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第二百四十五話:ウニ頭

「さぁて……と。誰が来るかね」


 俺は所定の位置についたところで、七王領土を囲む大きな山を見上げる。

 正確には、カオスの張った氷のドーム越しなワケだから、目視よりもサイズはちょっぴり歪んでるけれども。

 この山地からならば、カオスの作ったネズミ返しも関係なしに上から攻められるってワケだ。

 そうなると、いきなりドーム部分を狙われると来た……うーん、カオスに頼んで穴でも開けて貰おうかな。

 奇門遁甲の陣みたいに、わざと一か所だけ穴を開けておいた方が、食いつきが良いかもしれん。


「……いや、そうは言ってもなぁ……俺より賢い奴とかいくらでもいるだろうし、うーん、無駄か」


 いっそ勝手に穴を開けてしまおうか──なんてのも思ったが、そもそも俺の考える作戦くらいお見通しな連中の方が多いだろう。

 なんてたって、七王のギルドに所属するSBOプレイヤー全員が参加することを許されているイベントなのだ。

 参加条件で言えば第二回イベントのソレと同じだが、今やあの時よりも更に時は経っているので参加者はその比ではないだろう。

 大体……何万人くらいいるんだろうなぁ。十万人……とか、そんくらいいるんだろうか。


「んー……でもなぁ、全プレイヤーが馬鹿正直に参加してるってワケでもないだろーしなぁ……うーん」


 ブツクサ独り言を呟きながらも、俺はゴブリンキング二体を四つん這いにさせて、背中に乗っかって寝っ転がる。

 ……だって、だーれもこないし攻撃すら見えねえし暇なんだもん。

 今から俺のやることは決して悪いこととかそういうわけじゃない、一応ちゃんと皆に戦力提供をしたし、持ち場にはついてるんだし、警戒もキチンとしてはいる。


「ふわぁ~ぁ……あーっ、暇で仕方ねえな」


「じゃ、暇つぶし付き合ってやるよ」


「おう。サンキュ……ぅ!?」


 あまりにも自然なレスポンス、あまりにも自然な登場。

 寝っ転がっている俺が見上げた先、つまり空中に突然プレイヤー……それも敵対するアイコン、とどのつまり敵連合軍のプレイヤーが現れた!

 氷のドームに穴、傷……はない。いったいどうやって現れた!? 地中を掘ったってことはないだろ、そしたら流石に音で気付く!


「おいおいおいおい、入って来る時は玄関ノックするもんだろ!」


「申し訳ない、何分そういうスキル持ちなもんで……なッ!」


 俺はすぐにその場を転がってゴブリンキングの背中から降り、空中で剣を抜いて振り抜いていたソイツの攻撃を躱した。

 ……首を狙ったとは言えども、俺の召喚したゴブリンキングを一撃でぶった斬るとはな。

 俺を狙ったのか、それとも最初からゴブリンキングを狙ってたのか……まぁ、どっちにしろタイマン不可避か。


「ったく、あぶねえな……お前どうやって入って来たんだ?」


「さぁ、七王なら知ってるんじゃないのか?」


 ウニみてえなツンツン黒髪、まるでどこかの組織を思わせるような黒い騎士服に、闇に溶け込むような黒光りの鎧。

 ……魔女騎士団を思わせるような見た目だが、魔女騎士団のエンブレムはないし……どう見たって、敵だな。

 武器は……これまた真っ黒な片手直剣、盾はないっぽい、鎧は見た目の割に軽そうで、フルアーマーではない。

 現に頭は丸出しだし、結構体にフィットしている感じで……俺の鎧より軽く、ユリカたちが使うような最軽量系よりは重い感じだ。

 にしても、なんだか聞いててムカつく声だな。なんでだか知らんけど!


「知らねえから聞いてんだよ、とっとと答えろ。答えたら奥の手見せて倒してやるよ」


 騎士の男は地に降り立ったところで剣を上段に構える。

 俺も腰から剣を抜き、盾を前にして剣は下段にしておく。


「悪い、七王をこれ以上強くしたらこっちの立つ瀬がないんでな。死にながら知れ」


「そうかよ。じゃ、言われた通りお前を叩き潰すついでに知るとするよ……でも、名くらいは名乗れよな!」


 騎士の男はグッと腰を落とすと、真っすぐに踏み込んで斬りかかって来る。

 俺はそれを盾で受けて弾き、少し体勢を崩したところにミドルキックをぶち込む。


「そうだな、名前だけは教えてやる。俺は【ブラック】だ」


「へぇ、名は体を表すってよく言ったもんだな。つっても、お前の場合ウニって名前の方が似合いそうだぜ」


「……随分な煽りセンスだな。リアルは小学生か? ブレイブ・ワン」


「さぁ、どうだか」


 自己紹介と共に馬鹿にしあったところで、 ブラックは跳躍して壁を背に距離を取る。

 そこでクラウチングスタートのような前屈姿勢になって全身を深く屈め、剣を持つ右腕は居合のようにする。

 左腕は腰の方に回して隠している……随分変な姿勢だが、その姿勢から発動するスキルでもあるのか。


「斬撃でも飛ばすか、それとも──」


「──参る」


 超スピードのダッシュ、地面を抉るのではないかと言うほどの速度でブラックは俺目掛けて突っ込んできた。

 ──超加速を使った俺……ほどとは言わないが、中々速い! けど、見てからでも対応可能、加えて軌道はあまりにも真っすぐすぎる。

 それ故、カウンターは容易! 忘れられがちだが、俺はカウンター使いでもあるんだぜ!


「フィフス・カウン──」


「【ブリンク】!」


「ター……ァ!?」


 カウンターで俺が袈裟に放った斬撃は躱された。

 いや、ただ避けられたんじゃあなく、ブラックはその場から消えやがった!

 なんだ、今何をした!? 急加速して避けたとか透明化したとかそういうのじゃねえ!

 俺が瞬きすることもないコンマ0.何秒にも満たない時間で、その場から消えやがった!


「【フォトン・ストライク】」


「がはっ!」


 俺が剣を振り抜いた姿勢のままほんの一秒ほど固まっていたか。

 声が聞こえた時には既に遅く、奴の持っていた剣が姿形を変えて、俺の背中から腹を貫いていた。

 ……防御力貫通、加えて基礎の威力もとんでもねえと来たか……!

 っつか、どうやって後ろに回り込んだ……!?


「流石の七王、ブレイブ・ワンでもこれには引っかかるか」


「はっ、ぬかせ……こんなの、経験済みだっての。くらっても死なねえから、わざと受けてやったんだよこの野郎ッ!」


 俺は剣が引っこ抜かれるのと同時に右足を軸に回転し、持っていた盾を即座にナックルガードへ変形させながら振り返り様の拳を放つ。

 ブラックは俺の拳撃を避けるわけではなく剣の刃で受けて、後ずさりながらも攻撃をいなしていた。

 ……避けるまでもねえってことなのか、それともさっきの消える技は連続で使えねえのか……。


「ただの拳でこの威力か。侮れんが……食らわなければどうと言うことはない!」


「言うは易しだ、それがホントに出来るんだったら誰も苦労しねえっつーんだよ!」


 ブラックが再度踏み込んで真っすぐに斬りかかって来たところで、俺は剣を左から右へ薙ぐ。

 縦斬りに対する横薙ぎ、最もシンプルなその合わせ方に対し、ブラックは再度口を開く。

 例のが来る、つまり後ろ!


「──ブリンク!」


「同じ手を、何度も──!」


「今度は言っただけだ」


「え」


 奴が後ろに回り込んでくる──と思って、俺はその場で半回転して真後ろに向かって薙ぎを繰り出した。

 だが、剣は空を切るばかりで何も捉えなかった。

 そりゃそうだもん、目の前にだーれもいないんだし、俺の相手をしているブラックの位置は変わってないんだもん。

 あー、読みの読みね、なるほど、賢い賢い……。


「フォトン・スト──」


「フィフス・シールド」


「ぐっ!?」


 でも、こっちだって対策の対策の対策だって考えてはいる。

 一度手を見せられたらその対策をする、それはどんな戦いでも当然行うことだ。

 だが、真の一流ってのは自分の対策が対策された時、その更なる対策を出来るようにしておくワケだ。


「二手三手、そんな先の読み合い! 七王じゃそれくらいやるんだよ、間抜けがッ!」


 剣を振る途中の姿勢でぶつけたシールド、それが原因でよろめいたブラックに向けて俺はスキルを発動させる。

 今度はさっきのスキルを使う暇も与えねえ……! 例え消えてどこに回り込もうと、そこを追撃する速度で攻撃を放つ!

 勿論、耐えられて反撃やらなんやらに転じられたって良くねえ! だから、初っ端からフルスロットルだ!


「エクストリーム・ペネトレートッ!」


「ぐっ、ブリン──ぐ、がぁっ、ぐはぁっ!」


 俺が繰り出した神速の十連撃は瞬く間にブラックのアバターを鎧ごと穴だらけにする。

 さっきのスキルを唱える間もなくブラックは吹っ飛び……殺しきれなかったが、多分あと一発で殺せる!

 派手に吹っ飛んで、住宅の壁をぶち抜いて倒れているブラック目掛けて走り出す。

 この一撃で、完璧に仕留めてやる!


「オーガ──!」


「っ! ブリンク!」


「今度はそうなるよな」


 俺の代名詞と言っても過言ではないスキル、それを見て焦ったのか、それともキチンと考えた上での行動か。

 ブラックは俺がスキルを繰り出す前に消え──俺のすぐ右に現れて剣を振り上げている。

 案の定、さっき俺を貫いた時と同じ光の刃、だけど……問題なし!


「フォトン・ストライク!」


「スラァッシュッ!」


 俺はすぐさま片足でブレーキをかけ、ブラックの攻撃をギリギリのギリギリで避ける。

 鎧の肩口を滑らせるようにして攻撃を受け流してから、返す刀で放った横薙ぎで、ブラックの腹をぶった斬る。


「がっ……! く、そ──!」


「初見はビビったが、まぁ……宣告通りになったな」


 死にながら知れ、もっともくたばる対象が俺じゃなくブラックだったワケだが。

 ブラックが唱えていたブリンクというスキル、アレは簡単に言えば一定距離の瞬間移動だ。

 いわゆるショートワープスキルって奴だが、距離が一定なのが欠点だろうな。

 壁も通り抜けられるから氷のドームも壁も無視してこの中に入れたんだろうが、使えるのが一人な時点でタイマンは必定。

 加えて、距離が一定なせいで近づいてからじゃなきゃ後ろに回り込めないし、決着前は慌てて使ったせいでミスったっぽいな。

 後ろじゃなくて真横、それも右側だったから避けるのも反撃をするのもいたって簡単だった。


「さてと、アイツをぶった斬って手に入ったコイツで誰を呼ぶかな」


 ブラックを斬ったことで、見事に眷属の雫は手に入った。

 これで俺は集う勇者のメンバーから一人召喚出来るってワケだが、さて誰を呼ぶかねー。

 尤も、呼んだところで顕現出来る時間が限られてるから、大事に取っておかなきゃだが。


「そんなものを眺めている暇があるのなら、俺たちを相手にすることへの危機感を抱いたらどうなんだ、ブレイブ・ワン」


「……抱く必要、あると思うか?」


「舐められたものだな……!」


「そりゃそうだろ。だって、お前らはブラックより大したことないからな」


 ブラックがくたばったと思ったら、ブラックが死ぬ直前に何かしたのか六人ばかりのプレイヤーが俺を囲んでいた。

 ……おそらくは、自分の死をトリガーに特定の対象をその場にワープさせる……とか、そういうアイテムやスキルを使ったんだろうか。

 全く、玄関をノックするどころか玄関でもないところから入って来る奴らばっかりで困るぜ。


「来いよ。遊んでやる」


「舐めるなァァァ!」


 ブラックと似たような黒い鎧と制服を着て槍やら剣やらで武装したプレイヤーたちが、一斉に俺に向かってくる。

 ……しばらくは、退屈しないで済みそうだな。存分に遊べそうだ。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:100

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:127(+330) AGI:127(+230) DEX:0(+170) VIT:51(+750) INT:0 MND:50(+450)


使用武器:極悪鬼の剣、極悪鬼の小盾

使用防具:極悪鬼のハチガネ、極悪鬼の衣、極悪鬼の鎧、極悪鬼の籠手、極悪鬼の腰当、極悪鬼の靴、極悪鬼の骨指輪、神格ノ腕輪


固有スキル:【極悪鬼の恨み】【不撓不屈】

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― 新着の感想 ―
[一言] 全ての作品と更新に感謝を込めて、この話数分を既読しました、ご縁がありましたらまた会いましょう。(意訳◇更新ありがとな、また読みに来たぜ、じゃあな!)
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