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第二百五十七話:放たれし魔法

『さ、ぁ……もっと。もっと……あなたたちの、魂……食べさせて、ぇっ』


 フロースが両手を合わせて掌印のようなものを作り出す。

 すると、フロースの足元に巨大な魔方陣が現れ始め、更には自立歩行している植物のようなものが出て来た。

 見た目はそんなに気色悪くはないが、ウツボカズラに人の口がついたようで……まぁ、うん、絶対評価で言えば気持ち悪いが、フロースの方が気持ち悪いのでまだマシだ。

 で……魔方陣の方はアリスが言っていた、最初に繰り出してくるチャージ行動って奴か!


「カエデくんは防御スキルの詠唱をイアソーンはバフスキルを唱えてくれ! N・ウィークたちは露払い! 僕らはその間に遠距離攻撃でフロースの方を攻撃だ!」


「了解!」 


 最初の打ち合わせ通りの作戦を、アーサーが素早く命令し、俺たちはその場でスキルを唱え始める。

 Nさんたちはその場で散開して各々で取り巻きのウツボカズラもどきへの攻撃を始める。

 さっきは心意を込めた攻撃すら握り潰されたが……今度はそうはいかない。

 さっき繰り出したフェニックス・ドライブ以上の火力、重さを込めて……剣の刀身に炎を纏わせて、それを黒く染める。

 俺の装備、極悪鬼シリーズに刻まれたような深い闇。

 それを示すような、黒く、黒く、深い炎。

 極悪鬼の闇に同調して、その上で俺の燃え上がる様な心意を混ぜて……刀身に込めて、改めて不死鳥の形を作る!


「【ラース・フェニックス・ドライブ】!」


「【剥奪ハクダツ 無想ムソウ 万死之赫バンシノアカ】マキシマム・ハイパーフレイム」


「【禍離禍離カリカリ 魔躱躱火マタタビ 寐虚寐虚大好斬ネコネコダイスキ炎天フレイム聖十字剣戟グランドクロス!」


 俺、カオス、KnighTの3人が真っ先に心意を込めたスキルを放った。

 ──心意には二種類の使い方があり、今の俺たちはその二種類の使い方でスキルを放った。

 一つは俺のように無言で、やりたいことを感情と一緒に乗せて実現するタイプ。

 無言なだけにタメがいるが、自由な気持ちを込められる強みがある。

 もう一方は詠唱、あらかじめ決めた言葉を用意することで、俺のようにタメを作らずに放つことのできるタイプ。

 ルーティーンのように同じ心意を込めやすくなる手段ではあるが、込められる心意、出せる効果は一つに絞らなければならない。

 何よりも、詠唱文がちょっと笑いそうになる奴もいるから俺の好みじゃなかった。


「……すっげーヘンテコな詠唱だな」


「そうですね。スキル名自体が漢字なしのカナオンリーなので、ミスマッチのように感じます」


「お前に言ってるんだけど!?」


 一番ヘンテコな詠唱をしながらスキルを強化して放ったのはKnighTだ。

 猫に対する想いを込めて作った文章なんだろうが、カオスのやってる漫画とかアニメにありそうなカッコいい詠唱とは正反対だ。

 というか、KnighTの真面目な顔と声でそんな猫に対する想いを綴った言葉を出されたらマジで笑いそうになる、何なんだお前。


「私の信心深さを込めた詠唱になんのご不満が?」


「えぇ……」


 ホントに真面目なだけに、もうツッコミようがない。

 というか、戦闘中にこんなやり取りをしている場合でもなかった。

 追加でアーサーのエクスカリバーと、モルガンのドラゴカリバーが心意でブーストされ、フロースへ命中していく。

 ……が、まぁ、予想通りというかなんというか。


「流石に、奴の詠唱を止めることは無理ですか……これは、骨が折れる戦いになりそうです」


「自然回復の速度もかなりだね……心意を込めた攻撃ですら、普通のレイドボス並みの速度で再生されてる。心意抜きじゃ、恐らく有効ダメージにはならないと見た」


 HPバーが現れていないだけに詳細はわからない。

 けれど、七王の五人が全力で繰り出したスキルをまともに食らっておいてフロースは表情すら変えていない。

 まともなダメージにならない上に、スキルのチャージ一つ止めることが敵わないと来た。

 そうなると、奴の攻撃を耐えながらの反撃になって来る……結構面倒な戦いになって来るな。


「っ、来る……! もう、あの花のチャージが終わってるっぽいです!」


「マジか!」


 敵の硬さに悩んでいたところで、盾を構えていたカエデが冷や汗を流すのと同時に叫んだ。

 そこからは皆早かった、カエデの一番近くに立っていた俺も、一番遠くまで走っていたNさんも、素早くカエデの後ろへと隠れた。

 いや、正確にはカエデが展開する壁の後ろに飛び込んで隠れたのだ。

 当然皆がカエデの展開する壁の後ろに隠れれば、Nさんたちが蹴散らしていた取り巻き共も俺たちに近づいて来る。

 だが、それはさしたる問題じゃあない。

 フロースが放とうとしてくる攻撃から身を守れるよう、カエデは真正面にエターナル・ウォール、そして自分を中心とした範囲に流星盾を展開した。

 正面にフロースの攻撃を防ぐための巨大な壁、全体には取り巻きや他の方向から飛んでくるかもしれない攻撃を止めるための、ドーム状の盾。

 計算され尽くされた……というのかはわからないが、敵の攻撃を防ぐ上でとても理に叶った守り方だ。


「……カエデくん、もっとスキルは出せるかい? 念のためだ、初撃な以上防御は過剰なくらいがいい」


「わかりました……じゃあ、はいっ!」


 フロースはチャージを終えているらしい、だがまだ奴の攻撃が飛んでくるわけではない。

 故にカエデは大急ぎで、盾のオブジェクトを出現させるようなスキルをいくつも使い始めた。

 その場に出て来るシールドはいくつもいくつも増え、普通に戦う上では見られないほどの盾の数となった。


「流石に、この数は過剰を通り越してないか?」


「念のためさ。それに、カエデくんクラスともなればスキルのクールタイムやリチャージはすぐだろう?」


「はい。この数ならエターナル・ウォールのクールタイムも間に合います!」


 アーサーとカエデのお互いを信頼しているようなやり取りに、俺と同じような疑問を投げかけたカオスも口を閉ざした。

 まぁ、つまりアレだな、全く問題ないってことだ。


「気を抜かないでください、もう本当に来ますよ」


「ですね……!」


 モルガンの一声で、ドームの中で顔を合わせていたアーサーとカエデはフロースの方に向き直る。

 当然、俺も万が一のことを考えて盾を構えておく。

 万が一、億が一でもカエデの防御が突破されてしまえば、俺が守るほかない。

 責任重大な役割を背負っているのはカエデ一人じゃない……その事実に緊張を覚えながらも、俺は固唾を飲む。


『ケヒッ』


「──!!!」


 この上ない不快感を覚えるような、気色の悪い笑い声。

 殺意すら湧いて来るようなそれは物理的な距離など関係なく、俺たちの脳に響くように聞こえて来る。

 例え聴覚をシャットアウトしたとしても、聞こえて来るような異質さ。


『きゃはははははははは!!!』


「ああっ……嫌になる感覚だな……! 女のあぁいう笑い声は苦手なんだよ、俺……!」


「誰だって苦手だと思うよ……! 僕もそうだし……!」


 カオスとアーサーが脂汗を浮かべながらそう言っていたところで。

 カエデが展開した壁の向こう側──つまり、フロースの方から、とてつもなく大きな力の波動のようなものが感じられた。

 全てを飲み込む、だとかそこまで大袈裟なものではないだろう。

 だが、確実に『くらえばヤバい』と思わせるような、大きな、とてつもない力。

 壁越しでも感じられるうっすらとした光、圧し潰されてしまいそうな強大さ。


『【メギドノヴァ】』


 死。

 この仮想世界で何度も味わい、最早このゲームにおいては身近な物だった。

 いつしかアバターが砕け散ることに慣れてしまっていて、恐れなどなかった。

 なのに、なのに、それなのに、だ。

 現実世界でも何度か味わったことのある、タマがヒュンとなって、体の奥底からキューッと冷えあがり、震えが止まらないような、恐ろしさが。

 フロースから放たれた、紫色の爆撃には秘められていた。

 あらゆる耐性と干渉しない、万能属性と言われている魔法、無属性とは別ベクトルの魔法だ。

 カオスの使うメギドバーストが鼻で笑えるような火力のソレは、カエデの展開したシールドを瞬く間に砕け散らせた。

 エターナル・ウォール以外のシールドが砕け散り、エターナル・ウォールへの大きなダメージを残して、この爆撃は収まった。


「なん、だ……今の火力……!?」


「カオス……君の最大火力の魔法で、アレは出せるかい?」


「冗談言うなバカ、心意込みでもこれだけの範囲と火力は無理だ」


 フロースがチャージ行動をしたとは言えど、戯れに、笑いながら放った魔法。

 だのに、その威力と範囲は絶大なんてものじゃあなかった。

 七王──いや、この仮想世界最硬と言っても過言ではないカエデのスキルがあっという間に突破されたのだ。

 エターナル・ウォールだけはかろうじてまだ残っているが、もう次はないだろう。

 そんな威力なのにも関わらず、このボス戦のためのフィールドの半分以上に魔法の効果は及んでいた。

 当然、フロースの近くにも遠くにもいた取り巻きはこの魔法の余波を受けて消し飛んでいる。

 だから、カエデの展開した流星盾が消えていても俺たちは取り巻きの攻撃を受けていないのだが。


「……火力がシャレにならない。こんなものを連発されては、全滅しますよ」


「だったら先に仕留めるまでです! 幸い魔法にはチャージがいるのです、ならばこちらが尽きるより先に、奴を斬るまで!」


 モルガンとKnighTの分析は正しい、当然その行動も正しかった。

 二人は壁から身を出して、心意を込めたスキルを詠唱し構えた。


「イアソーン! バフを!」


「わかっているとも! 海神闘衣!」


 イアソーンのバフを受け、心意を込めたKnighTとモルガンの攻撃がフロース目掛けて飛んでいく。

 当然、俺やアーサーたちもそれに便乗してスキルを放つ──が、やはり遠距離な以上与えたダメージを回復量が上回ってしまう。

 ……コイツを倒すには、フェニックス系統のスキルに込める心意じゃあ足りない。

 エクストリーム・ペネトレートに、恨熱斬と心意を乗せてやらなきゃ、致命傷にならないだろう。


『ウフッ、ウフフフフフ……!』


「また魔法が来る! 皆隠れてください!」


「っ! クソッ……」


 心意を込めたスキルを一撃放ったところで、フロースはまた笑って魔方陣を展開して光らせる。

 カエデはそう言う、だが俺たちは『連続して攻撃を放ち続ければ魔法の詠唱を止められるのではないか──』という考えが過る。


「カエデくん、魔法が放たれる時まで攻撃を続けるのは──」


「ダメです! 今度のは、凄く早いんです! 急いで!」


 攻撃が来る予感というものを、カエデは感じ取れるのか。

 タンクをやって来た勘のようなものが彼女にあるのか。

 切羽詰まった様子でカエデが叫べば、攻撃をするつもりだった俺やモルガンにKnighTたちも、逆らいはしなかった。

 傷つきながらもまだ立っているエターナル・ウォールの後ろに身を寄せ、ゆっくりと近づいて来る取り巻きたちを普通のスキルで蹴散らす。

 そして、カエデが再度放たれる魔法に合わせてスキルを展開し、フロースの放ってくる魔法を待つ。


『ひゃぁ、あはぁっはっはっはっはぁっ!』


 待ってすぐ、フロースは苛立ちを誘うような金切り声にも等しい笑い声をあげて、腕を天に掲げる。

 そして、またさっきの魔法──


『【デストラクション・レイ】』


 以上の威力の物を、降り注がせた。

 同じく紫色に輝く魔法、それはレーザービームが雨あられのように降り注ぐものだった。

 ……終わった、俺たちは死ぬ。

 直感的にさっきの魔法をも超える威力、そう理解できるほどの魔法だった。

 カエデのシールドは砕かれ、さっきの魔法で傷ついていたエターナル・ウォールも砕ける。


「うおおおおおおっ! っ、ダメか……!」


「っ──! カバーッ!!!」


 カオスが咄嗟に氷のドームや炎のバリアを形成するが、一秒も持たずに消し飛ばされる。

 すると、すぐさまカエデが盾を構え、俺たちに向けて放たれる魔法を受けたのだ。

 七王最大級の耐久力が、俺たち全体に向けて放たれる火力が、全てカエデに集中している。


「が、ああああ……! ぐん、ぬ、ぬぬぬ……! ブレイブ、さん……! みん、な、を──っ! ぅ、あああっ!」


「カエデェェェッ!!!」


 俺と、リンはほぼ同時に叫んだ。

 SBO最強の防御力を誇るカエデが、フロースの放った魔法によって吹き飛ばされた。

 あの重い盾や鎧をまとった彼女が、玩具のように吹き飛んで、パーティの後方まで転がっていったのだ。

 今も尚、死の雨は降り注いでいる。

 なら、なら──誰がそれを受け止めるか。


「っ──! うううあああああああああっ!」


 当然、盾を持っている俺だけだ。

 俺はスキル名も叫ばず、ただひたすらに『皆を守らなければ』という、強迫観念にも似た使命感と、心意を込めた盾を掲げる。

 イメージするスキルは流星盾、流星盾のようなドーム状のシールドを作り出し、カエデが捌き切れなかった攻撃を一身に引き受ける。


「ぐ、あああっ……! っ、んっ、ぬうううあああああああっ!!!」


 涙が滲み出るほどの痛みが、全身を支配していた。

 痛がりのカエデが、必死に耐えていた、凄まじい痛み。

 なら、俺が折れてしまうわけにはいかなかった。

 アバターが砕け散ろうが、心だけは負けてはいけないと感じたから。

 俺が意識を手放すその時まで、心を強く持って、盾を前に突き出す。


「やらせる……もん、かぁぁぁ──っ!!!」


 俺がそう叫び、フロースの放った魔法が止んだその時。

 取り巻きの植物たちがチリとなり、心意を使わない限り壊れないフィールドには焼け焦げた痕と、傷を負った12名のプレイヤーの立つ姿だけが、そこにあった。

 この魔法を受け止めていたカエデと俺は、意識を閉ざしたまま、その場に倒れ伏していたのだ。

 ログアウトもしないまま、ただ白目を剥いて、ぶっ倒れている俺と、カエデだけが。

更新が遅れてしまい、大変申し訳ございません。

作者多忙につき、これからも更新頻度が下がってしまう可能性が高いです。

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