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第三十話:ランコVSブレイブ・ワン

「せあああああッ!」


「オラアアアアアッ!」


 俺の袈裟斬りと、ランコの突きが大きな音を立ててぶつかり合った。

 ランコは両手で持った槍を本気で押し込みに来ている、のが表情でよくわかる。

 だが、俺は剣を片手で握っているし、まだまだ力を込めようと思えば込められる。


「どうしたランコ! お前の力はそんなもんか!」


「くっ……うっ……はぁぁぁ……!」


「ふっ!」


 俺はぶつかり合っていた剣を強引に振り下ろす。

 そうしてランコの蜻蛉切を弾き落とし、隙を作る。


「【ファスト・ライトニング】!」


「っと!」


 ランコは隙を突かせない、と言わんばかりに魔法を放ってくる。

 俺は盾で魔法を受けて何とかHPの減りを抑えるが、折角のチャンスを逃した。


「まだ、まだッ!」


 ランコは薙ぎ払うように槍を振るってくる。

 俺は一歩踏み込んで、盾で槍の握りの方を叩く。


「あっ!」


「はぁっ!」


「くっ!」


 今度こそ隙を晒したランコに向けて袈裟斬りを放つ。

 今のでランコのHPバーの一割は削った。

 ……今度はスキルで叩いて、とっととぶった斬るか。


「やっぱり、兄さんはゲーム上手だね」


「おだてても手は抜いてやらねーよ。生憎、今の俺は優しいお兄ちゃんじゃあねえからな」


「普段から意地悪なくせに!」


 ランコは一歩下がって距離を取った。

 槍持ちが距離を取った、加えてランコの魔法は俺に決定打を与えられるもんじゃねえ。

 なら、やることは一つだとわかる!


「ファスト・ジャベリン!」


「当たるかよ」


 ランコがこんな近い距離なのにも関わらずに槍を投擲するスキルを放ってくる。

 俺は腰を回転させ、左足を引いて槍を回避する――


「乱れ突き!」


「何ィっ!?」


 本命はこっちだったのかよ!回避行動をとってすぐに別のスキルを避けるのは無理だ!

 と、無様にも引っかかった俺は頭、胸、両腕、腹と五連の突きを受けた。

 クソッ、やっぱコイツのスキルの威力高すぎだろ。

 これだけでHPバーがもう半分まで落ちてしまった。


「これで――」


「舐めんなァッ!」


 乱れ突きを受けて、俺とランコに距離が開いた所で、ランコは更に距離を詰めて来た。

 だが、その動きはあまりにも直線的すぎる。

 俺は剣を振り上げて、突き出される槍を弾くと同時に、剣を振り下ろす。


「せっ!」


「チッ!」


 ランコは槍を弾かれたのにも関わらず、器用にも槍を回して石突で俺の剣を弾いた。

 誰から学んだ戦法かは知らないが……いい技だ!


「ライトニング……!」


「ファスト・シールド!」


「きゃっ!」


 槍の穂先に雷を溜めようとしたので、俺は盾を出現させてランコをのけ反らせる。

 あんな威力の技、真正面から受けてたまるかってんだよ。

 スキルが中断したこの瞬間こそチャンス、逃さずに俺は一歩踏み込む。


「サード・スラッシュ!」


「あっ、ぐっ……!」


右肩から左脇腹にかけてまでの一閃。

まともに直撃して削れたのは六割ちょい、あと一撃ぶち込んだら勝てるってところだな。


「まだまだ……終わらな、い……!【ファスト・ヒール】!」


 ランコは魔法でHPを回復させるが……やはり初級レベルの雑魚魔法か。

 HPは半分までしか戻っていないし、自然回復でHPを少しずつでも回復出来る俺の方が有利だ。


「【ファスト・ウィンド】!」


「温いぜ! セカンド・シールド!」


 ランコが放ってきた小さな竜巻のような魔法を盾で散らし――

 折角だからと俺は別のスキルを詠唱する。


「ディフェンス・ブレイク!」


「させない! 風車!」


 ランコはステータスを均等に割り振っているから、防御力もそれなりに高い。

 だからこそ防御力貫通攻撃が活きると思っていたが……まさかの風車だ。

 攻防一体のこのスキル。高速回転したランコの槍は俺の剣を受け止めて、そのまま押し返した。


「チィィ……!」


「てりゃあああっ!」


「おぉっ!」


 ランコは突き進むように槍を構えて突っ込んでくる。

 俺はそれを盾で受け止め、剣で斬り返す。

 しかしランコは長物の扱いが器用だ、今の俺の剣撃を受け止め、弾き、俺へ休ませる隙を与えて来ない。


「やっ、はっ、せっ、てあああっ!」


 槍の一撃一撃の刺突、薙ぎ払い、振り下ろし。

 ランコ自身のステータスは大したことがないから、確かに俺は攻撃を受け止められる。

 だが。


「ファスト・ジャベリン!」


「おおっ、ぶねっ!」


「ここだっ!」


「更にあぶねえ!」


 至近距離で槍の投擲スキルを放ってくるもんだから、俺は上体を大きく逸らして避ける。

 その隙を見逃してくれるはずもなく、ランコはそのまま槍を突き出す。

 俺は槍の穂先を蹴りで跳ね上げるが、その蹴り上げられた勢いすらも利用して、今度は直接振り下ろして来た!


「ぐっ!」


「せあっ!」


 俺は盾で槍の振り下ろしを受け止めるが、ランコはその勢いを利用して回転。

 少し尖っている石突で俺の肩を狙ってくる。


「おおあっ!」


「やぁぁっ!」


 体を引かすことでどうにかランコの攻撃を避けるが、途端に俺はグラついた。

 この足に起きた感覚は――


「見えなかったでしょ、今のは」


 足払い……!ランコはやたらと俺の上半身を狙ってきていたとは思った。

 だが、それは俺から足元への注意を奪うため。

 ランコは空中で攻撃を放ち、着地する瞬間を利用して、屈んだ状態で足払いを繰り出したってワケか。

 全く、隙も油断もない恐ろしい妹だぜ……!


「【疾風突き】!」


「ぐはっ!」


 ランコの槍の刺突は俺の左脇腹に突き刺さり、俺はそのまま地面と背中を激突させる。

 クソッ……なかなかやるじゃねえか、ランコ。

 今の猛攻のせいで、こっちはもうHPバーが二割しか残っていない。


「はぁっ……はぁっ……強いじゃねえか、ランコ……!」


「兄さんこそ……ここまで凌ぐなんてね……!」


 俺とランコは、互いに肩で息をしながらも賞賛しあう。

 そうだ、俺はこんなゲームを望んでいたのかもしれない。

 誰が相手だろうと、気負うことなく全力で武器をぶつけ合う、漢の勝負。

 前のゲームのように、ただ機械的に戦ったり、変な思想を持ち込むような勝負じゃあない。

 どんなステータスであろうと、ただただ単純に己の武器をぶつけ合う、ゲーム。

 レベルと言う数字と共に、自分がこの仮想世界で培ってきたものだけを見せ合う。

 そうだ、俺は……妹と笑いながら、こういうゲームをしたかったんだ。

 だからこそ――


「――勝つのは、俺/私だッ!」


 ランコと俺の声が揃い、俺たちは踏み出す。


「はぁっ!」


「てぇっ!」


 ガツン、と蜻蛉切と小鬼王の剣・改がぶつかり合う。

 単純なぶつかり合いになれば、総合STR値で勝っている俺の方が有利。

 いくらランコの蜻蛉切が重い槍で、STRがあろうと……!

 ランコ自身のステータスのSTRが高くないことを考えれば、俺は負けない!


「せええああああああッ!」


「この流れは、既に体験してるからっ!」


 俺が剣を押し込もうとすると、ランコは一歩引いて俺の体制を崩させに来る。

 だが、俺の体幹はこの程度で揺るぐほど軟な物じゃない。

 確かに現実世界の肉体とVR世界の肉体は全く違う物。

 それでも、脳みそが覚えている感覚と言う物は……どっちの世界でも変わらない。

 剣道のために足腰を鍛え、剣を振るってきた俺は、鍔迫り合いから引かれたくらいで転んだりはしない。


「セカンド・ジャベリン!」


「セカンド・シールド!」


 ランコの投擲した槍と、俺が出現させた盾がぶつかり合い、砕け散る。


「疾風突き!」


「セカンド・スラッシュ!」


 素早く動いて突きを放ってくるランコに、俺は剣を合わせるようにぶつける。

 ガツゥゥゥン、と大きな金属のサウンドエフェクトが鳴り響く。

 と、共に俺たちは互いに距離を取る。

 スキルのぶつかり合いで、威力が同じくらいだと……大体こうなるのか。


「ふぅっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


「どうした、ランコ。随分、息が……上がってんじゃねーの……!」


「フフフ……兄さんこそ……だえだえじゃん……!」


 やはり、VRとは言えど相手を倒すために武器をぶつけ合う必要がある、それには集中力と精神力を使う。

 たかがゲームだとしても、人はそこに全力をかけられる。

 ゲームを全身全霊120%の力で楽しむためなら、俺たちは気力も体力もゲームに注ぐ。

 だから疲れるし、息を吐くし、多くの情報が体を支配する。


「次で! 終わらせるよ! 兄さん!」


「来い! 全力でブチ抜いてやるぜ! ランコ!」


「はぁぁぁっ……!」


「うおおおおおっ……!」


 ランコは、槍の穂先に雷を集める。

 俺は、剣に力を込め、スキルの詠唱を完成させる。

 ランコの真っ直ぐな攻撃に応えるには……先に打つわけにはいかない。

 先に俺が詠唱を完了したのだとしても、打つタイミングは同時だ!


「ライトニングゥゥゥッ!」


「サァァァドォォォッ!」


「スピアアアアアアッ!」


「スラァァァッシュッ!」


 四度目の、槍の穂先と剣の切っ先がぶつかり合う時。

 一度目や二度目よりは勿論、三度目よりも大きなサウンドエフェクトが響く。

 雷を纏った槍と、ただただ力を込められた剣。

 それらは火花を散らしてぶつかり合い……互いに俺たちのHPバーを削り合う。


「うううううおおおおおおおお――ッ!」


「くっ……やああああああああ――ッ!」


 死力を振り絞る、ゲームへの限界を迎えるほどの集中。

 俺たちのスキルは交差しあい――

 数ドットのHPバーだけを残し、そのまま停止した。

 ……俺のSPは、まだ残っている。


「乱れ突き!」


「そのスキルは……もう見切った!」


 ランコが放とうとした乱れ突き、それの初期動作は絶対に変わらない。

 突きである以上……槍を放つ方向は常に一つ。

 俺は一歩踏み込み、ランコの槍の握りの部分を掴む!


「あっ!」


「捕まえ……たッ!」


 俺はそのまま左手で槍を引っ張り、ランコを引き寄せる。

 これでもう、リーチの差は関係なく、今は取り回しにおいて俺の方に分がある。


「セカンドォォォ……!」


俺は最後の一撃を飾るため……スキルを発動させて、ランコを切り裂こうとした。

だが、そうするよりも先に――


「もーらー……いッ!」


「あっ……しまっ、た……!」


「なっ……!?」


 突如として放たれた矢が、ランコの背中に突き刺さった。

 当然、残り数ドットだったランコのHPバーは全損し、ポリゴン片となって砕け散った。

 目の前にいる、緑髪のポニーテールのエルフ耳……また弓使いかよ!


「てめぇぇぇ……! いいとこだったのに、水差しやがって……! ブッ殺す!」


「初対面でいきなり殺す、なんて物騒な子ね」


 やたらと身長が高く、弓を射るのに向いてそうな体型の女。

 コイツは狩人のような軽装をし、雑多なものを腰に身に着けた上で、頭にはミスマッチなシルクハット。

 どう見ても頭だけいらねえだろ、とは思う。

 いや、今はそんなことはどうだっていい、イベントのルール上問題ないことだし、むしろ推奨されているであろう漁夫の利……!

 俺はそれをやったコイツを全力でぶちのめしてやりたいと思った。

 他人がやられてどうであれ、俺自身は凄く嫌だと思ったからな!


「まぁいいわ、折角だし……相手くらいはしてあげるわよ」


「上等だ……テメエでさっきの分のポイントの埋め合わせくらいはして貰うぜ!」


 俺はスイッチスキル、諸刃の剣を使用した。

 回避盾御用達のこのスキル……折角なら、乱戦になりそうなこのイベントで使いこなしてやる。

 それだけじゃなく……白熱していた俺とランコの勝負を横どった報い。

 イベントのルールには反していなくとも、俺自身の楽しみを奪ってくれたこの女に、全力で報復してやらなきゃあ気が済まねえ。

 最速でブチのめして、ギャフンと言わせてやる。


「あら、スイッチスキルなんて使って……何が何でもあたしを逃がさないつもりね」


「当たり前だろ、是が非でも倒させて貰うからな!」


 俺は剣を構え、SPの回復を待つ。

 ……それだけではなく、奴が手に持っている弓矢が引き絞られる瞬間を待つ。

 今の俺はシールドなんて障害物か足場程度にしか使えない。

 なら、障害物に使ってさっきの頭巾野郎みてえに弓矢を撃たせないようにする。

 それだけだ。

 奴が矢に手をかけ、弓にあて……弦を引き絞った……! 今だ!


「ファスト――」


「【神速弓・唯一射】」


「は」


 次の瞬間、俺は視認する事さえままならない矢を頭に受け――

 HPバーを全損すると共に、アバターの操作が効かなくなった俺は、自由落下するように倒れた。

 体が淡い光に包まれる中……見えたのは、笑みを見せながら、俺を見下ろすエルフ女。

 ……どんなスキルを使ったかもわからないまま、俺のアバターは、ポリゴン片となって砕け散った。


 ――俺は、初めてこのゲームで死んだ。

プレイヤーネーム:ランコ

レベル:40

種族:人間


ステータス

STR:37(+65) AGI:37(+50) DEX:35(-5+20) VIT:35(+30) INT:35 MND:35(+30)


使用武器:蜻蛉切・改

使用防具:技のサークレット 技のジャケット マジックノースリーブ 技のスカート 怪力の手袋 疾風のブーツ 技のネックレス+2


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