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第二百四十六話:秘密兵器

 ──第六回イベントの始まり……俺にとっては最初のブラックによる襲撃、そこから三十分の時が過ぎた。

 既に氷のドームはあちこちに穴を開けられ、そこから侵入してくるプレイヤーとの戦いはひっきりなしに続く。

 あの手この手で俺を仕留めにかかるプレイヤーだらけで、叩いても叩いてもキリがない。

 一人一人が最初のブラック並みってワケでもないし、大したことのない奴らばかりだが……数が多いってだけで嫌になって来る。

 休む暇が与えられていないせいで、ずーっと戦いっぱなしだ……狩りの時と違って、自分から狙いに行くんじゃなくこっちが狙われてるワケだし。


「ハァッ!」


「貰ったァ!」


「チィッ!」


 今もこうして二人組のプレイヤーを相手にし、左右から同時に振るわれる手斧の攻撃を剣と盾を使って防いでいる。

 中々のパワーで、簡単に弾けない……片腕で相手するにはちょっと面倒になって来るな、コイツら。

 どうするか……と、競り合いの最中にそう考えていると。


「ハッハァ! ブレイブ・ワン! 殺ったりぃぃぃ!」


「──超加速」


 後ろから、跳び上がって攻撃を仕掛けて来た奴がいた。

 ので、俺はパワー勝負じゃなくスピード勝負に持ち込むことにした。

 速度を上げてから地面を蹴って真後ろに跳び、攻撃を躱す。

 そして三人まとめて視界に入れてから、盾を形状変化させる。


「ダブル・オーガ・スラッシュ!」


「がっ、は……!」


「なんだと……!?」


「ここまでか……!」


 二撃で三人まとめて切り裂き、三者三様のコメントを残させながらHPを全損させる。

 ……さて、これで大体三十人ってところか。

 眷属の雫も倒した数に応じて集まって来てるが……どうするか、そろそろ解禁してみるか。


「どうすっかなー……」


「どこを向いてやがる! ブレイブ・ワン!」


「別に、どこも」


 俺の死角から槍を構えて突っ込んでくるプレイヤーがいたが、そいつにはカウンターをくらわせて一撃でHPを根こそぎ削り取る。

 ……どうせなら、もっと一まとめに強い奴と戦いたいもんなんだが……と思っていたところで。


「クックック……そろそろ雑魚は飽きたか? ブレイブ・ワン」


「誰だお前」


 今度は全身を黒いローブで覆い、目元まで深くフードを被っている男のプレイヤーがやって来た。

 ……一人か、ブラックみたいに腕に自信があるのか、それとも何か別の狙いがあるのか。

 まぁ、どういう考えにしろ……ただ真っすぐに、コイツをぶった斬るだけだ。


「七王たるお前にも味わえない新鮮な体験と言うものをさせてやる。俺たちがこの戦いに備えて探し、運用を考え、いかにしてお前たちを倒すかをな」


「御託は良い。とっととかかって来い」


 黒ローブの野郎はニタニタ笑いながら何か手印みたいなものを結び始め、ブツブツと呟きだした。

 ……召喚系の魔法か何かを使うのか、それともまた何か別のものか。

 まぁ、だとしても……やることは変わらねえ!


「ゴブリンズ・ペネトレートォッ!」


「がっ……! は……! フ……ハハハ……これは、あくまで単なる儀式にすぎん。お前が俺の詠唱を妨害しようと、そうでなかろうと……コイツは呼び出されるのだ」


「…よ…何?」


 俺の剣は真っすぐに黒ローブのプレイヤーを一撃でブチ抜き、剣の切っ先は背中を貫通していた。

 だが……黒ローブのプレイヤーは依然ニヤニヤと笑いながらHPを全損して消え──直後に、その男が丁度立っていたところを中心とした黒い魔方陣が現れた。

 ……何かマズい気がしてきたな。止められるか!?


「フェニックス・スラスト!」


 俺は黒く淡い光を放ちながらグルグルと回り始めた魔方陣に向けてスキルを放つ──が、ダメだった。

 地面を削ることすら敵わない……耐久力が上がっているとかそういうのじゃなく、純粋に攻撃そのものが干渉していないと言った感じだ。

 っつかデケぇなこの魔方陣……グルグル回りながらどんどん大きくなってきてやがる。


「チッ……」


 俺はなんだか面倒な相手と戦うことになりそうだな──と思いながら、思いっきり後ろに飛び退く。

 ……プレイヤーがいたずらに侵入してこないのは、あの黒ローブのプレイヤーが呼び出すと言ってた奴一人に戦わせるためなのか。

 それとも、いざって時に奇襲でもするのか……気味が悪くて仕方ねえ。


「小鬼災害、出力最大……!」


 極悪鬼シリーズに至って進化した俺の装備は、小鬼災害や小鬼召喚などの調整が更に増えている。

 小鬼災害はSPを調節して小鬼の数を自在に変えられるワケで……俺は満タンまで回復したSPを全て使って小鬼を呼び出す。

 そして、そいつらを領土中に放り出して走らせ、プレイヤーを見つけ次第攻撃するよう指示を出しておいた。

 奇襲が狙いなら見つけた時点で小鬼の的になるし、そうでなかったとしても潜んでる奴がいれば収穫になる。


「さぁ、て……どんな奴が来るのかね」


 俺にも味わえない新鮮な体験……それほどの強敵が現れるっていうんだったら、いくらでも味わい尽くしてやる。

 全力でブッ潰して、その上で戦闘を楽しんでやる。

 ──そう思ってSPを回復し剣と盾を構えたところで、俺の目の前にメッセージウィンドウが表示された。


『─厄災・顕現─』


「厄、災……」


 一体全体何が出て来るってんだよ──と思って警戒し構えていると、ヤツは現れた。

 魔方陣から巨大な体を出現させ、全長5mはあろうその巨体を俺の前に晒したのだ。


罪禍之王(さいかのおう) 神殺剣しんさつのつるぎ 蛇魔零だまれ


「……う、わぁ」


 デカい。人の形をベースにしてこそいるが髪の毛は一本一本が全て黒い蛇で出来ていて、蛇魔零がこちらを見下ろすと髪の毛の蛇たちも俺を睨んで舌をチロチロ出している。

 顔の部分は黒々と塗りつぶされたように何も見えないが、眼やら口はあるらしく、光のない赤目と大きな口が開いて俺を補足している。

 胴体も真っ黒で何故か腹にも口があるし、右腕には真っ黒な剣、左腕には真っ白な剣、背中と頭の上には八つの玉が付いた輪っかのようなものが付いていて、それらは電気がついていない時の電球のようにグレーだ。

 足は……特に言うことなく真っ黒だが、くるぶしの辺りには黒い翼が外側内側ともについていて、ギリシャ神話のペルセウスが使っていた靴を彷彿とさせていた。


「……こんな化け物と戦えるって言うんなら、やってやる。全力で、ブッ潰してやる!」


 俺は真っすぐに走り出し、トップスピードで蛇魔零との距離を詰めてスキルを詠唱する。

 蛇魔零はこっちを見るだけでまだ何もしてこない……カウンター狙いか、それとも本当に何もしないだけなのか!

 どちらにしろありがたいな、と思って俺は跳び上がり、剣を真っすぐに突き出す!


「フェニックス・スラスト!」


『──!!!』


 表現できないような声、声にならない声を上げながら蛇魔零は俺が繰り出した渾身の燃え盛る一撃を胴で受けた。

 その手に持ってる剣は飾りか──と言ってやりたいところだったが、確かに胴で直接受けるのも納得だ。

 蛇魔零のHPゲージ……四本ある物の方にチラリと目をやると、一本目のところが僅かに削れている。

 ……倒せない敵じゃあないワケだが、俺一人がここに釘づけにされるのは結構面倒だな。


「……けど、やりようはあるよな」


『──!』


 俺が剣を構え直したところで蛇魔零は一歩踏み込んで右手に持つ剣を振り下ろしてくる。

 ソレを真横に飛んで躱したところで、俺はもう一度高くジャンプし……狙うは、妙な輪っかのついた頭!

 剣に紫色のライトエフェクトを纏わせ、真っすぐに突き出す!


「超毒撃!」


『──!!!』


 剣が小鬼王だった頃からあった毒撃の強化版の更に強化版……のまた強化版の毒撃。

 毒への耐性を持ってない奴なら、コレはかなりの大ダメージになると思うが……どうだ?


『──ゴ、ガ……ゴエッ!!!』


「あ、まともな声……うわ」


 蛇魔零は毒の影響かその場に膝から崩れ落ち、モザイク必至な吐しゃ物をぶちまけた。

 随分と苦しそうに息を吐き、HPを減少させていて、コレはかなりの有効打か……と俺に思わせていたが。

 ピカッ、と一瞬だけ奴が背中と頭につけていた輪っかが光った。

 次の瞬間、蛇魔零のHPの減少も毒の症状も完璧に収まっていて、蛇魔零は膝をついたままの状態から剣を二本振り抜いた。


「ッ……! コイツ、まさか……!」


 ギリギリで攻撃を避けながら盾でカスり当ても何とか避けた俺は、立ち上がり始めた蛇魔零の頭を見る。

 ……まるで電機のついていなかった蛍光灯みたいにグレーだった輪っか自体は、依然変化はない。

 だが、その輪っかの周りについている玉……八つの内二つが光っていたのだ。


「フェニックス・スラスト!」


『──』


 蛇魔零は叫ぶことなく、無駄だと言わんばかりにまたも俺の攻撃を胴で受けた。

 だが、俺の炎を纏った必殺の一撃は奴に刺さることはなく、弾かれた。

 ……やっぱり、俺の予想通りってワケか……。


『──!』


「流星盾! っ、マジか!」


 蛇魔零の特殊な固有能力……みたいなものなのか、それともスキルの類なのかは不明だけども。

 一度受けたスキルに対する完全耐性を作り上げることが出来る、それが蛇魔零の持つ力だ。

 今はフェニックス・スラストと超毒撃に対する耐性があるみたいだが……スキル一つに対してだけなのか、それとも系統が似たスキルは全て防がれるのか。

 ……それを確かめるために、手数で勝負して確かめる他ねえ!


「バーニング・ソード!」


『──!』


「っち! そうだよな、そりゃ簡単には探らせねえよな……!」


 フェニックス系統とはまた違う炎を纏った一撃はいとも簡単に弾かれた。

 だが、わざと受けないってことは、耐性を作り上げる数は限度があって、スキル一つに対してのみなのかと疑わざるを得ない。

 とどのつまり──。


「手数で、出たとこ勝負と行こうか!」


『──!!!』


 蛇魔零はそうはさせんと言わんばかりに左手の剣を振り下ろしてくる。

 俺はバックジャンプでそれを躱し、フェニックス・ウィングを発動させて空を飛ぶ。

 空中機動を自在にすれば、コイツへの攻撃も当てやすくなる……まずは、コイツだ!


「フェニックス・ドライブ!」


『──!』


 蛇魔零は俺が剣から飛ばした不死鳥の炎を右手に持つ剣で迎え撃つ。

 その隙に、俺は剣に黒い炎を纏わせ、背中の翼を強く羽ばたかせる!


「カースフレイム・フェニックス・スラスト!」


『! ッ! ──!!!』


 俺の放った黒い炎の刺突は蛇魔零の腹に強く……突き刺さり、剣を刺した時のダメージと黒い炎による二つのダメージが入る。

 そして、蛇魔零がそれに気を取られて剣を振るのが一瞬遅れた。

 そこが狙い目となり、俺の放った不死鳥の炎は蛇魔零の顔面へと炸裂する。


「……へぇ、やっぱり耐性を作るのはスキル一つだけなんだな!」


 蛇魔零の頭の輪っかについている玉は四つほど光り、ソレが限界なのだと俺に見せてくれた。

 ……さて、残り四つをどう埋めて、それ以外のスキルでどう叩いてやろうか!

【罪禍之王 神殺剣 蛇魔零】

 SBOの世界に存在する神を単身で殺す偉業を成し遂げた最強の戦士。

 プレイヤー1000名の命と専用のアイテムを用意し、使い捨ての召喚スキルを持つプレイヤーが百節に及ぶ超長文詠唱と共に一時間の舞を披露することで召喚準備を完了させられる。

 準備が完了してからはその召喚スキルを持ったプレイヤーが蛇魔零と戦わせたい対象の前に立ち、対象に殺されることでようやく召喚される。

 戦う対象はたった一人であり、そのたった一人のみを狙いすまして攻撃を続け、あらゆる邪魔を無視する。蛇魔零が狙った対象を撃破すると役目を終え、消滅する。

 コスパ最悪の最強兵器。

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