第三十三話:その口調がすっげーウザいのDEATH!
……しかし、カウンターを回避できるとはな。
これは仕留めるのが大変そうだ。
「確かに……水流乱舞の弱点は露見しました。でも、それでも私にだってまだまだ手札はありますよ!」
リンは建物の壁に張り付いた――と思った時には既に壁を蹴って、俺の眼前に迫っていた。
三角跳びによる攻撃……! だが、これは俺へのクリティカル狙いである以上、狙いは一直線だ。
「っと」
「わっ!」
俺は上体を逸らして攻撃を避ける。
リンは勢いよく顔面から俺の背後に落ちるが、直ぐに体制を整える。
互いの背中がくっつきそうな位置。
この状態から攻撃に転じるなら――!
「ふぅっ!」
「せっ!」
俺とリンの斬撃が振り向きざまに交差した。
二人の剣が振りぬかれた状態で静止し、俺たちは少しだけ表情を崩す。
「くっ……!」
「やるじゃねえかよ……オイ」
俺の腕を切り裂いたリンの左腕はボトッ、と落ちる。
だが俺もHPバーが残り三割程度……もう被弾してはいられない。
「くっ……ここは逃げるしかない!」
「逃がすかよ!」
リンは腕を拾うと、直ぐに背を向けて走り出した。
奴の超加速の効果はもう切れているのか、さっきのような残像が出る速さではない。
成程な……超加速は加速よりも効果時間が短いのか。
「ここで仕留めさせて貰うぜ! 斬撃波!」
「くっ!」
斬撃波を走りながら放ち、後ろから攻撃が来たと知るや否、リンはすぐに避けた。
だが、避けられることは既に想定内。
「ファスト・シールド!」
「あぐっ! っつ……!」
ファスト・シールドを展開し、直ぐにリンを弾き飛ばす。
これだけの猶予があれば……俺がリンに追いつくのは必然的だった。
「さ、これでゲームセットだぜ」
「うぅ、確かに絶体絶命……死にそ」
俺は雑嚢からポーションを取り出して飲んでおく。
リンが思わぬ反撃に転じてきたらやられるかもだし、ここは万全にすべきだな。
ポーションを飲んでもHPは八割程度までしか戻らなかったが……あとは自然回復に任せればいいだろう。
「ま、私だって無策で逃げてたわけじゃないけどね……! サクラ! 出番だよ!」
不敵に笑うリンが指をパチン、とならすと――
「はーい!」
「おうマジかよ」
リンのポケットから、突如としてプレイヤーが現れた。
どう言うスキルを使ったんだか知らないが……面妖だな。
で、そのサクラとやらは桃色の髪に……片手剣二刀流。珍しいプレイスタイルだな。
片手剣を二刀流と言うのは、短剣のように身軽に動くは勿論、俺のような防御も出来ない。
攻撃だけに全てを割り振ったようなビルドと言っても過言ではない。
「さぁて、私は片手がないからしばらく戦力外だけど……
三分以内にカタをつけないと、二対一になっちゃうよ、ブレイブさん」
「そうか、だったら三秒で終わらせてやるよ!」
「じゃ、あとはお願いね、サクラ!」
「リンちゃんの頼みなら、勿論承るのデス!」
リンはこの場をサクラに任せると共に、俺から距離を取った。
なるほどねぇ、腕を斬られたらそれが再生するまで待って、後は超加速で俺の首を刎ねに来るつもりか。
「さぁ、アナタも武器を構えるのデス! 精いっぱい、一対一で戦うのデス! 一騎打ちデース!」
「その口調がすっげーウザいのDEATH!」
俺は剣と盾を構え直す。
サクラは二刀の片手剣をクルクルクルクル……と回した。
左手側を逆手に持ち、右手側はそのままか。
「いざ尋常に勝負デス!」
「悪いが三秒で終わらせる約束だ! 咆哮!」
「スキル・キャンセリーング!」
「あ!?」
俺は咆哮でリン諸共スタンに持ち込もうとしたが、咆哮はいつまでも発動しない。
さっきのサクラが発動したっぽいスキル……【スキル・キャンセリング】と言うのか。
あれが俺の咆哮を解除したのか? だがこっちはSP七割も削ってんだぞ?
キッチリ代償払ったくせにコレ? 嘘だろ? 冗談キツいぜオイ!
「ふふふーん、スキル・キャンセリングを発動したら、アナタはもうスキルを使えないのデース。大人しく覚悟して三枚おろしにされるのデース」
俺は急いでステータスの項目を見る。
『スキル使用不可・180秒……』
「マジかよ……!」
三分以内に終わらせる……となると、コイツをとっとと倒さなきゃならない。
けれど、そのためのスキルが封じられるって……なんてことだ。
「ふふふーん、マジックは封じられなくても、スキルが封じられればオールオッケーなのデース。
私賢ーいデース」
クソッ、魔法を習得してない上に魔法攻撃力が0な俺じゃコイツを殺せる手段が通常攻撃しかない。
となると……倒すのが凄いシビアな条件になるな。
「まぁいいか。縛りプレイのつもりでやってやるよ、来い!」
それに……この状況ならこっちのPS磨きにもなりそうだ。
精いっぱい、土台として俺の雄飛のお手伝いをして貰おうじゃねえか。
「いっくデース!」
「ファスト――! って!
使えねえんだった!」
サクラが真っすぐに突撃してくるので、ファスト・カウンターを合わせようとしたが、出来るわけがなかった。忘れてた。
今の俺はスキルを使えない、って再三確認したばかりなのに、ついクセでやりそうになった。
あぶねえ、身についてしまったクセってのは恐ろしいもんだ。
「アハハハハハ! さっき倒した人もそう言ってましター!」
「にゃろう……絶対泣かせてやる!」
「さー、ワタシのスキルも受けてくだサーイ!」
「や、だ、ね!」
サクラはやたらめったらに剣を振るってくるが……コイツの剣速自体は遅い方だ。
それに、二刀流のくせに利き手の剣ばっかり使っていて、左手は持て余している。
何のために逆手持ちしてんだ。
「ムー! 全然当たりまセーン!」
「そらお前、左右交互にしか剣を振ってるんだったら下がってるだけで避けられるだろ。もっとちゃんとした戦い方ってもんがあるんだし、ちゃんとやれよ」
「オー! そうデシター! 左右交互じゃ当たりまセンネー!」
段々カタコトっぽくなってんな、コイツ……まぁいい。
剣の速度も遅い、その上太刀筋も甘いような奴。
とっとと終わらせるか。
「二刀流は使い辛いデスね、ジャパニーズ・ブシドースタイルで行きマース」
「あ?」
サクラは左手の剣を地面に突き刺すと、右手の剣を両手持ちした。
……片手剣でそんなことやってて大丈夫なんだろうか。
確かに片手剣もギリギリで両手持ちすることくらいは出来るが……使い辛いだろ。
実際片手剣は剣道の竹刀に比べると柄が少し短いので、両手持ちすると窮屈だ。
「てりゃあああああッ!」
「っと!」
「ソーイ!」
サクラはまたも真っすぐ踏み込んで剣を斬り下ろして来たので、俺はサイドステップでそれを躱す。
更にそこから来る横薙ぎをジャンプで躱す。
「ガラ空きデース!」
「お前がな」
そのまま片手剣を突き刺しに来るサクラの剣を蹴りで跳ね上げる。
「オゥ! 剣が!」
「終わりだ」
「アゥッチ!」
俺はそのままサクラの肩口から腹までを袈裟斬りにする。
まぁ、流石に一撃じゃあ倒せるわけがないが……なんか異様に硬いな。
何でHPバーが三割しか削れてねえんだ?
「ンンー、慣れない武器で戦うのは危険デスネー」
「だから言ったでしょ、サクラ。
そんなステータスで片手剣二刀流は危険だってさ」
「じゃあ、いつもの武器にしマース」
「あ?」
サクラはリンと何やら話したかと思うと、メニュー画面を操作した。
……何の茶番だったんだよ、さっきのは。
「さぁ、これで準備万端デース!」
「随分、可愛い顔に反した武器じゃねーかよ……オイ!」
サクラがメニュー画面から取り出した武器は両手剣……それもデカい、俺の身長くらいある。
……ヤバいな、スキルなしでこれと戦うのはちょっと難しいな。
ステータスの差にもよるけど、鍔競り合いになったら十中八九俺が負ける。
「あー、えーと、だな……散々偉そうにして……どうも、すみませんでした。
ところで、今から全力で逃げるから十秒くらい猶予くれない?」
「ノー、許しまセーン。真剣勝負から逃げるのはNGデース。
全力でぶっ殺してヤンヨー!」
うーん、このバーサーカー。
出来れば二度と関わりたくないぞ、コイツ。
「まぁ、そう言うと思ったわ、んじゃ」
俺は一目散に走り出す。
とにかくコイツらから逃げないとまた殺される。
正直、あの死ぬ感覚は結構嫌なんだよ……! 寂しくて!
「簡単に逃がしはしまセーン! 斬撃波ーッ!」
「おおっぶねええっ!」
後ろから斬撃波が飛んできたが、片手剣で放つ俺の奴とは全く違う。
刃のエネルギーのサイズが全然違うし、地面を抉りながら飛んできていた。
間一髪で避けられたが、このうちに追いつかれかねない!
「ひいいい!」
俺はもう一発攻撃が来る前にと急いで走り出した。
……と、前方にプレイヤー発見、見た所あんま強そうじゃない。
防具は割と軽いものが多いし、頭に装備がついていない……となると。
「チッ、このクソイベントが……なんで俺だけこんなキルされなきゃなんねんだっつのもう……考えた奴死ねよ、クソが……!」
「死ぬのはその注意力の無さだろ」
「あ!?」
後ろから首を刎ねる。
全速力で走って逃げてる奴がいるのに、それに気づかず歩いているとはな。
まぁいいか、逃げるついでで点は稼げたし……出来るだけプレイヤーとの戦闘を避けないと。
で、リンとサクラが俺を追っかけてきていないと言うことは、深追いするなって止めたんだろう。
リンは片腕を落としている以上、多少の時間を待たないと治せないのか。
まぁ……となるとこの二人との戦いはないだろうし、カエデと出合う確率も……薄いには薄いと信じたい。
……と、俺は住宅街の隙間の路地に身を隠しながら思考する。
「お、こんなとこに隠れてる奴がいたか! 俺のポイントになって貰うぜ!」
「嫌だから死んでくれ」
ほぼ裸の装備にマントを一枚羽織っただけの奴が俺を指差しながら突っ込んできた。
露出狂かと疑いたくなるが、もしかしたらそう言う見た目の装備なのかもしれない、と割り切ろう。
「くらえ!」
露出狂はそのまま俺に殴り掛かって来た。
武器すら持たないってどういうことだよ。
「っと!」
「チッ! かってー盾だぜ!」
「悪いが呑気してる場合じゃねえんだよ!」
露出狂が再度放ってくるパンチを屈んで避け、俺は地面を蹴る。
そして足を斬る。
「うおっ! これがVRで足を失う感覚……新鮮だ!」
「じゃ首も失っとけ」
「モ”ッ!」
俺は足を斬られて本当に無防備になっている露出狂の首を刎ねる。
……よし、ちゃんとこう言う奴でも点稼ぎには使えるのはいいことだな。
自分よりレベル低い奴を倒しても点入らないシステムとかなら泣いてるぞ、主に俺が。
「はぁ……どうすっかなぁ」
俺は壁に背を預けながら悩む。
スキルが使えなきゃ格上どころか格下にすら殺されかねない。
と言っても、スキルなしで戦えない俺も俺だけどな。
小鬼王・改シリーズでステータスだけなら凄い高いんだし。
そんなんでも格下に負けてたら洒落にならねえよな。
「ほう、そんな所に隠れていたか。Nの腰巾着め」
「げぇっ、ホウセン!」
「俺と戦え! 今度こそ、一対一で俺の最強の武を見せてやる!」
今一番出会いたくなかった、ホウセンの野郎が俺に向けて方天画戟を構えていた。
ヤバい、路地だと逃げ場がねえし、何よりも今の状況だと勝てるビジョンが1%も見えない。
「た、戦うのは構わないけどちょっと場所変えてくれねえか?
こんなとこだと狭すぎてさ……ほら、お前の武器だってこういう狭いとこは苦手だろ? うん、ほら、な、うん」
「フン、まぁいいだろう。ならば最高の場を用意しろ、俺が暴れられるほどの物をな!」
と、ホウセンが方天画戟を下ろした。
ので、俺はその隙を狙って壁をよじ登り、逃亡することを決めた。
「冗談じゃねえ! お前なんかと戦ったら十中八九殺されるわ!」
幸いにも路地の壁同士はそこまで狭くはないが、壁をキックすれば……こう、赤い配管工見たいな動きで屋根まで上れる。
「貴様逃げるか! この腰抜けめが! 殺してやるぞ!」
「腰抜けでケッコーケッコー! 俺はあんまり死にたくないんじゃー!」
俺はなんとか屋根まで退避し、そのまま屋根伝いに逃げようと走り出す。
が。
「ぬうううあああああああああッ!」
「げぇっ!?」
ホウセンはなんと持っていた方天画戟を俺に向けて投げて来た!
「うおおおっ!」
俺は垂直に飛んでくる方天画戟をどうにか盾で受け止める!
だが投擲された武器なのにも関わらず、その威力はランコの攻撃よりも重かった!
「ぐっはぁっ!っ、つ、つ……っと……あっぶねえ……!」
なんとか耐えきって方天画戟を弾き落とすが、俺はその場でスッ転んだ。
バランスを保てないくらいの衝撃……HPが大して減ってないことに驚きだ。
「ま、でもこのまま逃げさせてもらうとするか!」
「逃がすかァッ! 全て砕いてくれるわぁぁッ!」
ホウセンはなんと槌を右手に持ったと思うと、とんでもない跳躍をした。
たった一度のジャンプで屋根に降り立ち、俺の目の前に現れた。
「ウッソだろオイ!」
「さぁ、簡単には潰れてくれるなよ?
ここの所雑魚としか戦っていないせいで、体が訛りそうだからな」
「生憎、今の俺も雑魚な状態だから見逃してくれません?」
「フン、だが雑魚でも倒せば点にはなるだろう?」
畜生、どうやっても逃がしてくれないのかよ。
スキルさえ使えれば、透明化で何とか逃げられそうなんだけどなぁ。
スキル使用不可のデバフはあと一分くらい残っているが……スキル抜きでホウセン相手に一分持つか怪しい。
「やっぱ逃げるしかねえな!」
「逃がすかァッ!」
俺は屋根から飛び降りて、街道をひた走る。
ホウセンは……俺を追いかけて来るが、わざわざ方天画戟を拾っているせいで距離は開いている。
まぁ、距離が開くなら開くで、開かないなら開かないでいい!
「俺から逃げられると思うなよ!」
「あぁ、最初から思っちゃいねーよ!」
何のスキルを使ったのか、馬に乗ってホウセンは俺を追ってくる。
大体100mくらいは距離が離れているはずなのに、直ぐ追いつかれそうになる。
速すぎだろ、あの馬!
「あ、ブレイブさん見っけ」
「自分から来てくれるとは殊勝な心掛けデース!」
俺が逃げていると、偶然か必然なのか……さっき俺が逃げていた対象二人がやってきたことに気付いた。
まったく、俺ってラッキーな男だぜ!
「お前ら、あとは頼んだぜ! ほんじゃ!」
「え? きゃっ!」
「ワオ! 騎兵さんが来マシター!」
俺は目の前に現れた二人……リンの腕を掴んで、ホウセンの方に放り投げる。
ホウセンは投げ飛ばされたリンを見ると、すぐに馬を止める。
「ほう、貴様らが俺の相手をするのか?」
「ちょ……ブレイブさん、なんて卑怯なことを……」
卑怯で結構結構。
こっちは逃げるために必死なんだっつーの。
っつーか、スキルもなしに前回八位の奴と戦えるわけねえだろ。
と、心の中で呟きながら、俺はホウセンにサクラとリンの二人を押し付けて逃げたのだった。
プレイヤーネーム:ホウセン
レベル:50
種族:人間
ステータス
STR:100(+80) AGI:75(+45) DEX:0(-5) VIT:30(+40) INT:0 MND:30(+20)
使用武器:方天画戟
使用防具:鬼の鎧 武将の羽冠 鬼の鎖帷子 鬼の腰当 鬼の靴 オーガガントレット 疾風の腕輪