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第三十一話:漁夫の利

 ―ブレイブ・ワン―

 貴方は死亡しました。

 死因:弓矢による攻撃

 復活まで後30秒……


 俺の死亡を知らせるパネルが現れた。

 そこに表示されているカウントが段々と減っていく。

 あぁ、死ぬとこうなるのか。

 体を動かすことは出来ず、真っ黒な空間に浮いているような感覚。

 ……長時間いると気が狂いそうになるな、ここ。

 押すと五億年経験するボタンとかの本って、こう言う感じだったっけな。

 二億年くらい経つと、なんか人外になったりするんだっけ。

 と、ふざけたことを考えているとカウントは0になった。


「お……ようやく帰ってこれたか」


 俺は手をグッパー、グッパーと開く。

 体が動くって言うことは幸せなんだと実感した。

 さてと……俺を殺した女に報復してやりたいが……今はやめておこう、あのスキルは強すぎるし、まともに戦ったって勝てる可能性は薄いだろう。

 下手したら、またクリティカルで瞬殺される可能性だってあるし。


「お、孤立してんの発見!もーらーい!」


「サード・カウンター」


「ずんびっばっ!」


 後ろから存在感をアピールしながら突っ込んできた馬鹿がいたので、一撃で首を刎ねる。

 サード・カウンターくらいになると頭に叩きつければ大概のプレイヤーは倒せるっぽいな。

 今俺に突っ込んできた奴、なんか俺と似たような装備してたし……つまりは劣化版俺か! ハハハハハ!

 と、こんなことを考えてたら性格の悪いクソ野郎になっちまうな……いや、もうなってるか?


「さて……戦いが激化してくれれば、乱戦で漁夫の利でもしてやろうかな」


 こう言うイベントにおいてのタイマンは、非常に効率が悪い。

 戦う上では最初こそタイマンになるだろうが……基本は漁夫の利などを狙っていくのがセオリーだ、ってのは俺もわかってる。

 一対一で戦っても勝てるっちゃ勝てる奴の方が多いだろうけど、本当に点を取るだけなら漁夫の利が

一番稼ぎやすいんだろうな……性分的にはしたくないけど、出来れば上を目指したいしな、うん。

 タイマンで戦ってると、さっきみたいに横取りされるし……横取りしにきた奴をタイマンで戦ってる奴共々倒せるような自信があるのなら、タイマンもアリだけど……それは俺には難しいかもしれない。


「そこにいる男よ!私と一騎打ち願おう!」


 ……と、アレコレ考えているとまた誰か来た。

 赤い鎧を身に纏っていて、さっきランコに一撃で殺された奴と似たようないでたちだ。

 何なら顔つきも似てるし、髪型もわざわざ似せてるのか、そっくりだ。

 まぁ、髪の色が赤で目も赤いって言う所が全然違うって所だな。


「フフフフフ……貴様が水の四天王を破った男か。

ならば仇を討たせて貰う! 冥土の土産に我が名を聞け! 私は! 薔薇園の姫君四天王! 炎の――」


「サード・スラッシュ!」


「あんふっ!」


 炎のマークが刻まれた赤い鎧を身に着けている男は、名乗りを上げようとした。

 だが長尺だし、所作の一つ一つがダサかったしウザかったし、付き合いたくなかった。

 名乗るなら二秒で名乗れ、そしてポーズもシンプルにしろ。


「くっ、おのれ……名乗りを上げている所に斬りかかるとは卑怯者め……!」


「だったらこんなイベント出んじゃねえよ! バァァァカ!」


 俺はまだ生きていた炎の四天王とか言う野郎を蹴っ飛ばす。

 ……意外にも硬いな、まだHPバーが結構残ってるじゃねえかよ、もう。


「フフフ……驚いたか、これこそ我がマスターである姫君を守るための防御力、即ち私のステータスだ!

貴様のような卑怯者に貫けるようなものでは――」


「ディフェンス・ブレイク!」


「あああああああああああ!」


 ケッ、馬鹿か。ステータス面で防御力が高いことを明かしたらこれだよ。

 防御力貫通攻撃なんて、高レベルプレイヤーなら取得してるのが当然だ。

 と言うか、今の奴自分で防御力が高いとか言っておいて大盾装備してねえし。

 っつーか……炎って言ったら攻撃的な感じだろ。

 なのになんで守りを重視するようなステータス構成なんだよ。

 守護とかそう言うのは土属性だろ、テンプレなら……


「フフフ……私を倒したところで、第三第四の四天王が、きさ――」


 全部言い終わる前にポリゴン片となって砕け散った。

 うーわー……恥ずかしすぎだろ。


「こう言う大人にはならないようにしよう……うん」


 俺は心にそう誓って、剣を鞘に納めてから歩き始める。

 抜刀状態で歩いていてもいいんだが、出来れば雑嚢の中身をすぐさま取り出せるようにもしたいしな。

 雑嚢の中に入れたのは、ポーションだけじゃねえからな。


「さぁてと、どんな奴がい――」


「ハッハァ!貰ったァ!」


「デカい声でサンキューな」


 物陰から大鎌を持った奴が奇襲をかけて来た。

 さっき倒した頭巾男と似たような服装をしていて、軽装だ。


「ふっ!」


「チッ!弾かれちまったぜチクショー!」


 だがまぁ……奇襲かけるのに大声出しちゃダメだろ。

 軍勢を率いた逆落としとかならわかるけどさ。

 リアルに奇襲かける時は無言で殺るだろ。


「まぁ、本命は俺じゃねえけどな!」


「あ?他に誰かいんのか?」


「嘘だぜ!くらいやがれ!【車輪斬】!」


「セカンド・カウンター」


「がぁはっ!」


 ……今度はクリティカルを出してもないのに一撃で倒せた。

 技の練度から見ても、相当レベルが低かったんだな。

 つか、ホントに何だったんだ今の。さっきの四天王と同じくらいワケわかんなかったぞ。


「まぁいいや、先に進むか」


 俺は呆れながらも歩き出し、街の中心を目指す。

 あそこなら割とドンパチやってそうだし……乱戦になってそうだ。

 乱戦は敵が増えるだけで混乱が起こったりするしな。

 だって後ろで戦ってた奴が急に倒れたりしたら、何事かと思うしな。

 よし、街の中心を目指す。それで良さそうだし、頑張るぞ。


「うおっしゃあああああっ! 漢ブレイブ・ワン! まかり通るぜ!」


 俺は剣を抜き放ち、両手に剣と盾を握り――

 全速力で駆けだす。

 街の中心、噴水広場。全速力で駆ければ、五分以内にはつくはずだ。


「お、お前も街の中心を目指してるのかよ!」


「狙いは同じか――よっ!」


 走っていると、俺と同じように街の中心を目指す奴もいたようだ。

 頭にバンダナを巻いて、海賊のような服装と装備をした男――

 だけでなく、バリバリの初期装備で走ってる奴もいた。足おっそ。


「まぁ、ライバルがいるなら数を減らすに限るね!」


 初期装備の男が俺に飛び掛かって来たが、俺は体を捻って攻撃を避ける。

 そしてそのついでで、初期装備野郎の頭を掴んで――

 地面に叩きつけると、無事ポリゴン片となって砕け散ってくれた。どうもありがとうございました。


「ハッ! がら空きだぜ!」


「セカンド・カウンターッ!」


「ウボアーッ!」


「あ、これおまけな」


 俺が膝をついている所に、さっきの海賊風な男が斬りかかって来た。

 ので、セカンド・カウンターで腹の辺りを切り裂く。

 そこから頭に通常攻撃を叩きつけて、海賊野郎も撃破だ。

 えーと……今の俺のキルレートは、スーツ野郎、頭巾野郎、炎の四天王、初期装備野郎、海賊野郎……

 で、さっき一回死んだから5キル1デスか……十分黒字だな。


「さて、とっとと行かねえと乱戦が終わっちまう。急げ急げ」


 俺はそう言ってからまた、街の中心へ向けて走り出す。

 っと、今度は女子同士が斬り合っていた。

 赤いポニテに槍使い、青いショートカットに剣士……あり? どっかで見たことあるような。


「ほらほらどうしたよ、お前はまだそんなもんかよ! ミー!」


「アンズ、随分レベル上げてたんだね……すっごい強くなってるよ!」


 ……うん、どう見てもホーリー・クインテットのメンバーでした。

 二人はお互いに集中していて気づかないようだ。

 俺は折角なので、新しいスキルと共に漁夫の利を狙うことにした。


「ハイド・ソード……!」


 小鬼王の剣・改に着けて貰ったスキル……それは透明化用のスキルだ。

 これを使えば俺の姿は完全に透明になり、見えなくなる……のだが、煙とかで姿を炙り出されたりするのはあるあるだったりするんだよな。

 それにこのスキル……残念なことにゆっくり動かないと、半透明に映るらしい。

 しかも、使用中はどんどんSPが減っていくから自然回復なんてのは追いつかない。

 だからまぁ……今俺は抜き足差し足忍び足で女子二人に近づいている。

 ……なんだか、犯罪を働いてる野郎になった気分だ。


「くらえ!【スプラッシュ・スティンガー】!」


「っとっとっと! ならあたしだって! 【バーニング・スピア】!」


 青い髪の剣士……ミーは剣を高速で突き出し、残像が出来るほどの速度で放った。

 赤い髪の槍使い、アンズは槍の穂先に炎を溜め、ランコのライトニング・スピアのように放った。

 炎の槍と、残像を生み出すほどの速度を持つ剣がサウンドエフェクトを響かせながらぶつかり合う。

 だがそれは二人の体の様々な所に傷を作っていき、HPバーが削れてゆく。


「ふぅ……中々やるじゃん!」


「そっちこそ、結構痛いスキルじゃんか!」


「あ、お取込み中にどうも」


「えっ」


「はぁ?」


 二人が必殺スキルを放ち、十分にHPバーを削り合ってくれたところで――

 俺はSP残量をちゃんと残しておくために、透明化を解除した。


「じゃ、サード・スラッシュ!」


「あっ」


「うそ……だろ……!」


 呆気にとられたかのように、俺のスキルでミーとアンズの二人はHPバーを全損した。

 そのまま二人はポリゴン片となって砕け散った。

 ポイント提供、どうも感謝いたします、アイドルのお二人さん。


「さて……と、街の中心まであと少しだな」


 俺はそう言ってから走り出し、噴水広場を目指す。

 さて……出来れば獲物は多くいてくれたらいいんだがな。


「と……また撃ち合いかよ」


 どうやっても俺に噴水広場を目指させない、と言わんばかりに今度は三人の撃ち合いだ。

 SBOになんで銃があるのかはわからないが、単発式の銃を大量に持った女……ウズマキだ。

 で、矢を何本もまとめて撃って、雨あられのように降り注がせている……ツブラって子だっけな。

 最後に、ツブラの弓に似ている黒い弓を単発で乱射して、矢に矢を、弾に矢を当てると高等技術を見せている、エン。

 ホーリー・クインテットのメンバーがここまで揃って乱戦してると、ちょっと困るな。

 出来れば邪魔だからとっとと消えて貰いたいんだが、さっきみたいな戦法は通じなさそうだな。

 矢が降り注いでいるせいで、ゆっくり歩くなんて真似をしていたら巻き添えを食うのがオチだ。


「つっても、盾で弾こうにもなぁ……」


 エンも左腕にバックラーをつけているが、それを使っても全然攻撃は弾けていない。

 殆ど弓矢で叩き落とすか、普通に体捌きによる回避だけだ。

 つまり、盾を使って強引に突破しようにも、シャレにならないダメージが伴う。

 ……つーか、何でこの三人はあんな近距離で遠距離武器の撃ち合いをしてんだか。


「三人揃って動きの読み合いね、同じ条件で……リーダーの私に勝てるかしら?」


「根競べだけなら、誰にも負けない!」


「私だって、ギルドマスターの意地があるんだから!」


 うーん……俺とランコのように、随分と真剣勝負をしているみたいだ。

 だがまぁ、他人から見たらどうでもよく感じるけどな。

 俺もランコとの戦いを妨害されて怒る気持ちこそあったが……あれは覚悟しておくべきことだった。

 妨害があるとも考えず、ただタイマンを張っていい気になってた俺が悪い。

 だから――


「獲物を取られても、取られる側の問題だよな」


 俺はハイド・ソードを使用すると同時に、ストレージからSPポーションを取り出して飲み干す。

 更に、新たなスキルを使用するためだ。


「ミラージュ・ムーブ」


 ミラージュ・ムーブ……こっちは小鬼王の鎧・改に付属したスキルだ。

 このスキルを使うと、自分の透明化と自分の幻影を作って操作するか……その二択が選べるんだが、俺は後者を選択する。

 まぁ、前者の方はハイド・ソードと重ね掛けすることも出来るんだけど、消耗が激しいからな。

 ただ……今漁夫の利を狙うなら幻影の自分を操作すべきだ。


「頼んだぜ、ブレイブ二号」


「おう」


 俺は自分の幻影にそう言ってから、幻影の操作に入る。

 剣を抜いて、無謀ながらも突撃しに来た……と言う体を装わせる。

 ……幻影のくせに声も出せるみたいだから、やっとくか。


「うおおおおお! 貰ったぁぁぁっ!」


 かなり棒読みな演技だが、乱戦の最中に突っ込んでくる。

 それだけで注意を集められる。


「もう! 折角いい所で! 砕け散りなさい!」


「邪魔よ」


「ごめん……ねッ!」


 三人は一斉に俺の幻影に向けて射撃を始めた。

 念のために幻影には防御体制に入らせて、三人の攻撃になんとか耐えてるように見せたり、避けさせたりする。

 ……で、俺はゆっくりと歩いて、集中する射撃の隣を歩く。

 流れ弾が飛んできても嫌なので、距離は人間三人分くらいは離れさせておいている。


「随分硬いみたいね、なら大技で決めるわよ!」


「はい!」


「了解」


「合体スキル【アルティマ・トリオ】!!!」


「げっ」


 ……あぶねえ、本体の俺が声を出しそうになった。

 いやまぁ、幻影にぶつけられるものだから、むしろ無駄な消費をしてくれてありがたいところだ。

 けれどな……こんな砲身が大砲みたいな銃を召喚して何をするのか。


「行くわよツブラさん、エンさん!」


「準備はいい?エンちゃん!」


「ええ、任せて!」


「装填!」


 エンのドス黒い程の黒い矢が装填されると、ツブラが弦を引っ張った。

 え? あんな仕組みしてて実はボウガンなの? 砲身がわざわざあるのに?

 心の中で突っ込んでいると弦が引っかかった。

 やっぱボウガンじゃねーかよ! って、文句付けてる場合じゃねえ。

 折角近づけつつあるんだから、もっと近づいて全員一撃で倒さねえと。


「発射!」


 ツブラの言葉と共に、引き金を三人で引いた――

 その瞬間に、俺はミラージュ・ムーブとハイド・ソードを解除する。


「……あっ」


 ウズマキがただ一言漏らした。

 そう、矢は何もない所にすっ飛んで行った――


「フギャアアアアアアアアアア!」


 と思ったら、断末魔が聞こえた。

 偶然隠れていたプレイヤーに当たったみたいだな。

 どうも、お疲れさまでした。


「ま、ポイント入ったんだから黒字だろ」


「あっ」


 俺は後ろからそう話しかけて、ウズマキが振り向いた瞬間に剣を叩きつける。

 頭にヒットし、ウズマキはフラついたかと思うと、そのまま倒れてポリゴン片となって砕け散る。


「う、ウズマキさん!」


「リーダー!」


 ツブラとエンが慌てて弓矢を構えるが、俺は既にスキルの詠唱に入っている。

 さぁて、どう料理してやろうか!


「もうおせえよ!サード……」


「落雷ノ一太刀」


「え?」


「何が……」


 俺がサード・スラッシュを放とうとした瞬間。

 俺と同じようにハイディングしていた先輩……彼女の必殺スキルで、ツブラとエンの二人は一撃で斬られ、ポリゴン片となった。


「ほう、耐えたか、ブレイブ。一撃でやれなかったのは想定外だ」


「俺としては、先輩の存在そのものが想定外ですよ……!」


「まぁいい。今回は1キルで我慢しておいてやろう」


「え」


 気付くと、俺の目線はいつの間にか勝手に傾いた。

 俺は倒れたのか……いや、違う。

 首のない俺の体を、俺が見つめている……つまり――


「至近距離で助かったぞ、ブレイブ。

お前が動いていたら、当たらなかった故、な。

この、【首狩リノ太刀】が……な」


「マジかよ……先輩……!」


 字面からして、即死スキルの名前を言った先輩。

 あの一瞬で即座に詠唱して、直ぐに放つとは思いもしなかった。

 で……俺はさっきのように淡い光に包まれ、ポリゴン片となって砕け散った。

 あぁ、ウズマキだけでも俺が殺れて良かった。

プレイヤーネーム:N・ウィーク

レベル:50

種族:人間


ステータス

STR:85(+75) AGI:100(+50) DEX:0(+30) VIT:25(+25) INT:0 MND:25(+25)


使用武器:真・閃光雷刀

使用防具:真・龍の羽織 真・稲妻の髪飾り 真・稲妻の着物 真・魔力袴(緑) 真・幻手袋 真・魔力草履 真・力の指輪

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