第二百三十六話:七王側近ガールズ最強決定戦
──これは、七王の皆が第六回イベントに向けてあれやこれやと頭を捻っていた時のお話……の、間に起きた出来事。
考え疲れたKnighTさんがぽろっと漏らした一言……『また、女子会でもしたいところですね』というのから始まったこと。
「……本当に、良いのですか。アルトリア」
「何がだ」
「何が、も何も……男性陣を追い出して、このまま会議室で女子会など」
「問題はない。私たちが女子会をするついでで、彼らもまた男子会をするらしい」
コポポポポポ……と、全員が飲むためのお茶を淹れながらアルトリアさんは語った。
女子会会場こと、王の騎士団領土領主城・会議室では女性の七王、及びそれに準ずる女性プレイヤーが揃っていた。
朧之剣からは発端のKnighTさん、今回は側近扱いで彼女の隣に立っていたPrincesSさん。
魔女騎士団からは七王であるモルガンさん、その側近扱いの娘ことモードレッドさん。
王の騎士団からは第六回イベントの作戦会議のために、毎度の如く書記を任されていたアルトリアさん。
真の魔王からは気だるげそうにその会議に参加していたサブギルドマスターこと、サンドラさん。
アルゴーノートからはイアソーンさんの側近を務め、リアルでも彼と何らかの関係らしいサブギルドマスターのメディア・ラ・ハンさん。
メイプルツリーからは七王のカエデさん、側近のサブギルドマスターであるリンさん、更にその側近のアスナさん。
集う勇者からはサブギルドマスターにして、七王にも比肩するN・ウィークさんと──本来来るはずだったハルさんの代理、私ことユリカだ。
「……なんだか、場違いって感じだなぁ。私」
「何を言う。お前が場違いであるのなら、ここにいる者は七王と私以外全員出て行くことになるぞ」
今思えば、この一言がいけなかったのかもしれない。
単に私は『各ギルドでサブギルドマスターなどの重要な役職に就いているプレイヤーたちが集まるこの空間』において、場違いだと思ったのだ。
そう思ってポツリと漏らした一言なのに、Nさんはこの発言をうっかり最悪の形で拾い上げてしまった。
彼女は私の言葉を強さの話だと思ったらしく、暗に『この場にいる七王の側近は皆ユリカ以下』と話を振ってしまったのだ。
「……ほう。言うではありませんか、N・ウィーク。自分が強くなったからと言って、集う勇者の他の者まで強くなったと錯覚を起こしましたか?」
「そうだそうだ、お前だって七王皆のオマケ貰って強くなってだけじゃねーか」
疲れからか、それともそうでないのかはわからないけれど。
普段なら、余裕をもって流していたであろう言葉をモルガンさんとモードレッドさんが拾い上げてしまった。
大分カチンと来ているみたいで、彼女たちが私やNさんを見る目は鋭いものとなっていた。
とても紅茶を利き手、もう片方の手にお菓子を持って和気あいあいと雑談──なんて雰囲気ではなくなってしまった。
私のせいだ。私がこんな一言を漏らしていなければ……こんな事態にはならなかったのに。
「N・ウィーク。あなた、少々傲慢が過ぎますね。自分が七王と並んでいるからと言って、その発言が許されると?」
「とっても不愉快ですわ。到底許される発言ではありませんもの……あなた、ここを戦場にでもしたいのですか?」
KnighTさんはもう腰の剣に手をかけていて、PrincesSさんも紅茶ではなく魔法を右手に……。
あぁ、ヤバい。ヤバい……! 今私が発言を訂正したのだとしても、Nさんが言ってしまった言葉は覆らない。
というか、こんな大勢の人の前で出張る勇気がない! だって、向けてくる目線が怖いんだもん!
「……N・ウィーク。確かにユリカが強いのは認める。だが、私はユリカと一対一で戦っても負けるつもりはないぞ」
「同じギルドで手を知り尽くしているから、とでも言う気か? 今のユリカはもうお前の知るところではない」
「え、いや、その──」
アルトリアさんまでこの話に乗って来て、Nさんはちょっと得意げな顔で答え始めちゃったし!
私、戦闘スタイルとかも全然変わってないし正直アルトリアさんにはランスロットさん以上に勝てる気がしないんだけど──! と、発言を訂正しようと思ったのに。
「いるんですよねぇ……たまに、自分のところの仲間は凄いんだってマウント取りたがるお方って。イアソーン様みたいに支援系の人なら文字通りの言葉として受け取れますが、N・ウィーク。あなたが言ってはそのようにしか受け取れませんね」
紅茶をぐいーっと飲み干した、メディア・ラ・ハンさんに言葉を遮られた。
その言葉にモードレッドさんやPrincesSさんもヤジを飛ばしたり頷いたりで、段々マズくなってきた。
どんどんNさんに矛先が向いてきて、とんでもない弁舌合戦が始まろうとしている。
Nさんもなんでかやる気って顔だし……! まずい、止めないと……どうにかそんなことがないようにしないと!
きっと男子会で楽しんでいるブレイブさんたちがこの光景を見たらショックを受けるだろうし、アーサーさんにもとんでもない迷惑になっちゃうし!
「ち、ちがっ……! Nさんはそういう意図で言ったんじゃ──」
何とか勇気を振り絞って手を挙げたのに。
再び、私の言葉は大きな音で遮られた。サンドラさんがティーカップをやや乱暴にソーサーに置いた音で。
皆の目線はサンドラさんの方に集まる。
「どーーーでも、いいけど。私はそこの黒コートどころか、今アンタにだって勝てるよ。でもさ、私がそいつより弱いって言うんだったら、今証明しよっか? ここで」
サンドラさんはその場で立ち上がって、メニューを操作したと思うとNさんに向けて決闘の申請を送っていた。
弁舌合戦どころか、本当の合戦が始まりかねない雰囲気……!
なんかやたらとイライラしてるみたいだし、前に女子会をした時の気だるげさとか全然ない感じで殺意もやる気もマシマシ過ぎる……!
「い、いやっ、ちょっと待っ──」
止めようと、止めようと思ったのに。
Nさんもサンドラさんも立ち上がって、テーブル越しに向かい合っていた二人は数歩歩いて向かい合い始める。
本当に決闘が始まりかねない!
「いいだろう、サンドラ! 身の程というものを教えてやる。前々から私は少し苛立っていたのだ、お前たちがさも『自分だけは七王にも比肩する強さがあります』という顔をしていたのがな」
「その言葉、そっくり返してあげる。古参だからっていい気になるなよ」
「いやっ、だから! ちょっと待って──!」
本当に武器を抜き始めた2人の間に立って、決闘の空気をどうにかしようと思ったら!
モードレッドさんが凄い勢いでこっちにずかずかと歩いてきた!
「お前はすっこんでろ! 外野ァ!」
「なんでっ!」
そもそも話の流れは私のことだったよね!? なのに外野扱いなの!?
と、抗議することも敵わずに私はモードレッドさんの手で首根っこを掴まれて引っ張られ、そのまま放り投げられた。
あぁ、わかった。これNさんのこと非難してるんじゃないんだ、皆。
話し合いばっかりしてうずうずしていた感覚を、バトルで発散する流れに持っていこうとしてるんだ。
でも……でも、この雰囲気は、ただ暴力をぶつけるようなストレス発散みたいになってきてる……!
「助けて……誰か……」
良くない雰囲気を、誰かが止めてくれないかな──! と願う。
誰でもいい、最悪誰か乱入して滅茶苦茶にしてくれないか……って。
すると。
「はいっ、Nさんもサンドラさんもそこまでです!」
「っ、カエデ?」
「いきなり喋り始めたわね……」
本当に決闘が始まる瞬間──と言ったところで、カエデさんが席を立って盾で床をゴンと叩いていた。
正真正銘、七王のご本人の言葉ともなればいくらそれに並ぶくらい強くなったNさんでも、反応せざるを得ない。
「戦ってストレスを発散するのもいいけれど、私たちはアーサーさんに『女子会をやる』って言ってここを借りてるんですよ! そこを荒らすのは、えーと……ふむふむ、そう! 無礼千万、です!」
……カエデさんは、リンさんが書いて渡したと思われるカンペをチラ見しながら声高々に言った。
アルトリアさんがやや大きめに息を吐いたところで、サンドラさんもNさんも何か思ったのか武器を収めて席に座り直した。
「……その、すまなかった。あまり進まぬ会議もあって、少々イライラが溜まっていた」
「……私もちょっと大人げなかったわ……ごめんなさい」
Nさんもサンドラさんも頭を下げて、これで楽しい女子会の空気が返って来る……そう思っていた。
だから、私もカエデさんたちに一礼してから、ストレージにある美味しいお菓子を笑顔で出そうとしていた。
だのに!
「ケッ、なーんだよ。そのまんまバトったって良かったじゃねえか」
「そうですね。ストレスというのは抑えつけたところで反発が来るものです」
二人が思いっきり蒸し返した。
バトルへの未練マシマシで、平和なおしゃべりなど許さないといった状況だった。
「……じゃあさ、いっそのことイベント形式でやってみない?」
「へ?」
今度はリンさんが手を挙げていた。
何をするのかと思えば、アルトリアさんに一声『ちょっと借りますね』と言ってチョークで黒板に何か書き始めた。
「題して、七王ガールズ最強決定戦! 今ここにいる人たちで、第四回イベントみたいなバトルをするっていうのはどうかな? 簡単に言うと、七王の女性プレイヤーだけで第四回イベントみたいなことをするの!」
「面白そうですわね。ですが、せっかくなのでギルドの面子を背負った上での勝負……すなわち、各ギルドから一人ずつというのはどうでしょう?」
「加えて、私たち七王がいるギルドとそうでないギルドに差があることを考慮すると……七王、及びそれに比肩するN・ウィークの参加を制限しましょう」
リンさんの提案にPrincesSさんとKnighTさんがノって、あっという間に場がまとまった。
そして──。
「うむ、ではユリカ。お前に出て貰うか」
「えぇーっ!?」
「何を驚く。集う勇者の中でブレイブと私を除いたら一番強いのはお前だろう」
「で、でも、ハルさんは──」
「アイツはモンスター寄りだ、お前は対人ゲーをやってたこともあって、対人戦には慣れっこだろう」
「は、はへぇ……」
Nさんの決定で、私は集う勇者の看板を背負ってこのバトルに挑まされることになってしまった。
……それで、なんやかんやと誰が出るか戦うかどうこうをその日の内に決めて──。
『さぁ始まりました! SBO非公式イベント! 【七王側近ガールズ最強決定戦!】 実況は私ぃ、つい最近メイプルツリーに加入させていただいたLUK極振りプレイヤーこと【アナ】がお送りさせていただきまぁす!』
翌日に、私は闘技場の控え室にて座り込んでいるのでした。
プレイヤーネーム:ユリカ
レベル:100
種族:人間
ステータス
STR:137(+280) AGI:150(+250) DEX:0(+30) VIT:30(+200) INT:0(+) MND:30(+200)
使用武器:魂食・羅刹剣 白狼樹・極悪
使用防具:極悪鬼の冠、極悪鬼の外套、オリハルコンの鎧・極悪、オリハルコングリーヴ・極悪、極悪魂之手袋、堕天使のスカート、休刃の鞘・極悪×2