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第二百四十一話:短剣使い対決

 ──闘技場の大地を踏みしめ、二度目の入場を行う。

 メイプルツリーが開催した非公式ながらも、七王のギルドから選ばれた女性プレイヤーたちの最強を決めるこの戦い……普段、面倒くさがりで気分がノらない時は戦うのもかったるく感じる私には、それなりにノれるイベントだ。

 何も気負うことも背負うこともなく、ただただ目の前にいる相手を倒すだけ……何が得られるとか、なんのためになるとか、そういうことはない。

 ただ普段バカやってる男共みたいに「最強」って称号を求めて戦う、それが私──サンドラというプレイヤーにとっては、心から楽しめるイベントだと感じたのだ。

 朧之剣のお姫様、PrincesSを倒した時にはそう感じた……だからこそ今から私と対峙する相手、主催者特権でシードになっていたメイプルツリーのリンを見て、私は笑みを浮かべる。


「お、あなたが笑うトコ初めて見たかも」


「そう? あー……でも、確かにあなたとは顔を合わせることも少なかったものね」


 くすくす、と笑い合いながら私たちは共に腰から短剣を抜いて構える。

 リンは薄い水色で片刃の短剣を二本逆手に持って構え……初めて見た時から変わらない、青いマフラーと青いコートをはためかせている。

 ……よく見ると、前までは真っ黒なブーツを履いていたのがちょっと濃い青のブーツに変わっている。間違い探しか。


『真の魔王とメイプルツリーのサブギルドマスター対決! そして、奇しくも武器種……! こぉれは勝敗予想が楽しみな勝負です!』


「奇しくも、ねぇ。構えは全ッ然違うじゃない」


 私は右手に握る短剣を軽く投げ、キャッチ、軽く投げ、キャッチ……と順手持ちと逆手持ちに切り替えながら、実況の言葉を笑い飛ばした。

 リンは短剣を逆手持ちしながら両腕をクロスさせていて、左足を前にして軽く腰を落としている。

 でも、私は左手だけを逆手持ちしてるし右手は順手と逆手を切り替えていて、そもそも構えてやすらいない。


「ま、いいじゃないですか。共通点が些細でも、少しでもあるのなら……そこから繋がりを見出すのもまた、面白いですから」


 リンの目つきが変わった。

 さっきまではにこやかな目線と言うか、構えていながらもまだ優しさだとか相手とお喋りに興じる余裕のあった目線だった。

 だけれど、今はもうただただ『相手を殺す』ってことを考えてるような鋭い目線になった。

 対峙するのとか、なんなら一緒に武器構えることすら今日で初めてだけれども……王の騎士団の金魚の糞してた頃は、こういう目線したって聞いたことなかったんだけどなぁ。

 なんかしら、色々変化があったのね──と、思って私もそろそろふざけるのはおしまい、と右手の短剣を順手に持ってから右足を前にして……構えずにリンを見つめる。


『それでは! 決勝戦でユリカと戦うのはどちらかが決まる一戦がぁ、始まりますっ!』


 実況の言葉と共にゴングが鳴り──私たちは、全く同じタイミングで一歩踏み込んだ。


「【ライトニング・フェザー】!」


「桜花斬!」


 リンは短剣の刀身に雷を纏わせ、左右の手から素早い二連撃を放って来た。

 私は刀身をバラバラにしてそれを受け、放たれた雷は刃をアースのようにして地面へと逃がす。


「挨拶にしては、随分軽くないかしら?」


「なんのなんの。まだまだです、よッ!」


 刀身を一つに戻しながら私が一歩下がると、リンは距離を詰めに踏み込んでくる。

 まぁ、短剣持ち同士なら間合いは大体同じ……となると、やるのは一つ!


「せぇっ!」


「ハァッ!」


 お互いが右手に握る短剣がぶつかり合い、弾かれる。

 のと、ほぼ同じタイミングでお互いが左手に握る短剣をぶつけ合う。

 ……現段階でなら、スピードはまだ互角。

 けれど、リンが私程度のスピードで満足するようなものじゃないのはわかってる。


「超加速!」


「……超加速」


 何度か短剣を弾かれ合ったところでリンは地面を蹴って高く跳び、スキルを発動させ──その場から消える。

 私も彼女のスピードに対抗すべくスピードを上げるけれど……多分彼女と私では大きくスピードが離されるだろう。

 直接見たわけじゃないけれど、リンみたいなスピード戦士っていうのは大体装備やパッシブスキルでスピードに何かしらの細工をしてる。

 例えば、今の超加速みたいなバフスキルの倍率を上げたり、とか。


「──せぇっ!」


「ッ──速い……!」


 予測はしていた、だからそのおかげでギリギリのギリギリで対応して、かすり傷で済ませられた。

 けど……予想していたスピードよりもずっと速い、そんな勢いでリンは真っすぐに私の後ろから短剣を突き出して、回避されながらもその勢いで私を通り過ぎて私の眼前に現れた。

 単純な速度で言えば、多分彼女はSBOでトップ……少なくとも、魔王のレオ、集う勇者のユージン、王の騎士団のアルトリア、アイツら以上と見ていい。

 そういう手合いが相手となると、私が馬鹿正直にスピード勝負に付き合っているっていうのもダメだろう。


「んー……速さは十分でも、パワーが足りないか。だったら、これはどうかな? ブーストチャージ」


 リンが腰を落として足に力を入れたと思うと、また私の眼前から消えた。

 っ、また来る……! 今の言葉から察するに今度はパワーも上がってるハズ……!

 タン、タン、と地面や壁を蹴ってかく乱してきてるのは、さっきのと同じ……だったら、私の十八番でそれをまとめて潰すだけだ。


「トラジック・シンフォニー!」


 私は自分を中心とした360度全体にナイフを展開する。

 敢えて飛ばさず、投げず……リンが突っ込んでくるその瞬間に飛ばす。

 そうすれば、止められなくても勢いはある程度殺せる。

 その瞬間が勝負の分かれ目……私の短剣で、ぶった斬るチャンスだ。


「──ハァッ!」


「そこっ!」


「【ブースト・ストライク】!」


 繰り返し、と言わんばかりにリンは私の背後から突っ込んでくる。

 それに合わせ、ナイフを全て真っすぐに飛ばした……のに、片手の短剣だけでまとめて打ち払われた!


「やっば……!」


「貰った……ッ!」


 そのままもう片方の手で順手に持ち換えた短剣で私に突きを繰り出してくる。

 私はそれを避けるべく、大きく体を捻って回避する。

 でも、リンの攻撃はまだ終わっていなかった! 追撃が、来る!


「【水流剣舞】!」


「っ!」


 彼女はさっき私のナイフを打ち払った方の短剣──逆手持ちにしっぱなしの方で舞うような斬撃を繰り出し、私が右手に持つ短剣を弾いてきた。

 その影響で私は体のバランスを崩し、リンが続けざまに放って来た回し蹴りを回避出来ず、そのまま地面に叩きつけられた。


「くはっ……!」


「これで、トドメっ!」


「っ──!」


 当然、トドメを刺さんとリンが短剣を構えて突っ込んできて……私の顔目掛けて短剣を振り下ろしてきた!

 私は真横に転がってそれを回避し、追撃で振るわれる攻撃を連続で回避する。


「うわ、今のから避けるんだ」


「まぁ……ね。魔王の副官が、寝たままくたばるわけにはいかないでしょ」


 ……あっぶね。ホンットにあっぶなかった。

 今の、本当に肝が冷えた。本当にやられるんじゃあないかとビビった。

 正直第5回イベントでアルゴーノートやら魔女騎士団のプレイヤーに囲まれた時よりもビビった。


「すーっ、ふーっ……」


「隙あり」


「……は?」


 深呼吸をして、荒くなりそうな息を整えてから次はどの手を打つか……なんて思っていたら、リンは一瞬の間に私の眼前で短剣を構えていた。

 はっっっや!!!


「水流乱舞!」


「っ──! 空蝉!」


 私はメイド服のエプロンを瞬時に脱いでその場に置き去りにすることで、ギリッギリでリンの攻撃を回避した。

 あっぶねー……予備を持ってたおかげで何とか避けられたけど……コイツ、私が短剣やナイフを拾う隙を与えないつもりだ。

 だって、私がギリギリで稼いだわずかな時間を使って予備のエプロンを身に着けた時にはもう、こっちに狙いを定めて踏み込んでるんだから!


「シッ!」


「っ……!」


 次の踏み込みも、ギリギリで躱せた。

 向こうの攻撃力も大したことのない部類なんだろうけど……的確にクリティカルを狙ってくるし、私がそんな攻撃を受ければ無事じゃ済まないだろう。

 ……ん?


「的確に──」


「ハァッ!」


「っと!」


 考え事をして立ち止まってる余裕はない。動きながら思考して、何とか攻撃を凌ぐ!

 ……考えろ、考えろ。普段はカオスに任せきりな作戦とか、そういうことを考えろ!

 リンが繰り出してくる連撃を短剣で受け流して、全力で回避や防御に徹して……普段休ませていた脳を、ここでフル稼働させろ!


「【水流乱舞・重撃】!」


「っ──【桜魔受流】! ハッ!」


 さっきの連続技の威力が増した攻撃が──頭、心臓、首に目掛けて飛んできた。

 咄嗟に桜花シリーズのスキルで受け流して、そのままリンに蹴りを撃ち込んで距離を取る。


「……ははーん、そういうことか」


 今の攻防で、私はちょっとしたことに気が付いた。

 カオスやディアブレどもからしたら『やっと気付いたか』なんて呆れられるだろうけれど……バカで怠け者な私からすれば大発見だ。

 そんな些細なこと……ではあるけれども、この些細なことが戦いの命運を分けると言っても過言じゃない。

 それは、リンは攻撃の時に私の急所になるであろう部分を的確に狙ってくるってところだ。

 狙いは正確。それは立派なことだけれども、裏を返せば攻撃が単調ってことだ!


「っ……! 随分余裕そうに笑うじゃないですか」


「まぁ、ね。アンタの調理法がわかったから、気が楽なワケ」


「へぇ~……? だったら、私を調理でもなんでもしてみてくださいっ……! よぉッ!」


 リンは身を一瞬だけかがめたと思うと、音も置き去りにせんとした速度で突っ込んできた。

 速い……だけど、狙いはわかる! 右手の短剣で、私の──


「【アクアブレイク】!」


「桜花斬」


「なっ……!」


 首を真っすぐに狙ってきたから、短剣の刀身をバラバラにしてリンの攻撃を受け流す。

 そしてすぐにリンの足を蹴っ飛ばして、ほんのちょっぴりだけバランスを崩させる。

 あくまで、ほんのちょっとだけでいい。


「っ、あ……!」


「ハァッ!」


「っぶえっ!?」


 足を払って、リンの体をほんのちょっとだけバランスを崩させながら浮かせ、すかさず鳩尾に膝蹴りを叩きこんで、更に崩させる。

 これでもう、防御する余裕はない!

 

「桜花二刀・花嵐!」


「がっ……! く、ぁぁぁっ……!」


 右手の短剣を順手に、左手の短剣を逆手持ちに構えてから繰り出す私の短剣において最大火力のスキル。

 最初に回転切りを放ち、直後に左手の短剣を真っすぐ対象に突き刺してから抉るように切り裂いて、最後は右手の短剣で袈裟斬り!

 強烈な四連撃をお見舞いした……けれど、意外にもしぶといことにリンは耐えていた。

 でも、これで終わりだ。


「んっ、のぉぁっ!」


「っと」


 苦し紛れにリンが振るってきた攻撃をスウェーバックで避け、すぐにバックステップで下がる。

 当然私が下がればリンも距離を詰めて来るだろうけれど──それに合わせて、スカートの中にしまってあるナイフと、地面に刺さっているナイフを全部稼働させる。

 

「トラジック・シンフォニー」


「ハァァアアアアアッ!」


 私が構え、飛ばしたナイフをかいくぐりながら突っ込んでくる。

 けれど……このナイフは、相手を動かすためのナイフってワケだ。


「水流──!」


「エグゼキュート・スロー」


 私は右手に持っていた短剣を自損ダメージと共に投擲し、真っすぐに突っ込んできたリンの頭をブチ抜いた。

 リンは突っ込んできたときの体勢とは真逆に、背中から地面に倒れるように落ちる。


「う、そぉ……」


「……ぶいっ」


 驚愕する表情を浮かべながらアバターを砕け散らせる彼女を前にブイサインを掲げ、私は笑う。

 ……さてと、次もまた二刀流が相手かぁ。

更新が遅れてしまい、本当に申し訳ございませんでした。

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