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第二百六十九話:これは私の戦い

『ったく……これはお前の戦いだ。だから俺は出張るつもりはなかったんだぜ?

だのにすぐ諦めやがって……お前はあの装備も、PrinceSのこともどうでもいいってのかよ』


「どうでもいいワケ、ないでしょう……! 彼女は、私の親友なのですよ……」


『なら、なんでさっき剣を握る手を緩めた』


「それは……」


 PrincesSに突きつけられた言葉が、真実だと思ってしまったから。

 私が、PrincesSには勝てないとどこか思い込んでしまったから。

 大切な人だとわかっていても、そうだったとしても、私は諦めてしまったのだ。


『……わかるぜ、七王としての力が引き剝がされたのが多少心意的に影響してるんだろうよ。

心意ってのは必ずしもいいことだけを齎してくれるわけじゃねえからな』


「そうかもしれません……けれど、もう二度と諦めたりなんてしません」


『なら、どうすんだよ!』


「今度こそPrincesSに勝つ、勝ってお互いの想いを話し合います」


『だったら、それでいいだろ。自分てめぇの想いを、貫いて来いよ』


 相変わらず、気に食わない声に物言い。

 それでも……誰かの心に火をつけられるのは、恐らく彼の才能なのだろう。

 朽ちかけていた私の心に、もう一度火を灯してくれた。


「ブツブツとくだらない独り言を……誰かの亡霊とでもお話していましたの?

でしたら……今度はソレを見下して優越感でも味わっていなさい! ニュークリア・ミサイル!」


「流星剣!」


 PrincesSが放って来た7本のミサイル……彼女の得意としてた核撃魔法を一息に斬り払う。

 そして、武装変化で片手剣を両手剣へと変えながら、私はもう一度剣を強く握る。

 もう二度と、二度と離すものかと。

 PrincesSの心だって、もう一度この剣のように掴んでみせる。


「PrincesS! 先ほどは失礼いたしました……私は、本気であなたに向き合えていませんでした」


「舐めていた、というワケですか……私を見下す、傲慢なあなたらしいですわね」


「……そうですね、私は傲慢です」


 私こそがPrincesSの隣に相応しい騎士だ、と思い上がっていた。

 彼女の言葉は、全てでないにしても……間違ってなどいないのだろう。

 でも、そうだったとしても、彼女には私のこの想いを伝えたい。

 例え私が彼女の隣にいることで優越感を味わっていたのだとしても。

 それでも、私が彼女に感じた輝きは、嘘じゃなかったのだから。


「それでも、私はあなたが大好きです! PrincesS!」


「愛玩犬同然の扱いでしょうがァァァ!」


 私が真っすぐに踏み込んで斬りかかると、PrincesSはそれに応えてくれた。

 大序段に構えた真っすぐな振り下ろしに縦斬りで合わせ、私たちは鍔迫り合いになる。


「ぐ、んぬぅぅぅ……!」


「諦めなさい……! あなた如きで! その程度の力で、今の私の力には勝てない!」


 彼女の重い一撃が、私をどんどん押し込んでくる。

 七王の装備でなければ、この剣もあっと言う間に挟み潰されて砕かれていただろう。

 それだけの重さが乗っかっている、この一撃。

 当然、普通にしているだけではこのまま競り負けてしまう、だから。


「くっ、うぅ……! それでも……! それでも、私は……! 私はァァァッ!」


「なっ──!? きゃっ……!」


 絶対に彼女を救ってみせる、大切な人の手を、大好きな人の手を、もう二度と離さない。

 そのために、彼女手を掴んでみせる。

 どれだけ闇に埋もれようと、暗闇の中にいようと、もう一度手を取る。

 私のそうした想いを乗せて……心意として、彼女を打ち払って見せた。


「な、なぁっ……ば、バカな……」


「……あなたも、この力はきっと知っているでしょう」


 競り負けて軽く吹っ飛んだ彼女は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてこちらを見ていた。

 ……絶対に負けるはずがないと信じ切って、正面から崩される感覚。

 私の良く知っている顔だ、だって私自身がそうした顔を何度かしたことがあるのだから。


「何度でも言います、私はあなたが好きだ、だからそこから救い出してあげます! PrincesS!」


「黙りなさい……! 黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェェェーッ!!!」


 体勢を崩して座り込んでいた彼女に向けて剣の切っ先を向けて、私はまた想いを告げる。

 大切なことが言わなくても伝わるだなんて、そんなものはきっと欺瞞だ。

 私の想いが伝わっていたのなら、PrincesShaきっとこうならなかっただろう。

 彼女を歪めてしまったのは全て私のせいであり、私の責任なのだ。


「黙りません……! 私は、あなたに想いをぶつけ続けます!」


「うるさい……! うるさいうるさいうるさいうるさい!!! 消えろ! 私の前から、消え失せろ!!!」


 PrincesSは剣を横に薙ぎ、大量の魔法陣を展開する。

 数えるのも苦労するほどの数……だけど、私が彼から借りたのはこんなものじゃない。

 どんな大量の魔法が来ようと、どんな力で来られたとしても、今の私は絶対に勝つ!


「【エレメント・バーストカラミティ】!」


「──セイント」


 このスキルは……私では使えない。

 私には、憎しみなんてないから……怒ることはあっても、憤怒の炎は燃やさない。

 そんな人間だから、私はこの炎の色を反転させる。

 ブレイブ・ワンの力だとしても、今は私の力だからこそ。

 私色に──染め上げる!


「【セイントフレイム・フェニックス・ドライブ・マルチ】!」


「──なにっ」


 PrincesSは、目を見開いていた。

 ブレイブ・ワンの情報にはなかったであろうスキル、先ほどのフェニックス・ドライブとは違う威力。

 白い炎の不死鳥たちが何匹も現れて、彼女の放った大量の魔法を次々に粉砕していく。

 相殺ではなく、一方的な破壊を……ずっと、繰り返して飛んでいく。


「そんなっ──きゃあっ!」


 私の心意が染め上げた純白の炎の不死鳥たちは、次々にPrincesSへと直撃していく。

 私の想いを込めた白い炎、私だからこそ使える白い炎。

 ブレイブ・ワンの力であっても、ブレイブ・ワン自身ではない炎。

 借り物の力でも、私のこの想いだけは、決して借り物でも偽物でもないのだから!


「PrincesS! その炎は、その想いは! 私が、私の抱くあなたへの想いです!」


「っ──! ぅぅうううっ! 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 私のことなんか、私のことなんかぁああああっ!」


 私は強く踏み込み、白い炎を纏わせた一撃を彼女に向けて振り下ろす。

 ……極悪鬼への申し訳ない気持ちや、罪悪感こそある。

 けれど、今は私の戦いだから……ブレイブ・ワンの力を背負っていても、これは私の戦い。

 私が、私自身の手でやらなくちゃいけないから……怨みはもういらない。


「PrincesS……あなたが信じられないなら、信じられるまで私は戦います」


「ッ、その姿は……!」


 私は極悪鬼の装備を全て白く染め上げ、マントの代わりに炎を羽織った。

 今だけ……私の手元にある間だけは、私の色であって欲しい。

 PrincesSに私の気持ちを、心意を伝える間だけでも、この状態であって欲しいから。


「そんな姿に……そんな姿になった程度で! 今の私に勝てると思わないでくださいまし!」


「勝ちます!」


 私の振り下ろした一撃に、彼女も強い一撃を合わせる。

 そのまま鍔迫り合いが始まる。


「ぐ、んぬぅぅぅ……!」


「はぁぁぁぁぁ……!」


 押し合いながら、今にも顔が振れそうな距離に近づく。

 あぁ、PrincesS……PrincesS! そんなに私を睨みつけるほどに、恨みを抱かせてしまった。

 大切な友達の抱えていた心の闇にも、気付けずにいた。

 そんな自分を恥じ、悔やむ……けれど、その気持ちを今ぶつけてくれる彼女へ、私は感謝する。

 一生気付かないまますれ違う……そう言ったこともなく、こうして気持ちをぶつけてくれている。

 今押されるこの剣も、彼女が私の装備を身に纏ってぶつける炎も、全て、彼女の想いだ。


「ハァァァッ……! ゥウウアアアアアアアアッ!」


「っ、く……!」


 彼女の剣を押し込む力がどんどん強くなってくる。

 心意の力を彼女もまた使っている……そして、その心意とステータスの格差が、私の剣を押し返してくる。

 けど……それでも、私だって……私だってただ押されるだけのままではいられない!


「PrincesS! あなたは、その力を得て何をしますか!」


「っ……! 知れたことを……! 私は! あなたを超え、あなたの存在を否定する! あなたなどいなくとも、私は強いと証明する! まずはこの世界で……!」


 彼女の圧力と熱量がどんどん増していく。

 妄執、まさにその言葉が合うように……聖騎士のように輝かしい彼女の姿がどんどん黒く染まる。

 炎は黒く染まり、私の心意を蝕むように焼け付いて来る。


「あなたがいなくとも……! 私は、強き者だと! 私の周囲に知らしめる……!」


「それは、それは……違うよ……!」


 黒く染まった彼女の思想を打ち破るように……彼女の勘違いを、正す。

 もう、終わらせなくてはならない。

 彼女にこんな無理なことを考えさせて、彼女を苦しめてはいけないから。

 だから……だから、私はこの言葉を紡ぐ。


「あなたは、最初から私なんていなくたって強いよ……! だって、だって……私があなたを守りたいと思ったのは……あなたが、強くて立派だったから!」


「っ……!」


 この言葉をかけた時、彼女の圧力と、炎の温度が下がっていくのを感じた。

 PrincesSの恨めしさを露わにした表情は、段々と驚きの物へと変わっていく。

 目を見開き、口を開け……『うそだ』と言わんばかりの顔に。

 けれど……私にとっての真実だから、続けなくてはならない。


「体の強さも、言葉の強さも……関係ない。私は幼馴染として、あなたの心の強さに惹かれたから。

だから、ずっと隣で支えたいって、守りたいって、思っていた……!

心が強いあなたを、体で守ることが出来たら……きっとその時、私は初めてあなたと対等になれると思ってた……!」


「ぁ、あああ……」


「お姫様と、騎士みたいに……! あなたの笑顔を、守れる子でありたかった! それが、私の愛です!」


「な、いと……!」


 気付けば、私の纏う白い炎は彼女を包み──黒い炎を打ち払っていた。

 そして、PrincesSに憑りついていたような怨みも、何もかもを、打ち払っていた。

 私の心意……私の想い、私の愛……その炎がやってくれた。


「ねぇ、PrincesS……もう一度、話し合ってみませんか?

ここでも、現実でも……今度は、対等になって……あなたのやりたいことも、叶えたい願いも、受け止めます。

だから……親友として、もう一度一緒に……私の手を取って、笑い合いませんか?」


「っ、ふっ……うっ……ぁ、あああっ……ご、ごめんなさい……! ごめんなさい、KnighT……!」


 心意の炎が消えた時、その時にはもう、私を恨めしく睨む彼女はいなかった。

 剣を取り落とし、ただ涙を流す一人の女性が、私を抱きしめていた。

 だから、私もそっと彼女を抱き返して、その場に座り込んだ。


「私たちはまだまだ若いんです……だから、一緒にやり直していきましょう。

現実世界で失敗したことも、ここで出来なかったことも……ゆっくり、ゆっくりとでも」


「っ……うん……うん……あなたと、また、一緒に……!」


 泣きじゃくりながらも、PrincesSは自らのアバターを光らせた。

 すると──


「わっ……!?」


「ごめんなさい、KnighT……あなたの力……あなたの心意……お返しします……」


 PrincesSの光が私に移り、私の光はどこかへと飛んでいった。

 そして──私は着慣れた感触、どこか実家のような安心感に包まれた。


「PrincesS……」


「……やっぱり、あなたの方が似合いますわね。その力は」


 PrincesSから、私の装備、私の力が返って来た。

 炎を使うためだけに存在するような、熱さを感じられる服と鎧。

 そして、私がずっと握って来た愛剣が、腰にある。


「おかえりなさい、PrincesS」


「……ただいま、KnighT」


 片付いた、これできっと一件落着だ。

 そう信じた私は、彼女をもう一度そっと抱きしめた。

プレイヤーネーム:KnighT

レベル:100

種族:人間


ステータス

STR:152(+350) AGI:120(+220) DEX:0(+80) VIT:40(+225) INT:0(+80) MND:35(+230)


使用武器:爆炎剣・ラヴァティン

使用防具:爆炎ブーストヘルム、爆炎ブーストアーマー、爆炎之衣、爆炎之外套、爆炎之祝福

固有スキル【ブーストタイム】【ミラーズ・チェンジ】


プレイヤーネーム:PrincesS

レベル:100

種族:人間


ステータス

STR:100(+200) AGI:100(+180) DEX:0(+70) VIT:24(+190) INT:100(+180) MND:23(+180)


使用武器:豪炎細剣・烈火

使用防具:豪炎之冠、豪炎之鎧、豪魔ドレス、豪炎の籠手、豪魔之帷、豪魔之靴、豪炎之祝福

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