表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
253/270

第二百五十三話:コツ

 ──王の騎士団領土、領主城・会議室。

 ダンジョンの奥地でパーティの端から端までまとめて消し飛ばされた俺たち七王はそこに集っていた。

 レイドボス戦に参加してくれたギルドメンバーたちは解散させて自由にした。

 だが、俺たちはまだ明らかにしなければならないことがある、それ故に七王とNさん、そしてアリス、と9名のプレイヤーが会議室へ集っていた。


「……まず、これは確認だ。アリスくん、君はあのダンジョンに現れた黒い少女……アリス・ブラックという者と既に知り合いなんだね」


「そう、私たちはお互いをクロ、シロと呼び合う……同じアリス」


「わかった……ではその上で聞こう、君は……いや、君たちは何者なんだ? 過去の報告で、君はブレイブくんたちが封殺されたレイドボスを一撃で消滅させたと言うし、そもそも七王の装備を見たこともない製法で生み出していたし、ついさっきだってブレイブくんに今までとは違う力のようなものを目覚めさせていた……あんなスキルは見たことがなかった! それに! アリス・ブラックの使うスキルもプレイヤーからは考えられない出力、そして威力だった、あんな数を重視しただけの攻撃で、カエデくんやブレイブくんの防御が容易く破られるのはあり得ない光景だった!」


 アーサーはいつもの冷静さを失って、まくし立てるようにアリスへ質問を投げかけていた。

 とは言っても、アリスに対して聞いているのはただ一つ……アリスが何者であるか、ということだけだ。

 それはまぁ、皆気になっていることなのだから聞きたいのは当然だ。

 俺たちが当然のように身に纏っている装備だって、アリスが作り出したものとは言えど、どうして作れたかとか、何がどうなってる、って聞きたくなる気持ちはもう誰にも抑えられない。

 そう思ってアリスを見ていると、アリスは数瞬の沈黙を挟んでから口を開いた。


「私は……人間であって、人間じゃない存在……新たな知性の下に生まれて、世界を変える存在」


「世界を変える……なぁ、アリス。一体何なんだ? 世界を変えるとか、維持するとか……アリス・ブラックも言ってたソレ」


「……私たちは、世界を大きく変える新人類のサンプル。アリス・ブラックは、このゲーム……基、このゲームを作っている会社、そこを起点として世界に変革をもたらそうとしている」


「世界に変革……と、言うと? 具体的に何をするつもりなのですか」


「全ての人間が肉体を捨て去って、新たなる管理社会が生み出される……こと」


 俺とKnighTの問いかけに対して出て来た答え……それはあまりにも荒唐無稽で、SF映画のような事だった。

 今や80億といる人類の肉体を捨てるとか、新しい管理社会とか……いったいどういうことなんだ。


「肉体を捨てるって、どういうことなんだよ」


「人工のボディを製造して、ソレに今の人間の脳をコピーしたデータをインストールする……そして、コピー元の肉体は破棄される」


「……人間の電脳化、なんてよく未来のSF小説として語られているエンドではあるけれど、まさか本当にやるとは」


「わかりませんね……仮にそれが実現したとしても、何の意味があるのです?」


 アーサーは呆れるように天を仰ぎ、モルガンは怪訝な顔をして質問を続ける。


「その人工のボディなら、全ての人間が平等化される……そして、コピーに際して与えられる肉体には刻印が刻まれる」


「刻印? 刻印ってなんだよ」


「……簡単に言えば、上位命令に対して逆らえなくなるプログラム……簡単に言えば、N・ウィークが刻印を刻まれた場合、彼女はブレイブ・ワンの命令に完全服従するように強制される」


 この説明だけで、アリス・ブラックの作ろうとしている管理社会というものが何なのか俺たちには察せられた。

 ……簡単に言えば独裁政治、ただ一人の頂点にいる人間の命令で全ての人間が平等な生を与えられる。

 だが、その平等なる独裁社会は人間の発展の可能性とか、この先の世界の未来とかそういうものを全て閉ざすものだ。

 だってそれは、身も心も全部ただ一人の人間の操り人形にされるも同然だろう。


「つまり……アリス・ブラックの目的は世界征服、のようなものということでいいのかな」


「……私は、そう思っている。だから、起点になるこのゲームの最強のプレイヤーたちの手で、止めて貰おうと考えていた」


「そう、か……」


 アーサーはため息を吐くと、手で目を覆って天を仰いだ。

 ……無理もないな、俺だってそういう反応をするし、したくもなる。

 けれど、そうもしていられない。


「お前や黒い方が何なのかは大体わかったよ……それで、ブレイブが使ってたあの力は何なんだ? いつものゴブリンズ・ペネトレートや恨熱斬じゃなかったろ、アレ」


「……あれは、心意」


「心意、ね」


 アリスの目的がはっきりしたところで、今度はカオスの質問が始まった。

 俺に対しての質問じゃないのは、使ってる俺もあんまりよくわかってないってのを察してくれてるからなのか。

 ……ホントにわかってないからな、俺。

 

「その心意とやらは、あのアリス・ブラックとやらを倒すことが出来る力なのか?」


「そう、この力を使えなかったら同じ土俵に立つことも出来ない」


「ふむ……となれば、今はブレイブ・ワン以外は足手まといも同然か」


 イアソーンが続けて質問し、アリスの答えを聞いてから悩ましい表情をしていた。

 この心意の力って奴がアリスを倒すに足るとしても、俺の全てを込めた一撃はいとも容易く防がれていた。

 俺ですらそれなのに、それ以外は土俵にすら立てていない……と言うのは、今の七王にとって非常に悩ましい問題だろう。

 だが、それがわかったところでまだ話は前に進んでいない。


「なら、その心意って奴を俺たちにも使えるようにしてくれ。ブレイブだけが戦力ってんじゃ、話にもならないだろ」


「そうだね、カオスの言う通りだ。あの場にいた僕らはただ見ているだけしか出来なかった……だから、次戦う時のためにも僕らだって心意を会得するのが必要だ」


「……大丈夫、七王の皆はもう心意を使えるようにアンロックしてある」


 カオスとアーサーが言ったところで、アリスは指で丸を作って微笑んだ。

 するってぇと、俺たちは発動条件を知らないってだけで、使う方法さえわかれば今にも出来るのか。


「もう使える条件は満たしているのですね……その使い方がわからないだけに、悩んでいるのですが」


「ブレイブ・ワン、あなた何かコツのようなものは掴まなかったのですか」


 KnighTとモルガン、ついでに無言ながらもNさんがこっちに顔を向けて来る。

 ……アリスじゃなくて俺に解説頼むの?


「いや、んなこと言ったって……俺も無我夢中だったからよくわかんないし、伝わるかわかんないぞ?」


「……取り敢えず言ってみろ。些細な言葉がヒントになるやもしれんからな」


「はぁ……」


 Nさんの言葉を受けて、俺は腰から剣を抜いてみる。

 ……取り敢えず、まずは俺自身がもう一度使えるかどうかをハッキリさせてからだ。

 その上で、俺自身も心意の感覚って奴を取り戻してみせる……!


「カエデ」


「は、はい!」


「俺の攻撃、受け止めて見てくれるか?」


「わ、わかりました……」


 ……アリス・ブラックの攻撃を受けたトラウマなのか、カエデはおっかなびっくりと言った様子で俺の前に歩いて来る。

 正直心苦しいようなところはあるけれども、今この場で俺の普通の攻撃をまともに防げるのなんてカエデくらいしかいないからな。

 大事なのは本来破れない物を破る、そういう結果を見せたりすることなんだから。


「じゃあ、まずは……」


 俺は腰を落とし、剣にライトエフェクトを纏わせる。

 スキルの詠唱を見せて、カエデに盾を構えさせて、カエデもカエデでスキルを唱える。


「流星盾!」


「ゴブリンズ・ペネトレート!」


 カエデが展開した星が集まってできたドーム状のバリアに向け、俺の必殺の刺突撃が打ち込まれる。

 しかしそれが貫けることはなく、バチィン! とデカい音や火花が散るのみで俺の攻撃は弾かれてしまった。

 ……一応、本気でぶち抜くつもりで放ったのが、これだ。


「……まず、これがデフォルトだな」


「うむ、いつものように見たスキルだな」


「そう、ですね。受けた私も、特に変化とか感じられませんでした」


 Nさんとカエデからのコメントを貰いつつ、俺はあの時アリス・ブラックのバリアを貫いた時のイメージをする。

 カエデが新しいスキルを詠唱しているところで、俺は目を閉じ、体の力を抜く。

 アリス・ブラックを貫いた時……俺のイメージにあったのは、今まで剣を握って、振って来たことで得た剣という武器そのものへの想い。

 小さなころから剣道を始めて、千冬さんを見て、憧れて……あんな風になりたい、あの人に勝ちたい……そう願って、剣を握る度にはそう想った。

 この剣を持つ……すなわちVRMMOゲームを遊ぶのが俺の日常になったのも、常にこの剣を持って、千冬さん……Nさんを超えたいと思ったから。

 その憧れや、勝利への渇望……それらを強くイメージして、炎のように剣の刀身に纏わせる。

 けれど、それは恨熱斬のような黒い炎とは違う、真っすぐに自然を感じさせる輝きがある赤い炎をイメージする。


「剣が、燃え始めた……!」


 アーサーの言葉で、俺のイメージが実態を持って影響を現し始めたことに俺も気付いた。

 ……このフェニックス・ブレードなどを彷彿とさせるように刀身が燃えた剣を、俺は真っすぐに構える。

 そして、カエデのスキルに合わせて──!


「エターナル・ウォール!」


「ゴブリンズ・ペネトレート! ハァァァッ!」


 先ほど同様に、ガツゥーンッ! と巨大なサウンドエフェクトと火花が散る。

 だが、同じなのはそこまでで、そこから先は違ったのだ。


「ぐ、んぬっ、ぁぁぁっ……! おおおおおああああああああ──ッ!!!」


「えっ──きゃぁっ!」


 思い切り気合を込めて剣を押し込むと、カエデが展開した壁は砕け散り、カエデは盾ごと壁へと吹っ飛ばされて叩きつけられた。

 俺は剣を突き出し終わった姿勢で止まり……ドッと来た疲れと、剣の刀身から炎が消えているのを確認して、剣を鞘へと納めた。


「……これが、心意と通常の奴の違いだな」


「随分なタメがあったな。で、説明できそうか?」


「あぁ。なんとなく、だけどな」


 カオスの問いに答えつつ、俺はテーブルに置いてある茶を飲んでほんの一息つきつつ……心意のコツを話すことにした。

 アリスから合ってるかどうかと言われるかわからないが……俺の掴んだ心意ってものに対する答えは、こうだ。


「まず、心意ってのは読んで字のごとくイメージ力……その用途は、本来あり得ないことを想像して実現させる力だ」


「あり得ないこと……と言うと、今君がカエデくんのスキルを正面から破るとか」


「そうだな、そういうことを実現するって結果を出すために、自分のイメージ力を燃料にして、自分の行動に乗せる。俺の場合は、剣って武器そのものに対して掲げた想い、とかそういうんだな」


 我ながらポエムみたいな説明だ……とは思いながらも、どうにか身振り手振り込みで説明する。

 もっと簡単に言えば、5の力で10を破るために、ゲーム内のシステムにあるものじゃなくて、自分の気合とかイメージで6を用意する……みたいな感じだ。

 と、俺は認識したけれど……アリスは、これで合ってると言ってくれるのか。

 ……気になったので、恐る恐るアリスの方を向いてみる。


「……合ってる、マル」


 アリスは頭上に両手で輪っかを作り、微笑んだ。

 どうやら、俺の会得したコツは間違っていなかったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ