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第二百六十二話:無力な七王

「うっし……ウチのメンバーはいつも通りだな」


「私たちらしい、前のめりな編成ですね」


 ──フロースを倒し、あの眠~い会議を終えて一週間。

 アリス・ブラックが新しく作り上げたボスモンスターとのレイドバトルをすべく、俺たちはパーティを整えていた。

 今回は”こっち”のアリスからの進言で大人数で行くこととなっている。

 そのために各ギルドからそれぞれメンバーを編成したワケで……集う勇者からは俺、Nさん、ハル、ランコ、ユリカ、イチカ、ユージンだ。

 アインに留守番の旨を伝えると凄い残念そうな顔をしていたが、今や時刻は夜9時……小学生には眠いだろう。


「で、アリス。このメンバーで問題ないと思うか?」


「……恐らく、問題はないと思う。今回クロが出してくるボスモンスターは、前回とは違って大人数での対処が必要になるから」


「よし……じゃ、行くぞお前ら!」


「応!」


 その後、俺たちは王の騎士団領土へと集まってからレイドパーティを編成。

 アリスはどうやら別枠で入れるらしいので、パーティに編成することはなく同行可能ってワケだ。


「都市解放戦の時と似たメンバーが多いですね」


「うむ、休日故に集まれたメンツだな」


 ハルが周囲を見渡して呟くと、Nさんが同調した。

 言われてみると、確かに見覚えのあるメンツばかりで、凄く前のめりを超えた前のめりと言うか……アリスの情報に基づいた選抜とは言えども、アタッカーだらけだ。

 まぁ、その分個々人で対処できる範囲が広いっていうのはそれはそれで良いもんだ。


「よし。点呼はオッケー……皆、準備と覚悟は良いか!」


「オオォーッ!」


 アーサーの一声に、皆が武器を掲げて応える。

 勿論そこには七王である俺たちも含まれ、今回も指揮をアーサーに一任することにした。

 なんだかんだでレイドボスと戦うことは都市解放戦以外にも今まであったが、その時どんなメンバーがいたとしても指揮は常にアーサーに一任していた。

 それは単純に皆が無責任だから、とかではなく……こういうギルド同士の垣根を超える時、誰の指示で戦うのが一番戦いやすいか、気持ちが良いか。

 そういうことを考えると、皆が自然とアーサーを選ぶのだ。

 勿論俺もその例に漏れず、アーサーの指示で思い切り戦える時が一番レイド戦を楽しめている気がする。

 VRゲームで鍛え上げたステータスとも感覚とも違うような、また別種の素質……人間としての何かが、アーサーには備わっているってことだろう。

 よく知らんけど。


「それじゃあ、行くよ!」


 アーサーがウィンドウを操作すると、レイドパーティのプレイヤーの面々のアバターが淡い光に包まれる。

 時間にしてほんの2~3秒か……目の前が光に包まれて、真っ白な視界が開けた時。

 俺たちはやや薄暗く感じる……と言っても、視界に不自由がない程度で、50人のプレイヤーたちがバラけても問題ないであろう程の広さの部屋に転移していた。


「まるで体育館だな……入り口と出口は見当たらねえけど」


「……おかしいな、事前に僕に送られてきたスクリーンショットに映っていた背景と違うぞ? ボス部屋”だけ”の場所、決戦場と言われていたし……座標は間違えなかった、さっきメニューを開いた時もマップの名前は同じだった……」


 俺が辺りを見回していると、アーサーが顔に冷や汗を浮かべ、ブツブツと一人で呟いていた。

 事前情報と違う、ゲーマー……というか、人間である以上それだけで隙という物は生まれる。

 だから、すぐに俺は前に出て盾を構えた。

 指揮官であるアーサーに思考の隙を与えることで、何かしらの奇襲があるのかもしれない。

 そのために俺はすぐにアーサーを守るように前に出たが……杞憂だったらしく、奇襲らしいものはない。

 他のプレイヤーたちも気配を察知するようなスキルを使って周囲の警戒を行うが……何の気配もない。


「……アーサー、一旦落ち着け」


「わかってるよカオス、既に落ち着いている……けど、落ち着いているはずなのに、何か危険を感じるんだ」


「同感です。胸の奥から、チリチリとした何かが──」


 アーサーを七王全員で囲んでいると、アーサーの不安が伝播したのか……それとも、アーサーがどう思っているかなど関係ないのか。

 俺にも何かゾッとした何か……何の気配も感じないことに、体が不安を訴えてしょうがない。

 いや、本来なら気配があって当然のはずなのだ。

 だって、ここには何がいる? そう、プレイヤーがいるはずなんだ、今も俺の右隣にはNさん、左隣にはカオスがいてアーサーを囲んで守っている陣形だ。

 で、その少し後ろにはレイドパーティのメンバーがいるのは振り向けばわかる、だのに視線を外せば途端にその存在を感じられなくなる。

 まるで、見て初めて認識出来るようになっているように。


「『ごきげんよう。セブンスブレイブ・オンラインのプレイヤー諸君』」


「ッ──!」


 ぞわり、と脳みそを直接撫でられたような……体の奥底からキュッと何かが握られたような感覚。

 脳裏に刻まれた、恐ろしい記憶の数々が嫌でも再生されていく。

 忘れたいように感じた痛み、忘れたいと思ったあの自分が消し飛ばされる感覚。

 限りなく”死”に近い記憶。


「アリス・ブラック!!!」


「『久しいわね。今日はのこのことやって来てくれてありがとう』」


「ッ……! ブレイブ、落ち着け」


「わかってます……! もう、アイツなんて怖くねえ! 今度は負けねえ!」


 心の奥底にある恐怖を、俺の情熱の炎で燃やす。

 恐怖という存在そのものを断ち切るように、消し炭にするように、俺の心の中で強くイメージする。

 炎を纏った剣が黒いモヤを切り刻むようにイメージして、心を落ち着かる。

 その上で、俺の戦うイメージを強く膨らませるんだ。


「来るなら来い! 今ならお前の攻撃だって全部落としてやる!」


「『くす、くす、くす。あの雑草に勝てたからって、私に勝てる? 本当に? 私に勝つ方法、それを理解して本当に言っているの?』」


「余裕こいてられるのも今のうちだ。ほら、さっさと来いよ。あの黒い剣を飛ばしてみろよ」


「『別に。あなたたちを始末するためなら、わざわざ空間リソースを使う必要もないのだけれど?』」


「何を──」


 ふざけたことを言ってやがる。

 そう思って、俺はすぐに踏み込もうとした。

 あの時のように、俺の心意を込めた一撃をアリス・ブラックへと突き刺そうとした。

 だが、そう考えて行動に移す前に、もう奴の手は動いていた。


「『──集まれ』」


「なっ──!?」


 アリスが右手をこちらに向けて翳し、纏っている衣服のように黒いオーラを放った時だった。

 俺たち──七王のアバターだけが淡く光って、その光がアリス・ブラックの右手へと集められていった。


「な、なんだこれは……!?」


「マズい……! 何かマズい! けど、どうにも──」


 驚愕している暇もなく、俺たちから放たれた光がアリス・ブラックの右手に集まっていく。

 止める術も、抗う術もなく……その光が全て集まった時には、俺たちは地に伏していた。


「ブレイブ……!」


 Nさんが俺をすぐに抱き起すが、妙な感触だった。

 鎧越しに触られているはずなのに、彼女の手の感覚がダイレクトに感じられた。

 いや、鎧越し? 鎧……じゃない、鎧なんか俺は身に着けていなかった。

 右手に持っているはずの剣も、腰に帯びているはずの鞘も、左手にあるはずの盾も、全身に纏っている衣服、鎧共になかった。

 ただあったのは、アバターにデフォルトで身に着けられているインナーだけだった。


「『はい、おしまい』」


「──!」


 アリス・ブラックはそれぞれ七色の光を持つオーブのようなものを右手の周囲で浮遊させていた。

 それぞれの色のオーブに見覚えがあった俺は、何故か消失している装備と合わせて嫌な予感がした。

 だから、すぐにメニューを開いてステータスを確認した。


「なっ──! な、ぁ、あああああああ……!? はああああああ!? どうなってやがる!」


 バカらしい叫び声だった、他のプレイヤーたちは何が起こったかわかっていないようだったし、Nさんも固唾を飲むばかり。

 他の七王に至っては気絶したような状態のままだった、だから俺だけがパンイチで叫んだ状態になる。

 だけど、そう叫ばずにはいられなかったのだ。

 だって……だって──!


プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:1

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:0 AGI:0 DEX:0 VIT:0 INT:0 MND:0


使用武器:なし

試用防具:なし


 俺のステータスも、装備も、何もかもが失われていたから。

 なんなら、キャラクター作成時に振り分けたステータスポイントすら持っていかれた。

 何が起こったかは、混乱しながらでもわかる。

 俺の装備もステータスも、アリス・ブラックの右手に浮かぶオーブに集められて……奪われたんだ。

 最初から俺たちの力なんて、アイツの前じゃ手のひらの上にあるのと変わらないってのかよ……!


「『で、なんだったかしら? 今度は負けない……? 今の状況で、どうやって?』」


「ッ──!」


 ぐうの音も出ない。

 籠の中にいる鳥がどうやって人間に勝つって話だ。

 籠の中で管理される側でしかない俺たちが、どうやってこの状況から勝てって言うんだ!


「くっ……! 総員退け! 七王を抱えてこの場から脱出しろ!」


「……! 私が脱出口を開く!」


「『フフ。そう、逃げるの……好きにしなさい、そして指をくわえて見てなさい……世界が変わる瞬間を』」


 Nさんがそう叫び、ウチの方のアリスがダンジョンの出入り口を開く中、アリス・ブラックは不敵に笑っていた。

 さっきまでいなかったはずの、七人の人影を自身の背後に呼び出しながら。

 Nさんや他の幹部に抱えられて撤退する俺たちはただ絶望感に身を包まれながら、笑って去っていくアリス・ブラックを見ることしか出来なかった。

 何も、出来なかった。

ここから最終章に入ります。

ゆっくりとはなりますが、どうか完結までお楽しみください。

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