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第二十九話:第二回イベント、開始



「……とうとうイベントの時間ですね」


「あぁ、だからこうして中央広場に集まってるけどよ……人多すぎだろ、満員電車かよ」


 隣にいるハルに返答するが、プレイヤーの密集度合いが半端じゃない。

 先輩やアインたちも近くにいるんだが、騒いでる奴が多すぎて声が聞き取れん。

 因みに、ギルドホームに関しては……まぁ、何もなかったとしか言いようがない。

 購入したてホヤホヤだから当然とは言えど、本当に何もなかった。

 で……話は戻るが、今俺たちはこうしてイベント開催前に始まるルール説明を聞きに来ていた。

 と言ってもまぁ、公式サイトで記載していたルールと同じらしいから、殆どの奴は聞き流すだろう。

 でも、俺は公式サイトなんて見てないからルールは何も知らんがな! だから今こうして聞くんだけど!


『それでは!第二回イベントランク戦の説明を開始します!』


 ゲーム運営からのアナウンスが発された。

 すると騒いでいたプレイヤーたちの声はピタリと止まった。

 公式サイトをチェックしていたであろうが、それでも聞くのはゲーマーとしてか。

 それとも、俺みたいな間抜けのために気を遣ってくれてるのか。

 後者ならお兄さん喜んじゃうぞ。


『今回は、前回同様にバトルロワイアル形式となっています。

参加した全てのプレイヤーは敵! 敵プレイヤーを一人撃破すると10ポイント加点。

自分が撃破された場合は5ポイント減点されてしまいます。

また、イベントマップ内には壊すだけでポイントが入手できるオブジェクトも配置されています。

イベント終了時のポイント数の多さでランキングが決められ、上位10名には豪華賞品が贈られます!

制限時間は時間加速システムを用いて、十二時間とさせていただきます!』


 十二時間……そんなに長いと、集中力どころか色々とどこかで切れそうだ。

 けれどもまぁ、文句は言っていられない。

 イベントに参加する以上、狙うは集う勇者の全員で上位10人の半数をシメてやる。


『それでは、五分後にイベントマップへプレイヤー全員を転送いたします』


 運営からのアナウンスが終わると、視界の右端に5:00と表示された。

 それが1ずつ減っているから、転送までの時間ってことだな。


「さて……漢ブレイブ・ワン、まかり通るぜ」


 俺はそう言って右拳を高々と上げ、指をピンと立てる。

 ……で、拳を下ろしてから骨をパキリパキリと鳴らした。

 と、次いででアイテムストレージからポーションを取り出して……それを入れられるだけ腰の雑嚢に入れておく。

 こう言うアイテムポーチの類は、直ぐにアイテムを取り出せる。

 だからいちいちストレージから出さずに済むのは楽だ。

 ……今までやらなかった自分が馬鹿らしく思えて来るぜ、全く。

 次に、イベントではどうやって敵を倒すかとか、どうやって生き残るかとか……あれこれと考えておかないとな。


「あ、先輩。もしイベントでぶつかり合ったとしても、互いに容赦はしない方向で行きましょう。

その方が、ゲームとしては楽しいでしょうしね」


「あぁ、そうだな。先輩やお前とは、一度本気でやり合ってみたいと思ったこともあるしな」


 隣にいるハルが、剣を抜いてからそう言ってくる。

 俺も剣を抜いてそれに応えるように、互いに鍔をカツン、と合わせた。


「勝っても負けても、恨みっこなしだぜ……なぁ、先輩」


「あぁ、いきなり上体を逸らしながら言われても、驚くがな……

フフ。だが、私はお前が相手ならば、例え奥の手を見せてでも勝ちに行ってやる」


「僕だって、ブレイブさんが相手でも、決してタダで負けるつもりはありませんよ」


「なんだったら、私は兄さんに勝って見せるからね」


「フフーン、俺はブレイブさんどころか、Nさんごと食っちまう勢いでやってやるッスよ!」


 と、ギルドメンバーそれぞれに言葉を交わし合ったところで――

 カウントが0になり、俺たちは淡い光に包まれた。

 ……眩しくて、何も見えない……ので反射的に目を瞑った。


「……大丈夫だよな?」


 俺は自分に確認するかのように、恐る恐る目を開ける。

 さっきの眩しさから解放されて……俺はポツンと一人で立っていた。

 ……マップを見る限り、どうやらここは街の中央と果ての間くらいか。

 周りには特に物は少なく、隠れられる物等はもっと少ないな。

 意味深に折れている柱とか、建物の瓦礫のような物とかそれくらいだ。

 で、要は俺の飛ばされた場所は一番内側と一番外側の間、つまりある意味での真ん中に飛ばされたワケだな。

 ルール説明をしていた集合所からそんなに離れてないし、そこまで飛ばされてないってワケか。


「さて、全方位から敵が来るのか……どうしようかな」


 乱戦中の乱戦、頼れる味方なんぞどこにもいないサバイバルだ。

 まぁ……今は一人ぼっちだし、ただここで敵を待つのもアリだな。

 いや、俺の機動力を考えたら敵を探しに行った方がいいのか?

 加速が使える以上、ヤバそうになったら逃げればいいんだし。

 タイマンなら負ける気はしないが……いや、タイマンは危険だ。

 下手したら漁夫の利でどっちも持ってかれるし、そういう損はしたくないな。


「となると、俺が漁夫の利側に回った方がいいのか……?」


 俺は顎に手を当てて呟くが、出来れば心情的にやりたくはないんだよな……でも、勝つためだしなぁ。

 なんて唸りながらも、俺は腰から剣を抜き、頭をガリガリと掻く。

 それと同時に、俺の真横から跳んできた矢を斬り落とす。


「ふぅ……いきなり撃ってくる奴もいるのか。あぶねえなオイ」


 盾が間に合わなかったから、咄嗟に剣を振ったが斬れてよかった。

 多分第二射が来るだろうけれど、恐らく方向を変えてくるはず。

 今の俺がいる地帯は障害物などの少ない上、隠れる場所は少ない。

 言わば弓使いにとっては不利な場所、それ即ち俺に有利な場所、そんな所で負けてなんていられねえぜ。


「さぁ来い、第二射……」


 俺は目を瞑り、感覚を集中させる。

 剣道の試合の時のように……余計な情報を耳や肌から消す。

 出来るだけ、自分の狙った物だけを感じ取れるように――


「そこか」


パァァァン、と放たれた弓矢を首を曲げるだけで俺は回避する。

それと同時に――


「加速!」


 ダァンッ、と地面を蹴っ飛ばしてから走り出す。

 一.五倍にまで跳ね上がった俺の足の速さは、柱の陰に隠れている奴までの距離はすぐに詰められる。

 隠れている奴は場所を移動する暇もないのか、弓を構えて待っていたようで、俺にそのままもう一発撃ってきた。

 だが、これだけ近い上に出所も丸見えな弓矢なんて、近接戦で味わった物に比べればヌル過ぎる。


「はっ、ちょっ、速い速い速い! ふぅぅぅん!」


「っと!」


 焦って柱の陰から出て来た男……SBOではあまりにも不自然なほどの、茶色のスーツ姿の男。

 彼は俺に向けて真正面から矢を撃って来たが、俺はスライディングでそれを避ける。

 そのまま奴の後ろに回り込み、スキルを詠唱する。


「え? あ、後ろか! ちょっと待っ――」


「サード・スラッシュ!」


 待たねーよ、と心の中で突っ込みつつ、俺は奴の頭に向けてサード・スラッシュを叩きつける。

 スーツの男はVITが低いのか、それともクリティカルかつ俺のSTRによるものか――

 一撃でHPバーが全損して、そのままポリゴン片となって砕け散った。


「ふぅ、まずはひと――りはっ!」


 一人倒して落ち着いていると、背中に矢が突き刺さった。

 クソッ、中々威力のある弓矢じゃねえか……俺の防御力でも一撃で三割も持ってかれたぞ。

 普通の弓使いなら、攻撃力よりも器用さを優先することが多い。

 そう考えると、クリティカルでも何でもない背中で三割と言うのはかなりの弓を持っていると見ていい。


「ふぅぅぅん! 美味しい! ありがとなエミさーん! はーっはっはっはっは!」


「クソッ!待ちやがれゴラァッ!」


 俺に弓を当てた男……緑色の頭巾を頭に被り、迷彩柄のマントを身に着けた男。

 ソイツの目元は見えないが、ギザギザした歯を見せながらゲラゲラと俺を笑っていた。

 さっきのエミさん、とかなんとか呼ばれてたスーツ姿の男みてえにぶった斬ってやろうじゃねえか!


「そぉらもう一発!」


「見えてんのに当たるかよ!」


 俺は体を捻って矢を避け、逃げながら弓矢を撃ってくる男を追いかける。

 ……しかし、奴はいったいどうやって現れた?ここに隠れるような物なんて少ないはずだ。

 いや、よく考えろ、ブレイブ・ワン。

 あくまでそれは弓使いが隠れる場所などを想定していての話だ。

 ただ隠れるだけなら、何かの下敷きになったりするだけでいい。

 ならよりいっそう警戒を深めよう、と言う教訓になった。

 よし……なら、あとはこの野郎をぶっ潰して……ポイントに変えるだけだ!


「ふぅぅぅん! くらえ、【サンダー・シュート】!」


 頭巾の野郎はいつの間にかスキルの詠唱をしていたのか。

 雷をバチバチと迸らせている矢が真正面から俺に飛んできて、当たる――

 前に俺は身を屈め、倒れるギリギリまで体制を下に向ける。

 忍者のような走り方でよくある奴――よりも身を屈めているから、結構走りづらい!


「お、あれ避けんのかよ! くらえ! オラッ!」


「ファスト・シールド!」


 今度は俺の体制のせいで当たりやすくなったが、奴はバックステップをしながら矢を三本も放ってきた。

 俺はそれを予見して、シールドを展開し、顔面狙いの矢を止めて見せた。

 その内二本は、俺が避けることを予想して放った矢なんだろう、だってそもそも俺を狙ってねえし!


「何ぃぃぃ? ピンポイントシールドかよ!」


「お返ししてやるよっ! 斬撃波!」


「っとあぶね!」


 俺は走りながら斬撃波を放つが、奴は慌てて飛びのいた。

 クソッ……このまま避けられて矢を撃たれるだけじゃ、追いつくことは出来ても倒せる保証がない。

 最悪なパターンは、近づいた所に広範囲系スキルを撃たれることだ。

 弓でも広範囲なスキルはそれなりにあるし、何よりも近づけば近づく程矢を避けるのがシビアだ。

 だから……なんとしてでも、早いうちに奴の隙を作らねえといけねえ!

 そのために取れる手段……俺の中であるもの!


「うおおお! くぅらえええッ!」


 俺は盾を全力で投擲した。

 守りを捨てることにはなるが、シールド系スキルは盾が手元になくても使うことは出来る。

 例え手から盾が離れていても……メニュー画面に置いて装備していることに変わりはない。


「何!? ぶがっ!」


 頭巾の野郎は俺の投げた盾が顔面に直撃して、よろめいた。

 都合よく盾が顔面に当たってくれたおかげで、奴は弓から手を離した。

 そして弓は俺の盾と一緒に地面に転がった。


「あっ」


「行くぜオラアアアアアアッ!」


「ちゃ、ちゃちゃちゃちゃうんすよ!

あ、ちょ、待って! 速い速い速い! ちゃうんすよ!

ちょっと、その、えっと、高速移動! やめてやめてやめて!」


頭巾男は慌てて後ずさりするが、弓を拾おうとしている魂胆は見えている。

だったら! やることは一つだ!


「させるかゴラァァァ!」


「剣までええ!?」


 俺は剣を投げつけ、頭巾の男に当てようとしたが……外れた。

 だが奴の持っている弓の所に突き刺さり、逃げようとする足を止めてくれた。


「あ、でもお前丸腰やん、なら怖がらねえで済むわ」


「何を――」


 頭巾の男は、あろうことか手斧を取り出していた。

 鉄の斧のようにシンプルだが……何か紫色に光り輝いている。

 スキルの影響か、それとも装備の固有効果か。

 だがあの斧に当たったらマズい……そんな気がする!


「ふぅぅぅん!」


「う、おおおっ!」


「な、マジかよ!」


 奴が振り下ろして来た斧、それを刃の部分に当たらないように――

 肩で受け流す!

 ……のに失敗して、HPバーが二割ほど削れた。

 だが派手に直撃しなかった分、体力の減りは抑えられた。


「うおおおおッ! パワァァァ! スマッシュゥゥゥッ!」


 ゴブリンガントレットに付属されていたスキル――

 打撃系統、かつSTRに依存した威力の【パワー・スマッシュ】。

 俺はそのスキルを発動させる。


「くぅぅらえええええッ!」


「っぶねっ!」


 俺は左足を前に出し、右拳を腰の回転と共に繰り出す!

 だが、奴は驚く事か斧を振り下ろした姿勢から上体を逸らした!


「とっとっとっ、随分あぶねえじゃねえかよオイ!」


 頭巾の男はそのまま三歩程下がり、俺の盾を左足で踏みつけると共に、片足で弓の弦を引っかけ、奴は足だけで弓を拾った。

 斧をしまい、弓の弦を引いてくる。


「けどこれで終わりだぜ!」


「来るか……」


「じゃあ美味しくいただき――」


「セカンド・シールド!」


「あふんっ」


 奴が矢を引き絞って放つ寸前に、俺はシールドを展開した。

 そしてそのシールドは奴の肩の前に出現し、狙いがブレブレのままに矢は放たれた。

 俺が動くこともなく、矢はあらぬ方向に飛んで行った。


「てめえ、やりやがっ――」


「今度こっ……そッ!」


「あああああッ!」


 俺は頭巾の野郎の懐に潜り込み、みぞおちに拳を叩き込んで、体をくの字に折る。

 よし、接近戦になれば奴は弓を使えない。

 斧をしまっている以上、ゼロ距離で殴りまくってボコボコにするだけだ。


「ちょ、いったんタンマ、タン――」


「勝負の世界に待ったはねえ!」


 俺はガントレットで頭巾男の顎をアッパー。

 そこから――


「エクストーション!」


「ぐっほ!」


 顔面へ全力のエクストーションを叩き込んだ。

 頭巾の男はアッパーで浮いた瞬間だったので、地面に叩きつけられたと思うとバウンドした。

 ……現実だったら死んでるだろうな。

 VRなら……わからんけども。


「クソーっ……ダメだったかぁぁぁ……」


 頭巾の男は嘆くようにそう言うと、ポリゴン片となって砕け散った。

 よし、これで二人目だ。


「さて……次はどいつだ?」


 俺は誰もいないことを確認してから、アイテムストレージにあるポーションを取り出す。

 キュポン、と蓋を開けてからHPポーションを飲み、HPを回復しておく。

 SPは……後先考えずに使いすぎちまったか。

 念のためにポーションを飲んで回復しておきたいが、今は誰もいないから自然回復を待つとするか。


「フフフ……我がライバル、ゾームーを倒すとはね。見事、見事」


「誰だよ、テメーは……不審者か?」


 何やら騎士のような鎧を身に着けながら、拍手をしながら俺に近づいてくる男がいた。

 青い髪に、赤い目……随分な長髪だ。


「私はとあるギルドのメンバーのうちの一人さ、そうだ、今名乗ろうか。

フフフ、冥途の土産に誇りある我がギルドの名を教えてやろう!

そう、私の所属するギルドは!【薔薇園の姫君】!そして我が名は、薔薇園の姫君が四天王!水の――」


「ライトニング・スピアァァァーッ!」


「ギャババババアババババババババァッ! わっ、我が姫に栄光あれ――っ!」


「……何だったんだ、今の」


 騎士みたいな男は名乗る前に聞き覚えのある声と共に投擲された槍に突き刺さった。

 その途端、まるでギャグ漫画で雷にでも当たったのかと言わんばかりの反応をして――

 そのままポリゴン片となって砕け散った。


「あ、兄さん。やっ」


「やっぱお前か……まぁいい、出会った以上……いっちょバトろうぜ」


「そうだね、容赦はしないよ」


 俺は剣を構え、相手は槍……蜻蛉切を構えた。

 目の前に立つは……俺の妹、ランコだ。

 SBO、初の兄妹対決ってわけだな……燃えて来たぜ。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:40

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:60(+70) AGI:88(+55) DEX:0(+20) VIT:34(+95) INT:0 MND:34(+60)


使用武器:小鬼王の剣・改、小鬼王の小盾・改

使用防具:龍のハチガネ・改、小鬼王の鎖帷子・改、小鬼王の鎧・改、小鬼王のグリーヴ・改、ゴブリンガントレット、魔力ズボン・改(黒)、回避の指輪+2

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