第三十二話:俺の点だ
……まさか、この短時間で二回も殺されるとは。
イベント制限時間はまだまだあるし、こんなペースで倒されてるとポイントが赤字になりそうだ。
よし、もっと積極的にプレイヤーを狙って、是が非でも黒字にしないと……もちろん、強い相手だろうと弱い相手だろうと等しくぶった斬ってな。
ポイントマイナスで終わるとか、無様にも程があるぞ、ブレイブ・ワン……いや、剣城勇一。
と、自分の気を引き締めなおしたところで、俺はまた転送される。
リスポーン完了。
「リスキルいただきぃ!」
「させっかバァカ!」
リスポーンからすぐにキル、通称リスキルを狙ってくる奴くらい既に予想済みだ!
と、俺は鎌を振りかぶって来た奴を……って、さっき俺がやった奴じゃねーかよ!
なんで凝りもせず俺を見て襲ってきた!?
驚きはしたが、鎌の攻撃を見切って直ぐに斬り殺せた。相も変わらず弱いのに、なんで俺に挑んだんだ?
「ぐはぁっ! つっ、つええ……!」
「あー……お前もしかしてレベル10とかその辺?」
「お、おう……」
「無謀だなオイ!」
レベル10代で俺に挑むってどんな勇気だよ。
っつーか、よくイベントに参加しようと思ったな。
この度胸だけは褒めてやりたい。
「さて……漁夫の利の漁夫の利とでも、行きますかね」
俺は勢いよく走り出したが……それは街の中心ではない。
そっちに行くと先輩と出くわすだろうし、出来ればそれはやめておきたい。
やれるならば、確実に倒せる奴から――
「だッ!」
「あふんっ!」
交戦中のプレイヤーがいたので、早速後ろから首を刎ねさせて貰った。
ソイツの格好は青いスーツに赤いネクタイ……うーん、自由過ぎだろ。
最初に俺が倒した野郎といい、SBOは装備の幅が多すぎだろ。
どういう芸当でこんなのが出来るんだ?
見た目だけ変えられるとかなら、俺もちょっとそういうオシャレとかしてみたいな。
「あああああ! 大先生が死んだ! この人でなし!」
大先生、と呼ばれた青スーツの男とさっきまで交戦していたプレイヤーがいた。
こっちは金髪にサッカーユニフォームのような服装ににマント……だから服装自由過ぎだろ!
と、思ったら金髪はすぐに俺に向けて斧を振り下ろして来た。
が……このHPなら一撃で殺れるし、避けるまでもない。
「ファスト・カウンター!」
「なんでやあああ!」
よし、さっき死んだ分以上に得は出来たな。
と言っても、一人殺せば二回殺されてようやくプラマイゼロのイベントだ。
死亡数が撃破数の二倍以上にならなきゃ、赤字なんてものはない。
少し慌て過ぎていたような気もしたが、慌てるくらいでなきゃこのイベントは勝ち抜けねえ。
「行くぞ!ジェットストームアタックだ!」
「おう!」
「キーン!」
「ストリームだろソレ!」
周囲に警戒こそしていたが、三人の近接ビルドプレイヤーたちがこっちに突っ込んできた。
しかも綺麗にネタまで揃えてやって来るとか笑わせに来てんのか!
「ヌゥンッ!」
「当たるか!」
斧を振り下ろして来たので、バックステップで回避する。
だが二人目が追撃と言わんばかりに両手剣を振りかぶってくる。
三人目は走って来て、俺が二撃目を避けた時への攻撃を準備している……ネタパーティのくせに、随分やりやがるじゃねえかよ。
「例え最初の攻撃が防げようとも!」
「第二、第三の攻撃が貴様を――」
「あぁもう、ネタに割り振るのは顔だけにしとけよ!」
めんどくせえし、うるせえし……とっとと終わらせるか!
出来ればこんなところで使ってる暇はなかったが、コイツらボコって回復することにしよう。
「咆哮!」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!』
「ぐわあっ!」
「馬鹿な!」
「何と言う……スキル……!」
「うるせえ、せめて黙ってろ」
俺は咆哮のスタン効果で倒れた男どもの頭に剣を叩きつける。
お、クリティカルが出たのに、コイツ等一丁前に耐えやがったぞ。
こりゃぁいい、SP稼ぎのサンドバッグには持ってこいだな。
「ヘェイヘェイ、じゃあどんだけ耐えるかな!」
「ギャアアアアアアス!」
まぁ、所詮プレイヤーの防御力だ。
どこぞの防御力に極振りした馬鹿でもない限り、頭への攻撃を受けて無事なはずがない。
故に……こうして剣を頭に二回叩きつければ倒せる。
で、二人目は腹をしつこく刺して、俺のSPが回復するまで斬りつけて倒すか。
「な、何をする! やめろぉ! は・な・せ!」
「いや無理にネタプレイしようとすんなっての、おっさん」
動こうにもスタンで動かない二人目の男の腹に剣を刺す。
「ぐあああああ!」
「痛みはないだろ! 叫ぶなよ! プレイヤーが集まってきたらどうすんだ!」
こっちも叫んではいるが、おっさんの叫びなんて聞くに堪えねえわ。
とは言う物の俺は剣の抜き差しを続け、SPの回復を図る。
……咆哮で消費した分全部ってわけじゃないが、八割くらいには戻ったな。
よし、この調子で……と思ってたら、ポリゴン片になって死んでた。
「あ、もう死んでたか」
「ぐ……うぅ……よくも……よくも……」
「チッ、スタン切れかよ……」
最後の一人はスタンの効果が切れたようで、立ちあがって武器を構えて来た。
まぁ、弱そうだし、大したことない相手なんだろう、装備が鋼の鎧とかだし……この三人じゃあ、俺は愚かリン一人にも勝てないだろ。
「おのれ……よくも俺の友を! 許さんぞぉ!」
「いやいや、そもそもこれそういうイベントだろ。
っつーか、おっさんは三人がかりでクソガキ殺しにかかって倒せねえとか恥ずかしくねえの?」
まぁ、ゲームだから年齢もくそもないが……一人相手に三人で襲い掛かって、ノーダメで突破されるって恥ずかしいだろ。
俺だったらしばらく不貞寝するくらいだぞ? 実際、前やってたゲームで似たようなことあったし。
「ぐぬぬぬぅ……ここは戦略的てった」
「させるか」
背中を見せて逃げ出そうとしたので、後ろから首を刎ねる。
うん、いくら大したことない野郎でも、ポイント”だけ”は美味しいな。
雑魚でも強敵でも貰えるポイントが一緒なら、当然弱い奴を狙うけど……レベル40代の俺なら、わざわざそんなことをする必要はない。
弱い奴を倒そうとした奴を、弱い奴ごとまとめて潰しに行くのが吉か。
「セカンド・スラッシュ!」
「セカンド・スマッシュ!」
片手斧と片手剣をぶつけ合っているプレイヤー二人を発見。
そこを狙うように眺めている短剣使い……よし、ここは俺が先に動いてあの二人を殺ろう。
「ハイド・ソード、ミラージュ・ムーブ」
透明化を二重にかけてから俺は走り出す。
重ね掛けさえすれば、走っても姿が半透明になったりはしない。
故に――
「あ、チーッス」
「え!? どこから……」
「ふっ!」
「ぎゃんっ!」
二人がスキルをぶつけ合ってから一歩下がったところで、斧持ちから仕留める。
相手に気付いて撤退を測ろうとする片手剣持ち。
それを後ろから狙う短剣使い……ここでまとめて仕留めるのが得策だな。
「貰っ――」
「させるか! ファスト・シールド!」
「え?」
片手剣持ちへ素早い動きで後ろからの奇襲を仕掛けた短剣使い。
だが、それは俺からなら見えている奇襲だ。
俺はファスト・シールドで片手剣持ちの背中を守り――
「俺の点だ」
「くそっ! 四面楚歌か!」
片手剣持ちに斬りかかるが、奴にまだ抗う意志はあるようで、受け太刀された。
短剣使いのAGIは恐らく俺よりも高いと考えていい。
奴は俺のシールドに弾かれてから、すぐさま体制を立て直すと、壁を登り始めた。
今俺がいる場所は住宅街……のマップとは言えど、わざわざそんなことをするのか。
「ヒャッハァァァ!」
「あ、悪いな」
短剣使いは俺目掛けて飛び掛かって来るので、俺は今鍔競り合いになっている片手剣持ちの腕を掴む。
「な」
「っと」
腕をグイッ、と引っ張って短剣使いの攻撃の盾にさせて貰う。
都合がいいことに一撃で死んでくれずに耐えてくれたようで何よりだ。
しかも密着してくれているのが尚の事助かる。
「ほい二枚抜き」
「酷い!」
「なんて野郎だ……」
片手剣持ちごと短剣使いを貫き、そのまま斬り上げる。
勿論斬り上げで頭まで行ったらクリティカルは出るので、無事二人とも撃破だ。
「さてと……この調子で狩りの時間と行こうか。何人死ぬかな」
俺はなんだか楽しくなってきた。
いや、元々楽しい気分だが……ここまで思い通りに行くと羽が生えたような気分になる。
体が軽いと言うか、なんと言うか……心が晴れやかな気分とでも言うんだろうかな。
「うっし……行くぜっ!」
俺はそのまま走り出し、次々にプレイヤーの首を刎ねる。
まぁ、ただ斬り合っている奴らを横から襲うだけだ。
乱戦になれば、状況を把握している奴が勝つ。
つまり……乱入してくる奴が滅茶苦茶有利、ってことだ。
「かぁくごぉっ!」
「お前がな」
透明化で奇襲をかけてくる奴もいるがバレバレだ。
透明化スキルは大体二重にするかゆっくり動かなきゃ半透明で見える。
第一、透明化してたって歩く音とか歩いた時に生じるエフェクトがある。
透明化の正しい使い方は雑多なことに気付けないくらい集中している奴がいる時だ。
奇襲自体、他のことに注意が行ってるところに仕掛けるものだしな。
「ぬぅぅ、透明化に気付くとは、中々の使い手よ!」
「お前が下手なだけじゃボケ!」
「グハァ!」
うーん、しかしさっきからPVP自体初めてかってくらい酷い連中ばかりだ。
そろそろ本気で戦えるような相手と会いたい所だ。
大体レベル20代程度の装備だったり、スキルの練度も低いような奴しかいないし。
何を血迷ったか、目の前で透明化を使う奴もいたし……なぁ。
「はぁ、先輩やあのエルフ女程とはいかなくても、せめて強い相手は――いたか……まさかいつの間にかここまで来てたとは」
「あれ、気づいちゃいました? 抜き足差し足忍び足で歩いてたんですけど」
「忍者かお前は」
イメチェンか、それとも実用性重視か……何故か忍者のような装束をしたリンが、俺の間近まで迫っていた。
「ま、透明化と気配消しってスキルしか持ってない装備ですけどね、コレ。
基礎能力値が低いので……結局はいつも通りですよ」
リンは即座に忍者装束を脱ぎ捨てたかと思うと、いつものコート姿に戻る。
さぁて……ランコ以来の楽しみになれるかな、コイツは。
「横取りされたら嫌ですし、最初から全快バリバリで行きますよ。
ムーチョムーチョ強いですからね、私!」
「ムーチョってきょうび聞かねえなオイ!」
二本の短剣を握り、バフスキルがスイッチスキルを使ったのか……青いオーラに身を包んだリンは、舞うような構えで俺と相対する。
「超加速!」
「加速!」
眼を青く光らせ、青い眼光と共に残像が出来る速度でリンは俺の周りを走る。
どこから来るかと言う作戦だろうが……今いる場を最短で走れば、速度が劣って居ようともカウンターを合わせることは簡単だ。
だがまぁ、根本の速度で足りなければダメなので俺も加速を使う。
「ダブル・ライジング!」
「下か!」
「言っただけです!」
リンが屈んだ状態で俺の下に来たと思うと――
いつの間にか右から来て、俺の肩口に二発も攻撃が入った。
俺の真下にいたはずのリンの姿はもう消えていた。
「速すぎだろ……何が起きてんだコレ」
「ま、【残像剣】使ってますからね~。こうやって多重にスキルをかければ、あなたでもカウンターを打ち込むのは難しいでしょ?」
スキルの併合かよ!
まぁ、確かにこのAGIに、そういう、こう……残像を見せたり、分身するような類のスキルを使われたら見破れねえな。
速すぎて動揺するくらいのもんだったが、ようやく納得のいくことだとわかった。
「つーか、攻撃力も上げてるとはな。
随分いてえダメージを負わせに来るじゃねえか!」
俺のHPバーは既に四割も削れていた。
いくら無防備な状態とは言えど、俺のVITを前にここまで削れるのは素直に褒めるしかない。
「あはははっ、褒めても逃がしませんよ!」
「逃げてんじゃねえよ、お前を倒すために立つ位置を変えてるだけだ!」
強がってこそ見るが……リンの速度が速すぎて逃げ切れる気もしないな。
バックステップで下がっても、直ぐに先回りして剣を振るってくる。
だがその軌道はシンプル、やはりコイツ自身は曲がることが出来ても剣筋は真っすぐだ。
故に盾で受け止める事は簡単。
「まぁ、流石に盾で受け止められたらノーダメですよねぇ……ははは」
「回避盾の攻撃くらいは盾で受け止められるっつーの。
そんなんも出来なきゃ、俺も器用貧乏野郎になっちまうだろうが」
「アハハハ、じゃあ……ブレイブさんが苦手なこのスキルはどうですか!? 水流乱舞!」
「無策なわけないだろ!」
俺はファスト・シールドとセカンド・シールドを前面に展開する。
これで奴は後ろに回り込むことでしか攻撃は出来ない。
上から来ることも考慮しているが……やはりリンは回り込んで俺の背後を取って来た。
「自ら逃げ道を塞いじゃいましたね!」
「いいやぁ、お前を倒すために退路なんてもういらねえからな……!」
リンが放つ神速の一撃……それは確かに速いし、俺に見切れるものではない。
だが、問題なのはそれを何度も何度も、同じような動きで放ってくること。
「サード・カウンター!」
「ッ!」
リンは自分のスキルの弱点に気付いたか、直ぐにスキルを止める。
クソッ、やっぱり反応速度は凄いもんだな。
スキルで放つカウンターを避けるってのは、相当なもんだ。
しかも、自分がスキルを発動している最中にってのがすげえ。
「まぁ、確かにお前の水流乱舞は強力だよ、リン。
でもな……少しはパターンを変えねえと、飽きられてお返しされるぜ」
反撃ののろしを上げると共に、俺は剣の切っ先をリンに向けてそう言った。
プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン
レベル:40
種族:人間
ステータス
STR:60(+70) AGI:88(+55) DEX:0(+20) VIT:34(+95) INT:0 MND:34(+60)
使用武器:小鬼王の剣・改、小鬼王の小盾・改
使用防具:龍のハチガネ・改、小鬼王の鎖帷子・改、小鬼王の鎧・改、小鬼王のグリーヴ・改、ゴブリンガントレット、魔力ズボン・改(黒)、回避の指輪+2