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第三十四話:猛者よ、強者よ

 「さてと……ここで一息付けるな」


 ホウセンにサクラとリンが斬りかかり、武器をぶつけ合うのを遠目に見守りながら、俺は建物の陰に隠れて腰を下ろす。

 さてと……点を稼ぐ上で重要な漁夫の利作戦……出来ればリンみたいな強敵を避けつつ、やれるだけのことをやる……か。


「まぁ、赤字にならない程度には強い奴にも挑むか」


 立ち上がり、腰から剣を抜いて……いつでも戦えるように待機する。

 今度の敵はどこから来るか……それとも、ここは俺が探しに行くべきか。

 HPもSPも全快しているし、ようやくスキル使用不可の効果が切れたんだ。

 いっそのこと待つよりも挑んだ方がいいだろう。


「行くか!」


 俺は陰から飛び出し、早速近場で聞こえた戦闘音を頼りに走り出し――

 戦ってるプレイヤー二人を発見!


「くっ……流石に強いですね」


「どうした? 我を終わらせるのではなかったのか?」


「余裕こいてんじゃねーですよ、この蛇男……まったく、トッププレイヤーっていうのは化け物ぞろいですか」


 ……オロチとハルが戦ってた。

 俺はパラパラアニメを逆再生するかのように建物の陰に戻った。


「ウッソだろオイ……マジかよ」


 あの鬼みてえに強いホウセンよりも強いオロチ……ちょっと戦う気が失せる。

 つーか……あの人外フェイスに趣味が悪いと言いたくなるくらいの鎧。

 そして大鎌……完璧にロールプレイしてるんだろうが、SBOにはミスマッチだろ。

 ……と、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 あの二人の戦いを見ておくべきだ。上手くいけばオロチを後ろから仕留められる……かもしれないしな。


「【セカンド・ダーク】」


「【マジック・アヴォイド】!」


 オロチが左手から放った黒い、バスケットボールのようなサイズの魔法。

 ハルはスキルを使って、それを自分の方から逸らさせる。

 っつーかあんなスキルがあったのかよ……あとで習得方法教えて貰お。


「全てを薙ぎ払え……!」


 オロチが鎌を両手で握ってから振るうと、竜巻のような衝撃波が起こった!

 だがハルはそれを盾で真っ向から受け止めて見せた。


「今度はこっちの番です! セカンド・スラッシュ!」


「くだらぬ……児戯に等しい。ファスト・スラッシュ……」


 オロチはハルの攻撃を鎌で止めたが……その鎌を握る腕は片手だ。

 やはりハルのSTRが足りないのか、それともオロチが強すぎるのか。

 ……まぁ、その二択なんだろうけどな。


「さて……この状況なら……」


 俺はどう動くべきか……今俺が見ている所だと、オロチは背中を見せている。

 故に、後ろから斬りかかれば……行けるか? いや……疑念を抱いていたら、前に進めない。

 ここは確証を持って、今行くしかねえ!

 と、俺が足を踏み出そうとした時。


「貰ったァ!」


 俺が陰にして隠れていた建物から、オロチ目掛けて飛び降りたプレイヤーがいた!


「!クソッ、先越された……!」


 俺は後悔と共に一歩踏み出し、オロチに向かって飛び降りている奴の着地地点を予想する。

 奴がオロチを攻撃した瞬間、俺のスキルで奴の首を刎ねる。

 そうすれば、ポイントで損することはないはずだ!


「フ……猛者よ、強者よ! 我を越えよ! 越えられるものならばな!」


 ロールプレイはロールプレイでも、こんな危ないところまでやるか!? 見た目と名前の時点でアウトだけど!

 と、オロチへと心の中でツッコミを入れつつも、俺はスキルの構えへと入る。

 だが、オロチは俺たちのやろうとしていることを一気に破綻させるためなのか、ハルの剣と競り合わせていた鎌を真上へ振り上げやがった!


「なっ――」


 剣を構えて振って来たプレイヤーは、オロチの大鎌の刃の先っぽに突き刺さった。


「滅べ」


「ぐはぁっ!」


 オロチに突き刺されたプレイヤーは、そのまま鎌を振り下ろされ、腰から真っ二つになった。

 真っ二つになったプレイヤーはそのままポリゴン片となって砕け散った。

 だが、今こそチャンス!


「くぅらぁぇぇぇッ!」


 俺はその隙をついて、サード・スラッシュを発動させた剣を横薙ぎに振り、オロチの首を狙う。


「その力では、我を滅ぼすには足りん」


 オロチは瞬時にこちらへ振り向いた。

 鎌の柄の方で、俺の剣を跳ね上げて……スキルを最小限の動きで止めて来た!

 そして左腕を伸ばし、俺の顔面を掴んで来た!


「がっ!」


「先輩!?」


 俺の顔面を掴んで置きながらも背中から地面へと叩きつけた。

 ハルが俺に気付くも、チャンスと判断したのかオロチに向けて剣を振ろうとした。

 だがその時には――


「【唯一無双】!」


「ぐあああッ!」


「これはっ……」


 黒い稲妻のようなものが、俺とハルに流れて来た。

 バチバチバチバチバチ……と、そのスパークが二秒程続いた時。

 俺のHPバーは既に半分を切っていた。


「クソッ! 離しやがれェッ!」


「むっ」


 俺が剣でオロチの腕を斬ろうとすると、オロチは俺を放り投げた。

 さっきのスキルから逃れ、着地することは出来たが、HPバーはあと三割! ヤバい! 死ぬ!


「【破滅ノ斬】」


「サード・シールド!」


 オロチは俺とハルをまとめて倒すつもりか、追撃でスキルを放ってきた。

 俺はサード・シールドを出してから盾を構えるが――


「脆い……」


「ぐあっ!」


 サード・シールドがバリン、と音を立てて砕けた。

 更には盾を構えて攻撃を受けた俺でさえ吹っ飛ばされ、HPバーは一割程度まで落ちた。


「耐えたか……面白い、その力ならば、いずれは我を滅ぼせる力となるだろう」


「いずれだと……? 舐めやがって!」


「今この場で討ち取って見せますよ!」


 ハルは盾を構えてオロチへと突撃していく……のを見て俺も飛び出したくなるが、俺のHPはあと僅かなので、雑嚢からHPポーションを飲み干す。

 ……一本じゃあ回復しきれないので、もう一本、もう一本……と、三本飲み干す。

 だがこれでもうHPバーは全快、憂いはない、故に問題ナシ!


「せぇっ!」


「ぬぅんっ!」


 オロチとハルが剣をぶつけ合っているのを横目に、俺は透明化スキルを使う。

 一対一で、ハルはオロチを相手に善戦はしている。

 決してオロチにダメージこそ与えられていないが、受け太刀させたり避けさせたり……オロチが反撃をする暇を与えないように、上手く動いている。

 常に攻撃を続けて、オロチがカウンターすらする暇をないと思わせる……対人戦ならば、必須の手段。


「ほう……良いぞ、貴様との戦いは……破壊の衝動が溢れてくるようだ」


「なら、私を破壊してみてくださいよ!」


「良いだろう……!」


 オロチは猛攻を続けるハルの攻撃を鎌で弾き、互いに距離を取った。

 ……何か来る。


「全てを滅ぼし……崩壊させる……!」


「ファスト・シールド! セカンド・シールド! サード・シールド!」


 ハルはすぐさまシールドを多数展開し、防御姿勢に入る。

 オロチはさっきのスキルのように、闇を表したかのようなドス黒いオーラを鎌に纏わせている。

 ……今がチャンスか。


「【真・破滅ノ斬】!」


「はぁぁぁ……!」


 ハルは新たなスキルでも唱えたのか、バリアのようなものを展開している。

 オロチがスキル名と共に鎌を振り下ろすと、その鎌はハルのシールドを瞬く間に砕き――

 バリアと数瞬の競り合いをしたところで、バリアを砕きハルの盾とぶつかり合う。


「ぐっ……おっ、重い……!」


「我は……絶対の破壊者なり!」


「くあっ!」


 オロチが鎌の攻撃に加えて何か魔法を放ち、威力を更に上げた。

 それには耐えきれず、ハルが派手に吹き飛ばされた……だが、今がチャンス!

 俺はぶつかり合いによって起きたエフェクトに隠れながらハイド・ソードとミラージュ・ムーブを使い、オロチに近づく。

 そして、剣を構える……スキルを使うことなく、ただ一撃で、首を落とすだけ。

 大丈夫、オロチの素早さや魔法の威力、攻撃力を考えれば……VITは高くないはず。


「来るか……」


「ッ!?」


 気付かれたのか!? いくら至近距離とは言え、俺は透明化スキルを二つ重ねているんだぞ!?


「さぁ……轟く雷鳴の如く、我に立ち向かえ……ホウセン!」


 なんだ、ホウセンか。俺に気付いたわけじゃあないのか。

 良かった……危うく透明化スキルを気配だけで察知されたとかそんな――

 って良くねえええええ! ホウセンが来てるって事じゃねえかよ!

 オロチでも視認できる位置にいるってことは、相当近くだ!

 まさかサクラとリンをもう倒して来たのか!?

 俺がホウセンをサクラとリンの二人に押し付けたのは、五分くらい前だぞ!?


「フッ……」


 オロチは何故か、誰も確認できないのに三歩分ほどバックステップした。

 ……なんだか嫌な予感がするので、俺はオロチの背後にスタンバイしとこう。


「オロチイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアッ!」


「ホウセンよ……貴様が我を終わらせるか?」


 ホウセンが、さっきまでオロチが立っていた場所に落下してきた。

 しかも、派手な雷のライトエフェクト付き……あそこに立っていたらと思うとゾッとする。

 と言うか……なんかホウセンの装備が滅茶苦茶変わってるように見えるんだが。

 最後に見た時は、赤と黒を基調とした装備だったはずなのに……今はバチバチと迸る雷のオーラを纏っているし、金と白を基調とした装備になっている。

 武器は……方天画戟と槌って事に変わりはないけど。


「フン、そんなものはどうでもいい。

オロチよ……俺と戦え! 前回での借りを返してやろう!」


「ならば……奮うがよい、ホウセンよ」


 オロチとホウセンは武器を構え、対峙し合う。

 ……透明化スキルを使って隠れているのにも限界がある。

 SPポーションを飲めば確かに隠れる時間は継続できる。

 だが、この戦いの余波に巻き込まれたら色々と困る。主に俺が。

 だったら……この状況を変えるにはたった一つの方法しかない。

 俺は剣を握る力に手を込めて、左手に握るSPポーションを飲んでSPを全快させる。

 やってやる……難易度は絶望的なまでに高いが、やらなきゃ確実にやられる。

 ただ損をするだけで勝てねえのなら……やるしかねえ!


「ぬぅぅぅぁぁぁあああッ!」


「良いぞ……ホウセン……貴様の滅びの力が、前よりも増え――」


 ホウセンが方天画戟をオロチに叩きつけると、オロチは鎌でそれを受け止める。

 この瞬間を狙うしかねえ!


「つぇぁぁぁーッ!」


「ぬぅんっ!」


 俺が剣を持ってオロチの首に向かってスキルを発動させようとすると、槍を持った男が突っ込んできた。

 慌てて俺が避けると、ホウセンがその男の持つ槍……蜻蛉切を受け止めていた。


「ほう……タダカツ、貴様も我を終わらせに来たか」


「当然よ、このタダカツ……前回はホウセン殿とオロチには不覚を取った。

ならば此度の戦で、それを返戻するまでよ!」


 ……俺、そろそろ泣いてもいいんだろうか。

 何でこんなところにトップレベルの連中が三人も集まってんだよ。

 しかも揃いも揃って真の魔王の連中だ。

 これで真の魔王のギルドマスターまで来ちまったら、笑えてくるぜ。


「ほう、いいだろう。ならば貴様から討ち取ってくれるわ!」


「応! さぁ参られよ! ホウセン殿!」


 ホウセンはタダカツに目移りしたと思うと、そのまま二人で斬り合いを始めた。

 槍同士で近接戦をしている二人には心底驚かされる。

 でも、これじゃあ暗殺なんて、とても……


「さっきから……私を無視して……随分余裕じゃないですか!」


 ホウセンとタダカツが斬り合い、オロチがそれを傍観する……そして動けない俺。

 そんな状態が膠着していると思うと、ハルが剣を地面に突き刺してから言い放った。

 いくらなんでも、オロチ、ホウセン、タダカツ相手にハル一人で真っ向から挑むなんて……無理がある。


「ほう、雑魚が俺たちになんの用だ?」


「雑魚……? 言ってくれるじゃないですか!」


 ハルは全身に赤い模様のようなものを走らせる……狂化だ。

 でも、いくらステータスをブーストしたところで、ハルではホウセンに勝てないだろう。

 戦いが始まらずとも、わかってしまう。

 それでも、ハルは僅かな可能性に賭けてでも挑もうとしている。

 そうだ、ゲームをプレイする前から諦めてたら……それはもうゲームを楽しんでねえ。

 負けると知っていても、楽しむために挑む。ハルはそれを全身全霊でやっている。

 なら、俺はここで諦めてたら……ゲームを投げ出すことになっちまう。


「ほう……狂化か。そこまでのスキルを使う以上、俺に歯向かう意志は本当らしいな。

いいだろう、さっさと終わらせて……オロチやタダカツ諸共、俺が砕いてやる!」


 ホウセンはハルの方に向き直ると、方天画戟を構えた。

 ……まだ俺のSPは十分に残っているし、俺のことを視認したのはオロチとハルだけ。

 それに、オロチもハルに注意が向いている今は……俺の事を忘れている可能性が高い。

 それなら……まだ勝ち目はある! 戦えば勝てる可能性はあるんだ。


「サード・スラッシュッ!」


「むっ!?」


 完全に気付かれない位置。俺はタダカツに向けて全力のスキルを放つ。

勿論、狙うのは頭! クリティカルで、一撃で仕留める!


「見事な剣捌きよ……拙者でなければ、受けきれなかったであろう……!」


 タダカツは蜻蛉切の柄で俺のスキルを受け止めていた。

 だが……両腕で俺の剣を止めている所、そこに隙はある!


「パワー・スマッシュッ!」


「ぐおっ……」


 左手が空いていた俺はパワー・スマッシュでタダカツの胸を押し出す。

 このままじゃあ、少しバランスが崩れた程度だから……俺はタダカツの足を引っかけ、完全に体制を崩させる。


「……見事」


「せあああああッ!」


 俺はタダカツの頭に剣を突き刺し、そのまま引き裂くように斬る。

 彼の元々高くなかったであろうVIT……それで俺の攻撃を受けきるのは不可能だった。

 故に、HPバーを全損させてポリゴン片となって砕け散った。


「ほう……あの時の雑魚か。

まさかここで隠れ……俺たちを斬る時を伺っていたとはな。面白い」


「どこ……見てんですか!」


 狂化でブーストしたハルがホウセンに斬りかかっていた。

 ホウセンは完全によそ見をしていたのにも関わらず、ハルの攻撃を方天画戟で受け止めていた。

 なんつーSTR値してんだ……コイツ。


「くっ……ぅぅっ……」


「フン、狂化を使ってその程度とはな……失せろォッ!」


「きゃぁっ!」


 ホウセンが方天画戟を一薙ぎすると、ハルは吹き飛んで建物の壁に激突した。


「せぁっ!」


「足りぬ……貴様の力では、我を滅ぼすことは出来ぬ……」


「チィッ!」


 俺はすぐにホウセンへ斬りかかったが、オロチの鎌に阻まれてしまう。

 ホウセンはオロチにちらりと視線を向けた後、ハルに少しずつ歩み寄る。


「どけっ!」


「退かぬ……」


 俺はオロチの脇を通り抜けようとするが、オロチは俺がホウセンを攻撃するのを止めて来る。

 剣を振ろうとも、オロチの鎌に受け止められたり、弾かれたりしてしまう。

 このままじゃハルがやられる! こうなったら……!


「どけって……言ってんだろうがッ!」


「ぬおっ……」


「でええあッ!」


 俺はオロチの顔面に頭突きをくらわしてから、そのまま左拳でぶん殴る。


「そんなに滅びたきゃ……勝手に滅んでろ!」


 俺はオロチの肩口から袈裟斬りにして――

 ハルを壁際へと追い詰めながら、方天画戟を振り上げていたホウセンへと迫る。


「今度は逃げも隠れもしねえぜ! テメェの相手は……俺だ!」


「ほう……なら、簡単には潰れてくれるなよ? 楽しみが減るだろうからな!」


 俺の剣とホウセンの方天画戟の切っ先がぶつかり合い、火花を散らした。

 勝てる気はしないが……簡単に負けてやるつもりだってねえぞ。

プレイヤーネーム:ハル

レベル:40

種族:人間


ステータス

STR:52(+58) AGI:20(+20) DEX:0 VIT:70(+80) INT:0 MND:70(+80)


使用武器:黒金の剣、黒金の大盾

使用防具:黒金の鎧、黒金の冠 守りの黒衣 鉄壁スカート 黒金のグリーヴ 黒金の籠手 守りの指輪+3


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