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第二十五話:決闘

「さて、と……二日も待たせたことは素直に謝るけどよ。まさか、二対一とは思わなかったぜ」


「私たち一人一人じゃあ貴方に勝てなくても!」


「二人なら勝てます!」


 ……現在、俺は街の直ぐ外の草原で、二人の少女と対面している。

一人は黒い鎧に身を包み、大盾と短剣を持った黒い髪の少女だ。

もう一人は青いコートやスカーフなどと軽装に身を包み、短剣の二刀流の少女。

黒い方はカエデ、青い方はリンと言う名前の二人組。

まぁ、要はこの間約束したバトルだ。

メニュー画面の項目にある一つの機能、決闘デュエル

相手プレイヤーを指し示し、相手からの承諾があれば決闘は成立する。

どちらかが降参するか、HPバーを全損させるか……基本はその二択だけで決まる。

因みにパーティを組んでの決闘なども出来るため、二対一も可能だ。


「イベントに備えてレベル上げも兼ねた特訓で強くなった私たちのコンビネーション!」


「とくと味合わせてあげますよ!」


 カエデが台詞を言ったところにリンが続く流れ……なんの変身ヒロインだよ。

二人はプリティーガール!とでも言いたそうなまでのポーズだぞ。

どこまでサブカルチャーなものを真似したいんだよ、コイツら。

……けれど、どんな思いで挑んで来たからには全力で応えて、全力でボコるか。

強化されたゴブリンキングシリーズと、新しく習得したスキル。

この三日間で俺のレベルは40まで上がり、今までよりも俺は結構強くなった……はずだ。

何せ、先輩が狩りのためにわざわざ経験値ブーストアイテムまで使ってくれたんだ。

万全を期したこの姿勢で、負けるわけにはいかない。


「フフ、人数の差か……面白いな」


「先輩としては、五対一以上も想定していたようですし……問題はなさそうですね」


「まぁ、ぶっちゃけ拍子抜けって感じでしょうね。

兄さんとはリアルでも対策考えてあれこれ話し合いましたし」


「二対一……イベント戦の参考になるからしっかり見ておかないと……じーっ」


「俺だって模擬戦付き合わされたッスからねー……対策が万全過ぎて、ぶっちゃけ消化試合なんじゃないんスか?」


 ……外野がちょっぴりうるせえ。

こっちはたったの二人で来るなんて、思いもしなかったわ。

五人くらいの総力でボコりに来ると思ってたのに、こんなのひでえよ。

俺の努力は何だったんだ……とは言ってられないな、付き合ってくれたユージンに悪いし。

つか、なんでヤマダだけ今日は見に来なかったんだよ、もう!


「じゃあよ、お互い修行の成果を! 存分に見せ合おうじゃねえか!」


「「はい!!」」


 俺たちの戦いの火蓋が斬って落とされた。


「ディフェンス・コネクト!」


「ありがとうカエデ!」


 俺とリンが真っ先に飛び出し、剣をぶつけ合う。

おぉ、カエデの奴め……意外と抜け目ねえな。

会話だけでスキルの詠唱時間を予め稼いでおくとは策士だ。

それに、ディフェンス・コネクトと言うスキルは防御力の合算。

硬い奴が使えば、回避盾が回避しなくて良くなると言うことになる。


「せあああっ!」


「でりゃあああっ!」


 短剣の二刀流の猛攻と、俺の剣と盾がぶつかり合う。

ギャリン、ギャリン、ガチン、ガキィンッ、と……金属音のようなサウンドエフェクトを響かせる。

時折俺の体に剣がヒットしたりするのだが……ダメージが全く入っていない。

まぁ、それは向こうも同じなわけだが。


「セカンド・スラッシュ!」


 俺とリンのスキルが十字にぶつかり合う。

だが、STR値は俺の方が高いだろう。武器的な意味でも!


「せぇぇぁああああッ!」


「きゃっ!」


リンは俺に押し負けると、軽やかなステップで数歩下がって短剣を構え直す。

随分と肩で息をしているが……そんなに疲れるような攻防か?


「ふぅ……ここまで攻撃を当てたのに、HPバーが全然削れないなんて……! 見かけによらず、随分と硬いみたいですね!」


「ハッ!お前の攻撃力が低いんだ――よッ!」


 再度俺は踏み込み、リンに斬りかかるが――


「カバー!」


 カエデが瞬間移動したかのようにリンの前に現れ、盾を構える。

ディフェンス・コネクトがあるのに、何故前に出て来た。

それは俺がスキルを使うと踏んだからなのか、それとも別の理由か。

後者ならば……カウンター!


「チッ! 斬撃波!」


 俺はすんでの所で踏みとどまり、一歩下がってから斬撃波を放つ。

斬撃波はカエデの盾の前には無力にも弾かれ、奴には全くダメージが入らない。

うぅむ、確かにこの連携は厄介だな。

回避盾のリンに、カウンターでダメージを止めにかかってくるカエデ。

つか、十分戦えるような構成の癖して人を欲しがるとか正気か。

少なくとも、モンスター相手なら負けることはねえだろ。


「行くよ、カエデ!」


「うん! ヒドラ・ストライク!」


 カエデは腰に下げている短剣を抜き放ち、短剣の先から首が三本の竜を召喚した――

と思うと、それは真っすぐ俺に伸びて来て、噛みつきにかかった!


「チッ! サード・シールド!」


「かかった! チェンジ・エレメント! ポイズン!」


「かかってくれたのはそっちの方だ!」


 リンのスキルでヒドラとやらは属性が毒に変わって、俺に毒を浴びせて来るが――

俺の装飾品装備、回避の指輪+2は状態異常を完全に無効化する。

言わば毒なんぞ俺にとっては、わざわざ隙を晒してくれる行為に等しい。

……コレくれたハルには感謝しねえとな。

俺はリンに向かって走り出し、スキルを詠唱して放ちにかかる。


「くらえっ!サード・スラッシュッ!」


「カバー!」


「言っただけだ!」


 俺はサード・スラッシュを放つ振りをして、釣られて前に出て来たカエデを前にニヤリと笑う。


「【ディフェンス・ブレイク】!」


「うわぁぁぁっ!」


 愚直にも前に出て来たカエデに向けて、小鬼王の剣・改にセットされたスキルであるディフェンス・ブレイクを放つ。

名前の通り、防御を壊す……つまりは防御力貫通攻撃!

これを使った俺の剣はカエデの盾をすり抜けるように動き、カエデの右腕を滑りぬけて右肩へと突き刺さった。


「カエデ!」


「大丈夫!まだやれ――」


「心配してる場合かよ!」


 俺はカエデの方に注意が行ったリンを狙いすましてから肉薄する。


「くっ――仕方ない、超加速!」


「はっ――えっ!?」


 リンが一瞬ブレたと思うと、俺の目の前からリンは消え去っていた。

どこに行きやがった!?


「セカンド・スラッシュ!」


「がっは!」


 後頭部に強烈な衝撃を受けたと思うと……リンが俺の真後ろにいた。

一瞬で俺の後ろに移動したとか……速すぎだろ!

しかも……クリティカルを出されたせいで俺のHPバーは三割ほど削られた。

クリティカルでこれだから、あまり大した攻撃力じゃないが……マズいな、俺の鎧はHP割合防御力アップの効果がある以上、100%アップから70%アップになってしまう。

下手をすると頭以外に受ける攻撃でもダメージを受けかねない。


「【ファスト・ファイア】!」


「ぐっ!」


 リンが続けざまに放ってくる魔法攻撃を、俺はなんとか盾で受け止める。

だが隙を晒した!またカエデの攻撃が来る!今度は毒じゃねえはずだ!


「【プリズン・シールド】!」


「くっ、これは……なんだ!?」


 ファスト・シールドのようなエネルギー状の盾が俺を取り囲んだ。

何をする気だ?俺を閉じ込めた所で、こんな盾ブチ抜いて――


「ふぅ、これで少し一息つける……あー、疲れたー」


「やっぱり便利だね、プリズン・シールド」


 リンとカエデはSPポーションを取り出して飲み干してやがる。

……馬鹿じゃねえのか、コイツら。

俺を拘束したにしても、俺もポーションを飲める状況じゃ意味ねえだろ。


「……馬鹿かよお前ら!」


 お前らが真似してる奴らはもうちょい……と言うか大分賢いだろ!

所詮猿真似な以上、確かに劣化版みたいなステータスや立ち回りになるのは認めよう!

でも! 戦術面の方でダメダメだったら完全下位互換どころの話じゃねえだろ!


「あっ!!」


二人とも俺がポーションを飲み干して、HPとSP共に全快になったことにやっと気付いた。

やっぱ馬鹿だコイツら! 正真正銘の馬鹿だ!


「ディフェンス・ブレイク!」


「ファスト・シールド!」


「言っただけだ!」


 やはりこの手は面白いくらいに対人戦じゃ引っかかってくれるな。

俺が防御力貫通攻撃をしてくるのに合わせて、カエデはファスト・シールドを出してくれた。

それをすり抜けるかのように避けて、盾を蹴って俺は推進力を増す。


「セカンド・スラッシュ!」


「あっぶなっ!」


「オッルァァァ!」


「あぁっ!」


 セカンド・スラッシュを振り下ろしで放つがリンには避けられる――

のを見越して俺は回し蹴り放ち、リンをカエデから引き剥がす。


「今度こそ、ディフェンス――」


「セカンド・カウンタァァァッ!」


「まっ――おぐえ!」


 カエデは俺のスキルに合わせてカウンターを放ってきた。

幸なのはカエデの方の攻撃力が低すぎて、俺のHPバーが二割しか削れなかったことだ。

だが……ここぞとばかりにリンが斬りかかって来た!


「【水流乱舞】!」


「ぐっ、ちっ、こっ、このォッ……!」


 水が流れるかのようなエフェクトと共に、リンは俺の体を流れるような動きで斬りつけてくる。

クソッ、さっきの超加速の速度も相まって……速すぎて避け切れねえし盾で受け止めきれねえ!

おかげでHPバーがぐんぐん減っていく。

しかも、HP割合防御力アップはHPが削れれば削れるほど防御力が下がる。

だから攻撃を受ければ受けるほど俺は弱くなっていく。


「これでトドメっ!」


「セカンド・シールド!」


「わっ!」


 俺のHPバーが二割ほどまで落ちて来た所で、リンのトドメの一撃と言わんばかりの大振りが来る。

その隙を狙ってシールドを出して、何とか引き剥がすが……マズいな。


「 この野郎……随分いい連携するじゃねえかよ。

十分強いどころか……下手したら格上も食えるんじゃねえのか?」


「あはは、そりゃどーも。でも……随分簡単に食えちゃいそうですね、貴方も」


「へぇ……馬鹿にしてくれるじゃねえか」


「どっちにしろ、これで終わりです!」


「行くよリン!」


「うん!」


 二人は何やらスキルの詠唱をしていたのか、魔法陣のようなものを展開した。


「シールドも関係ない一撃!」


「合体スキル!」


「「【海竜の牙】!!」」


「う、うぅぅぅおおおおおおおおおおっ!」


 二人が短剣を掲げ、クロスさせる。

そこから振りぬくように短剣を振ると、そこから先ほどのヒドラが出てくる。

それもまた、さっきの属性を変えるスキルのようにヒドラは水で形を成した。

まさに水で出来た竜。

こんな合体スキルなら、俺は確かにシールドを張っても無駄だろうな。

盾を構えようと、耐えきれないだろう。

そうわかっていても盾を出して防御の構えを取った俺に、海竜の牙がヒットする。

ドォォォン、と言う爆発にも近い派手なサウンドエフェクトと共に土煙が舞い起こった。


「……やったかな?」


「あんなの受けて、耐えきれるわけないでしょ。

HPバーも二割だったんだし、どうやったって死……んでない!?」


「ふぅぅぅ……強いスキルだけどよ……大雑把な狙い、その上に……詠唱が長すぎんだよ!」


 俺だってただただ立っていただけじゃない。

今の俺の前には、ゴブリンのオブジェクトが立っている。

そう、俺のスキルの肉壁だ。

ついでで、SPポーションを使って、ごっそりとなくなったSPを回復させておいたからな。

肉壁の前じゃ、どんな衝撃もないに等しい。


「ダメージゼロなんて……反則級のスキルだよそんなの!」


「お前らのスキルも大概だろ!」


 超加速からの水流乱舞とか言う奴は速すぎるだろ!

攻撃力ブースト系スキルでも使えば間違いなく誰だって殺せる。

まぁ……使い手に依存するだろうけどな。


「まずはお前からだ!」


「カエデ!」


「わかってる!カバー!」


「読めてんだよ!」


俺はカバーで割り込んできたカエデの腕を掴み、引っ張り寄せる反動で俺を前に出す。

そのままリンへ肉薄してから――


「くっ!せあああっ!」


 強気にもリンは俺と相討ちにでもなるつもりか、無茶苦茶な速度で俺に剣を振るってくる。

確かに速いし、俺じゃあ見えても止めることは出来ない……だが。

肉壁が俺に与えられるはずのダメージを全て受け持ってる以上、俺のHPバーへの変動はない。


「そんな……嘘……!!」


「ホントだよ」


リンは目を見開いて明らかな動揺をしているが、まぁそうだろうな。

対人戦でこんなスキル使ってきたら誰だって驚くだろう。

丁度肉壁のゴブリンたちが消滅したところだし……結構ギリギリだな。


「でも、クリティカルなら!」


「セカンド・スラッシュ!」


「あっ!」


 勝負を急いたのか、短剣を二本同時に振り下ろそうとしてきたリンの腕をまとめて刎ね飛ばす。

これで腕がなくなってコイツは無力になった。

HPが何故か削り切れずに残っているが、これはこれでいい。


「ふっ……!うおりゃあああああッ!」


「がっ……うぅぅ、くるひっ……うわあああっ!」


「リン!」


 俺はリンの首を掴み、そのままカエデに向かって投げつける。

カエデは慌てて盾から手を離してリンをキャッチするが、その判断は勝つ上でならミスだ。


「まとめていただくぜ!」


「あっ――」


「ディフェンス・ブレイク!」


 キャッチされたリンごと、カエデの鎧を思い切り貫く。

リンはポリゴン片となって砕け散り、カエデのHPバーも数ドット。

パッシブスキルの根性で耐えたんだろうが――


「終わりだ」


「あっ」


 俺が剣を横に引くと、カエデもそのままポリゴン片となって砕け散る。

……何とか、勝てた。

スキルを全部見せるようなことにはならなかったが……肉壁を見せてしまった。

イベントじゃあないから情報こそ公開されないが、少し見せるのに抵抗のあるスキルだしな、コレ。

出来れば秘匿こそしておきたかったが、大半の上位陣は俺など気にしてないだろう。

だから多分、大丈夫……だよな?


「お疲れ様です、先輩」


「負けると思ってヒヤヒヤしたぞ、全く」


「でも、二対一のあの状況から勝つなんて凄いです、ブレイブさん!」


「散々対策していたんだから、勝って貰わなきゃ私は怒ってたよ、兄さん」


「ま、俺とのシュミレーションはあんま役に立たなかったみたいッスけどね」


 ハルたちが俺にそれぞれ声をかけに近寄って来た。

まったく照れるぜ……と思ったら、何故かさっき倒したカエデたちが俺の近くに来ていた。


「……なんだ?再戦しろって言いてえのか?」


「いや、そうじゃなくて……」


「やっぱり、ブレイブ・ワンさんは凄く強かったから……その……」


 カエデが何かごにょごにょと何か小さい声で言い始めた。

聞こえねえ。音拾えねえくらい小さい声ってなんだよ。


「あぁ?なんか言いてえことあるならハッキリ――」


 俺が言いかけた所で、フレンド申請が飛んできた。

リンとカエデからだ。


「……あ?」


「ギルドに入るのは無理でも、フレンドにはなれませんか!?」


「私もカエデも、ブレイブさんと狩りに行きたくって!」


「なれるか!俺はホントのこと言うと、これ以上フレンドリストに女の名前が載るのが嫌で――」


「そう……ですよね、ごめんなさい。私たちみたいな女の子が、急におこがましかったですよね……」


 俺が言いかけた所で、リンがそう言って背を向けて歩き出した。

うっ……なんだこの空気は、なんだこの痛い視線は!

空気なんて読んだことはないが、明らかに俺が悪い感じになってる!


「ごめんなさい、ブレイブさん。なかったこととして――」


「あぁわかった!フレンドにでもなんでもなる! だからこの空気どうにかしてくれえええっ!」


 急に振り帰ったリンの顔がパァァァ、と輝いた。

クソッ、コイツら……何で俺にそんな執着するようなそぶりを見せるんだ……そもそもの話、何であの時ゴブリンキングシリーズを着ても居なかった俺のことを知ってたんだ?

……とても嫌な予感がしてきたが、これについては黙っておこう。

今は、フレンドリストに女プレイヤーの名前が更に増えたことについて考えよう。

新しい男の仲間が出来ることを望んで。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:40

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:60(+70) AGI:88(+55) DEX:0(+20) VIT:34(+95) INT:0 MND:34(+60)


使用武器:小鬼王の剣・改、小鬼王の小盾・改

使用防具:龍のハチガネ・改、小鬼王の鎖帷子・改、小鬼王の鎧・改、小鬼王のグリーヴ・改、ゴブリンガントレット、魔力ズボン・改(黒)、回避の指輪+2


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