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第二百四十二話:決勝戦

「決勝の相手、アルトリアだと思っていたけれど……あなたが来るとはね」


「ハハッ。戦うのは初めてですよね。第四回イベントの時、そっちが決勝に進んできていれば戦うことはあったかもしれなかったですけど……ま、いっか。いつやってたって、私が勝つんですから」


「へぇ。大きく出たわね」


 闘技場のど真ん中、私たちは既に武器を抜いた状態でそう軽いお喋りを交わしてから互いに構えに入る。

 既に二回の激戦を経て、私たちはもう常にスイッチが入りっぱなし……0.1コンマたりとも気を抜くことが出来ず、入場前から互いに張り詰めた空気を感知していた。

 第四回イベントのあの時を思い出すような緊張感が、私たちにあるのだと互いに目と目で通じ合っていた。

 これ以上の言葉はいらない、あとはたたただ戦うだけ……お互いの持っているものを全てぶつけて、あとは──お互いのギルドマスターに、最善の結果を持ち帰るだけだから!


『さぁ! それでは運命の決勝戦! その戦いがぁぁぁ、始まりますっ!』


 決闘が始まった合図。その瞬間に、私もサンドラさんも足に力を込めて強い一歩を踏み出した!


「ハァァァッ!」


 私は右手の剣を全力で振り下ろす──が、サンドラさんはそれを最小限の動きで避け、私に肉薄した。

 お互い真っすぐに踏み込んだというのに、彼女は急ブレーキをかけてからの回避、その回避での移動を前進にも利用した。

 ……マジ、か。


「フッ!」


「っ……! っぶな……」


 浅かった。彼女が逆手持ちした短剣で振るった攻撃は存外浅く、私の体を掠めた程度で大したダメージにはなっていない。

 ……遊ばれてるのか、それともちょっぴりミスったのか……いや、ただただ私が上手ーくギリギリで回避できたのか。

 どうなのかはわからないけれど……まぁ、いい。


「せぇぇやぁっ!」


「お、速い」


 私のやることも、出来ることも一つだけ! 立て続けに攻撃を仕掛けて、ただ相手を斬るだけだ!

 剣を右から左に振るい、そのまま回転斬りを繰り出して逆方向からもう一撃!  サンドラさんはそれらの攻撃を最小限で避けながらも、ただ体の動きだけで避けるのにはキツいのか右手に持っている短剣で攻撃を受け流してから、左手に持つ短剣を突き出して来る。

 私はそれを頭を横に振って回避する。


「っ! らぁぁぁぁぁ!!」


 今度は同時に叫び、そして互いに攻撃を放った。

 サンドラさんは私から見て右の短剣を横薙ぎに、私は左手の剣をサンドラさんへと振り下ろす。

 けれどそれは相殺された。剣と短剣がぶつかり合って、私と彼女の手にビリビリとした衝撃が走るのと同時に───強い衝撃を受けて、お互いが反発する磁石のように弾かれ合う。

 ……チッ。

 内心で舌打ちをするくらいには、短剣と片手剣という武器でのぶつかり合いが互角に終わった事実にイラついている。

 速さも、パワーも互角……だけど、サンドラさんの手数は私よりも上のハズだ。

 だって彼女の真の武器は短剣じゃなく、スカートの中に仕込んである無数の投げナイフなんだから。


「さて……と。遊びは終わりよ」


「っ!」


 彼女が不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、スカートから取り出した大量の投げナイフが、彼女の周りで浮遊し、制止する。

 その数は30本、そして全ての切っ先は私に向かっていて──!


「トラジック・オーバーチュア!」

 

 「っ! ヤッバ……!」


 投げナイフは真っすぐに、私に向かって飛んできた!!! 真っすぐな軌道、しかし大量……だったら、避ける以外の選択肢はない。

 私は体を捻ってそれらを回避していき、彼女が次にどのナイフを投げてくるかを予測し、剣を構える。

 けれどサンドラさんは投げナイフを投げると同時に地を蹴り、私の予測の更に上を行く動きで肉薄していた。

 ……こういうのがあるから、投擲武器とかってズルいと思うんだよなぁ……!


「フッ!」


「──ん、がぁっ!」


 振り下ろされた短剣をどうにか振るった剣で弾いて、彼女を下がらせて距離を取る。

 するとサンドラさんはまた笑みを浮かべて──飛び退くように後退し、今度は地面に向けて開いた手を翳して。


「男を捕まえるには3K、敵を仕留めるなら3R……ってね」


「いや、どう見ても3じゃないんですけど!?」

 

 なんとサンドラさんは地面に落ちたり刺さったりした投げナイフを、念力でも使ったかのように再度浮遊させる。

 ……こんなの、最早投擲なんてものじゃないでしょうが! なんて言いたいけれど──! 無条件無制限飛行できる私が言える台詞じゃないや!


「ほら、避けるだけじゃ同じことの繰り返しよ? 頑張って対処してみせなさいよ」


「言われずとも!」


 投げナイフがまた飛んでくる。

 しかし今度は同時に3本程度、私はそれを左手の剣で打ち払いながらサンドラさんに向かって真っすぐ飛び込み、右手の剣を突き出す!


「っとぉ」


 私の振るう剣を避けた、と思った時には彼女が浮遊させて保持していたナイフがまたも飛んでくる。

 手品……どころか超能力の域だ。けど、スピードはさっき真っすぐに飛ばしてきた時よりも落ちてる! これなら、対処できる!

 一旦地に足をつけてから剣を構え、スキルを発動させる。


「聖十字剣戟!」


 私の二振りの剣から放つ十文字の斬撃が飛んでくる投げナイフを次々に砕き、打ち払う。

 するとサンドラさんはあらまぁ、とわざとらしく驚いた顔をして、それからクスクスと笑い始めた。


「なるほどねぇ。それだけパワーに自身があったら、モードレッド相手に打ち合うなんて判断ミスもするかぁ」


「……バカにしてくれちゃって、まぁ!」


 浮遊したままの投げナイフがまたも襲い来る中、私はそれを避けたり斬り払うことに集中しながら走り出し、そして彼女の目の前に迫った瞬間に大きく飛び上がる!


「うぉぉぉぉぉ───っ!!!」


 空中で一瞬制止した私。その行動に対してサンドラさんはただ驚くばかりで動かない──いや、動かないんじゃない。

 私がどんな行動を取ろうが関係ない、そういう自信が現れてるってワケだ!

 彼女は今現在空中に残している投げナイフを私に向かって飛ばしながら、再度短剣を握って構える。


「【アクセラレーション】」


「ッ──速い……!」


「あ、おまけつけとくわ。【ホーミング】」


 彼女のスキルで加速したナイフが私に向かってくる。

 追尾効果も加えられたせいで、避けるのはより悪手になった──故に、反応できない速度でないことに感謝しながら斬って落とす!

 そして間髪入れずに、距離を取ろうと下がり始める彼女を追いかけて……私の間合いにまで、近づく!


「ハァァッ!」


「おっとぉ……!」


 右手の剣を振り下ろし、彼女はそれを短剣で受け流して……また、さっきみたいに回り込んでくる!

 けれど、二度も同じ手を通用させてたまるか!

 私は勢いを制御して右足でブレーキをかけ、方向転換して左手の剣を逆手持ちに切り替える。

 それで、丁度短剣を突き出してきた彼女の攻撃を弾く!


「くっ……!」


「今度は、こっちの番!」


 勢いそのままに剣を振るい、サンドラさんへ絶えず攻撃を仕掛ける。

 彼女は防御に徹することでやり過ごそうとしているけれど、そんなことさせるもんか。

 徹底的に攻めて攻めて攻め続けて……この勢いで、必ず仕留めてみせる!


「フッ……ハハハッ! いいね、サイッコーよアンタ……!」


「っ……!」


 一瞬、サンドラさんが笑った。

 その瞬間に彼女の体が大きく沈み込み、私が咄嗟に放った横薙ぎを回避したと思ったら、私の間合いの内側に入っていた。

 同時に、彼女にとってベストな間合い……!


「くっ!」


 だから、急いで距離を取ろうと私は飛翔を発動させながら地面を蹴った。

 だけれど──それを見越していたのか、それとも彼女は短剣ではギリギリ躱されるとでも思ったのか。

 動かしたのは上半身ではなく、下半身だった。


「え……っ」


 だから、私もダメージを少し受けたことだとか、未知の感触が来たことだとか、ソレよりも先に。

 サンドラさんの取った行動の方に驚いてしまって、一瞬だけ動きを止めてしまった。

 だって、だって──。


「き、金的って……普通、女の子に、やる……?」


「やるわよ。意外と、効くしッ!」


「が、ぐっ……!」


 ドゴォッ、と強くも鈍い衝撃が再度私の股間へモロに来て、私はダメージと同時に体験したことのない不快感に身体を支配された。

 VRMMOでも、金的における痛みや不快感と言うのは残っている……のだと、ブレイブさんがアーサーさんで試したことを私は知っていた。

 けれど、まさか女の子にもそういうのあるんだ……と、私はSBOでの新たな発見と共に大きな隙を晒してしまい。


「エグゼキュート・スラッシュ」


「っ──う、わ」


 彼女の必殺の一撃が私の右肩から左腰までを走り、私は致命傷を受けながら地面に崩れ落ちる。

 ……まだ、だ。レイズ・ハンズとライフチェンジを使えば──!


「奥の手があることくらい、忘れたりしないわよ。だから、使わせない」


「っ──!」


 トドメのチャンスだとしても、彼女は油断せずに距離を取ってナイフを投擲してくる。

 そのわずかな隙を利用して私はその場を転がってナイフを躱す、だけど、彼女は。

 私が避けた隙にスカートの中から大量の投げナイフを取り出していて、今度はさっきの倍の数を空中に浮遊させた!


「トラジック・シンフォニー!」


「う、ああああっ!」


 私はぶった斬られて上手く動かないアバターに喝を入れて飛び立つ。

 私に向けて飛来してくる、大量の投げナイフから逃げるために。


「っ……くそ……」


 どうにかこうにかナイフは避けられた、けれどすぐ反撃に転じなきゃ、サンドラさんの攻撃は、また──!


「忘れたの? ナイフの追尾」


「っ──!」


 避けたはずのナイフが壁や地面に突き刺さることはなく、軌道を変えて私に迫って来る!

 ……疑似的に2対1に等しい状況が出来上がってしまった。

 サンドラさんは短剣を構え、スキルを詠唱して私を追撃する気満々だった。

 投げナイフは大量に私に迫って来る……だったら、だったら!!!


「超加速!」


「っ──へぇ!」


 私は空中でスピードを上げ、真っすぐにサンドラさん目掛けて落下分のスピードも加えた突撃を繰り出す。

 どうせなら……! 一番早く、一番勝ち目のあるやり方で挑んでやる!


「くぅらええええッ!!!」


 空中での、スピードを乗せに乗せたスキルによる一撃。

 それ故に威力も増したソレが、最速最短の距離でサンドラさんに迫る!


「【ヴォーパル・エッジ】!」


「残念、ね」


 けれど、私の斬撃がサンドラさんに届くことはなかった。

 私の剣が彼女に届くのよりも先に、彼女が投げた”短剣”が、私の頭を貫いていた。


「こんだけ近きゃ、当てられるわよ」


「……近くなくても、当てるくせに……。ハハッ」


 頭を貫かれ、HPを全損した私は手足を振るえさせ、涙交じりの声でそう返し──。

 意識は闇へと落ち、アバターは彼女の勝利を祝う花弁のように、ポリゴン片となって砕け散って消えた。

 正面から戦って、私の完全敗北だ。

2024年初投稿なのにもかかわらず、凄まじく遅れてしまい大変申し訳ございませんでした。

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