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第二百四十四話:第6回イベント・開幕

「もうそろそろだね、皆」


「あぁ。にしてもまぁ、普段は数の暴力を押し付ける側の七王おれたちが、押し付けられる側になるとはなー……いやまぁ、俺とかは常に押し付けられる側だったけどさ、お前らは違うじゃん」


 王の騎士団領土・領主城会議室。

 凄まじいバトルのあった女子会や男共が馬鹿話と共に飲み明かした男子会を経て迎えた、SBO公式・第6回イベント。

 七王VS全プレイヤーというとんでもない形式のバトル、加えてこっちはNさんを除く七王以外のプレイヤーは制限時間付きかつ特定アイテム消費でしか呼び出せない。

 とどのつまり、常時戦力として機能するのは八人だけ……イアソーンは支援に徹して、防御特化で常にガードに徹するカエデの火力を期待出来ないことに加えると実質六人。


「一番怖いの、参加者の人数がまだわかってないことだよな。沢山いるのはわかるけど、最大数がわからんだけでもゴールが見えないワケだし」


「勝利条件がどっちもお互いに『相手陣営のプレイヤーの殲滅』であるからな、ペース配分なぞもしようがないときた……」


 カオスとイアソーンはイベント概要の部分とにらめっこしながらうんうん唸ってる。

 まぁ、確かに不安なところだけれども……正俺は常に数で劣る戦ばっかり経験してきたので、相手が大人数であることへの不安はない。

 どちらかと言うと、相手が全プレイヤーともなると情報がないのでどんな戦術を仕掛けて来るかがわからない。

 他に言うとすれば上限なしのパーティを組んでいることもあってか、向こうはこのイベント限りとは言えどとんでもないバフ持ちなワケだ。


「しかしまぁ、やることが単純な分楽なことだと考えることも出来るのでは? 仲間を呼ぶには、敵を倒しさえすればよいのですから」


「そうですね。作戦通り、私たちが最初にトバすことで勢いをつけられますしね。敵を倒せば、仲間も呼べるチャンスがありますし」


 イベント中に七王ギルド所属のメンバーを呼び出すには、敵プレイヤーを倒した際に手に入る限定アイテムの【眷属の雫】を使うこと。

 そう書かれている画面を見せながら、KnighTたちはやる気満々のようだ。

 事前に決めた作戦もそうだったけれど、この二人に暴れさせた方が良いってのは確かなんだよな。

 指揮権は全員アーサーに預けてるわけだし、俺も余計なことを何も考えなくて済むのは非常に助かるというか、なんというか。


「うむ、では最後の最後までやることは変わらんな。ひたすら攻めて攻めて攻める、私たちらしいな……フフッ」


「攻めかぁ……よーし、私もいざとなったら攻撃に出ますよ! そのために装備を強化して貰ったんですから!」


 シュッシュッ、とショボそうなシャドーボクシングをしながらカエデが自信たっぷりに胸を張る。

 ……あんまり期待してないけれど、いざって時には頼んだ方がいいかもな。

 まだお互いにも共有していない隠し玉ってのも、チラホラあるっぽいし。


「……本当にそろそろだ。それじゃあ皆……このイベントも僕らの勝利を収めよう! かつては競い合った仲、されども今は仲間同士! 七王の最強の力を見せつけようじゃないか!」


「応!」


 アーサーの号令と共に俺たちは武器を抜いて掲げる。

 そして、青いライトエフェクトに包まれて──。


「おぉ、こういう感じになってんだな……にしても、随分広いな」


「スクショで見るのとはまた違った趣……うーん、空気が澄んでるね」


 俺たち八人が転送されたのは、七王それぞれの領土の特徴を混ぜたような一つの街だった。

 七つの区間が寄せ集められて作られたような小さな街で、中心には領主館に当たるような小さな城のようなものが出来ている。

 小さな城は王の騎士団以外の領土の領主館くらいのサイズで、お世辞にも城と言うにはちょっぴり小さいものだ。

 けれどもまぁ、形が城っぽいので城と形容する他なかったのだ。


「外を囲む壁は随分高いな……俺が氷でネズミ返しみたいなの作っとけば、壁の上からの強襲はなくなるか?」


「カオス、あなたはもうMPを消費せず魔法を使えるのでしょう? ならケチな真似などせずドームでも作ってみせてはどうですか」


「ネズミ返し程度では空を飛べるプレイヤーや弓だの魔法だのの攻撃に晒されてしまいますからね。それに、最初に大規模な魔法を使っておくことでカオスはMPをする必要がある状態だ、と敵に誤認させられるでしょう」


「なるほどなー……じゃ、そうしてみるか。よっと」


 モルガンとKnighTの二人の言葉を受けて、カオスは街を円のように囲んでいる巨大な壁の上に飛び、そこから氷でネズミ返しと巨大なドームのような天井を作り始める。

 氷はかなり分厚く作っているのか、天井の生成速度は結構ゆっくりとしている……が、まだフィールドに転送されて互いに準備を始めている期間だから、特に問題はない。

 イベント自体はすぐに始まってこそいるものの、まだ敵がやってくる気配は微塵もない。


「さて、ブレイブくん。君には小鬼召喚で兵力を増やして貰うよ。出来るだろう?」


「おう。じゃあ……行くぜ!」


 俺は左手を地面に叩きつけ──アーサーのオーダー通り、大量の小鬼の召喚を始める。

 まずは歩兵として通常のを五十、回復や後方支援を兼ねたメイジを二十、タンクとしてのホブを二十、各ゴブリンたちの隊を率いるエースとしてのキングを十。

 合計百体のゴブリンを召喚し、SPポーションで回復する呼吸を挟んでから召喚魔法・狼と組み合わせたゴブリンライダーを二十、独自に動ける部隊としての運用を視野に入れて召喚魔法・虎を二十体分使用。

 これによって先行しての強襲を可能とする部隊も完成……だが、これだけじゃあ数があっても個々の戦力としては不足気味だろう。


「イアソーン、アーサー。頼んだぜ」


「応とも。では、初のお披露目と行こうか! 【神々之祝福】!」


「【王者指揮キングスタクト】! さぁ、開戦の狼煙を上げるとしようか」


 イアソーンが腰の剣を抜いて天高々と掲げて刀身を輝かせ、アーサーが両手をオーケストラの指揮者のように振ると彼の手からは赤いリボンのようなものが出る。

 それはまるでレッドカーペットかのように地面を走り……俺の召喚した小鬼たちがそれを踏むと。


「うほっ、すっげぇバフ量」


「うむ。これだけの兵力があれば、KnighTとモルガンが前線で暴れる分の苦労はなさそうだな」


「そろそろ出陣ですね。ではブレイブ・ワン。私たちにも狼を」


「おう、そらよ」


 イアソーンの強化装備による広範囲バフスキルとアーサーのバフスキルが相乗効果を生み出し、小鬼たちのステータスは素の状態の五倍以上に跳ね上がっていた。

 ……一体一体の装備が大したことない分、流石に俺ほどの火力を持っているというわけではないけれども、並みのプレイヤーでは簡単に対処できるものでもないだろう。

 連携も出来るワケだから、KnighTとモルガンがそれを率いて進めば多くのプレイヤーの数を減らせると言ったところだろうが……さ、どうなるか。


「頼んだよ、姉さん。KnighT!」


「はい。吉報を期待していなさい、アーサー。私一人で百人は斬って見せましょう」


「良いですね。では競い合いと参りましょうか、モルガン」


 アーサーに背中を押され、KnighTとモルガンは俺が召喚した狼に乗って街を飛び出していった。

 お供にゴブリンライダーと虎を十匹ずつ引き連れ、ほんの一呼吸おいて小鬼の隊がそれぞれ等間隔で散らばりながら出陣。

 ……さてと、モルガンたちとの戦闘を避けてこっちに突っ込んでくるであろう奴らに備えるとするかね。

 モルガンたちが出陣したのは街の北から……草木が生い茂る草原や林のあるエリアで、東には砂漠、西には海、南には大きな山々がある。


「恐らく西からは船による出撃、南からは馬などを使った逆落としを仕掛けて来るだろうね……東の砂漠は、読めないけれど」


「だな。カオスは隠しておく必要がありそうってことを考えると……じゃあ、南は俺が受け持つよ。飛べるし、山からの襲撃にも対応できるしな」


「じゃあ、Nが東、僕が西を担当するとしようか。船なら僕が先んじて攻撃を仕掛けられそうだし」


「うむ。任された」


 七王領土に残ることになった俺たちも指針を固め、それぞれが持ち場へと移動していく。

 ……と言うところで、俺はSPポーションを片手に小鬼召喚を使い、それぞれの担当地区にゴブリンキングを二体ずつ向かわせる。

 戦力は、少しでも多い方がいいからな。

 

「随分大盤振る舞いだね、ブレイブくん」


「まぁな、小鬼召喚の消費SPも今じゃ大して痛くねえし……それに、最初っからトバすって決めただろ」


「なら僕も君らしく贅沢に行くとしようか」


 アーサーは何やら強気な笑みを浮かべ、そのままゆっくりと西の方へと歩みを進めていく。

 ……それぞれがそれぞれの思惑と共に準備を進め、先行して歩を進めているKnighTたちの回線の合図に期待をする……と言ったところで。


「あ、あのーっ……私は、いったい何をすればいいんですか?」


「あ、カエデ」


 カエデがぎこちなさそうに手を挙げていて、アーサーも俺もNさんもその場で振り返った。

 ……そういえば、カエデには何も指示を出していなかったんだな、アーサー……と思っていると。


「なら私を守るがいい、貴様のSBOナンバーワンの耐久力は最重要人物を守るに相応しいからな!」


「わ、わかりました! それじゃあ、イアソーンさんのことを全力で守りますね!」


 何も指示が下らなかった、ということでどこか疎外感を覚えるような表情をしていたカエデは一転して機嫌を良さそうにしてイアソーンの隣に立ち並んだ。

 ……良かった、イアソーンには女の子の扱いに慣れている感じがあるみたいで。

 などと、俺はそんなことを思いながら七王領土の南の方へと足を進めるのだった。

更新が遅れてしまい、申し訳ありません。

皆様方からの応援を胸に、なんとか更新ペースを戻すべく奮闘いたします。

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