカエデもリンも……ランスロットもアーサーも、俺も先輩も見ているだけだった。
正直見てて気持ち悪いが、彼等にとってのSBOの楽しみはディララなんだろう。
ディララと言うプレイヤーと共に遊ぶことが、彼等にとっての楽しみなんだろう。
俺がSBOを遊ぶ楽しみが、先輩やハルたちと遊ぶことと考えたら納得のいくことだ。
でもやっぱ愛が重いと言うか深いと言うか……怖いな。
「あのー、さっきから一ミリも会議になってないような気が……これ、大丈夫なんですか?」
「なんやリン、忘れたんか?」
「へ?」
「この会議が、一度でも会議らしくなったことがあったか?」
マイクとスティーブンの言葉にリンは納得したようで、挙げていた手を下ろし深いため息をついた。
……うん、十中八九あの親衛隊二人が原因で会議になりにくいんだろうな。
もう呼ばなきゃいいんじゃねえか? アレ。
「アーサー、これはいったい何なんだ?」
「何なんだ、と言われてもね……正直、親衛隊二人がディララ目的のせいでまともな会議になった試しがないんだよ、ギルドマスターとしては恥ずべきところなんだけどね、ハハハ」
「ワイらやカエデん所が初めて来た時もこんな感じだったんやで、この二人のやかましさを知るのはある種の登竜門や」
「今度こそ、まともな会議になると思ってたんですけどねー……たはは」
マイクもカエデも諦め顔でお手上げのポーズだ。
まぁ、そりゃあそうなるよな……このうるささは。
「それ以前に、議題の集う勇者についてと言うのがアバウトすぎるだろう。
もう少し、具体的に話し合うところがあればまともな会議なのではないか?」
「まぁ、N・ウィークの言う通りさ。全部全部その通りだけれど、正直な話……僕からは一つ質問するだけ……さっ」
アーサーは先輩の指摘を受けるとうんうん、と頷くと共に、ストレージからアイテムを取り出した。
……なんだ? お椀っぽい何かと……一枚の紙? それを俺の所にスーッと差し出して来た。
距離があったからか、バーテンダーが作った飲み物を客に差し出すときのような渡し方だ。
「TRPGに付き合ってくれるかどうか……ね」
アーサーから差し出されたものは、六面ダイスと何かのプロフィールを書くような紙だった。
……何の意味があるんだ、コレ。
「ま、ディララが参加するときはもれなく親衛隊もついてくるTRPGや。
GMは書記のアルトリアか、ランスロットがやってくれるねん」
「TRPG、か」
俺は差し出されたダイスを見ながら呟く。
クトゥルフ神話とか色々ある奴だが、俺は六面ダイスで出来る奴しかやったことねえな。
実際、ルールも自己ルールで凄い簡略化してたし……あとは人狼ゲームくらいしかやったことがない。
「それで……集う勇者は僕の趣味に付き合ってくれたりするのかい?」
「付き合う、付き合うぜ。それで俺たちが敵対せず、ボス戦の時だって協力出来るような関係になれるならな……俺もTRPGは嫌いじゃないし」
「なら、これで集う勇者も晴れて王の騎士団傘下……いや、王の騎士団の同盟相手だ。
仲良くしていこう、ブレイブ・ワンくん」
「くんはいらない、普通にブレイブ、って呼んでくれればいいぜ」
こうして、俺とアーサー……集う勇者と王の騎士団は一つの括りになった。
大規模ギルドにも手が出されず、PKされることが限りなく少ないギルドの連合の完成だ。
なんか、変なのもいるけど。
プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン
レベル:42
種族:人間
ステータス
STR:60(+72) AGI:89(+57) DEX:0(+20) VIT:35(+97) INT:0 MND:35(+62)
使用武器:小鬼王の剣・改、小鬼王の小盾・改
使用防具:龍のハチガネ・改、小鬼王の鎖帷子・改、小鬼王の鎧・改、小鬼王のグリーヴ・改、ゴブリンガントレット、魔力ズボン・改(黒)、回避の指輪+2