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第三十八話:第二回イベント、終幕

「ここまで、か……疲れたな」


 視界の右端に現れていた数字が、00:00となった。

 それはイベントの時間が終わることを示している。


『それでは、結果発表ォォォ――ッ!』


 凄く甲高い声のアナウンスが流れ、イベント終了、と視界に表示された。

 ……最初の噴水広場に転移するかと思ったら、結果はその場で確認できるみたいだ。


『上位10名のプレイヤーには、豪華賞品が進呈されます!

1000ポイント以上獲得したプレイヤーには、ポイントによる新たな習得スキルを選択出来ます!』


 アナウンスが終わると、上位10名……どころか、イベントに参加したプレイヤー全員のスコアが出た。

 ……上位10名の下に自分の名前が直ぐに書いてあるから、自分の所はすぐに確認できるんだな。

 じゃあ、まずは上位10名の方を見よう、と思ったらモニターとテロップがスコア表に被るように出て来た。


『上位3名のプレイヤーへインタビュー!』


「あ、先輩だ」


 最初に先輩が映っていて、どうやら彼女は上位入りしたみたいだ。

 前回と変わってないみたいだけれど、まぁ、落ちてないだけマシなんじゃないだろうか。


『まずは今回イベントのランキング3位、N・ウィークさん! 一言お願いします!』


 と、マイクが先輩の方に差し向けられた。

 先輩はうーん、と悩むような顔をしていたが、すぐに喋り始めた。


『あぁ、皆どうも、N・ウィークだ。今回も3位と言う形になってしまったが、その結果は非常に嬉しい。

あとは……そうだな、私の後輩が作ったギルドマスターを務め、私がギルドサブマスターを務めている集う勇者をよろしく頼む』


 先輩は、わざわざギルドの宣伝までしながらにこやかに手を振った。

 ありがとう先輩、そして可愛いよ先輩。


『3位のN・ウィークさんでした! どうもありがとうございました!』


 と、インタビュー係が言うと、画面が切り替わった。

 今度画面に映ったのは……誰だ? 銀色の長髪で、少し背が小さい……男か女かわかんねえな。

 けどまぁ、顔立ちから女っぽさを感じるし……多分、女……か?


『続いて2位のカオスさん、一言お願いします!』


 マイクが差し向けられると、カオスと呼ばれたプレイヤーは頭をぼりぼりと掻いた。

 んー、とかあー……とか言うことを考えているようだ。


『まぁ……結構楽しかったよ。やっぱSBOは俺の人生そのものだねー、最高』


『2位のカオスさんでした!どうもありがとうございました!』


 と、インタビュー係が言うとカオスが手を振り、画面が切り替わった。

 で……最後に映っているのは──


「ま、そうだよな……」


 先輩よりも上位に行けるプレイヤー……そんな奴、俺は一人しか知らない。


『最後に、1位のアーサーさん!一言お願いします!』


 マイクが差し向けられたプレイヤー……アーサーは堂々としていた。

 まるで、自分が1位を取るのは明白だった、って顔だ。


『アーサーです。今回のイベントでも、また1位を取らせていただきました。

しかし、目覚ましい成長を遂げたプレイヤーたちもいて……今後が楽しみ、その一言に尽きます』


『1位のアーサーさん、ありがとうございました!』


 アーサーのインタビューが終わると、上位3名へのインタビューの画面は消えた。

 ……さてと、上位3人はわかっているがそれから下がわからないので、ランキング表を見て行こう。


【第二回イベントランク戦・ランキング】


1位  アーサー    撃破数 3047 死亡数 0 数ポイント 30470pt

2位  カオス     撃破数 2500 死亡数 0 数ポイント 25000pt

3位  N・ウィーク  撃破数 2348 死亡数 1 ポイント数 23475pt

4位  オロチ     撃破数 1984 死亡数 4 ポイント数 19820pt

5位  エルフィア   撃破数 1870 死亡数 4 ポイント数 18680pt

6位  ホウセン    撃破数 1856 死亡数 2 ポイント数 18550pt

7位  ランスロット  撃破数 1524 死亡数 2 ポイント数 15230pt

8位  ディララ    撃破数 1367 死亡数 0 ポイント数 13670pt

9位  タダカツ    撃破数 1350 死亡数 2 ポイント数 13490pt

10位 アルトリア   撃破数 1289 死亡数 5 ポイント数 12865pt


…………


39位 ユリカ     撃破数 874  死亡数 5  ポイント数 8715pt

40位 ブレイブ・ワン 撃破数 875  死亡数 10 ポイント数 8700pt

41位 KnighT  撃破数 872  死亡数 8  ポイント数 8680pt


「……マジかよ」


 アーサーと俺は雲泥の差だ。

 と言ってもまぁ、俺も100人以上どころか870人分は得してるわけだ。

 つまり……俺もスキルを貰えるってわけだよな、とランキング表の隣にある【ポイントスキル交換】と言う項目をタッチ。

 するとスキルの名称、アイコン、その隣には必要なポイント数が書かれていた。

 折角だし……今回のイベントで俺にわかった課題、足りないスキル……それらを習得しておこう。

 ……700pt余ったが、それは7000Gになって俺のストレージに収納された。


「さてと……皆のランキング聞くのは後でいいか。落ちよ」


 俺は疲れたので、メニュー画面を開き、ログアウトボタンを押した。

 ……今回のイベントは楽しかったけど、制限時間のせいで滅茶苦茶疲れた。

 そのせいかまた頭が痛くなってきたし……調子も悪くなってきた。

 今度のイベントは、制限時間が短い奴だといいな……俺の意識は薄れていき……次に目を覚ました時は、俺の部屋の天井だった。


「うー……あぁっ、たった二時間しか経ってねえのか……感覚おかしくなりそ」


 体感が十二時間だと言うのに、現実は二時間……時間加速システムとやらは、奇妙なもんだ。

 そう思って起きようと……ん?何だ……この、ヌルヌルしたものは……?

 ハードを頭から外して、布団に手を置いていると、何か濡れたような物がある。


「えっ」


 恐る恐る手を持ち上げて見て、布団を見てみると……一面真っ赤に染まっていた。


「え……オイ……嘘、だろ?」


 俺は自分の顔を触ってみると、赤い液体がついていた。

 ──それが鼻血だと理解するのに、五分も要した。


「……どうっすっかな、コレ」


 俺はすぐに布団をベッドから外したが、掛け布団以外は真っ赤に染まっている。

 何なら着てるシャツも血で汚れたし……いやまぁ、この辺は洗えば済む話なんだが……鞘華にも母さんにも父さんにも怒られるな、コレ。

 と、俺が頭を抱えていると、タタタ……と言う足音と共に、部屋の扉がガチャッと開かれた。


「兄さん!ランキング何位だっ──え」


「……鞘華、ごめん」




 シャツ、敷布団、シーツ、体を鼻血で赤くした俺は風呂場で全てを洗うことになり、シャツも敷布団もシーツも俺が手作業で洗うこととなった。

 うーん……全く、やっぱりゲーム内で過度な集中をするもんじゃないな。

 しかも、VRに長時間ログインってのがそもそも体調悪くするようなものだけどな。

 鞘華に何の異常もないのが不思議でならねえや、全く……




「で……兄さんのランキングって結局何位だったの?」


 布団とシーツとシャツと自分の体を洗い終えて着替えた俺に、鞘華は聞いてくる。

 鞘華が別途で作り置きしておいてくれた昼飯を、一緒に食いながら。


「あぁ、俺は40位だった、お前は?」


「私は50位、丁度10刻みだね」


「……俺、直ぐログアウトしたから聞けなかったんだけどよ、アインやハル、ユージンは何位だったんだろうな?」


「さぁ……私もアインくんに聞こうとしたけど、直ぐログアウトしちゃったし。

ランキング表から探すのも数が多くて面倒だったし、明日私が聞いてみるよ。

で、それよりも……兄さんはしばらくゲーム禁止にね、体調を第一にして!」


 鞘華がビシッ、と俺を指差しながら言う。

 言われずともゲームはしばらくやらないつもりだったけどな。

 また鼻血出したら嫌だし、今度はそうならないように過ごすけども。




「さて、今後はどうするかね」


 飯を食い終わって、自分の部屋に戻って……替えの布団を敷いたベッドの上で寝っ転がって呟いた。

 SBOを初めて……引きこもり始めた鞘華との関係が更に良好になった気はした。

 先輩や盾塚とも、遊ぶ時間が多くなって……楽しい時間だって増えて来た。

 アインやユージンって友達も出来たけれど、この二人はリアルで会ったことねえんだよな。

 ……夏休みも残り日数が少なくなってきたし、SBOのアップデートを待って過ごすとするか。

 と、そんなことを考えていると、眠くなってきた。

 眠くなってきたのなら、寝るのが一番か……おやすみ。




……誰かに体を揺すられた。

なんだ?こっちは安眠してるってのに……迷惑な奴だぜ。


「──て、─きて、起きて、兄さん」


 声が聞こえて、今度は頬をペシペシと叩かれてた。割と痛い。

 あぁ、もうなんだよ……起きて軽く文句言って、二度寝と洒落込もう。


「あぁっ、なんだよ……今こっちは気持ちよく寝て──

ってどぅえええええぇぇぇぇぇ!?」


 俺は体を起こしつつも、起こして来た張本人に文句を言おうしたが……直ぐに止まった!

 だって、だって……目の前に先輩と盾塚がいたんだから!

 それと見知らぬ少年が一人いた! 誰だ!? 誰なんだ!


「起きたか、剣城」


「鼻血を大量に出してた、と聞いたので心配したんですよ! 先輩!」


「あ、そ、そりゃあ心配かけてすみませんでした……」


 盾塚の前でも平身低頭になって頭を下げる。

 まぁ、鼻血出すまでゲームやってたってなったら心配するよな。

 先輩たちには申し訳ないことをしてしまった。


「……リンゴを持ってきたぞ、食べるか? 剣城」


 先輩は自宅から持ってきたのか、包丁……っつーか短刀でリンゴの皮を剥いていた。

 美味そうではあるんだが、なんか……こう、絵面が恐ろしい。

 先輩はこのクソ暑い夏の日なのにも拘らず和服姿で凛としているし。

 ……座ってる椅子が俺のパソコンのデスク用の椅子なのに、和の雰囲気を感じる。


「あ、お茶もありますよ、先輩」


 盾塚は水筒を取り出し、ニコニコと微笑みながらお茶を差し出してくれた。

 ……先輩の左目と、盾塚の右目がバチバチと何かをぶつけ合っているように見える。


「ほら剣城、剥けたぞ。食べろ」


「むぐっ」


 俺が盾塚から貰ったお茶を飲み干すと、先輩が俺の口にリンゴを突っ込んできた。

 あ、美味しい、先輩が剥いたからかスゲー美味しい。


「う、美味い……ありがとうございます」


「フフ、それはまだ皮をむいた程度だ。

リンゴ大福等にすれば更に美味くなるぞ? フフフ……」


 マジか、このリンゴが更に美味くなるのか。

 食べたい、超食べたい。

 甘いものが凄い食べたくなってきた。


「じゃあ、今度作って貰っても……って、さすがにそれは不躾ですかね」


「構わんぞ。一人で作って食べるだけでは虚しいからな、それに……手作りは剣城にも食べて貰うつもりだったからな……フフフ」


 先輩は何故か不敵に笑いながら、盾塚を見下ろすように見ている。

 盾塚は額に青筋を浮かべながらも、にこやかにこっちを見る……が、怖い。


「あぁ、先輩。鼻血を出したのなら、血管を強固にする必要がありますよね。

なら、大豆のクッキーとかどうですか?」


「むぐ」


 盾塚にクッキーを押し込まれた。

 あ、大豆のクッキーって悪くねえな……美味しいし、今度買ってみよう。


「ほらほら剣城、乾いた物を食べると喉が渇くだろう? 緑茶だ、飲め」


「あ、はい、こっちも美味い……」


「先輩、こっちもこっちも、脳を使った後はブドウ糖が多いラムネがいいですよ」


「お、おう……こっちも美味いっちゃ美味い……」


 あれ、なんかこれおかしくないか?

 なんかおかしい、二人とも笑顔で自分の持ってきたものを片っ端から俺に食わせに来てる。

 何この二人、なにこれ、食害なの? 俺に対するいじめかなんかなの? ねえ、ちょっとこれどうなってんの!?

なんで二人は笑顔で俺に片っ端から押し付けてくんの!? 荒療治なのかこれは!


「あ、あの二人とも……ブレイブさんが困ってるような気がするのでもう、その辺でやめにしませんか?」


「……ふむ、確かに困り顔だな。私の至らぬ点か……雑兵に張り合うとは、私もまだ女として未熟だな。

すまなかった、剣城」


「先輩、すみません。つい……先輩が早く元気になって欲しくて……」


 先輩と盾塚が頭を下げて謝ってくれる。

 二人とも善意でやってくれたんだし、責めることじゃあないよな。

 むしろ、二人の善意を受け止める許容量のない俺が悪いのかもしれない。

 よし、今度は二人からの施しを全力で受けきれるほどの肉体にならねえとな。

 しかし助け船を出してくれたこの……少年には感謝しないとな。


「え、あーっと、ところで……お前は……誰?」


「あ、すみません。まだお義兄さんには自己紹介がまだでした」


 ……お義兄さん? なんだか嫌な予感がしてきた。


「僕の名前は【槌谷ツチヤ 優真ユウマ】、鞘華さんと先日お友達にならせていただきました。

セブンスブレイブ・オンラインでのプレイヤーネームは、アインです!」


「……んんんんんん?」


 俺は九十度首を曲げた。

 この高身長で……恐らく中学生……これが、あのアイン?

 イケメンで高身長のアインの正体が……割と普通の顔をしている……少年。


「……マジで?」


「はい!」


 見ただけでわかる……好印象の少年だ。

 近年では珍しい程、真っ直ぐな少年……中学生とは思えないくらいに真っすぐだ。


「えーと、鞘華の同級生だったりするのか?」


「いいえ、僕はまだ小学生なので……僕の方が年下ですね」


「嘘だろ」


「いえ、ホントです」


……絶句した。先輩も盾塚も、『最初はそう言う反応だよねぇ』って顔でこっちを見てくる。

嘘だと言って欲しいが……嘘をつくメリットがないよな、コレ。


「マジだったかぁ……ぁぁぁぁぁ」


「はい」


「なんか……お前になら、鞘華を任せられる気がして来た」


 小学生なのに芯が通って居そうなキリリとした表情、真っ直ぐな目……その目から感じられるのは、俺が今まで出会ったよりもずっと真っすぐだって事だ。

 曲がることがなく、ただただ進み続けるような、信念を感じる。


「剣城勇一だ、これからも鞘華をよろしく頼むぜ」


「はい、これからもよろしくお願いします、お義兄さん!」


 こうして、第二回イベントランク戦を終えると共に……俺は新たな事実を知った。

 ……因みに、さっき先輩から聞いたんだが、SBOはしばらくメンテナンス及びアップデート準備らしい。

 これなら自動的に俺もゲームをやらずして、剣道に打ち込む期間が出来そうだ。

 で、優真は……これからも鞘華と仲良くしてくれるようだし、俺も安心できる。

 鞘華に、異性とは言えど……友達として家に連れて来るような子が出来て良かった。

 夏休み……残り僅かな日数も楽しむことが出来そうだ。

名前:槌谷優真

年齢:12歳

人種:日本人


リアルステータス

握力:35kg

100m走タイム:14.21秒

器用さ:皆無

忍耐力:人並みにはある

霊感みたいなの:ほんのちょっとだけある

精神力:鞘華のためなら折れない

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公だからと言って無駄に高い成績にしなかった辺りはとても好感を持てる やっぱり一応第二陣(みたいなもの)なんだからある程度差はあるべきですよね、追いついても次のイベント辺り [気になる点…
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