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第二百三十九話:姫VSメイド

『さぁ、一回戦も残すところあと一試合のみ! 東からは朧之剣のPrincesS、西からは真の魔王のサンドラだァ!』


 絢爛豪華な美しさの銀と白のドレスを身に纏い、腰に剣を携えた彼女──PrincesSさんがやって来た。

 姫という名を冠するのに相応しいその金髪碧眼の容姿、彼女の装備もまたKnighTさんの装備から複製した物を強化したものなのだろう。

 彼女と相対するのはサンドラさん、白いエプロンドレスに黒いリボンがトレードマーク、彼女もまた美しい金髪をなびかせて闘技場の地を歩む。


「前々から思っていたのだけれど。あなた、真の魔王ではなく朧之剣に来てはみませんこと?」


「悪いけど、私はあなたが想像するようなメイドじゃあないから。主人にも平気で蹴りかまして、むしろ主人の背中にケツ乗せて楽しんでるくらいなんだよ」


「あら……躾がされてないの。なら結構、ただ単に全力でブッ潰してさし上げますわ」


 軽口を交わし合ったところでPrincesSさんは腰から剣を抜いて、片手だけで上段に構える。

 サンドラさんも同様に、腰に納めていた二本の短剣を抜いて両方とも逆手持ちにし、左手を前にして構える。


『さぁ両者見合って──! レディ……ファーイッ!』


「ニュークリア・ミサイル!」


「っ……【ホーミング・スロー】!」


 PrincesSさんが両手から二発のミサイルを発射すると、サンドラさんは左手に持っていた短剣を地面に投げて刺し、そのままスカートから取り出したナイフを二本投擲する。

 お互いが手から放ったものは空中でぶつかり合って爆発のライトエフェクトを起こし、それを隠れ蓑にしながらPrincesSさんが突っ込んでくる!


「ハァッ!」


「ふっ、やっ!」


 PrincesSさんが真っすぐに踏み込んで剣を振り下ろすと、サンドラさんは最小限の動きでそれを躱し、地面を蹴って拾い上げた左手の短剣で反撃する。

 けれどPrincesSさんは身をかがめてそれを避け、下から剣を突き上げる。


「ぃやぁっ!」


「ッ──っと……やるね」


「ふふっ。この程度、まだまだ小手調べですわ」


 鋭く放たれた真っ直ぐな突き、サンドラさんは斬撃を頬に掠めながらも避けたことでHPは大して減らずに済んだ。

 けれども、接近戦ではPrincesSさんの方が間合いが広く、離れても今度は魔法で追撃されてしまう。

 シンプルなことでありながらも、彼女はサンドラさんにとって相性の悪い相手だろう。


「ちょろちょろと動き回るのがお得意ならば、その足を捥いで、美しく刻んでさし上げますわ! 【スリップトルネード】!」


 PrincesSさんが剣を真横に振り抜いて竜巻を起こした──と思うとそれは消える。

 なんの見せかけだ、と思った時にはサンドラさんの足が取られ、彼女は驚いた顔のまま真後ろへ体を倒される。


「……! 足元に、小さな竜巻を作ったのか」


 数瞬の間の思考で、サンドラさんが突然バランスを崩した理由がわかった。

 そして、その数瞬の隙にPrincesSさんは剣を真っすぐに構え、サンドラさんへ斬りかかった!

 PrincesSさんの剣の刀身が一瞬燃えたと思うと、鏡が光を跳ね返すように刀身が眩き──水色のライトエフェクトを纏った!


「くらいなさい! 【氷天斬】!」


「ッ──!」


 完璧。サンドラさんがバランスを崩して、ほんの少しばかりとは言えども空中に身を投げ出した状態。

 そこに、完璧な間合いでPrincesSさんの剣が迫っている。

 私みたいに空中でも体勢を自在に動かせるスキルを持っているのならばともかく、サンドラさんにそれはない。

 当たる、誰もがそう確信して一瞬の光景をスローに感じながらも予測していた。

 PrincesSさんの斬撃がサンドラさんを切り裂きながらも凍てつかせ、地面にたたきつけるその瞬間を。


「ハァァァッ──!」


「──潜影」


「ッ!?」


 けれど私たちの予測は彼女が嗤うように覆され、サンドラさんはとぷん、と何かに潜るような音を発したと共に突然消えた。

 したがってPrincesSさんの一撃は空を切り、さっきまでサンドラさんがいた場所に氷のオブジェクトが出来上がっていた。


「なっ、どういうことですの……?」


 突然目の前にいた人が消えた、それだけでPrincesSさんが困惑するのには十分だった。

 その困惑が生んだほんのちょっとばかりの隙、周辺をキョロキョロと見まわして相手がどこへ消えたのかを確認する行為。

 死角からの攻撃に備えるのではなく、攻撃を仕掛けて来るだろう相手を探すこと、それがPrincesSさんの隙だった。


「【エグゼキュート・スラッシュ】」


「がっ……! ぅ、あああっ……!」


 突然、PrincesSさんの後ろから現れたサンドラさんが右手の短剣でスキルを発動した。

 刀身に真っ赤なエフェクトを纏わせた一撃が、彼女の背中を大きく大きく切り裂いたのだ。


「っ……アァッ! 今の、スキルは!」


「メイプルツリーの……あなたと似たような名前の子が、持ってたの……よッ!」


「っぶ……! ぐはっ!」


 背中を切り裂かれ、咄嗟に振り向きながら剣を横に薙いで反撃を繰り出すPrincesSさん。

 けれどサンドラさんは首の動きだけでそれを躱し、質問への返答と共にミドルキックをPrincesSさんのお腹に叩き込み、下がらせる。


「良いスキルよね、このスキル……潜影。任意のタイミングで影に潜って、好きなタイミングで現れられるんだもの。

影から影に飛び移ることも出来て、まるで瞬間移動みたいに使える……本当に、便利なスキルだわ」


 サンドラさんは敢えてスキルのことを開示して、ニヤニヤとした笑みを浮かべて右手には短剣を、左手には指と指の間に投げナイフを持つ。

 PrincesSさんは気付いているかどうかわからないけれど……これで、戦いの中で選択肢が生まれた。

 さっきの通り、サンドラさんは一瞬で影に潜ることが出来る。

 となれば、戦いの最中急に影に潜って消えたり現れたりを繰り返すことが出来る……そんな選択肢を迫られるとなると、PrincesSさんは厳しいだろう。


「さーて、今度の私は……どーするでしょー……かッ!」


「っ──! なら、こうするだけですわっ! 【フィフス・アイスフィールド】!」


 サンドラさんが一歩踏み込んだところで、PrincesSさんは下がりながら剣を地面に突き立てる。

 するとスケートリンクを作り出すかのように、彼女を中心に地面は凍てつき始める。

 ……なるほど、サンドラさんの足を凍らせれば影に潜ることが出来なくなるかもしれないという試み。

 けれど。


「【インフェルノ・ブレイク】」


「っ! そんな……!」


 サンドラさんは自分のいた場所が凍り付くよりも先にジャンプして短剣の刀身に火を灯し、自分の体が地面につくよりも先に短剣を地面に突き刺した。

 その一撃でPrincesSさんが地面に張り巡らせた氷は溶けて蒸発し……サンドラさんはそのまま地面にうつ伏せになる……と思ったら!

 そのまま短剣を地面に押し込み、その反動で足から地面に着地して──!


「トラジック・オーバーチュア!」


「くっ……! 炎天・聖十字剣戟!」


 スカートから取り出した大量のナイフを真っすぐに投げつけ、PrincesSさんに大技を引き出させた。

 KnighTさんが使っていた必殺スキルをPrincesSさんも使い、大量のナイフの半分をたった二撃で打ち払う。

 けれど、サンドラさんはまたすぐに行動を起こしていた。 


「桜花二刀流・桜雲!」


「あっ……ぐ……くっ、数が、多すぎる……!」


 大量に投擲された投げナイフに続くのは、短剣の刀身がバラバラになることで生まれる無数の刃。

 それらが次々に襲い掛かってPrincesSさんの体中を切り裂いて、同時に目くらましまで行っていた。

 じわじわと彼女のHPが削れたところで、PrincesSさんはもうサンドラさんを見失っていた。


「くっ、あぁっ……! また、影に……! でも、出て来るのがわかっているのなら!」


 苛立ちながらもPrincesSさんは右手に持つ剣へ雷を纏わせ、左手には火球を生成する。

 出てきたところに反撃……と言った考えだったのだろうけれど、サンドラさんは彼女の考えなどとっくにお見通しだったようだ。


「言ったでしょ、影から影に移動できるって」


「っ──! わたくしの影からじゃ、ない……!」


 サンドラさんはさっきの攻防で打ち払われて地面に突き刺さったナイフの影から現れた。

 その位置は、丁度PrincesSさんが警戒していた自身の影の真反対にあって──。


「エグゼキュート・スロー」


「っ、ぶ……! あ……!」


 サンドラさんは地面から拾い上げたナイフを、腕がもげる勢いで投擲した。

 そのナイフはPrincesSさんの反応速度を超えるほどの速さで迫り、彼女の頭に突き刺さる。

 彼女の理解も追いついてないであろうその場で、サンドラさんは走り出して。


「エグゼキュート・スラッシュ!」


「っ……! み、見事……ですわ……!」


「そう。褒めてくれてありがとう。可愛い可愛い、お姫様」


 短剣に赤いエフェクトを纏わせ、PrincesSさんの胸からお腹を大きく切り裂いた。

 しかも、さっき背中を斬りつけた時と鏡合わせになるようにしていて……そのままPrincesSさんのHPはゼロになった。

 サンドラさんはHPを全損して悔しがりながらも相手を称える言葉を放ったPrincesSさんの手に軽いキスをして、彼女のアバターが砕け散るのを見届けた。


「……ま、こんなものよね」


 サンドラさんはフフン、と笑って……私と、アルトリアさんと、リンさんが座っている場所に向けて一回ずつ微笑んだ。

 ……誰が来ても、絶対に私が勝つといわんばかりに。

更新が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした!

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